ニコン携帯顕微鏡 H型 ● 正式名称の話 まずはこの製品の正しい名称を確認し定義しておきたい。 昭和三十三年(1958年)の発売当時のカタログや、本ページで紹介している1965年版使用説明書の表紙、 保証書に押印されているゴム印の印影から、「ニコン携帯顕微鏡H型」が正しい。 本サイトはグローバル展開しているため、 日本語である全角の英字は特別な場合を除き使わないようにしているので、 「ニコン携帯顕微鏡 H型」と記載している。 ニコンミュージアムの常設展示も「ニコン携帯顕微鏡 H型」となっている。 もちろんニコンの社史にはきちんと「ニコン携帯顕微鏡 H型」と記載されている。 1973年1月版のニコン生物顕微鏡カタログ(8300-01 MJC 301-20/1)、 および1973年12月版の顕微鏡価格表には、「ニコン携帯顕微鏡 H」と掲載されている。 「型」が抜けている。これは誤りである。 H型で覚えていただきたい。
ニコンミュージアムの常設展示より この展示物にはクレンメルが付いていないのが残念である。正しい姿が伝わらない。 本体がNippon Kogaku 富士山マークの初期型でシリアル番号がそれにしては、 接眼レンズのあたまがドーム状の後期型。 ● コレクターズガイド ニコン携帯顕微鏡 H型の完品の姿を紹介したいと思う。 私が本機を購入したのは2005年1月のことである。 製品は1970年代末で生産を終了しているので、とうぜん中古品である。 「新品未使用元箱入り紙モノ付き」の条件をクリアしたので購入した。 すでに生産が終了してから40年以上経過している。 中古市場でモノを探すにしても完品はかなり難しい。 カメラの世界だったらスーパー・コレクターさんのように、複数台購入して、1台は封も切らずに保存しておき、 後世に残すという社会文化活動ボランティアを行っている方もいる。 しかしながら、顕微鏡はそういう事例を聞いたことがない。 前置きが長くなってしまったが、この章の目的は、 ニコン携帯顕微鏡 H型にはどんな付属品があるのかを示すものである。 どこまで揃っていたら購入するかの判断に役立てていただきたい。
ニコン携帯顕微鏡 H型元箱ほか一式揃い ● 元箱と本革ケース
ニコン携帯顕微鏡 H型元箱
ニコン携帯顕微鏡 H型元箱と本革ケース
元箱と本革ケース付きニコン携帯顕微鏡 H型本体 ● 付属品
100×対物レンズ(油浸) 100×は油浸用の対物レンズである。 この対物レンズは革ケースの中の透明なプラスチック製対物レンズケースに収まっている。 1973年当時の価格表によると、100×対物レンズを含まないモデル(セット C)も販売されていた。 従って、100×対物レンズが入っていないモデルも市中に存在する。 中古で入手する場合は確認しておきたい。 なお、1973年当時は100×対物レンズは別売りでも販売されていた。 12,000円。当時としても高額である。
ペンライト球 スペアの豆電球が2個。使用説明書ではペンライト球との説明がある。 ガラス部の先端が凸レンズ状になっている。 画像は付属のオリジナルである。2.2V と刻印が入っている。 現在でも同一規格のものがニップル球との名称で現行品で流通している。 口金は E10。2.2V/0.25A。オーム電機 OHM製の SL-L2225N/2Pは 2個入りで150円程度だ。
ダストカバー 非常に重要な付属品である。中古だと欠落していることが多い。 黒のプラスチック板(模型工作用のプラ板黒)で自作もできる。寸法は図のとおり。 オリジナルもきっちりカットされているわけではないので、自作の方がキレイにできるだろう。
ネックストラップ
昭和三十年代に流行ったのであろうか。
極めて細い金属製ワイヤーで編んである装飾性の高い美しいストラップ。
現代では見かけない。今でも製造されているのだろか。
ネックストラップ 昭和三十年代の研究者は元気だったのでこんな注意書きが必要だったのだ。 昨今の研究者を思うと、 ニコン携帯顕微鏡 H型を首にかけたまま走ったり、飛び下りたりするシーンは思い浮かばないが、 注意しよう。読者のみなさまもお気を付けください。
携帯顕微鏡 H型 使用説明書(65. 11. e)B
