● ニコンオフサルミックカメラ AS-1 のレンズ ニコンオフサルミックカメラ AS-1 用に専用設計されたレンズ(対物レンズ)は3種類である。 1979年の製品広告では5倍と10倍の対物レンズ 2種類が出ている。 1981年の製品広告では2倍の対物レンズが加わり、 5倍と10倍の対物レンズとあわせて3種類がラインナップされていた。 眼科系の医学学会誌でお世話になった ドクター John Doeさんから各レンズの外観画像をご提供いただいたのでご覧いただきたい。 ご自身の数ある顕微鏡対物レンズコレクションからニコン AS-1対物レンズを撮影されたものだが、 それぞれ素晴らしいコンディションである。 ミュージアムコンディションと言うのだろうか。 お詳しい方によると2倍の対物レンズはなかなか今世で出会うのは難しいようだ。
3種類のニコン AS-1 対物レンズが勢ぞろい
手前のコンパクトなのが2倍対物レンズ。 レンズ前玉の設えがのっぺりしていていかにも通好み。 後方の右が5倍対物レンズ。その左の背の高いのが10倍対物レンズである。
3種類のニコン AS-1 対物レンズの後ろ姿
これら対物レンズは3本ともニコンFマウントである。 フィルム式のニコン一眼レフが全盛期の時代の製品である。 ニコンF2からF3が登場する前後の製品なので、 Fマウントを支えるネジはマイナスではなくプラスネジだ。 ● ニコンオフサルミックカメラ AS-1 の写り ニコンオフサルミックカメラ AS-1 の写りについて。 AS-1専用の対物レンズで撮影した実写画像を紹介したい。 画像を提供していただいたのは、 すでに本サイト「 結晶学者田中さんと産業用ニッコール 」で登場いただいた田中さんだ。 田中さんはニコンオフサルミックカメラ AS-1の本体と、 専用の対物レンズ(4本フルセット)を個人で所有されている。 ● ニコン AS-1 2倍対物レンズ まずはレンズ図鑑を見ていただきたい。 2倍対物レンズの図鑑レベルで精密撮影された画像を公開するのは全世界初。 レンズ図鑑の撮影は John Doeさんによるものである。
ニコン AS-1 2倍対物レンズ
ニコン AS-1 2倍対物レンズ
● AS-1 2倍対物レンズの写り レニエル鉱, renierite, (Cu,Zn)11(Ge,As)2Fe4S16, ゲルマニウムを構成成分とする数少ない鉱物で、褐色を帯びた金属光沢の部分。 コンゴ、カタンガ産。一緒にGermanite Cu26Fe4Ge4S32もいるらしい。倍率2.0倍。
レニエル鉱 自然亜鉛, native zinc, Zn. 珍しい自然亜鉛。ドイツにはこんなのがあるらしい。 コロッとした粒状の結晶で、すき間に白色の水亜鉛土がいる。 Brumbach creek, Grillenberg, Sudharz, Saxony anhalt, Germany. 倍率2.0倍。
自然亜鉛
ナポリタン(日本原産種) 眼科医学の論文誌を見ると本来の仕事とはいえ目玉の拡大写真ばかりではあるが、 たまには息抜きして日本の伝統食ナポリタンでも眺めてみるのもよいだろう。 ニコン AS-1の2倍対物レンズはこういうラジカルな情況でも最高出力をかるく叩き出す。 絞りは F8。露出は 1秒。 Nikon PB-4ベローズを一番縮めた最小倍率で撮影。倍率は約0.3倍。 ● ニコン AS-1 5倍対物レンズ レンズ図鑑よりニコンオフサルミックカメラ AS-1 用に専用設計された5倍対物レンズの美しい横顔。 豪華な 5群7枚構成の医療用高解像力マクロレンズ。
ニコン AS-1 5倍対物レンズ
ニコン AS-1 5倍対物レンズ
● AS-1 5倍対物レンズの写り 異極鉱(hemimorphite, Zn4Si2O7(OH)2・H2O)。 大分県佐伯市宇目町木浦鉱山。 長板状結晶で、両端の端面の形状がそれぞれ異なることで知られ、学名もこれにちなむ。 ただしこの産地では顕著な異極晶を見たことがない。亜鉛鉱床の酸化帯を代表する鉱物。 木浦は古典的な国内代表産地。 異極鉱は、亜鉛鉱物が地表近くで酸化され生じる鉱物で、 褐鉄鉱の隙間に無色透明の長板状結晶の集合体になりやすい。 63枚のピント位置の異なる写真を撮影し、Zerene stacker で深度合成。 明暗の輝度差が大きく深度合成しづらい被写体だが、 許容される解像力まで絞り込んでライティングで破綻を回避した。
異極鉱 ● ニコン AS-1 10倍対物レンズ レンズ図鑑よりニコンオフサルミックカメラ AS-1 用に専用設計された10倍対物レンズの美しいたたずまい。 豪華な 6群11枚構成の医療用高解像力マクロレンズ。 レンズの解像力は驚愕の 800本/mm。
ニコン AS-1 10倍対物レンズ
ニコン AS-1 10倍対物レンズ
● AS-1 10倍対物レンズの写り 鱗粉が落ちているようだが、試料の蚊は実験室で純粋に飼育された個体ではなく、 自然界を飛行中に撮影者によって無慈悲にバチンとぶっ殺された姿と聞く。 画像の下に撮影者の田中さんによる説明を置いた。 羽根のサイスは横 2.6 ミリときわめて微小。
