FUJINON-M 50mm F7 Fine Lens

A Very Fine Lens
for the Nikon Z Mount System

FUJINON-M 50mm F7
Excellent Resolving Power
FUJI PHOTO OPTICAL CO.
MADE IN JAPAN

フジノン-M 50mm F7

あまり聞かない絞りF7

もうひとつのフジノン-M 38mm F5.4でも紹介したが、ニッコールレンズではない。 お気に入りということで紹介している。 フジノンの50ミリである。有名なフジノン-Eではなくフジノン-Mだ。 ニコンカメラボデイにフジノン-M 50mm F7をマウントしてある。

フジノン-M 50mm F7

製造メーカーの一次資料や信頼できるデータが手元にないので、 レンズ構成図ほか性能諸元、それに製造年代や販売価格などすべて不明である。 重量を家庭用のデジタルスケールで実測してみた。 118.0gだった。 小さい見た目よりは重量感がある。

とにかく小さくかわいい。絞りは固定だ。 開放絞りがF7というが、あまり聞いたことのない数値である。でも存在している。 絞りがF8だと一般的で感覚的に理解できるが、F7とはなんとも中途半端。 素数を狙ったのかもしれないが、まずは中途半端な数字が素晴らしい。 総金属製の鏡胴ハウジングにライカL39スクリューマウント。 肉厚の非常にがっしりしたプラスチックケースに収まっている。

ニコンF3にフジノン-M 50mm F7

左は弟分のフジノン-M 38mm F5.4とフジノン-M 50mm F7

丸い固定の絞り板

ニコンFマウント一眼レフの環境では無限遠は出ない。 ただしベローズを介さなくても、そのままカメラボデイにマウントしてピントが出る。 初めて来たような場所の散歩道で、 レンズに木々の風が反射する場所をさがして歩いた。 木の葉をよけてカメラを置く。音が風になっている。

フジノン-M 50mm F7
(撮影年は2001年11月)

パープルコーティングの奥に丸い固定の絞り板が見える。 小さいが重たいレンズだ。フジノン-M のことはよく知らない。 マイクロフィルム用の撮影装置か参照装置用のレンズか、あるいは業務用の写真プリンターとか、 そういった用途の産業用レンズではないかと推測している。 フジフイルムの以下の社史に照らし合わせてみたが該当する情報が見当たらず、正確なところは分からない。

     創業25年の歩み
     富士寫眞フイルム株式會社
     昭和35年(1960年)1月20日発行

     富士フイルム50年のあゆみ
     富士写真フイルム株式会社
     昭和59年(1984年)10月20日発行

しかしながら、おそろしく造りのよいレンズが今ここにある。 散歩道に連れだって歩いても、なにも考えていないところが優れている。 なにも考えていないレンズをカメラにマウントし、廃屋のまわりの時間でも撮影すれば完結する。

フジノン-M 50mm F7と廃屋の先を歩く

エネルギーを持つレンズは老いない

表舞台にでることなく、ひっそりと生きていたフジノン-M。 時空を掘り起こして使っている。 レンズを天上に向けよう。夏草を通る風に覇気がレンズから伝わる。 変わるのは気分ばかりではない。なぜか元気になるから不思議だ。 本物のレンズにはそういった癒しのパワーがあることが近年の研究でわかってきた。

癒しのパワーがあるフジノン-M 50mm F7

なにも考えない。考えないことがエネルギーだ。 レンズは老いない。エネルギーを持っている証拠である。 フジノン-M 50mm F7をマウントしたニコンの古い一眼レフカメラを持ってなにも考えずに歩くと、 なにも名前のない風景が見えてきた。

なにも名前のない風景にフジノン-M 50mm F7がなじむ

フジノン-M 50mm F7による実写

フジノン-M 50mm F7はフランジ面より後ろ鏡胴が長い。 この長い後ろ鏡胴に一眼レフのミラーが干渉しないようにするには、 すこしゲタをはかせる必要がある。 以下の作例では、ニコン接写リング PK-12 にニコン純正の L-F接続リングを取り付けて、 フジノン-M 50mm F7をマウントした。