携帯顕微鏡 H型 保証書 とうぜん保証期間は過ぎているにしても、保証書が残っているケースは珍しい。 購入年月日を示す日付に注意。 43年4月1日とある。43年とは昭和43年(1968年)のことである。 新年度できっちり購入した証が4月1日。 さすが旧国立大学の理学部に納入された由緒正しいスタイルだ。 まだ日本に国立大学が存在していた時代のものである。 この頃(1963年〜1971年)国立大学の授業料は12,000円だった。 月ではなく年間。月にすると千円。 公立大学(都立)も同額で、PTA会費も修学旅行積立金もないので、 高校(都立)の授業料より安かったのである。 国家が人にお金をかけていた時代の話だ。 ● 注油器のこと 油浸用のイマージョンオイルを入れるプラスチック製の小さい注油器が、 ニコン携帯顕微鏡 H型に付属していた時代があった。 1965年版の使用説明書には、 革ケースのフタの裏側にホルダーがあり、そこに注油器が収まった写真が掲載されている。 しかし、1975年版の使用説明書(資料番号 74.5. c B-6)を確認すると、 もはや注油器の説明はなく、革ケース内のホルダーには、 ネックストラップが束ねて収納されている写真に変わっている。 専用の注油器は付属していないのである。 1965年版の使用説明書には、油浸対物レンズを使用する時は、 アニゾール(原文のまま)を使うこととの指示がある。 揮発性の高いアニゾールを入れた注油器を、 革ケースの中に入れたままにしておくのは望ましくないだろう。 注油器の赤いキャップが完全に閉まっていないと漏れるかもしれない。 対物レンズや内部のプリズムなど光学系にダメージを与えることになる。 1965年版の使用説明書には、アニゾールが入った注油器は革ケースの中に入れず、 別にして保管してほしい旨の注意が書かれている。 ここで紹介しているニコン携帯顕微鏡 H型には注油器が付属していなかった。 入手した当初は、前オーナーたる設備の管理者だった大学の先生が、 揮発性の高い有機溶剤を入れた注油器を革ケースの中に入れておくのは望ましくないと、 外したと思っていた。 しかしながら、8ml入りの小さいイマージョンオイルがニコンから当時400円で販売されており、 ノズル付きポリ容器入りでそのまま注油できる形状になっている。 よって、ある時期から、革ケースに収納を前提とした注油器は付属されなくなったと推測している。 オリンパスのサイトを見ると、イマージョンオイル使用上の注意として、 「揮発性の有機溶剤アニソールは、レンズを構成している部材を侵すことがあるので 絶対に使用しないでください」とダメ出しされている。
ニコンソリューションズのサイトを見ると、以下の説明がある。 なにやらいろいろと難しそうだ。 ともかく、ニコン携帯顕微鏡 H型に専用の注油器が付属されていたが、 後年になって付属されなくなったとの話は、 あくまで推測の話なので、ここに書き留めておき、 情報が集まったらさらに検証し正していきたいと思う。
ニコン携帯顕微鏡 H型 ● H型の1973年当時の価格と付属品 ニコン携帯顕微鏡 H型は、付属する対物レンズの種類によって3種のモデル(セット)があった。 手元にある1973年12月版のニコン顕微鏡価格表より引用した。 価格表(1973年12月)
接眼レンズは WF 10x、コンデンサ NA 1.25。いずれのセットに共通で装備。
付属品(1973年12月)
● H型の販売期間と価格 1973年版よりもう少し古い資料が手元にあるので確認してみた。 「Nikon 製品総合」(1969年版、資料番号 CEOA 5703-912)である。 ニコン製品がすべて掲載された小冊子のような縦長で小型のパンフレットだ。 ニコンFに始まって、植村式超高速度カメラ UNF-500型、放射線用ペリスコープで終わるなかなかのマニア仕様。 18ページに、携帯顕微鏡H型 59,600円と出ている。 説明はないが対物レンズ 4本揃いのフルセットと思われる。 販売期間を調べようと手持ちの範囲で資料を確認してみた。 1979年10月版の生物顕微鏡カタログおよび価格表には、もうすでにH型顕微鏡は掲載されていない。 1979年頃に製造が終了したと思われる。 ニコンの説明(注)によると、1980年頃まで販売はされていたという。 1958年の発売から1980年頃の終売まで、価格情報(価格表)をお持ちの方はぜひ教えていただきたい。 価格の推移をここに記録しアーカイブしていきたいと思う。
(注)ニコンの説明
● 語りつくせぬニコン H型の魅力 なんだか、さくっと書くつもりの記事が長くなってしまった。 ニコン携帯顕微鏡 H型の使い方、使用上の注意を言及するには、紙面が足りない。 さらに、章が増えるような気がする。
ニコン携帯顕微鏡 H型 H型顕微鏡を持って枯野を歩いていたら、いつのまに足元には花が咲き、草草がみどりになってきた。 持っているだけで運気向上のオーラを放つ。こいつは縁起が良い。
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