ここまでやるかの超マニヤックなレストア解説に聞き入る会員 ● プレゼンテーションセッション 歴史的銘機の数々を解説つきで見たあとは、次のプログラム、プレゼンテーションセッションへ進みました。 ニコン研究会望遠鏡専門部会の寺田茂樹研究部長の講演が始まりました。 寺田さんは、堂平天文台で日本光学製 91センチ天体望遠鏡の整備、 整備といってもあの巨大な 91センチ主鏡を洗浄して組み立て直す特殊技術を持つ専門家です。 マニヤ限定の、日本光斈製対空高角双眼望遠鏡フルレストアから得られた、 戦前における最高峰の光学機械工学的考察が語られました。
昭和初期は日本光斈の最高峰の光学技術に感動 ここに、寺田茂樹研究部長のプレゼンテーションの概要を掲載したいと思います。
昭和時代前半までの大型双眼望遠鏡に関する光学的・機械的・歴史的研究 戦前の高角双眼望遠鏡と昭和30年代の双眼望遠鏡をレストアする機会を得た。 その中で得られた知見を報告する。
Sample 1 Nikko 15x4 10cm 第一サンプルは、俯視角 70度の 15×4度 10糎高角双眼望遠鏡。製造番号 274号。 製作年代は内部の Rhomboidプリズムの鍍銀保護塗装上に昭和12年11月の記入があった。 神奈川県川崎市にあったものである。 対物鏡は有効径 105mm、焦点距離 525mmで 30μm厚の錫箔分離型 2枚玉 fraunhofer型アクロマートである。 Spherometerにより求めた各レンズ面の曲率と nodal slide法による焦点距離測定結果を光学シミュレータに代入したところ、 硝材は BK8と F1該当品と推定された。 グリースと防水膏を使用し、対物鏡セルやプリズムケースのねじによる接合部分に ラビリンス構造を適用した防水機能は現在でもほぼ完璧に機能しており、 ケース内部の硝材表面にはヤケなど皆無であった。 接眼鏡は日本国特許 第 87139号(昭和5年 6月16日発効 発明者 砂山角野) にある広視界接眼鏡について視野レンズの外面と、 第二レンズ群後面を平面として量産性を改善したもので、 焦点距離 35mm。全 FOVは約 70度、有効 FOVは 60度である。 硝材は視野レンズが BK7であることを除き不明。 正立用/目幅調整用プリズムは 70度 Amici roofプリズムと Rhomboidプリズムである。 全ての光学面に増透処理は見られない。 鏡体本体がエレクトロンであるとの記述が各種文献にあるが、 サンプルは通常のアルミ合金と思われる。 目幅調整機構は、スチールベルトが両プリズムケース間に 8の字に掛けてある特色あるものである。 ただし、本サンプルの場合は実戦中の衝撃のためか、そのベルトが切れていたので再製作した。 塗装はかなり黄色味が強い灰色で、光学系セル部は通常の平滑塗装だが、 鏡筒本体はコルク粉が散布された同色の砂目調塗装である。 光学系クリーニングの結果、 増透処理が無いためのゴーストは無視できないが極めて高コントラストな視野を得、 歪曲収差や倍率の色収差も F5アクロマートとは思えないほどの像である。
Sample 2 Nippon kogaku 20x3 12cm 第二サンプルは直視型 20×3度 12糎双眼望遠鏡。製造番号 7230号。 製作年代は明記されたものがなく、製造番号より昭和37年(1962年)製の I型と思われる。 静岡県焼津市にあったもので、多分遠洋マグロ・カツオ漁船にて活躍していたものと思われる。 対物鏡は有効径 120mm、焦点距離 600mmでレンズ間隔 2.5mmになる黄銅製スペーサリング分離による 2枚玉 fraunhofer型アクロマートである。 硝材は第一サンプルと同様、BK8と F1該当品と推定された。 防水機能も同様な構造で現在でもほぼ完璧に機能している。 ケース内部の乾燥剤を再生したところ、 右鏡筒内部の乾燥度検査紙は 1ヶ月以上乾燥状態を示し、 鏡筒内部の硝材表面のヤケは皆無であった。 接眼レンズも第一サンプルと同様なもので、 焦点距離 30mm。全 FOVは約 70度、有効 FOVは 60度の広視界接眼鏡である。 正立用/目幅調整用プリズムは光路シフト量 52mmの PorroII型プリズムである。 戦後の製品であるので、全ての光学透過面には単層 MgF2によると見られる増透処理が施されている。 戦前ものと比較すると、鏡筒の砲金または黄銅製部品はほとんどアルミ合金に置き換えられ、 軽量化が図られている。 塗装は、光学系セル部は赤味が強い灰色の平滑塗装、鏡筒本体は濃い緑灰色の縮み(縮緬)塗装である。 光学系クリーニングの結果、増透処理のためゴーストも少なく、高コントラストな視野を得ている。 倍率の色収差は多少目立つものの、 歪曲収差・球面収差ともに F5アクロマートとは思えないほどの像である。 結論として、最近の ED/SDガラスを使用し、 多層膜増透処理やプリズムのダハ面に位相補償膜を施した広視界双眼鏡と比較をすれば、 透過率や残存色収差に歴史を感じざるを得ない。 しかし当時の量産光学兵器や専門家用の漁業光学機器としての完成度には目を見張るものがあり、 現在も充分実用に供することができるレベルである。 また特に O-リングが普及する前のものとして、洋上で使用するための防湿防水設計や、 軍事用機器としての堅牢さは、高角双眼望遠鏡では設計初期から約20年として、 すでに完成の域に到達していることに驚きを禁じ得ない。 改めて当時の山田幸五郎海軍技術少将や、 砂山角野日本光学工業設計部長他関係各位の努力に敬意を表したい。
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昭和時代前半までの大型双眼望遠鏡に関する光学的・機械的・歴史的研究
双眼鏡ボデイには、乾燥剤を詰めた黒い絹製の小袋が入っていることを知っていましたか。 なぜ木綿ではなくシルクなのか。 こんな隠れたところに密かに技を仕込んでいたなんて、 日本光学エンスージアストは涙を流してしまうではないですか。 ● 記事のご案内 画像の上で左クリックすると、大きいサイズの画像を表示できます。 細部までを確認したい方はどうぞ拡大してご覧ください。 → では次にいきます。 第 4 章 ニコンF用超望遠レンズ ショートカットはこちらからです。
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