フジノン-M 50mm F7は暗くてよく写る

フジノン-M 50mm F7は、おそらくは長きにわたり、 ドキュメンテーションのマイクロフィルムかマイクロフィッシュとかの、 文書をずうっと眺めて来たのだろう。 それも仕事だからがんばって来たと思われる。 しかしながら、リタイアした今は、自然光線あふれる世界を眺めてもいいだろう。 そんな気持ちで、日本の四季のシーンでフジノン-M 50mm F7と歩いた。

あるとき、日陰の奥にもしっかりとトーンを構成している生命体に気がついた。 夏なのでまだ青い柿の実は炎天下で輝き、影のなかに実る果実には重たい存在感が写った。 ほんらいならばこのレンズは、ドキュメンテーションの特性から、 ハイコントラストばかり気にして仕事してしたようだが、 自然光線下でいっきにふっ切れたようだった。

レンズ開放でF7という陰翳礼讃を語る写り

涼し気な葦簀(よしず)にひかれて日本トラッドな甘味処で腰を下ろす。 かるくビールの中瓶と言いたいところだけどメニューにないのでシンプルな豆かん。 和空間のごく少ない光量下でも、 絞り開放F7は暗いのにあかるい日本の微妙な柔らかいトーンを再現したのには驚いた。 豆かんのひやり冷たく甘い質感が出ている。

豆かんのひやり冷たく甘い日本情緒な質感

「素数絞りレンズ」のこと

最初に言及しているが、フジノン-M 50mm F7の開放絞り値は"F7"。 7、つまり、「素数絞り」。強烈な印象を放つ。 当サイトでは、開放F値が素数のレンズを「素数絞りレンズ」とここに定義する。

素数絞りは、F2、F3、F5、F7、F11、F13、F17、F19、・・・・ 開放F値でであるから、 実存するとすればここらまでだろう。 もちろんF2やF11が含まれるわけだが、これらはあまりにも一般的すぎておもしろくない。 となると、フジノン-M 50mm F7の7は素晴らしい。 ちなみに、市販されたニッコールレンズでは、 マイクロニッコール70mm F5が素数絞りで有名であり、本サイトでも取り上げている。

柿の人生を追う

夏にフジノン-M 50mm F7を使って撮影した若い青い柿のことが気になった。 柿にも人生があるのだろう。 夏の生命感あふれる果実はその後どうしているのか。 季節は秋となり、柿色になった柿を再び訪ね撮影してみた。

盛夏八月若い柿の健康的な横顔

そうか君は柿だったのか秋十月

白秋の柿十一月の午後

柿暮れて晩秋か十二月

柿の色して冬の入口十二月

冬日に木守となり人生の日々を想う熟柿

秋の入口から秋の終り。 そしてもうほかの紅葉仲間の葉はすべて落ちた冬日の頃まで。何度も通った。 まさか柿の人生を追うことになるとはおもわなかった。 フジノン-M 50mm F7は、なんでもない風景に生命を吹き込む写真装置になっていた。 フジノン-Mは、やはりただものではない。

情緒とは無縁の仕事に生きた工業用レンズである。 写真画像に添えらえたキャプションは、 カメラ雑誌などでは絶対に採用されない日本最高峰のゆるさを誇る。 わかる方はわかるだろう。 わからない方はわからない。それは解説するものではないのだ。

1970年代にリタイヤしたはずのレンズだったが、 もともと基本性能が優れていたので、 いきなり超絶の生命描写をさらりと叩き出したのには驚き、最敬礼した。 フジノン-Mは、やはりただものではない。

ニコン Z 写真帖

ニコン Z 6 にフジノン-M 50mm F7を装着した。 ニコンFマウント一眼レフの環境ではフランジバックが長いため無限遠が出せなかったが、 極端に短いフランジバックを有するフルサイズミラーレス機ニコン Z マシンの登場により、 接写のみならず、 数メートル先の近距離撮影から数百メートルレンジの遠距離撮影も余裕で可能となった。

