APO EL Nikkor 105mm F5.6N     3

アポエルニッコール105mm F5.6N

理想的アポクロマート

ここでレンズのことを説明しておきたい。 そもそも、アポエルニッコールとは何か。 アポニッコールと違うのか。エルニッコールとの関係性はどうなんだろう。

アポエルニッコール 105mm F5.6は 2種類存在する。 アポエルニッコール 105mm F5.6とアポエルニッコール 105mm F5.6Nである。 ニコンでは前者を旧タイプ、末尾に Nがついている後者を新タイプと称している。 末尾の Nは Newタイプ(バージョン)という意味だと思う。

正確に話をするために、一次資料である日本光学が発行した資料から、 旧タイプの製品セールストークをまとめた。 色枠内に原文のまま引用させていただいた。

アポ・エル・ニッコール

小型のカラー原稿をもとにして 10倍前後の拡大印刷版を造るには、 従来エル・ニッコールが使用され好評を得ておりますが、 技術の飛躍的な進歩とともに、さらに高性能なものが要求されるようになってきました。 これに応えるべく開発されたレンズがアポ・エル・ニッコールです。

アポ・エル・ニッコールは特殊な光学ガラスの組合わせにより、赤、緑、青 3色だけでなく、 可視光全体にわたり色収差を除去した拡大分解専用レンズです。 従って、大きく拡大しても色によるピントのずれや寸法誤差はありません。 また、このレンズでは画角を欲張らず、 必要な画面内において他の収差も良好に補正されているため、 現在得られるどんなカラー原稿をも上回る高い解像力をもっております。

さらに表面反射によるカブリを防止するため、レンズ面に多層膜コートが施されており、 原稿のディテールを忠実に再現するヌケの良い画像が得られます。 アポ・エル・ニッコールは、これらのすぐれた特性により、 ほぼ完全な拡大分解製版を可能にします。

特長

●拡大分解専用のレンズで倍率変化による差が少ないため、 指定倍率内なら、ほぼ完全な拡大分解製版が行なえます。

●理想的アポクロマートですから拡大にも色によるピントのずれや寸法誤差はありません。

●開放絞りで、色収差その他の諸収差がほぼ完全に補正されていますので、 次のようなお使い方をおすすめします。

  レンズの焦点距離と絞り   原稿サイズ
  APO EL 105mm F5.6   35ミリ判
  APO EL 105mm F8   6 X 6 判
  APO EL 210mm F5.6   6 X 6 判、35ミリ判
  APO EL 210mm F8   4 X 5 インチ判

出典:
日本光学工業株式会社発行 「Nikkor」カタログ
昭和49年(1974年)2月1日発行
資料コード 8200-01G JC 403-2 2

次に新タイプの説明を見ていただこう。 きわめて優れた性能をこれでもかとてんこ盛り。 特定のマニヤ層に向けて、もう煽りに煽りまくっていて実に好ましい。

アポ・エル・ニッコールについて

アポ・エル・ニッコールは、カラー原稿の、より精密で色収差の小さい拡大像を得るために 研究開発された高解像力アポクロマートレンズである。 アポ・エル 105mm F5.6Nと 210mm F5.6Nは旧タイプのアポ・エルに替わり、 昭和55年に性能がさらに向上され、かつコンパクトになって登場した。 オルソメタータイプをさらに発展させた 4群8枚構成で、 つぎに述べる2つの大きな特長をもっている。

(1)自社製の異常分散の性質をもつEDガラスを2枚使用することにより、 アポクロマートの色収差補正がなされている。 このため、波長 380〜750nmの範囲にわたり軸上色収差、 倍率色収差ともに完ぺきなまでに補正されている。

(2)コマ収差、像面湾曲等の諸収差がきわめてよく補正されているので、 絞り開放から非常に高い解像力をもち高コントラストの像を生み出す。

上記の大きな特長に加えて、対称型のレンズ構成を採用しているので、 大きな包括角度をもつにもかかわらず歪曲収差が非常に小さく、 歪みのない像を再現する。 また倍率が変化しても性能の変化が非常に小さいので、 基準倍率以外の倍率においても優れた性能を発揮する。 ニコン独自の多層膜コートと優れて内面反射防止技術により、 コントラストを低下させるカブリなどもきわめて少ない。

このほか、引伸し用レンズとして必要な要素を充分考慮して設計がなされており、 周辺光量も充分である。 したがって、カラー原稿からの精密な引伸し作業にはもちろんのこと、 写真製版での精密カラー拡大分解等に最適で、その性能を遺憾なく発揮する。 黒白の拡大作業にも優れた性能を示すことはいうまでもない。

