Nikon F2 50th Anniversary    3

ニコンF2白チタン

幻のニコンF2白チタン

実は私がこの企画展に向かった理由はこれである。ニコンF2白チタン。 一般的にはという条件下において、 販売されたF2チタンボディは、報道機関向けを含めて黒縮緬塗装のブラックボディのみである。 しかし黒でない白があるとの伝承は昔からあった。 そうは言っても現物を見たことがない。写真ですらもほとんど出ていない。 見たことがある人を知っているとか、なんとも説得力がない。 例えが古いが、現代のツチノコ・クラスの幻の未確認カメラだったのである。

F2チタンの展示コーナー

このプレゼンテーションはさすがである。 国宝・幻のニコンF2白チタンが展示ケースの左隅っこに説明無しで無造作に置いてある。 宋時代の汝窯青磁筆洗(たった径 13センチほどの小皿)が九十九里浜の民宿の下駄箱の上にポンと置いてある風情に近い。 たしかこの小皿は2017年サザビーズ香港で約42億円を超えたと思う。

落語でいえば五代目古今亭志ん生の演目は「猫の皿」。 猫にご飯を盛ったお皿は絵高麗梅鉢文茶碗か初代柿右衛門。 こんごニコンミュージアムはこういった展示が増えそうだ。 マニヤの方もそうとう勉強研鑽しておかないとこの勝負には勝てない。

この素っ気ない説明が素晴らしい

白チタン写真集

ついにニコンミュージアムでニコンF2白チタンの真正品が展示されたのである。 日本のマニヤの間では「白チタン」と呼ばれている。 それで話が通じるのである。 英語では「Nikon F2T Titanium Silver Body」と表記してみた。 同列のチタン機に準じて、ホワイトではなくシルバーとした。 シャンパン・カラーと表わす向きもあるが、それはちょっと違うと思う。

ザ・ニコン F2T チタニウム・シルバー ボディ

F2白チタン

前代未聞の「白チタン写真集」となった。 記事すべて、全30枚近い画像は、すべてニコンF2白チタンなのである。 アイドルさんの写真集とコンセプトは同じ。異なる点は被写体のみである。

ニコンチタンカメラの美しいフォルム

鋼鉄のように剛健なニコンチタンカメラの魅力

Nikon F2T Titanium Silver

カメラ製造シリアル番号 F2 9200433

美しい軍艦部

チタンの品格

金属チタンを一眼レフカメラの外装に使った世界で初の機種である。 豪華だが華美でなく派手さがない。品格さえ漂う。

ニコンF2白チタンは極めて現存数が少ない。 市場に出てくれば時価 1億2千万円は下ると言われているが、 ニコンミュージアムで展示されたという極め(お墨付き)が付けば、その限りではない。

クールな Titan 刻印

チタンの品格

豪華であるが華美でない

白チタンと言えばF2のこと

特装機と言えば金属チタン製に限る

このカメラによってニコンチタンカメラの歴史が始まった

幻度の測定と評価

「幻のニコンF2白チタン」と言ってはみたが、はたして幻とはどの程度の幻なのだろか。 手持ちのエビデンスで確認できる範囲ではあるが定量分析しててみた。

(1)新製品として誕生した頃

当時の写真関連雑誌で新製品紹介として写真入りで記事が掲載されていることを確認している。 他誌にも掲載されたと思うが、史料エビデンスが手元にあるもののみを示す。

・カメラ毎日

1978年11月号 第15回フォトキナ特集より
「チタン外装のニコンF2」と題してモノクロ写真が掲載されている。

・写真工業

1978年12月号 国内ニュース
「ニコンF2チタン」と題してモノクロ写真が掲載されている。

カメラ毎日も写真工業も、ニコンから供給された同一の製品写真を掲載したものと考えられる。 写真の外観姿は今回のニコンミュージアム企画展で展示された機体とまったく同じと思われる。

