EL Nikkor 150mm F5.6    1

EL ニッコール 150mm F5.6

レンズがやって来た日

すでに本サイト内の記事で紹介しているが、 EL ニッコール 210mm F5.6を新宿のミヤマ商會で購入したのは、2000年11月のことだった。 さらには、EL ニッコールの製品ラインナップでは最大で横綱格の、 EL ニッコール 360mm F5.6 を入手したのは 2005年2月のことだった。 いちばん入手しにくいと思われたレンズを入手できたので安心していた。 つい気をゆるすとレンズは勝手に増えるものである。

この EL ニッコール 150mm F5.6は、2005年12月のちょうどクリスマスの頃、 米国はカリフォルニア州のラグーナヒルズから届いた。 特にこのレンズを探していたわけではない。 付いていたレンズ座金(マウント部分が 53mm径 P=0.75mm)が欲しかったのである。 座金を買ったらレンズが付いてきたという話だ。

EL ニッコール 150mm F5.6

テクニカルデータ

EL Nikkor 150mm F5.6

−焦点距離: 150mm
−最大口径比: 1 : 5.6
−最小絞り値: F45
−レンズ構成: 4群6枚
−基準倍率: 4X
−標準使用倍率範囲: 2X〜8X
−画角: 54度
−色収差補正波長域: 380nm〜700nm
−口径蝕: 0%(F8にて)
−歪曲収差: +0.01%
−原板サイズ: 100×130mm(4×5インチ判)
−基準倍率における原板から画像までの距離: 937.5mm
−フィルター径: 47mm P=0.5mm
−マウント: 後側 d=53mm、p=0.75mm
−マウント: 前側 d=53mm、p=0.75mm
−座金: 外径 d=74mm
−全長: 55.5mm
−最大径: 62mm
−重量: 300g
−重量実測: 270.0g

−発売時期: 1968年 2月
−当時の価格:
   27,500円(1969年 1月)
   27,500円(1971年 3月)
   27,500円(1973年 4月)
   41,000円(1973年12月)
   49,200円(1974年 6月)
   49,200円(1975年11月)
   49,200円(1976年 4月)
   49,200円(1977年12月)
   49,200円(1979年12月)
   49,200円(1980年 2月)
   49,200円(1980年11月)
   56,600円(1981年 2月)
   56,600円(1982年 8月)
   56,600円(1983年 6月)

EL ニッコール 150mm F5.6のレンズ構成図(各部寸法入り)

ELニッコール 150mm F5.6の立ち位置

新世代の ELニッコール Nシリーズ最初の製品が登場するのが 1979年6月。 旧世代の ELニッコールが出揃っていた時代後期は 1977年12月の製品一覧を示す。

ELニッコール 150mm F5.6の価格 49,200円を同時期のカメラ製品で見てみると、 ニコマート FT2 ボディが 41,000円、Ai ニッコール 24mm F2.8 が45,000円、 Ai ニッコール 200mm F4 が 46,000円だった。 買物ついでに 1本というものではない。

エル・ニッコール 製品一覧
ニコン産業用レンズ標準小売価格表(1977年12月21日版)より

エル・ニッコール 標準小売価格 原板サイズ
  50mm F2.8 12,700円    24 x 36 mm
  50mm F4 7,900円    24 x 36 mm
  63mm F3.5 21,700円    32 x 45 mm
  75mm F4 14,700円    56 x 56 mm
  80mm F5.6 19,400円    60 x 70 mm
  105mm F5.6 26,500円    65 x 90 mm
  135mm F5.6 37,500円    90 x 120 mm (4 x 5 inch)
  150mm F5.6 49,200円    100 x 130 mm (4 x 5 inch)
  180mm F5.6 74,600円    130 x 180 mm (5 x 7 inch)
  210mm F5.6 86,200円    150 x 210 mm (5 x 7 inch)
  240mm F5.6 111,000円    180 x 240 mm (8 x 10 inch)
  300mm F5.6 163,000円    270 x 330 mm (10 x 12 inch)
  360mm F5.6 231,000円    300 x 400 mm (11 x 14 inch)

