May 2011, Nikon Kenkyukai     4

NIKKO 対空高角双眼望遠鏡

NIKKO 対空高角双眼望遠鏡 15x 4° 105mm 俯視角 60度

古式大型双眼望遠鏡の世界

林由己和氏。 古式大型双眼望遠鏡の世界で、スーパー・ディープの先頭にいる。 商社マンの林氏は、長く英国に駐在していましたが、 日本から海を渡り海外で余生を送るオールド・ニッコーなど、 古式双眼鏡の収集を行っていました。 帰国後は、大型双眼望遠鏡の愛好家ほかそのすじでは有名な双望会に参加され、 オールド・ヴィンテージ大型双眼望遠鏡マニヤにはご存知のことだと思います。

ニコン研究会は、この世界で有名な林由己和氏においでいただき、 英国でフルレストアを敢行された NIKKO対空高角望遠鏡の現物などを見せていただきながらお話を伺いました。 以下に続くコレクションの説明については、林由己和氏の解説でまとめたいと思います。

林由己和氏を取り囲むニコン研究会メンバー

最初はベリー・オールド・ヴィンテージ小型双眼鏡の紹介です

ヴィンテージ小型双眼鏡

ベリー・オールド・ヴィンテージ小型双眼鏡

Carl Zeiss Jena D.R.P. Feldstecher 明治三十年(1897年)頃

プリズム双眼鏡が製造(1893-4)されてから数年目の製品で、 カーブ型の美しいプリズムカバーに花文字が刻まれているのが特徴。

Carl Zeiss Jena 6x24 TELEX 大正十一年(1922年)頃

在のポロ型双眼鏡の原形となった機種の一つではないかと思います。

Carl Zeiss Jena 8x24 DELTURIS FOV:8.75° 昭和元年(1925年)頃

Zeissの Dr. Heinrich Erfleが開発したエルフレ接眼部が採用され広角視野が得られている。

大正時代の測距儀

有名な日本海海戦における東城鉦太郎作画の「三笠艦橋の図」を示す林氏

「三笠艦橋の図」はネットで検索して原図を見ていただくとして、 中央に長官の東郷平八郎大将(後に元帥海軍大将)。 その後ろに測距儀(レンジファインダー)を覗く測的係長谷川清少尉候補生(後に海軍大将)が描かれています。 その長谷川清少尉候補生が覗いていた測距儀(ほぼ同じ時代のモデル)が次の写真です。

英国バーアンドストラウド社の測距儀 大正七年(1918年)製

英国バーアンドストラウド(Barr & Stroud)社の測距儀は、 日本海海戦(1905年)でバルチック艦隊に勝利した戦艦三笠の艦橋に搭載されていました。 文献によるとその後日本光学で修理をしていたとのことで、 バーアンドストラウド社(現在のタレス社)の光学技術分野では、 100年を越えた今でも日本と緊密な関係にあります。 写真は10数年後の製品ですが、 WWIで英国海軍の艦船にも搭載されていたものです。

測距儀が一本の図

英国で蘇った NIKKO 対空高角双眼望遠鏡

第二次世界大戦の大日本帝国海軍艦船対空監視用として使用されていた製品。 戦後米国で保管されていたが、 クラックが入り鋳造本体の右側マウント軸付根が割れ分離してしまった。 英国で 50年間双眼鏡の修理を手掛けている OptRep社のトニー・ケイ氏の手により修復に成功し、 レストアされ蘇った(クラックの修理部以外は全てオリジナルのまま)。 塗装も当時のままで、 湿度の低い米国西海岸地域で保管されていたことが幸いしたのかもしれない。 この大型双眼鏡の技術分析については ニコン研究会の寺田茂樹氏が研究発表をされている、 2010年10月例会の資料(注)を参照されたい。

(注)2010年10月例会の資料は、ニコン研究会の 2010年10月レポート から参照可能です。

圧倒的な存在感を示す NIKKO 対空高角双眼望遠鏡

威風堂々として存在感があります。 レーダーなどの探知装置が普及するまでは双眼鏡の性能が勝敗に大きく影響したと考えますので、 性能を上げる技術に全力を注いでいたのでしょうね。

NIKKO 対空高角双眼望遠鏡について解説する林由己和氏 対物レンズの美しさに注目

トニー・ケイ氏は英国を代表するオールド・ヴィンテージ双眼鏡の修復家ですが、 ヨーロッパ圏ではもう彼しか残っていない状況です。 大戦中の日本光学製大型双眼望遠鏡をポリッシュかけて、 ピカピカの装飾品にする専門家や、 ガンダムロボットのようなコテコテのオブジェにする業者もいます。 しかしながら、原型は出来るだけ維持して光学性能を本来の姿に戻すという、 本物の修復家は世界でもトニー・ケイ氏しか見当たりません。 トニーから、日本の修復家について問われても、なかなか名前が思い浮かばないのが実情です。

英国で私が撮影したトニー・ケイ氏の写真をみていただきましょう。 後ろの建物が彼の作業場ですが、世界中から古い双眼鏡の修理依頼がきていました。 また彼は戦時中の航空機”橘花(きっか)”で実用化した ターボジェトエンジン”ネ20”の調査を戦後行うなどして、 以下の本にも原稿を書いている研究家でもあります。

The two volumes are called 'Turbojet' by Antony L. Kay, published by Crowood Publications, being the early world-wide history of the turbojet. Volume 2 has a section on the Japanese history.
Other of his books are called 'German Jet Engine and Gas Turbine Development -1930/45', 'Junkers' and 'German Aircraft of the Second World War'.

世界的なオールド・ヴィンテージ双眼鏡の修復家トニー・ケイ氏
Photo: Copyright (c) 2011, Yukikazu Hayashi, All Rights Reserved.

オールド NIKKO 対空高角双眼望遠鏡を鑑定する寺田茂樹氏

英国のプロ修復家トニー・ケイ氏の手によるオールド・ニッコーの風格

この世界のスーパー・ディープな専門家が四名揃い踏み

スーパー・ディープ・ミーティングを終えて

ゲルマニウム・ニッコールから始まり、 ニコン工作機械関連の話、 小秋元龍プロによるスピグラの時代の考察、 藤井レンズ製造所のモノビクトルから 長崎チョーコー醤油の研究のレポート、 そして、 英国で蘇った NIKKO対空高角望遠鏡の貴重な報告で終わるスーパー・ディープなミーティングでした。

3日間かけて行うような内容を、土曜日の午後半日でまとめましたので、 非常に中身が詰まった濃い時間となりました。 これをディープというのでしょうか。 最後にスピグラ(クラウン・グラフィック4×5)による参加者全員での記念写真撮影です。 オリジナルプリントを添えてみました。 同じ角度からコンパクトデジによる画像も付けてみましょう。

記念写真撮影

スピグラをセットアップする小秋元プロ

参加者全員での記念写真


特別ご協力企業様:
チョーコー醤油株式会社様
特別ご協力個人様:
トニー・ケイ様(OptRep社 英国の古式大型双眼望遠鏡修復家)

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第 1 章      ゲルマニウム・ニッコール
第 2 章      ニコン計測器と藤井レンズ
第 3 章      長崎チョーコー醤油の研究
第 4 章      NIKKO 対空高角双眼望遠鏡

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