ヒトスジシマカ(一筋縞蚊)の羽根 蚊(ヒトスジシマカ)の羽根。いわゆる藪蚊。 蚊の羽音は羽根上の鱗粉が引き起こす風切り音に由来する。 蚊の羽根は、一般的にはスライドグラス上で封入して顕微鏡で透過検鏡する試料だが、 Nikon AS-1 10倍対物レンズの長作動距離を活かして直焦点マクロでライティングして撮影。 透過光では見られない羽根の虹色の構造色や膜表面の凹凸がよくわかる。 10倍対物レンズ / Nikon D810 / マルチフォト。絞り 2.3ぐらい。深度合成。トリミング。 羽根の左右のサイズは 2.6 mm。 ● ニコン AS-2 ズーム対物レンズ さてここで全世界初公開となる画像をご覧いただきたい。 時代は1985年。 ニコンオフサルミックカメラ AS-2 用に日本光学が試作した AS-2 ズーム対物レンズだ。 現在のところ世界で1本しか現物が確認されていない。 前の章で言及した論文では、試作したレンズで実際に医療の現場で撮影を行ったことが述べられている。 しかしながら、レンズそのものが明瞭に写っている写真はない。 資料・文献ほかネット上にも写真画像は皆無だった。 ここに特選レンズ図鑑として精細に精密撮影されたレンズの姿画像を掲載し、全世界に周知することにした。
ニコン AS-2 ズーム対物レンズ
ニコン AS-2 ズーム対物レンズ
一見すると旧世代のAIニッコール標準レンズのような外観。 しかしながら、ピント調整距離リングが無い。 絞り目盛りの間隔が揃っていない。 絞り F5.6の位置に露出計連動ツメがない。 フィルター装着用のネジが切られていない。 一眼レフカメラのミラーに干渉し直接装着を拒絶したレンズ後玉部の長いおしり。 ニコンの試作機レンズ収集家の間では極めて高い評価となる個体・逸品だ。 なにせシリアル番号 1番である。 ウィーンの有名な国際ビンテージカメラ・オークションに出たら欧米のコレクターさんに大きく注目されるだろう。 世の中は不確実性にゆらぎながら動いているので、 ひょっとするとシリアル番号 2番、3番のレンズ現物が、 街の中古カメラ屋さんのジャンクコーナーで、税込み千円で発掘できるチャンスはある。
ニコン AS-2 ズーム対物レンズ
ニコン AS-2 ズーム対物レンズ
この稀少レンズの景色鑑賞のポイントは異形の後ろ姿にある。 かなり突き出た後玉レンズブロック。 これでもかと過剰強固にネジ止めを施した武骨で涼し気な姿が好ましい。 スクラッチビルドそのもの金属切削加工跡は工芸美術品の趣きである。 ● AS-2 ズーム対物レンズの写り 最小の拡大倍率である 1.5倍から最大倍率の 3倍で撮影。 いずれもレンズ鏡胴に刻印された絞り目盛りを F5.6 に設定。 なんとも驚きの極めて優れた画像品質である。これでほんとにズームレンズなのか。 しかも拡大系の本格的マクロ領域。 被写体とした半導体回路パターン原板は、いわゆるレチクルだ。 この極精細の原版を、古くはウルトラマイクロニッコール、 近代ではステッパーの巨大な投影レンズでさらに大幅に縮小して基板に焼き付ける。 画像上をクリックすると横4000ピクセル程の画像を表示するので大きな画面で鑑賞していただきたい。 物好きな方にむけて、オリジナルサイズを置いておく。 8Kディスプレイでご覧いただきたい。
半導体回路パターン原板 1.5x
半導体回路パターン原板 3x
金属カドミウムの結晶 3x ● インプレッション総論 実写画像を自ら撮影しここに画像を提供いただいた田中さんから、 各レンズについてインプレッションをまとめていただいた。
● 関係者へ感謝 実に長い道のりだった。話は14年前にさかのぼる。2006年6月のこと。 カナダからのメール。よくわからないニコンのレンズを持っているが教えてほしい。 この海外からの問い合わせがきっかけだった。 最初に突破口を開いてくださったのが、九州大学医学部眼科の吉川 洋先生だった。 さらにきわめてレアな製品カタログをニコンから取り寄せてくださったのが 福岡県で内科開業医をされている桑原恒治先生だ。 2020年9月。アンサー記事を書くことに覚悟を決めた。 記事の方向性と内容が飛躍的に変化したのは、 ドクター John Doe さんが眼科医学の論文を掘り起こしてくださったからだ。 さらには、鉱物や結晶などの学術写真が専門のドクター・タナカさんから、 当該レンズで撮影した画像を提供してくださったことが大きい。 実物エビデンスの開示が記事の信頼性を高めることになった。 関係者みなさまに感謝申し上げます。 お忙しい中ご協力いただき、まことにありがとうございました。 まったく冗談のような事象がリアルタイムで発生した9月は後半だった。 記事化が進み、関係者様といろいろご相談している時に、 国内のインターネットオークションで、AS-2用ズームレンズが出品された。 論文に出ている試作レンズは現存しているのかとメールでやりとりしている時に、 現物がポンと無言で出てきて関係者一同びっくり。 結果は収まるべき方のところに収まり本記事に盛り込むことができた。 ニコン試作レンズコレクターの眼にとまり、4桁万円までいかなかったのは幸いと言うしかない。 記事の特性上、さらなる情報が得られた時には改版を行い、情報を積み上げていきます。 引き続き、よろしくお願い申し上げます。 ● 記事のご案内 → まだ続きます。 第 4 章 ニコン AS-1 マーチンコレクション ショートカットはこちらからです。
第 1 章
ニコンオフサルミックカメラ AS-1
● あとがき 本記事の初稿は2020年10月にリリースしました。
Copyright Michio Akiyama, Tokyo Japan 2020
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