MACRO Nikkor 19mm F2.8 Optical Gem

マクロニッコール19mm F2.8レンズの宝石

ホテルのバーでRMSマクロ談義

帝都東京の老舗ホテル元祖御三家といえば、 日比谷の帝国ホテル、紀尾井町のホテルニューオータニ、そして虎ノ門のホテルオークラである。 汐見坂から霊南坂を歩く。 アメリカ大使館をはじめ各国大使館のある静かなロケーションにホテルオークラ東京がある。

東京都港区汐見坂

汐見坂から霊南坂を歩く右手にアメリカ大使館

ホテルオークラ東京

ホテルオークラ東京本館正面玄関

ホテルオークラ東京本館メインロビー
(撮影年は2013年9月)

本館メインロビー。 この音のない風景のなかで、ニコンの古い一眼レフカメラがぴたりと収まる。 ムダのないシンプルなカメラが空間に似合うのだ。 オークラランタンの雅な光の下で、輪島塗の漆のような漆黒に輝くブラックニコン。 プリミティブで高性能なマシンは美術工芸品のように美しい。

1973年製造の最新型ニコンFのある静かな風景

オーキッドバー

すこし休憩をしよう。 まだ昼を過ぎたばかりの午後ではあるが、大人なのでお酒を飲んでもいいだろう。 陽光が明るいカクテルラウンジもいい。 でも、グランドホテルといえばメインバーである。 オークラのメインバーはトラッドな「オーキッドバー」できまりなのだ。

隠れ家的なシンプルだが重厚な入口はさすが老舗の風格

本物のミロの作品がさりげなく飾ってあるカウンター席

マッカランのオールドボトルが鎮座するバックバー

磨き抜かれたバーカウンター

カメラを肴に

カメラ好きが集まるとカメラを肴に話が弾むものだ。 一般の人からすると、カメラの話でなんで盛り上がるのか不思議かもしれない。 でもクルマの話や時計の話、顕微鏡の話からロケットエンジンの話、 さらには数学の美しさや古文書の墨色で盛り上がる方々を多数お見受けするので、 カメラの話など、なんら普通のことなのである。

午後の早い時間にはソファー席でゆったりと軽く生ビール

マクロニッコール19mm F2.8をつまみに飲むのもいいだろう

おそらく「市販されたニッコールレンズ」の中では最小の部類に入るレンズだと思う。 ごく小さい顕微鏡対物レンンズのプラスチックケースに収まる。 どこでも簡単に拡大率の高いマクロ撮影が楽しめる。 常にポケットに入れておいて、カメラ談義が佳境の時にお披露目するのも正しい作法である。 「なんですかそれ?」と問われたら、高倍率マクロ撮影の苦労話でもすれば笑い話となる。

RMSマクロレンズを手に楽しいカメラ談義が続くのである
(古いマッチ箱は1970年代後期に入手した当時の現物)

ここまでのホテルオークラ東京での画像は、 本館建替え前の2013年9月、2015年4月、6月に撮影させていただいたものである。 建替え後の2019年9月には、The Okura Tokyoとしてリニューアルオープンとなり、 有名なロビーは旧本館時代と同じように再現された。 メインバーはモダンな令和の時代仕様となったので、 1960年代の昭和を象徴するオーキッドバーの重厚な情景は歴史的映像記録としてここに残ることになった。

マクロニッコール19mm F2.8の重量感

いきなりこれである。 マクロニッコール19mm F2.8を装着した、ニコンF電気モータードライブF36式。 この状態でも合焦する。ピントがきっちり出ている状態である。

存在感のあるニコンFモータードライブにマクロニッコール19mm F2.8

ニコンから正式にレンズの性能諸元が公開されていないため、レンズ構成図ほか不明である。 重量だけは実測できるので、家庭用のデジタルスケール(TANITA KJ-114)で調べてみた。 サンプルは手持ちの1本だけではあるが、重量実測 68.0g であった。 見た目はきわめて小さいレンズであるが重たい。

