Nikon Model H Field Microscope ● ネットに流れる怪情報 ニコン携帯顕微鏡 H型。ネットで参照すると何やら物々しい。 「アメリカ軍が大量にベトナム戦争に持って行ったらしい」 「ベトナム戦争の時米軍が野戦病院用に大量に買ったらしくアメリカでは時々出るらしい」 「ベトナム戦争で米兵が使用したことで有名」等々。 ホントか? ● そんな話は聞いたことない ホントに有名なのか。私はそんな話を聞いたことがない。 この話は日本だけで、しかもネット上でのみ語り継がれている。 文献を確認してみる。 ニコンの社史「40年史」「50年史」「75年史」「100年史」 いずれにもベトナム戦争でどうしたとかの記述は見当たらない。 海外の文献に目を向ける。 2020年9月にドイツで出版された「Nikon Microscopes The first 50 years」。 ウリ・コッホさんが執筆されたハードカバー 387ページのニコン顕微鏡の歴史書だ。 携帯顕微鏡 H型については実に 14ページを費やして解説されているが、 ベトナム戦争でどうしたとかの記述は見当たらない。 ほかいくつかの文献を精査してもそんな話は出て来ない。 ネット上の情報を探ってみる。 いわゆる欧米を中心とした海外のウェブサイトでは、 ベトナム戦争で米軍が携帯顕微鏡 H型をどうしたとかの話は一切出て来ない。 私がニコン携帯顕微鏡 H型の存在を認識したのは1973年のことである。 とうぜん現物を入手できるあてもなく、そもそも現物を見たことすらない。 ニコンの顕微鏡総合カタログに掲載されている商品写真がすべてだった。 ニコン携帯顕微鏡 H型が気になりだし定期観測の対象となったのは1990年代のことだ。 そして幾多の年月が流れに流れ、実際に現物を入手できたのは2005年1月のことだった。 活動期間中を振り返っても、そんな話は聞いたことがなかった。 ● 前提条件
そもそも米軍がニコン携帯顕微鏡 H型を多数購入して使ったというのは、
いわゆる制式採用され軍に納品されたということを意味する。
米軍に属する医師が、自分のお金で購入した顕微鏡を個人装備として現地に持参したケースは対象外である。
ニコンがNASAにニコン製品(カメラ、レンズ、顕微鏡、等)を納入した話は、 ニコンのプレスリリースでも正式にアナウンスされ公知になっている。 歴代の製品はニコンの社史にも説明があり、ニコンミュージアムでは実機が展示されている。 最近の話題では、国際宇宙ステーション(ISS)で、 野口宇宙飛行士がニコンのデジタル一眼レフとレンズを使っていることが YouTube動画で紹介された。 しかし、仕向先が軍隊となると話はまったく別だ。 特に、企業が外国の軍隊に製品を納入(輸出)しようとすると、 日本の法律(外国為替及び外国貿易法)により、かなり面倒で難しい話となる。 ● 情報の根っこを辿る ネットに流れる情報には、情報の起源がある。 情報の根っこと言う人もいる。その情報の源流を辿ってみた。
2016年 4月 中古カメラショップ
2014年 9月 カメラ専門店
2010年 3月 個人のブログ 情報を辿り行き着いたのが 「ニコンカメラの小(古)ネタ」というウェブサイトだった。 2007年12月のニコン携帯顕微鏡 H型に関する書込み。 問題の部分を抜粋した。
● ツイッターで聞いてみた 2021年2月25日のことである。ツイッターでことの真偽を聞いてみた。 しばらくツイートを固定したところ、 インプレッションが 9,255、エンゲージメント総数が 681となった。 9,255回ツイートが参照され、681人がツイートに反応したことになる。 しかしながら、携帯顕微鏡 H型とベトナム戦争に係る情報がなにも無かったのである。 ただし、顕微鏡にお詳しいドクター様から、 1970年代前後の米軍制式採用顕微鏡について教えていただいた。 American Optical (AO) 社製のいかにも軍用というごっついモデルだ。 詳細は話が大幅に飛躍するのでここまでとしたいが、 興味のある方は、U. S. military model microscope で調べてみると話は早い。 迷彩服を着て顕微鏡を覗く姿は真剣だ。
● お尋ねしてみた こうなると、情報の根っこである元にお尋ねするしかない。 「ニコンカメラの小(古)ネタ」サイトは、2014年9月24日 を最後に新しい記事の掲載が無い。 それでも、実際に記事を書いた人(管理者)と連絡が取りたく、 当該記事に「エビデンスを教えてください」との趣旨のコメントを書いて送った。 2021年4月上旬のことだった。 コメントは管理者が公開するまで表示されない。2か月以上が経過しても何も反応がなかった。 いぜん、リプロニッコール 85mm F1.0 のレンズマウント径でコメントした時は、 直ぐにご対応くださったので、なにかご事情でもあるのかもしれない。 ● ホントじゃなかった 本家本元の株式会社ニコンから連絡をいただいた。
具体的に確認した組織、部門、それに確認方法について詳しい説明が添えられていたが、 その性質上ここでは非掲載とする。結論のみ記載した。 もう答えが出てしまった。 ● お願い 中古カメラ店の商品説明とか、個人の趣味のサイトあるいはブログで、 ニコン携帯顕微鏡 H型の説明として、以下の説明をしないようにお願いします。 すでに誤った説明を掲載している場合は削除した方が、 お店および個人の信頼性を担保する点からみてよろしいかなと思います。
「アメリカ軍が大量にベトナム戦争に持って行った」 これすべて事実ではないからです。 ● ご注意 この話は、ヒストリアンならば「事実でないことは書くな」が根本にある。 問題点を具体的に示すために、個人のウェブサイトを出した。 本当は当事者だけで話を進めて、記事の訂正をお願いしたかったのであるが、 管理者と連絡が取れないので仕方なく具体的に示した。 決して個人サイト様を非難するものではない。 なお、「通り抜け無用で通り抜けが知れ」というわけではないが、 誤解されて誤った情報がさらに拡散してしまうのを避けるため、英語版の公開はしない。 日本語版の記事のみを公開する。 ● 記事のご案内 → トップページに戻ります。 第 0 章 トップページ ショートカットはこちらからです。
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