ますます高解像力でしかも色収差の少ないレンズが要求されているので、 このアポ・エル・ニッコールの活躍する場がさらに広がっていくであろう。

●アポ・エル・ニッコール 105mm F5.6N

絞り開放で 6×6cm判、F8で 6×9cm判をカバーする高性能カラー用引伸しレンズである。 従来のアポ・エル 105mm F5.6に替わり、さらに性能を向上させ、 かつコンパクトにして昭和55年に発売された。 旧タイプはF8に絞っても 6×6cm判しかカバーできなかったので、 この新タイプはその使用可能範囲を大きく広げたことになる。

4群8枚構成で、そのうち2枚に自社製EDガラスを使用することにより、 2次スペクトルを除去したアポクロマートになっているので、 波長によるピントの差がきわめて小さく、また画面全体にわたり色のにじみがほとんどない。 そのうえ、コマ収差、像面湾曲等の諸収差が非常に小さいので、 絞り開放からきわめて高い解像力と高コントラストの像を再現する。

周辺光量も充分で、F8に絞れば 6×9cm判画面内で口径食は0%になる。 歪曲収差もきわめて小さい。 したがってカラー伸しだけでなく、 写真製版の精密カラー拡大分解や精密拡大複写等に最適である。 前後部両府にライカマウントのネジが切ってあり、 ライカマウントの装置にはどちら側からも簡単に取付く。 基準倍率は 10倍、標準使用倍率は 5〜20倍である。 重さは 140gで旧タイプの半分以下である。

出典:
ニコンテクニカルマニュアル
*英数字の大文字と小文字の使い分けは原文のまま。

テクニカルデータ

前で述べたとおり、アポエルニッコール 105mm F5.6は 2種類存在する。 アポエルニッコール 105mm F5.6とアポエルニッコール 105mm F5.6Nである。 ニコンでは前者を旧タイプ、末尾に Nがついている後者を新タイプと称しているのでこれに従う。 まずは旧タイプのレンズについて説明しよう。

(1)旧タイプのレンズ

アポエルニッコール105mm F5.6

−焦点距離: 105mm
−最大口径比: 1 : 5.6
−最小絞り: F45
−絞り目盛: 1/3づつのステップ
−レンズ構成: 4群8枚
−基準倍率: 10X
−標準使用倍率範囲: 5X〜20X
−画角: 40度
−色収差補正波長域: 380nm〜700nm
−口径蝕: 0%(F8にて)
−歪曲収差: +0.06%
−原板サイズ: 80mm⌀
−基準倍率における原板から画像までの距離: 1265.6mm
−フィルター径: 40.5mm P=0.5mm
−マウント: ライカL39スクリューマウント
−全長: 60mm
−最大径: 51mm
−重量: 315g

−発売時期: 1971年6月
−当時の価格:
   207,000円(1974年 6月)
   207,000円(1976年 4月)
   207,000円(1977年12月)

(2)新タイプのレンズ

レンズ本体に Nの刻印が入っているわけではなく、カタログや価格表などの紙資料だけに見ることができる。 外観が大幅に異なる。性能諸元で注目すべき点は、色収差補正波長域である。 近紫外域の 380nmから近赤外域の 750nmまである。750nmまで補正するレンズはあまり見当たらない。 このあたりはプリンティングニッコール(なんと 800nmまで補正)と同じ意気を感じる。

アポエルニッコール105mm F5.6N

−焦点距離: 104.8mm
−最大口径比: 1 : 5.6
−最小絞り: F32
−絞り目盛: 1/3づつのステップ
−レンズ構成: 4群8枚
−基準倍率: 10X
−標準使用倍率範囲: 5X〜20X
−画角: 47度
−色収差補正波長域: 380nm〜750nm
−口径蝕: 0%(F8にて)
−歪曲収差: -0.07%
−原板サイズ: 80mm⌀(F5.6にて)
−原板サイズ: 100mm⌀(F8にて)
−基準倍率における原板から画像までの距離: 1265.3mm
−フィルター径: 35.5mm P=0.5mm
−マウント: ライカL39スクリューマウント
−全長: 49mm
−最大径: 45.5mm
−重量: 140g
−重量実測: 139.5g

−発売時期: 1980年
−当時の価格:
   207,000円(1982年 8月)
   207,000円(1982年12月)
   207,000円(1984年10月)
   207,000円(1985年 2月)
   207,000円(1985年12月)
   207,000円(1987年 1月)

アポエルニッコール 105mm F5.6Nのレンズ構成図

価格という情報は時代背景や製品の立ち位置を理解するのに役立つ。 1987年当時の価格は 20万7000円。 時代のフラッグシップ機ニコン F3HPのボディ価格 149,000円より高価だった。 業務用なので、と言われてしまうとそれまでだが。 ちなみに、1987年当時最新鋭の通常の EL Nikkor 105mm F5.6Nが 27,500円だった時代である。 かるく 7倍を超える価格差がある。やはり別格と言うしかないだろう。

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