Micro-NIKKOR 150mm F5.6
●ウリさんのスーパーコレクション第三弾 ドイツ在住のニコン研究家ウリ・コッホ氏から、 彼の特殊用途ニッコールレンズにかんするコンテンツが届いたので、 いくつかを紹介してみたい。 まず最初に、マイクロニッコール150mm F5.6である。 ドイツは郊外の「目に青葉、岩清水にレンズが静止」という、 当サイトのモノ撮りコンセプトに従って撮影されている。 このレンズは、マイクロニッコールのなかでも、入手が難しいレンズだ。 現在でも写真機に搭載して最高の画像をものにすることができる。 ウリさんの解説によると、マイクロ写真システムの70ミリフィルムを使い、 大きなオリジナルサイズの縮小作業にこのレンズは最適だという。 大型の設計図(当時であるから青写真)の複写や、大型の天気図などだ。 細かい精緻な文字や記号が記入されていても、 このスーパーマイクロレンズだったら最高の分解能と解像力を示す。 もともとは、超精細複写の分野に使われたレンズではあるが、 その性能を活かして精密な写真製版や電子回路パターンの撮影に使用された。 下に書いた性能緒言にあるとおり、 6×9センチ判で、解像力150本/mmをたたき出すわけだから、ただものではないことが分かる。 また、マウントが72ミリのスクリューなので、アダプタ加工の特注も、ひかくてき容易だ。 ニコン一眼レフや、輝くプライドのズノーは帝國光学にマウントしてよし、 そしてかのハッセルブラドや、リトレック6×6は武蔵野光機に着けてみたい高級マクロレンズなのである。 Micro-NIKKOR 150mm F5.6 This Micro-Nikkor was used with 70mm films for mircofilming of large-sized originals, such as blueprints and weather charts, which have entries of small letters. It was developed for high resolution over a large picture area. It meets also the requirements in the fields of photoengraving and electrical industry.
●1960年代マイクロニッコール・ファミリー 1960年代のマイクロニッコール・カタログに、実物をならべてみた。 左から、これは貴重なS型ニコン用のマイクロニッコール5cm F3.5だ。 次に、ニコンFマウントの50mm F3.5とMリング。マイクロフィルム撮影装置用の7cm F5。 そして右が、マイクロニッコール150mm F5.6である。こういうプレゼンテーションは楽しい。 The Micro-NIKKOR Family In a brochure from the mid 1960's Nippon Kogaku offered four high quality Micro-NIKKOR lenses. All four are pictured upon this brochure:
Micro-NIKKOR 5cm F3.5 with Nikon rangefinder mount
The Micro-NIKKOR Family
●COMニッコール88mm F2 このレンズは現存数、出土数がきわめて少ない。 COMニッコール37mm F1.4の親、あるいは兄貴分にあたるレンズである。 COM (Computer Output Microfilming) を冠したレンズが、 日本光学から2本ラインナップされていたのは有名な話だが、 COMニッコールは、1960年代後期から70年代初頭にかけて、 当時の大型電子計算機から取り出される大量の情報を、 高速度で直接マイクロフィルムに記録するために開発されたレンズだ。 けっして明るくない当時のCRT(陰極線管)の蛍光面上に表示された情報を、 解像力は高いが感度の低いマイクロフィルムに縮小撮影するため、 明るくかつ高い解像力を持つレンズが必要だったのだ。 このクロームとブラックの絶妙なバランスを見てほしい。 この時代の35ミリ一眼レフ用ニッコール・オート・レンズとは配色が異なる。 カメラ用レンズは鏡胴がクロームで、絞りリングがブラックが基調だ。 しかし、この工業用レンズの最右翼であるCOMニッコールは、 鏡胴がブラックで、絞りリングがクロームなのである。 そのあたりに、民生用レンズとは異なる使命を感じ取ることができる。 ドイツの花壇に五月なレンズが置かれている。 COM-NIKKOR 88mm F2 Computer Output Microfilm (COM) photography is defined by certain distinct conditions, such as the color, intensity, and contrast of the traced images. These constitute the distinct performance limits of COM-Nikkor lenses. The range of aberration correction is from 400 nm to 650 nm. The contrast between the traces and the screen background is maximized. High resolution is attained by using a large, high-speed aperture, which also takes care of adequate exposure of the fairly high framing speed of moving traces on the CRT. The COM-Nikkor 88mm F2 covers a field diameter of 36mm with standard magnification of 1/5X.
●ニッコール-Q 260mm F10(FAXニッコール) ニッコール-Q、つまり4枚構成のレンズとしか刻印がない。 調べてみると、プロセスニッコールが登場する前の、 FAXニッコールというレンズであることが分かった。 1967年頃のセールスマニュアルには出ていないが、 1969年4月版のセールスマニュアルに、ほかの4本のFAXニッコールとともに掲載されている。 1970年代の初期には、プロセスニッコールと名称が変わり、 Process-NIKKORと刻印が入るようになった。 このレンズは時代の背景と、性能から生まれた目的に合わせて、 名前が変化していった珍しいレンズの1本である。 ムラサキ色の美しいコーティングは、ビー玉を半分に割ったような球面に大気を映している。 NIKKOR-Q 260mm F10 (Fax-NIKKOR) This lens is the first model of Process Nikkor series. I was not able to find this lens by the Industrial Nikkor brochure dated about 1967. However, I found this lens being published with other lenses at the Industrial Nikkor brochure dated on April 1969. There was the following kinds of Fax Nikkor lenses according to that brochure.
