NAOMI UEMURA     5

Nikon

ニコンF2チタンウエムラスペシャル

今回の企画展の主役の登場である。ニコンF2チタンウエムラスペシャル。 ニコンF2愛好家にとっては有名な存在だ。 カメラマニア向け雑誌などで多く取り上げられ、存在を知る方は多かったと思うが、 なかなか実物を見る機会がなかった。

ニコンF2チタンウエムラスペシャル

ウエムラスペシャル専用カメラケース

ニコンF2チタンウエムラスペシャル

ニコンF2チタンウエムラスペシャル

植村が、「北極圏 12,000キロ犬ぞり単独走破」(1976年)に持参したカメラは、 過酷さに耐えられずすべて壊れてしまい、十分な撮影ができなかった。 「役に立たなくなったカメラを犬たちが運ぶのがかわいそうだった」と話した。

1977年(昭和52年)6月、植村はニコンに、北極点犬ぞり単独行に用いるカメラを要望する。 植村はニコンの技術者たちとの打ち合わせで、「北極の気温は、マイナス 50℃になるときもあり、 氷の山を割りながらガタガタと走っていくので、 振動は、階段を登ったり駆け下りたりするような感じです。」 と説明し、極地の低温と衝撃に耐えるカメラを求めた。 この要望に応えて、開発されたのが、「ニコンF2チタンウエムラスペシャル」である。

1982年(昭和57年)1月、 植村は南極大陸 3,000キロの犬ぞり単独行と同大陸最高峰ビンソン・マシフの登頂のため日本を出発する。 ニコンは、この冒険のために「ニコンF3チタンウエムラスペシャル」を開発した。 同カメラは当館の「トピックス展示」に展示中である。 なお、植村のために開発されたカメラには所在不明の物があり、 そのいずれかは、植村とともにマッキンリーに今も眠っているであろう。

Nikon F2 Titanium Uemura Special

F2ウエムラ

実物を初めて見た。まわりの空気を圧倒する存在感。 オーラを放つカメラはめったにない数少ないものであるが、 F2ウエムラのオーラは別格で、ご神体の風格だった。

F2ウエムラ

「F2ウエムラ」の主な変更点

フィルム押さえローラーの増設

フィルムの巻き上げを順巻きに変更

ウエムラ・ストラップ

ニコンのストラップと言えば牛革製の細いストラップ(AN-1)が主流の時代だった。 当時出たばかりの黄色いエスロン製ストラップ。 ストラップの金具をはずし、糸で縫い付け仕様に変更されている。

世界初の金属チタン外装一眼レフカメラ

F2ウエムラとレンズのセット

ウエムラスペシャル

鑑賞のポイントを拡大写真で見てみよう。 巻き戻しクランクが赤に塗装されていると説明にあるが、 この機体は赤色の塗装ではなくて、オレンジ色のダイモテープをカットして貼ったような風情である。

巻き戻しクランクを赤に塗装

製造シリアル番号 F2 7733380

世界的な歴史的カメラ

ズーム ニッコール 28〜45mm F4.5

ガタガタなフィルター枠

3台のF2ウエムラの行方

極地仕様カメラ、ニコンF2チタンウエムラスペシャルは 3台製作された。 植村さんはそのうち 2台をニコンから貸与され、1979年1月に北極点へ向かった。 探検行は無事成功に終わり1979年9月に植村さんは元気に帰国した。 そして 2台のF2ウエムラはニコンに返却された。

帰国後の植村さんは時代の人となりテレビ出演に講演が続いた。 ニコン社内でも植村さんの講演会が開催された。 謝礼を申し入れると、植村さんはF2ウエムラを希望したと言う。 ニコンはF2ウエムラを贈呈した。 植村さんの手元にはF2ウエムラがあった。 この経緯はニコン報道機材課の鈴木章夫氏の証言による。

1984年2月。 植村さんは冬期厳寒のマッキンリー山の単独登頂に挑んだ。 登頂にはこのニコンから贈呈されたF2ウエムラを携行していたと言われる。

3台のF2ウエムラは現在どこにいるのか整理してみた。

(1)東京都

製造シリアル番号 F2 7733398

東京都板橋区「植村冒険館」に展示してあった機体。 「植村冒険館」は 2021年12月に「板橋区立植村記念加賀スポーツセンター」に移転しリニューアルオープンした。 この機体は現在、東京都港区のニコンミュージアムで常設展示中。

(2)兵庫県

製造シリアル番号 F2 7733380

兵庫県豊岡市「植村直己冒険館」にて展示中。 この機体はアイレベルファインダー部に大きな傷があり、 さらにはレンズの前枠がガタガタ。いかに過酷な冒険行だったか想像できる。 なおこの機体は、本記事で説明の通り、 2017年1月から4月までニコンミュージアムで開催された 企画展「植村直己 極地の撮影術」で展示された。

(3)マッキンリー山

製造シリアル番号 不明(公開されていないが F2 77333xxの可能性大)

アメリカ合衆国アラスカ州。標高 6,190メートル。 マッキンリー山は2015年よりデナリが正式な呼称となった。 なじまない気もするがデナリに変更となった経緯を知るとしかたない。 いまでもF2ウエムラはかの地で植村さんを護っている。

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 まだ続く。   第 6 章  F2ウエムラスペシャル 第二部

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第 3 章      無線通信機
第 4 章      犬ぞりと日の丸
第 5 章      F2ウエムラスペシャル 第一部
第 6 章      F2ウエムラスペシャル 第二部
第 7 章      おわりに

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