重量実測と価格の遷移

カタログ等の資料には重量 300gとなっている。 家庭用のデジタルスケールで実測してみた。重量 270.0gだった。 カタログデータの 10パーセント割引である。 なにか得した気分なのか損した気分なのかは断定できないが、 純金を 300gと言うので買ったら 270gだった気分には近い。 なお付属品も実測してみた。座金のみの重量は 15.5gだった。

価格の遷移が興味深い。日本は 1970年代に入ると物価は異常に高騰した。 「狂乱物価」で調べると時代背景が見えてくる。 1973年10月に始まった第1次オイルショックの影響を、 EL ニッコール 150mm F5.6のリストプライス(カタログ等に明示されている定価) で検証してみた。中学校の教科書に出てきそうなデータである。

   27,500円(1973年 4月)
   41,000円(1973年12月)
   49,200円(1974年 6月)

なんと 1年の間に何回か価格改訂があり、しかも金額は二倍。 特に 1973年の値上げ幅は一気に 50パーセントアップとなっている。 価格が変わった瞬間のポイントを捉えたわけではなく、 手持ちの紙モノエビデンスの範囲で裏付けが取れる年月日でまとめてみた。

第2次オイルショックのピークは 1980年。 みごとに EL ニッコール 150mm F5.6の価格に連動している。 1980年11月15日付けのニコン標準価格表によると EL ニッコール 150mm F5.6は 49,200円。 翌年の 1981年2月25日には 56.600円と跳ね上がった。

レンズを見れば社会情勢と日本経済が読める。 そこらの経済書を読むよりはレンズを買った方がよい。 もちろんこんな簡単な単一の原因ではなく複合的な要素が重なった上での経済事象と理解しているが、 ここではざっくりとした話、いわば旦那衆のヨタ話ということで納めていただきたい。

ニコンFTZマウントアダプターでニコン Z マウント化

販売の終了

EL ニッコール 150mm F5.6の発売時期は、ニコンの社史(75年史、100年史)で 1968年 2月と確認できたが、 販売の終了はいつだろうか。 1983年6月1日付けのニコン標準小売価格表(普通のカメラ店でもらえるもの)に掲載されているのを確認した。

同年、1983年8月1日付けの同価格表には、EL ニッコール 150mm F5.6 に代わって、 新デザインの EL ニッコール 150mm F5.6A が 59,000円でリストされていることを確認した。 1983年7月1日新発売と添えられている。 よって、EL ニッコール 150mm F5.6 の販売の終了は 1983年半ば前後と推測している。

EL ニッコール 150mm F5.6

マウントとフィルター径の話

EL ニッコール 150mm F5.6のマウントは、径 53mm P=0.75mm のネジマウントである。 リプロニッコール 85mm F1.0 と同じ規格なので、 専用に特注したマウントアダプターを装着して Fマウントにしてからニコン一眼レフおよびニコンゼットカメラに装着した。 このマウントアダプターの詳細は、 当サイトのリプロニッコール 85mm F1.0の記事を参照していただきたい。

EL ニッコール 150mm F5.6のフィルター径、すなわちアタッチメントサイズは 47mm P=0.5mm である。 なんともシステム化を無視した唯一のサイズなのだ。 設計承認者が 3人も 4人も並んで誰も指摘しなかったのだろうか。困ったものである。 46mmならばニコンの純正品が揃っている。 高級品の Nikon ARCRESTフィルターあるいは一般用途向けの Nikon NC フィルターから選べる。 しかしこれは 47mmである。 せめてあと 5ミリ伸ばして52mm P=0.75mmの汎用サイズだったらどんなに楽だったことか。

私の場合は、アポニッコール 240mm F9 用に、 47mm径 P=0.5mm を 49mm径に変換するステップアップリングを特注して持っていたのでこれを活用した。 このあたりの詳しい話は、アポニッコール 240mm F9の記事を参照していただきたい。

なお現在に至っても、47mm径 P=0.5mm のステップアップリングは日本製ではないようだ。 近隣諸国製の 47mm径ステップアップリングが安価で販売されているが、 これは P=0.75mm なので注意を要する。 ネジピッチが合っていないときちんと装着することが出来ない。 ちょこっとねじ込める気はするが途中でスタックしてしまうのである。

ニコン PB-4 ベローズ

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