![]() ビューティフル・グレース レントゲン・ジーベック 5cm F1.5 ● 時局レントゲン・ジーベック 5cm F1.5
ビューティフル・グレース。 世にクラシックカメラやヴィンテージなレンズの情報はあふれているが、 今までほとんど知られていなかったレンズを紹介したい。 極めてレアなレンズである。時代は時局。 昭和十八年から昭和十九年の話となる。 レントゲン・ジーベック 5cm F1.5である。
Xebec for Röntgen
理不尽で過酷な時代を経験してきたはずなのに語らず。 桜の花びらが散らばる誰も見向きもしないような日陰の大木の下。 森かげに、レントゲン・ジーベック 5cm F1.5をそっと置いただけで、気配から音は消え、 さーっと潮が引くように空気が明るくなったようにかんじたのは気のせいではないだろう。
![]() 森かげに咲く花 設えは「雪輪に草花文」 山茶花と情況の結界にジーベック 5cm F1.5を置く 上のレンズの姿画像を見て、奇妙にかんじた方はおいでだろうか。 刻印の並びが非常に変わっているのである。 正面の化粧リング、リムというのか、 レンズのぐるり周り押さえているような黒い枠部分の刻印を見ていただきたい。 普通の写真用レンズは刻印がグルリと彫刻されている。 つまり、レンズ上部に正しく読める位置で刻印があると、 レンズ下部の刻印は逆さまになっているのが普通だ。 しかしこのレンズは、レンズ上部の刻印とレンズ下部の刻印が正しく読める位置に彫刻されている。 ぜひお手持ちのレンズと比べてよく見てほしい。 もともとこのレンズは大東亜戦争の時代に過酷な用途のために開発されたものだが、 レンズ設計者は、きっと後年日本は平和な時代になって、 自分が設計したレンズを鑑賞の対象として愛でる人間が出現することを想定し、 鑑賞用途としての刻印配置を決定したと思われる。 それはトンデモ考察だとするお方もいらっしゃるだろうが、 現に私はレントゲン・ジーベック 5cm F1.5を「鑑賞用レンズ」として愛玩している。 日本は品格高き花吹雪の中で、 盛夏は夕暮れてヒグラシの声を背景に風景を構成するのが好きなのだ。 もちろんその写りも素晴らしく高く評価するものである。 また、すでに故人の設計者に真相を聞くことが一般論として不可能であるとされているので、 そこはそれ、これはこれで、おさめていただきたい。 ● 格調高いレントゲン・ジーベック 5cm F1.5の写り レンズが開発された背景や歴史について言及する前に、その写りを先に紹介しておこう。 とにかく素直によく写るレンズである。 花の輝く生命感を一瞬にして再現してみせるパワーを秘めている。 ビューティフル・グレースな鏡玉は、その写りもビューティフル・グレースなのである。
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普遍的無意識とコヒーレント共鳴励起の観測
日本画の色彩は白磁、灰桜、淡紅藤を的確に再現をする芸術的鏡玉 ● 満天星の花 満天星の花と書いて、「まんてんぼしのはな」ではなく、「どうだんのはな」と読む。 満天星躑躅と書いた方が一般的かもしれない。 昭和十九年頃に製造されたかなしい過去を持つレンズを使って、 「満天星躑躅」の撮影に挑んだ。 レンズはレントゲン・ジーベック 5cm F1.5である。 絞りが無い。F1.5に固定である。 ビューティフル・グレースな鏡玉は、その写りもビューティフル・グレースなのである。
![]() レントゲン・ジーベック 5cm F1.5が見た満天星躑躅の気品 躑躅は字画の多い難しい漢字だ。 漢字検定のテストにしか登場しないのではないか。 躑躅はツツジと読む。ドクロではない。 髑髏。ぱっと見は似てゐるが意味はかなり異なるように思える。 しかし花は残骸と仮定すると同じに見えてくる。 満天星躑躅。まんてんのほしつつじ。 他にも読み方があるようだが、それはそれとしておこう。 灯台躑躅。とうだいつつじ。 ドウダンツツジと読む方もいるようだが、そのあたりは自由にしてもいいだろう。
![]() これは灯台躑躅(レントゲン・ジーベック 5cm F1.5 絞り開放) こちらは満天星躑躅(レントゲン・ジーベック 5cm F1.5 絞り開放) ● グランドゴージャスな桜花日本 桜花は日本である。 ならば昭和の鏡玉「レントゲン・ジーベック 5cm F1.5」を手に花見ときめたい。 いざ、ファインダーに浮かび上がる映像は尋常ではないオーラを放っている。 花見弁当にワンカップしているばあいではない。 ビューティフル・グレースな鏡玉は、その写りもビューティフル・グレースなのである。
![]() グランドゴージャスな桜花日本 ブリリアントな日本の午後の光線を透過するレンズの純情
設えは「縞唐花菱紋」に花は桜 花見弁当にワンカップしているばあいではないと少しばかり思ったが、 思っただけにするのも大人の作法であり人生には必要だ。 撮影を一時中断して花見弁当タイムとさせていただきます。 京樽さんで買ってきたお花見仕様の弁当できめた(そこまでリキむ話ではないが)。 お稲荷さんに茶巾寿司を追加し白鶴の熱燗があれば宴会となりそうな撮影行だ。
![]() 花見弁当 撮影を中断し弁当タイム 花より弁当 さて。花見の続きをしよう。 昭和の鏡玉「レントゲン・ジーベック 5cm F1.5」の実写画像の続きをご覧いただきたい。 絞りがそもそも無い。開放F値1.5の世界である。 フォーカスリングもこの世界では無いのが当たり前。 焦点リング、ピントリング、ヘリコイド。なにやら呼び方はいろいろあるようだが、 ようするにピントを合わせるためにレンズ鏡胴にある回す部分の話。これがない。 私はじまんではないが、今世紀に入って、 ピントリングの付いているような贅沢なレンズを使ったことがない。 レンズマウントだってご覧のとおりの奔放さだ(下の画像参照)。 それでも鏡玉はビューティフル・グレース。 その写りもビューティフル・グレースなのである。
![]() 優美な鏡玉による撮影姿 ビューティフル・グレースなレントゲン・ジーベック 5cm F1.5の描写 エーデルワイスのような高貴な気高い白 春の風にゆれる桜花 とにかく淡い色彩の再現力が魅力だ
レントゲン・ジーベック 5cm F1.5 → では次にいきましょう。 第 2 章 日本光研蛍光像縮写機の時代 ショートカットはこちらからです。
第 1 章
レントゲンジーベック 5cm F1.5
Copyright Michio Akiyama, Tokyo Japan 2017, 2020
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