APO EL Nikkor 210mm F5.6     2

アポエルニッコール 210mm F5.6

ここでレンズのことを詳しく説明しておきたい。 従来から写真製版用レンズのアポニッコールがあった。 また写真引き伸し用レンズではエルニッコールが有名だ。 簡単に言って二つ足したようなネーミングであるが、 その大きなプリンシプルにもとづく基本機能と性能諸元はかなり気合が入っている。

アポエルニッコールのこと

アポエルニッコール 210mm F5.6は2種類存在する。 アポエルニッコール 210mm F5.6とアポエルニッコール 210mm F5.6Nである。 ニコンでは前者を旧タイプ、末尾に Nがついている後者を新タイプと称している。 末尾の Nは Newタイプ(バージョン)という意味だと思う。

正確に話をするために、一次資料である日本光学が発行した資料から、 旧タイプの製品セールストークをまとめた。 色枠内に原文のまま引用させていただいた。

アポ・エル・ニッコール

小型のカラー原稿をもとにして 10倍前後の拡大印刷版を造るには、 従来エル・ニッコールが使用され好評を得ておりますが、 技術の飛躍的な進歩とともに、さらに高性能なものが要求されるようになってきました。 これに応えるべく開発されたレンズがアポ・エル・ニッコールです。

アポ・エル・ニッコールは特殊な光学ガラスの組合わせにより、赤、緑、青 3色だけでなく、 可視光全体にわたり色収差を除去した拡大分解専用レンズです。 従って、大きく拡大しても色によるピントのずれや寸法誤差はありません。 また、このレンズでは画角を欲張らず、 必要な画面内において他の収差も良好に補正されているため、 現在得られるどんなカラー原稿をも上回る高い解像力をもっております。

さらに表面反射によるカブリを防止するため、レンズ面に多層膜コートが施されており、 原稿のディテールを忠実に再現するヌケの良い画像が得られます。 アポ・エル・ニッコールは、これらのすぐれた特性により、 ほぼ完全な拡大分解製版を可能にします。

特長

●拡大分解専用のレンズで倍率変化による差が少ないため、 指定倍率内なら、ほぼ完全な拡大分解製版が行なえます。

●理想的アポクロマートですから拡大にも色によるピントのずれや寸法誤差はありません。

●開放絞りで、色収差その他の諸収差がほぼ完全に補正されていますので、 次のようなお使い方をおすすめします。

  レンズの焦点距離と絞り   原稿サイズ
  APO EL 105mm F5.6   35ミリ判
  APO EL 105mm F8   6 X 6 判
  APO EL 210mm F5.6   6 X 6 判、35ミリ判
  APO EL 210mm F8   4 X 5 インチ判

出典:
日本光学工業株式会社発行 「Nikkor」カタログ
昭和49年(1974年)2月1日発行
資料コード 8200-01G JC 403-2 2

次に末尾に Nのついた新タイプのレンズの説明を見ていただこう。 「抜群の性能を発揮する」など優れた性能を示すアピール感が心地よい。 自信をもって製品化したレンズへの愛着が見える。 日本の製造業はこうでなければならない。

アポ・エル・ニッコールについて

アポ・エル・ニッコールは、カラー原稿の、より精密で色収差の小さい拡大像を得るために 研究開発された高解像力アポクロマートレンズである。 アポ・エル 105mm F5.6Nと 210mm F5.6Nは旧タイプのアポ・エルに替わり、 昭和55年に性能がさらに向上され、かつコンパクトになって登場した。 オルソメタータイプをさらに発展させた 4群8枚構成で、 つぎに述べる2つの大きな特長をもっている。

(1)自社製の異常分散の性質をもつEDガラスを2枚使用することにより、 アポクロマートの色収差補正がなされている。 このため、波長 380〜750nmの範囲にわたり軸上色収差、 倍率色収差ともに完ぺきなまでに補正されている。

(2)コマ収差、像面湾曲等の諸収差がきわめてよく補正されているので、 絞り開放から非常に高い解像力をもち高コントラストの像を生み出す。

上記の大きな特長に加えて、対称型のレンズ構成を採用しているので、 大きな包括角度をもつにもかかわらず歪曲収差が非常に小さく、 歪みのない像を再現する。 また倍率が変化しても性能の変化が非常に小さいので、 基準倍率以外の倍率においても優れた性能を発揮する。 ニコン独自の多層膜コートと優れて内面反射防止技術により、 コントラストを低下させるカブリなどもきわめて少ない。

このほか、引伸し用レンズとして必要な要素を充分考慮して設計がなされており、 周辺光量も充分である。 したがって、カラー原稿からの精密な引伸し作業にはもちろんのこと、 写真製版での精密カラー拡大分解等に最適で、その性能を遺憾なく発揮する。 黒白の拡大作業にも優れた性能を示すことはいうまでもない。

