Nikon Model H Field Microscope   Chapter 1

Nikon Model H Field Microscope at Old Imperial Bar

A small but Big
Research Grade Microscope
Nikon Model H
Excellent Microscopy Machine
You can get
Brilliant and Very Sharp Images

ニコン超小型携帯型倒位顕微鏡

ニコン携帯顕微鏡H型の話である。 海外でも非常に有名であり人気が高い顕微鏡なので情報も多い。 使い方や本格派顕微鏡写真の実際は他の硬派で優良なサイト様に譲るとして、 RED BOOK NIKKOR ならではの切り口で話を進めたい。

昔からカタログに掲載されている写真を見て気になる存在ではあった。 1990年代の話であるが、 都内における私の定期偵察範囲(新宿、渋谷、銀座)ではモノがまったくなかった。 中古の顕微鏡はカメラに比べると市場が無いに等しかった。 1993年1月に書いたメモ記録が残っている。 「銀座カツミ堂写真機店 ニコン携帯顕微鏡 H型 古いけど 50万円!」 メモにビックリマークが付いている。 店頭で現物を見たのはこの時が初めてかもしれない。それにしてもいい値段だ。

それから10年が経過し2004年。ニコン研究会に入会した。 中古カメラ店の店頭でまず見ることができないモノが普通に出てくるので驚いたものだ。 ニコンカメラ(ニコン I 型)が 7台とか、ニコン S2E モータドライブカメラ、等々。 ニコン携帯顕微鏡 H型の実物を手に取って見せていただいた。 重鎮会員の方が銀座の老舗クラシックカメラ店から75万円で買ったと聞いた。 ずいぶん高額なものだと思ったが、 位相差顕微鏡タイプの H3型と言われる非常に珍しいモデルの新品だった。 相場価格らしい。

私が探していたのは普通のモデルのH型だ。 その頃になるとネットオークションにも時々出現するのを確認していた。 購入資源(おこずかい)が限られているので「新品未使用元箱入り紙モノ付き」に限定した。 この条件だと数はぐっと少なくなるのでよそ見しないで済む。モノが出た時には決断しやすい。 結局、顕微鏡専門のディーラー業者の方からオファーがあり購入した。2005年1月のことだった。

さて、この記事を書いているのは2021年である。モノを入手してから実に16年目の記事執筆となった。 それだけおいそれと語るには難しかったのである。

帝国ホテル

記事のコンセプトは「顕微鏡持ってバーに行こう」と決めていた。 宗谷の時代の南極観測ではなく、NASAスカイラブ計画の宇宙空間でもない。 ましてや深海潜水調査船支援母船「よこすか」の船内でもない。 スナックだと昭和の哀愁、居酒屋だとチューハイになってしまう。 ニコン携帯顕微鏡H型が似合うのは、スナックでもなく、居酒屋でもない。バーなのである。 それもオーセンティックバーに限る。

東京・日比谷 帝国ホテル

東京・日比谷。帝国ホテル。 まずは本館5階の会員制クラブラウンジでコーヒータイム。 いくらメインバーがお昼からオープンしていてもお酒を飲むにはすこし早い時間だ。 ここではフランク・ロイド・ライトがデザインしたカップでコーヒーが飲める。

クラブラウンジ

クラブラウンジにニコン携帯顕微鏡H型

この時間帯のクラブラウンジは、エグゼブティブなインターナショナル・ビジネスマンの方々が商談などしている。 東京宝塚劇場帰りのご婦人方はおいでになっていないようだ。 しかし誰も顕微鏡を持っていない。これは困ったものである。

光学機械様式美に優れたニコン携帯顕微鏡H型

1930年代。英国の医師マッカーサー博士(Dr. John McArthur)の手によって生まれた、 いわゆるマッカーサー型の可搬型倒位顕微鏡は各社から数々の機種が登場した。 しかし世界で最も有名で信頼されているのが1958年に市場に出たニコン携帯顕微鏡H型なのである。 研究室据置型の大型顕微鏡の性能と精度をそのまま小型化したのがニコン携帯顕微鏡H型である。 性能が良いからデザインも優れている。そういうものである。

The Rendez-Vous Lounge

本館1階のロビーフロアーにあるランデブーラウンジを望む。 こちらは、観光や買い物ついでに立ち寄ったグループとか会社員ふうのスーツ族、 そして東京宝塚劇場帰りとおぼしきご婦人方でにぎやかである。 そこで顕微鏡を持ってグランドホテルに集まる人々を俯瞰している男の姿は謎であるが大目にみていただきたい。

オールドインペリアルバー

帝国ホテルのメインバーはオールドインペリアルバー。本館の中2階にある。 説明するまでもないが、帝國ホテル旧本館(通称:ライト館) を設計したのが米国人建築家フランク・ロイド・ライト。 オールドインペリアルバーにはその旧本館の遺跡がそのまま残っている。 本物の現物史料なので、歴史的建築物愛好家やコアなライトファンが詣でることでも有名だ。

帝國ホテル旧本館 1930年代

画像は著者の時代考証用絵はがきコレクションから私物の1枚。 復刻版ではなく大東亜戦争前の当時のオリジナル。夜景の絵柄はかなり珍しい。 月が出ている。三日月ではなく二十六夜月だ。 池の蓮の葉の様子から真夏ではない。夜空の色温度から12月と仮定した。 12月で絵になるのはこの時代でもクリスマス。 1930年代前半の12月でクリスマスあたりに二十六夜月となる時を調べてみた。 昭和七年(1932年)12月23日(金曜日)と特定できた。昭和七年十二月。間違いないだろう。