ちなみに頑強な鏡胴で有名な西ドイツ製のRMSマウントレンズ「ルミナー」と比較してみた。 手持ちの1本だけではあるがドットルミナーのグリーン。 LUMINAR 40mm F4 (ZEISS West Germany)は重量実測 67.0g であった。 なんとマクロニッコール19mm F2.8の方が重いとは。 製品カタログや価格表など公知の範囲で得られる情報と実測できる数値データをまとめてみた。

マクロニッコール19mm F2.8

−焦点距離: 19mm
−鏡胴帯の色: 白
−最大口径比: 1 : 2.8
−絞り目盛り: 1、2、3、4、5、6
−基準倍率: 20X
−標準使用倍率範囲: 15X 〜 40X
−マウント: 顕微鏡対物RMSマウント
−重量実測: 68.0g
−付属品: プラスチック製ケース(顕微鏡対物レンズ収納型)

−発売時期: 1970年
−当時の価格:
   23,300円(1973年 1月)
   30,000円(1973年12月)
   54,000円 対物リング、接続リング付(1979年10月)
   61,000円 対物リング、接続リング付(1980年 4月)
   79,000円 対物リング、接続リング付(1993年6月1日版価格表より)

見た目より重たい

手持ちの小さいレンズと比べてみた。 デジタルスケールで実測すると、左のEL Nikkor 50mm F4は 57.5g。 右の MACRO Nikkor 19mm F2.8 は 68g。 マクロニッコール19mm F2.8は見た目はるかに小さいがズシリと重たい。 これほど差があるとは思わなかった。

マクロニッコール19mm F2.8の発売時期

ニコンの社史によるとマルチフォト装置の発売は1968年となっている。 この時に用意されていた専用レンズは、 マクロニッコール 35mm F4.5、65mm F4.5 そして 12cm F6.3 の3本だった。 手持ちの資料を確認した限りでは、 1973年1月のニコン顕微鏡価格表にはすでにマクロニッコール 19mm F2.8 が掲載されている。 発売時期はいつだったのだろうと思い、有識者に相談したところ事実が判明した。

まず、1970年3月の日本語版マニュアルには、 マクロレンズ f=19mm(近日発売予定)との記載があることが確認できた。 また、1970年2月の BioScience 誌 3号の奥付広告にマルチフォトの広告が掲載されており、 そこには 19mm F2.8 が出ている。 どうやら、1970年の上半期で間違いないようだ。 以上これらのエビデンスをもって、発売時期を1970年とした。

マクロニッコール19mm F2.8のある風景

明治時代。箱根の外国人客専用ホテル。古い日本の避暑地の風景。 夏景色を背景にレンズを置いてみた。 拡大撮影装置用の専用レンズであって、この場にはなじまないはずだが、 なんら違和感なく景色に収まったのはレンズの品格・人格によるものだろう。

マクロニッコール19mm F2.8のある日本の風景
(撮影年は2004年8月)

日本文化にマクロニッコール19mm F2.8

大人の「夏休みの自由研究」は避暑地でマクロ
(撮影年は2004年8月)

マクロニッコール19mm F2.8とマクロニッコール35mm F4.5は兄弟
(撮影年は2004年7月)

マクロニッコール19mm F2.8のような拡大倍率の高いマクロレンズは撮影が難しい。 下の画像は、イージーななんちゃって高倍率マクロセットなのであまり参考にはならない。 当サイトではこのレンズを使っている専門家の方を紹介している。 本格的な作例はこちらを参照していただきたい。
A Fine Crystallographer Dr. Tanaka's Excellent Reserch

イチゴの表情を狙うイージーな撮影装置

素数絞りレンズと素数焦点距離レンズの話

当サイトでは、レンズの新しいカテゴリー化の概念で、 開放絞り値が素数であるレンズを「素数絞りレンズ」と定義し提唱してきた。 フジノン-M 50mm F7 で説明しているのでご覧いただきたい。