- Fax-NIKKOR 160mm F5.6 (Image area 420 mm⌀ at F5.6) This lens was called not Process Nikkor but Fax Nikkor. This lens was called Process Nikkor at early 1970's, and the following kind of lenses were sold for the wide angle photo engraving system.
- Process-NIKKOR 180mm F10 (Image area 540 mm⌀) Look at a beautiful purple shined lens of the end of 1960's!
NIKKOR-Q 260mm F10 (Fax-NIKKOR)
●APOニッコール用直視反転ダハプリズム(ルーフプリズム) APOニッコールレンズのアクセサリーとして製品化された大型のダハプリズムである。 このダハプリズムは屋根型の反射面をもっていて、光像を直角方向に反射しても、 像の左右はそのままで変化しない性質をもっている。 写真製版で凸版製版のネガやグラビア製版のポジを作るためには、 左右反転した像が必要となる。 この目的のために、反転プリズムが用意されている。 しかし光像を直角方向に反転させるため、カメラの操作がむずかしくなる。 ためしに、一眼レフカメラのレンズの前に45度に傾けてミラーを取り付け、 これで撮影してみよう。操作が面倒なことが想像できる。 これを回避するのがダハプリズムだ。 反転プリズムで光像を直角方向に曲げ左右を反転し、 さらにこのダハプリズムで左右はそのまま変化させずに、 もう一度光像を直角方向に曲げて戻す。 そうすると原稿面に向けたカメラで左右反転した撮影が可能になるのだ。 Roof Prism for Apo-NIKKOR 300mm This was to produce the erect but laterally reversed image in addition with a right-angle prism when using together with an Apo-Nikkor lens. This roof prism came with a wooden box.
Photo: Copyright (c) Uli Koch ●APOニッコール360mm F9 ドイツはヨーロッパの石畳に、APOニッコールの木箱を置く。 晩秋は落葉の色もいいかんじだ。 検査合格証には、M. Hirao(Matsuo Hirao、平尾 松男氏) の直筆サインが記されている。 レンズ鏡胴の刻印が、Nippon Kogakuでなく、 Nikonであるから1970年代初頭の製品だろう。 APOニッコールは、中古カメラの市場でもよく出てくるポピュラーなレンズだから、 工業用レンズ入門には最適だ。現代のカメラにマウントして、きちんと写る。 木箱入りでコンディションのよいフルセットだと多少価格的にも高いものもあるが、 コレクションということであれば、一つは手元に置いておきたいものだ。 レンズは道具であることを認識できる。 Apo-NIKKOR 360mm F9 This Apo-NIKKOR is of the symmetrical type with "Nikon" "Japan" engraving and the focal length in "mm". The serial number is engraved on the side of the lens. This lens came in the wooden case with the waterhouse plates, the base plates and the control certificate.
Construction: 4 elements in 4 groups
Apo-NIKKOR 360mm F9
Special Thanks to Mr. Uli Koch
------------------------- ● 2004年のこと このコンテンツを最初に公開した2004年は私にとって大きな節目の年だった。 米国に本部があるニコン・ヒストリカル・ソサエティ(NHS)の2年に一度のコンベンションが、 この年、2004年の2月に東京で開催された。 NHS事務局から声をかけていただき、工業用ニッコールレンズについて、 日本カメラ博物館で講演までさせていただいた。 NHSのチェアマンである米国のロバート・ロトローニ氏や、ビル・クラウス氏、 そしてニコンF大型百科事典を刊行されたドイツのウリ・コッホ氏、 などなど本物の方々とお会いし直接話ができたことには感動した。 銀座松屋の中古カメラ市見学、赤坂プリンスホテル旧館を貸し切ってのパーティーなど、楽しい日々だった。 地下鉄は丸の内線の赤坂見附を発車した車内騒音のなかで、ウリ・コッホ氏に 「なぜライカではなくニコンなのか」と聞いたら、 「十代の終わりに持ったカメラがニコンだったから」と言う。 彼と話が合うのは、年齢が同じということもあるかもしれないが、 ほぼ同じ時期に手にした憧れのカメラがニコンFだったわけである。 永遠の時系列は法則に従って遡ることはできないまでも、 よく冷えた日本酒を飲みながらお互いの熱情とこころは、 ドイツの純情を天空に讃えて、遅く咲く桜に日本晴れ。 ● 記事のご紹介 → 次にいきます。 第 4 章 ウリさんのコレクターレポート ショートカットはこちらからです。
第 0 章
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● 2021年のあとがき このコンテンツのオリジナルは2004年4月に公開したものです。 2016年のサイト移転に伴う見直しにあたり、画像をすこしばかりシャープになるように、 再び原版から切り出して加工し直しました。 2021年には4本の記事の入口を1つにまとめ、4部構成に編集し直しました。
Copyright Michio Akiyama, Tokyo Japan 2004, 2021
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