(2)ニコンが発行した資料

ニコンが正式に発行した文献資料を調べてみた。 ニコンの社史(75年史、100年史)には記載がない。 もちろんニコンカメラのカタログや価格表にはその性質上一切出て来ない。 私が知る限りでは、F2白チタンの説明が登場するのは株式会社ニコンが発行した以下の資料のみである。

資料名「写真史を変えた35ミリ一眼レフカメラ ニコンFシリーズのすべて」
株式会社ニコン発行
A4判 全16ページの冊子
(発行年、資料・カタログ番号等の記載無し)

各種試作機に、スペースニコンやニコンF高速、F2高速の写真と説明に続いて、 小さいカラー写真入りで以下の記載がある。

F2チタン試作
チタン・モデルは通常、ブラック塗装されているが、これはチタンそのままの色の試作品。

写真の外観姿は今回のニコンミュージアム企画展で展示された機体とまったく同じと思われる。 なおこの冊子は、1995年6月上旬にニコンのプロサービスでNPS会員向けに配布されたと言われている。 私は職業写真家の方からこの情報を得て、 1995年6月中旬に新宿サービスセンターで事情を話し、奥から出てきた一部をいただいたものである。

(3)一般書籍

以下の文献でニコンF2白チタンの複数の外観写真と説明が確認できる。

・ニコンF2完全攻略

小森都支雄 著 学習研究社 2001年9月発行

・100 Anniversary

Uli Koch 著 OstLicht GmbH, Vienna 2016年発行

以上書籍の内容については、当該機を所有されている方へのセキュリティー上の観点から論評は控える。 間違いなく言えることは、ニコンミュージアムに展示されたニコンF2白チタンは当時 3台は製作され、 廃棄でもしない限り地球上に 3台は存在していることだ。 海外の有力かつ最強のコレクター様がお持ちなのは承知している。 すでに本記事を監修していただいた。 それはとも角、街中の中古カメラ店のジャンクボックスに、3千円で放り込まれていたら救済したいものだ。

古い写真機

ニコンF2の誕生は1971年(昭和46年)。いまから半世紀前、50年前のことである。 50年前の工業製品をいま持ち続けている人はごく少ないだろう。 クルマはもちろん家電製品でも50年間使い続けることは困難に近い。

ニコンF2。フルメカニカル機。 ニコン研究会では、F2は機械式ニコン一眼レフの頂点に立つ最高峰のカメラと評価されている。 異論は聞いたことがない。古い写真機である。 お金をかけてきちんと専門家によるメンテナンスさえ続けていれば、 いまでも時代の最前線で使うことができる。 しかし若者でないと使いこなせない。

古い写真機をいま動かせるのは
古い写真家じゃないだろう

1978年(昭和53年)製の写真機

ニコンF2白チタンの風格を引き出したく、 下からのアングルで、ミュージアムの天井照明をスポットに見立て、ライブ感を出してみた。

ニッポン・コーガク・トーキョー

この存在感と気配

知性的なペンタプリズム

後ろ姿のしぐれてニコン

ニコンF2白チタンは後ろ姿が素敵だ。必要最小限の機構しかない潔さ。 シンプルだが入念に計算し尽くされた動線と配置。 上質な金属加工で実現されたシャッターダイヤル、シャッターボタン、 フィルム巻き上げレバー、そしてフィルム巻き戻しクランク。

粋な後ろ姿

バックシャン(Back Schön)

この角度から見た景色

こちらから見た景色

カメラ製造シリアル番号 F2 9200433

ザ・メイド・イン・ジャパン

1970年代。日本ではホンモノのカメラが生産されていた。 カメラは歯車で出来ていた。金属製の歯車は機械のすべてである。 メイド・イン・ジャパン。ただ美しい。

右軍艦部

左軍艦部

ザ・メイド・イン・ジャパン

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 次の展示コーナーを見てみましょう。   第 4 章  シネニッコールの歴史

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第 0 章      トップページ
第 1 章      冒険家のニコンF2
第 2 章      報道写真家のニコンF2
第 3 章      幻のニコンF2白チタン
第 4 章      シネニッコールの歴史
第 5 章      シネニッコール図鑑

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