この歴史的建造物は1967年(昭和42年)にクローズ。その後取り壊しとなり建物の一部は明治村に移設された。 もし私が明治34年あたりに生まれていたらこの神々しい光景を見ることができただろう。 クレッセントムーンではなくモダンな二十六夜月が涼しい。 残念ながら当時の帝國ホテルの経験も記憶もない。

フロアーの奥にあるバーに向かう

1階のロビーフロアにくらべて中2階は静かで人も少ない。 そもそも本格派老舗グランドホテルのメインバーはひっそりと奥に佇んでいるものである。 入口も控えめだ。看板など出ていない。まったく目立たないのが一流の証となる。

午前11時30分からお酒が飲める場所

オールドインペリアルバー

バーに入っていきなりこの歴史的設えが出迎える。時空はリアルタイムで切り替わり昭和余年は春の嵐となる。 あの時代だ。昭和九年(1934年)。すでに上海で面識のあったリヒャルト・ゾルゲと尾崎秀実は東京市で再会する。 以降昭和十六年(1941年)特別高等警察に逮捕されるまで、 帝國ホテルのバーにはスコッチウイスキーのグラスを手にした二人がいた。 篠田正浩監督の映画で見たことのあるシーンがここにある。

ライトが手掛けた特徴的デザインのテーブルとチェアー現物

日本の近代史に登場する歴史的事実の背景。 ニコンのリサーチグレードの顕微鏡を持って歩くとそんな情況が見えてくるから不思議だ。 そんな言説には無理があるように思えるが、 カメラ(この場では顕微鏡であるが)を語るには一通りの日本史と世界史を把握していないと話にならない、 と語る若手の研究者の言葉を信じている私がゐる。

バータイム

さて。カタイ話はここまでにしておこう。 バーカウンターに置くことができるのはグラスだけだ。 愛用の顕微鏡が置けないのでカウンター席ではなくソファー席にしてもらった。メニューが置いてある。 まだ夜には早い夕刻が近づく時間帯。ショートドリンクはないだろう。 47.3度のタンカレーかドライなゴードンでジントニックもいいけれど、まずはかるくビールでスタート。

OLD IMPERIAL BAR

バーとニコン携帯顕微鏡H型の美しい風景

実は何回かオールドインペリアルバーに通ってやっとこのシーンが撮影できたのだ。バーといえばカウンター。 このカウンター席は人気があるのでいつも紳士とレデイスで埋まっているのであった。 たまたまこの画角の範囲だと誰も座っていない瞬間があった。ちょうどビールもサーブされた。 バーと顕微鏡の美しい風景は今しかない。

ニコン携帯顕微鏡H型

絵になる。昭和の映画のようなシーンだ。 帝国ホテルのオールドインペリアルバーで顕微鏡である。 かなり難しい設定ではあるが、ニコン携帯用顕微鏡H型は研究用グレードなので問題ない。 ホンモノはどんな背景においても場の共鳴を扇動する。

リサーチグレード研究用ニコン携帯顕微鏡H型

バーでカメラ。時代考証的にはライカDIIIの黒塗りだろう。 ブラックペイントだったらライカM3も小道具として馴染む。 だが顕微鏡である。ニコンアポフォトのフルセットだと重すぎる。 このシーンではニコン携帯用顕微鏡H型がもっとも似合う。

ニコンフィールドマイクロスコープ モデルH

バーで顕微鏡は美しい。 気にされる方がいるので言及しておくが、持ち込んだのは顕微鏡本体だけで、プレパラートや生物標本は持ち込んでいない。 関係者からツッコミが入る前に言い訳しておくが、写っている画像ではコンデンサーの位置がLとHの中間位置で止まっている。 正しい使い方ではない。しかし美しい情景が撮影できたのでこのまま掲載した。

Old Imperial Bar

後半はスコッチウイスキーを少々。 マッカラン12年にロイヤルハウスホールド。オンザロック。 オーセンティックバーでは普通のわかりやすいのがいい。 蘊蓄はその道のプロから聞くものであって素人が語るものではない。

Whisky and Microscope

ニコン携帯顕微鏡H型とウイスキー

撮影メモ

帝国ホテルでの写真取材は、2013年の5月と9月、それに2017年3月の3回に分けて行った。 ラウンジおよびバー内部の写真は、マネージャーさんにお声掛けして許可をいただき、 一般のお客さんの写り込みがないように撮影した。

さらに2021年1月。本記事のウェブ公開にあたり、 念のため事前にすべての画像を帝国ホテルインペリアルクラブ事務局様にご確認いただき、 同事務局様より許可承諾を正式に得て掲載しております。

話はこれから

 次のお話に行きましょう。   第 2 章  フィールドで顕微鏡

ショートカットはこちらからです。

第 0 章      トップページ
第 1 章      顕微鏡持ってバーに行こう
第 2 章      フィールドで顕微鏡
第 3 章      顕微鏡博物館
第 4 章      顕微鏡の四季
第 5 章      船と顕微鏡
第 6 章      コレクターズガイド
番外 編      ベトナム戦争と携帯顕微鏡 H型

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