その枠組で焦点距離が素数であるレンズを「素数焦点距離レンズ」とここに定義する。 ニッコールレンズに絞った話ではあるが、素数焦点距離と言うと、 昭和51年(1976年)3月に登場したニッコール13mm F5.6が有名である。 その後、AIニッコール13mm F5.6、続いて、AIニッコール13mm F5.6Sと発展し、 たしか20年以上販売されていたと記憶している。 当時でも現在でも、非常に高価なレンズとしても有名である。

そのほかの素数焦点距離と言うと、 産業用(工業用)ニッコールレンズの中に見出すことになり、 このマクロニッコール19mm F2.8が真っ先に思い浮かぶ。 また、本サイトでも紹介しているが、 COMニッコール37mm F1.4 も立派な素数焦点距離レンズと言えるだろう。 しかしながら、さらに他にはというと、末尾が0あるいは5だったり、 ちょっと思い浮かばなかった。

小さいが別格の存在感を有するマクロニッコール19mm F2.8

夏過ぎていつの間に白秋。 マクロニッコール19mm F2.8はニッコールレンズの中でも珍しい素数焦点距離レンズなので、 金星の軌道にあわせて金屏風を設え、柿を置いた。 こんな空間にはほんとうのオプチカル・ジェムズとも言うべき、極小レンズが景色なのである。 小粒で、小さくて、可愛いようでこれほど強烈なインパクトを放つレンズは、そうはないだろう。 それにしても使いこなすのは難しい。

金屏風に柿にマクロニッコール19mm F2.8

小さいものは美しい

人の動きや気配がない深夜に息を止めてシャッターレリーズ。 被写体も蟻の眼や蚊の横顔ではさらに不気味度が増す。 デジタルの時代になって、このあたりの撮影環境は劇的になじみやすくなった。 フィルムの頃と違って失敗が大幅に回避できるようになり、 高倍率マクロ撮影にチャレンジする方も増えてきた。 デジタルのおかげで古いレンズたちが生き返ったのである。

レンズを入手した時のこと

このコンテンツは、「マクロニッコール」のカテゴリを順に参照すると、 最初に見ていただくことになる。 説明が後になってしまったが、マクロニッコールは、 大型マクロ写真撮影装置(マルチフォト)用の専用レンズだ。 ライカL39スクリューマウントを有するマクロニッコール12cm F6.3、マクロニッコール65mm F4.5。 それに、顕微鏡対物レンズのマウント(RMSマウント)を有するマクロニッコール35mm F4.5、 マクロニッコール19mm F2.8の4種類で一式、四兄弟である。

2001年10月にこのウェブサイトを立ち上げたとほぼ同時に、 四兄弟を一人づつ小さい順に紹介した。 この場合は年齢というよりも焦点距離が小さいレンズから紹介していった。 マクロニッコール35mm F4.5、同65mm F4.5、同12cm F6.3について記事を公開できた。 しかしながら、マクロニッコール19mm F2.8については当時現物を所有しておらず、 記事はなかったのである。

ガラス瓶に入った RMS マクロニッコール

2003年の夏頃の話となるが、マクロニッコール四兄弟を一式でどうだとのオファーがあり、 レンズを譲っていただくことができた。 ここで初めてマクロニッコール19mm F2.8を迎えたのである。

しかしレンズを入手したものの、2016年に実施したサイト全体の大型改訂の時まで記事は作っていなかった。 すると、読者の方にはマクロニッコール19mm F2.8がまだ未入手だと理解され、オファーがいくつかあった。 おかげで、たくさんの方々とお話するきっかけができた。 コレクション全部を見せてしまうよりも、古書の世界で言うところの、 キキメを残しておくと、なにかとコミニュケーションが弾むものだ、ということが理解できた。

古文書に RMS マクロニッコール

2020年のあとがき

このコンテンツのオリジナルは、2016年9月に公開しました。 一見すると何も変化がないように見える記事ですが、 2019年の見直しでは、画像をクリックすると大き目のサイズの画像を表示するように直しました。 2020年にはレンズの性能諸元データを分かる範囲でまとめました。発売時期についても調べてみました。

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