FUJINON-M 50mm F7 on Nikon Z 6

ニコン Z 6 には市販の K&F CONCEPT製の M42 - Z マウントアダプターを装着。 さらに手持ちの M42-L39 変換リング(BORG製の OASIS 7844)を取り付けて、 カメラボディがL39ライカスクリューマウントになった。 おしりの長いフジノン-M 50mm F7 を装着しても、 撮像素子面に干渉することなく何ら影響を与えない安全で余裕の取り付けとなった。

Nikon Z 6 + M42 to Z + M42-L39 Ring + FUJINON-M 50mm F7

上に示す画像のとおりレンズをピッチリとねじ込むとオーバーインフとなる。 すこしばかりねじをゆるめるとキッチリと無限遠が出る。

FUJINON-M 50mm F7,   ASA 400   F7   1/125 sec.   -0 +0

撮影はすべて絞り開放の F7 である。 絞り開放で勝負となると、スタンリー・キューブリック・プラナー 50mm F0.7 を連想する方も多いだろう。 そんな開放絞りの明るさ正義なんて知らないよと言い切る孤高で実質的には絶望的な暗さがよい。

FUJINON-M 50mm F7,   ASA 400   F7   1/60 sec.   -0.7

絞り F7 は F5.6 と F8 の間を1/3ステップで区切った場合の、2/3ステップ目にあたる。 1/3ステップ目が F6.3(6.35)、2/3ステップ目が F7.0(7.13)である。 本サイトの読者様はプロの理系研究者やら世界的な設計技師が多いのは承知しておりますが、 こういうざっくりアバウトな表現をお許しいただきたい。

FUJINON-M 50mm F7,   ASA 400   F7   1/50 sec.   -0.7

FUJINON-M 50mm F7,   ASA 800   F7   1/160 sec.   -0.3

健康的な描写

レンズの写りを表現することはマンションポエムである。 私も多少はカメラ雑誌などで著名な写真家の方々の絶賛表現を目にし記憶している。 しかしながら、「健康的な描写」という表記には遭遇していない。

このフジノン-M 50mm F7は健康的な描写をするレンズである。 その定義を日本語言語で言及するほど野暮は進んでいないが、 ここに示す実例(実写画像)が説明エビデンスである。

FUJINON-M 50mm F7 on Nikon Z 6

FUJINON-M 50mm F7,   ASA 800   F7   1/640 sec.   +0.7

鉄にも合う

せっかくの開放絞りでF7という暗いレンズなので開放で使いたい。 一般的には絞り開放の描写となるとソフトでふぁんとした映像を期待されるが、 このフジノン-M 50mm F7の開放での描写はじつに鋭利でキリリとしたものである。

FUJINON-M 50mm F7,   ASA 400   F7   1/1600 sec.   -0.7

FUJINON-M 50mm F7,   ASA 400   F7   1/1600 sec.   -0 +0

鉄ならば、鉄橋であろうと鉄道であろうと大型トラックでもよい。 黄色の塗装が美しい働くクルマが通るとおもわず反応してしまうのは、三歳児男子とさして変わりない。

FUJINON-M 50mm F7,   ASA 400   F7   1/2000 sec.   -0 +0

FUJINON-M 50mm F7,   ASA 200   F7   1/1250 sec.   -0 +0

鉄橋近くでカメラを構えていると京王ライナーが流れるように走り抜けた。 走行音とか川風の爽快さ。なにか得した気分になった。フジノンは鉄にも合う。

FUJINON-M 50mm F7,   ASA 200   F7   1/1000 sec.   -0 +0

2022年のあとがき

このコンテンツのオリジナルは2001年11月に書いたものです。画像は当初1枚きりでした。 2016年のサイト移転に伴う見直しでは開放F値が素数のレンズを「素数絞りレンズ」と定義し 「柿の人生を追う」として実写画像を追加しました。

2020年の改版では「ニコン Z 写真帖」として Z 6 による実写作例を組み込みました。 育ちの良さとほんらい有していた業務用レンズのポテンシャルをかんじました。

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