Ultra-Micro-NIKKOR    2

プリンティングニッコール 105mm F2.8 試作と105mm F2.8

プリンティングニッコール

説明パネルには以下のとおり簡潔明瞭な檄文がしたためられている。

映画のオリジナルフィルムから映画館での上映用フィルムを作るためのレンズとして開発。 高解像力で歪曲収差や色収差を厳しく補正しているため、 微細パターンの検査・計測用としても使用されていた。

展示されていたのは4本のプリンティングニッコールであって、 95mm F2.8試作と 105mm F2.8試作が 1本づつ、105mm F2.8が 2本。 75mm F2.8と 150mm F2.8は展示されていなかった。

プリンティングニッコール 95mm F2.8 試作と 105mm F2.8

幻の超マイクロ写真撮影装置

東京大学理学部教授の小穴純博士が超マイクロ写真の製作に使用した撮影装置。 そんなものがまさか残っているとは思いもしなかった。 会場には撮影装置の現物が姿勢を正して毅然として立っていた。 もうその姿を見た瞬間、驚きを超えて声が出なかった。

世界最高解像力を実証した撮影装置
なんとあの現物がニコンに大切に保存されてたとは驚愕
国の重要文化財(級)

2009年の夏に、 東大駒場博物館で開催された特別展「小穴純とレンズの世界」展では、 この装置の実物ではなく写真だけが展示されていた。 しかも不鮮明な写真だったので、なにやら大がかりな装置で撮影したとの認識しかなかった。

しかしながら、歴史的産業文化遺産がニコンの手で保存されていたのだった。 どういう経緯で東京大学理学部から株式会社ニコンに移転されたかは未確認ではあるが、 ニコンが持っていて本当によかった。

素性を知らない一般人から見ると鉄屑にもならないような粗大ゴミである。 それでもその粗大ゴミと言われるような鉄の装置に、 時代の歴史を創ったウルトラマイクロニッコール 29.5mm F1.2   N0. 5043 が規定の位置にマウントされ、 シャッターが装着されている姿を見ることになろうとは、まことに感慨深いものがある。

ウルトラマイクロニッコール 29.5mm F1.2 N0. 5043と X-Y微動機構

非常に興味深い解説説明なので拡大して確認していただきたい

なお、この説明パネルには誤りがあるので注意していただきたい。 小穴 純(こあな じゅん)博士の正しいローマ字表記は「Zyun Koana」である。 「Jun Koana」は誤り。 小穴先生が活躍されていた時代にお使いになった名刺、 そして戦前戦後を通して発表された学術論文のすべてが「Zyun Koana」で表記されている。 この話は、本記事の第 3 章で詳しく説明しているので参照いただきたい。

この装置一式の保存形態のスゴイところは、装置下の天板を載せる台座ブロックまでが残っていることである。 画像ではツマミのある分銅のような重しのような形をした茶色のブロック。 今回の展示では人が不意に触って倒れないようにブロックは台座から外されているが、 当時の撮影形態ではこのブロックが四隅に配置されその上に天板が載るようになっていた。

それにしてもよく残っていたものである。 お聞きしたところによると、ニコンミュージアムの方が地方の事業所を訪れた際に、 玄関ロビーの隅に展示(言い方を変えれば放置)されていたのを発見したとのこと。 屋内に置かれていたことはラッキーだった。 もし屋外の雨ざらしだったら、はるか昔に朽ち果てて、こうして見ることはできなかっただろう。

大型ウルトラマイクロニッコール

レンズ本体に、ウルトラマイクロニッコールと刻印が入った最後の時代のレンズである。 このあとは、ステッパー装置に内蔵されレンズの存在さえも見ることができなくなる。

それにしてもである。 250mm F1.0、225mm F1.0g、225mm F1.4、300mm F1.4g などなど、 刻印ミスかと勘ちがいされそうな焦点距離にくらべて弩級の F値には驚く。
写真ですらその存在が知られていなかった超重量級レンズ群である。 本邦初公開のみならず、全世界初公開の現物展示となっている。

弩級の大型ウルトラマイクロニッコール軍団

ウルトラマイクロニッコール 250mm F1.0(1967年)

ウルトラマイクロニッコール 225mm F1.0g (1967年)

ウルトラマイクロニッコール 225mm F1.4 (1969年)

ウルトラマイクロニッコール 225mm F1.4 と 300mm F1.4g(1969年)

ウルトラマイクロニッコール 300mm F1.4g(1969年)

ウルトラマイクロニッコール 225mm F1.0試作(1969年)

ウルトラマイクロニッコール250mm F4(1971年)

露光装置用縮小投影レンズ

「ウルトラマイクロニッコール」はさらなる進歩を続け、高解像かつ広画角という相反する仕様を満足しながら、 世界の半導体製造をリードする露光装置「NSRシリーズ」の投影レンズへと発展を遂げた。

使用する光の波長は、水銀ランプを光源とする g線(436nm)から始まり、i線(365nm)、 エキシマレーザーの KrF(246nm)、ArF(193nm)とより短い波長へと移行し、 現在では驚異的な解像力を達成している。

この時代からレンズは巨大なハコ(露光装置)の中にシステムを構成する一つの部品として組み込まれた。 よってレンズ単体での販売はされなくなり、レンズ単体のセールスマニュアル等のカタログや価格表は存在しない。 縮小投影レンズの頑強な鏡胴には「Nikon」の銘板があるのみで、レンズには名前がない。

ズラリと露光装置用縮小投影レンズ

露光装置用縮小投影レンズの説明

投影レンズ(NSR-1010G用)1980年

投影レンズ(NSR-1505G2A用)1984年

投影レンズ(NSR-0510G用)1986年

投影レンズ(NSR-1505G4D用)1987年
牛田一雄社長(株式会社ニコン代表取締役兼社長執行役員)
が当時設計したもの

これらのレンズが活躍した時代。 1980年代の後半には、ニコン(約60%)とキヤノン(約30%)で、 全世界の 90%近くのシェアを取っていたのである。

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 次にいきましょう。   第 3 章  電子機器と半導体の歴史、おわりに

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第 0 章      トップページ
第 1 章      ウルトラマイクロニッコール博物館
第 2 章      露光装置用縮小投影レンズへの道程
第 3 章      電子機器と半導体の歴史、おわりに

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