ますます高解像力でしかも色収差の少ないレンズが要求されているので、 このアポ・エル・ニッコールの活躍する場がさらに広がっていくであろう。

●アポ・エル・ニッコール 210mm F5.6N

4×5″および 5×7″判の精密カラー引伸し用に設計されたレンズである。 105mmと同じように旧タイプの 210mm F5.6に替わり、昭和55年に発売された。 F5.6で 4×5″判を、F8で 5×7″判をカバーする。

アポ・エル 105mm F5.6と同じく 4群8枚構成で、 EDガラス使用により厳密なアポクロマートになっている。 したがって色収差がきわめて小さく、 エル・ニッコールでは不満足な場合のカラー引伸し作業 あるいは写真製版での拡大色分解には最適である。 色収差以外の単色収差も驚くほど小さく補正されており、 絞り開放よりきわめて高い解像力とコントラストが得られる。 対称型のレンズ配置により歪曲収差も非常に小さい。

このため、高解像力を必要とし、 歪みをきらう精密拡大複写あるいは縮小複写に抜群の性能を発揮する。 周辺光量も充分あり、F8に絞れば 5×7″判の画面内で口径食0%となる。 基準売留津は5倍で、倍率変化による性能の変化も小さいので、 標準使用倍率範囲 3〜10倍内で優れた性能を示す。 前後部両方にネジマウントが切ってあり、どちら側からも取付く。 座金も付属しているので、これによる取付けも可能。 重量は 830gと旧タイプの 2/3になっている。

出典:
ニコンテクニカルマニュアル
*英数字の大文字と小文字の使い分けは原文のまま。

アポエルニッコール 210mm F5.6

テクニカルデータ

前で述べたとおり、アポエルニッコール 210mm F5.6は 2種類存在する。 アポエルニッコール 210mm F5.6とアポエルニッコール 210mm F5.6Nである。 ニコンでは前者を旧タイプ、末尾に Nがついている後者を新タイプと称しているのでこれに従う。 本記事で実写作例を含めて取り上げているのは、この旧タイプのレンズである。 まず最初に旧タイプのレンズについて説明しよう。

(1)旧タイプのレンズ

アポエルニッコール 210mm F5.6

−焦点距離: 210mm
−最大口径比: 1 : 5.6
−最小絞り: F45
−絞り目盛: 1/3づつのステップ
−レンズ構成: 4群8枚
−基準倍率: 5X
−標準使用倍率範囲: 3X〜10X
−画角: 38度20分
−色収差補正波長域: 380nm〜700nm
−口径蝕: 0%(F8にて)
−歪曲収差: +0.07%
−原稿サイズ: 156mm⌀
−基準倍率における原板から画像までの距離: 1501.6mm
−フィルター径: 77mm P=0.75mm
−マウント: 82mm P=1mm
−全長: 114mm
−最大径: 98mm
−重量: 1220g
−重量実測: 1264g

−発売時期: 1971年6月
−当時の価格:
   330,000円(1974年 6月)
   330,000円(1976年 4月)
   330,000円(1977年12月)

1974年(昭和49年)6月当時の価格が 33万円。 本サイトは中学生の方もご参照いただいているので参考のために言及すると、 当時の国鉄の初乗り運賃(最低運賃)は 30円だった。 翻訳すると現在のJR山の手線一区間、つまり代々木で乗って原宿で降りると 30円だったのである。 現在切符を買うと 140円なのでその 4倍強。 いまの感覚だと、NIKKOR Z 58mm f/0.95 S Noct より高価だったと言えば、 なんとなくそのステータスをご理解いただけると思う。

(2)新タイプのレンズ

レンズ本体に Nの刻印が入っているわけではなく、カタログや価格表などの紙資料だけに見ることができる。 外観が大幅に異なり軽量化されている。性能諸元で注目すべき点は、色収差補正波長域である。 近紫外域の 380nmから近赤外域の 750nmまである。750nmまで補正するレンズはあまり見当たらない。 このあたりはプリンティングニッコール(なんと 800nmまで補正)と同じ意気を感じる。

アポエルニッコール 210mm F5.6N

−焦点距離: 210.4mm
−最大口径比: 1 : 5.6
−最小絞り: F32
−絞り目盛: 1/3づつのステップ
−レンズ構成: 4群8枚
−基準倍率: 5X
−画角: 45度
−色収差補正波長域: 380nm〜750nm
−口径蝕: 0%(F8にて)
−歪曲収差: -0.02%
−原稿サイズ: 153mm⌀(F5.6にて)4×5″判
−原稿サイズ: 210mm⌀(F8にて)5×7″判
−基準倍率における原板から画像までの距離: 1512.3mm
−フィルター径: 67mm P=0.75mm
−マウント: 72mm P=1mm
−全長: 93mm
−最大径: 80mm
−重量: 830g

−発売時期: 1980年
−当時の価格:
   330,000円(1982年 8月)
   330,000円(1982年12月)
   330,000円(1984年10月)
   330,000円(1985年 2月)
   330,000円(1985年12月)
   330,000円(1987年 1月)
   6,848ドル50セント(2003年 7月、B&H New York, List Price)

アポエルニッコール 210mm F5.6Nのレンズ構成図

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