EL Nikkor 210mm F5.6    1

EL ニッコール 210mm F5.6

このレンズは平成12年に入手した。 昭和、平成、令和と元号をリアルタイムに経験してきたはずだが、 平成12年っていつなのか、最近なのか昔なのか。 昔と言ってもどのくらい昔のことなのか感覚的に理解できない。 2000年のことだとわかって、もう 20年は昔の話なのかと再認識したしだいなのである。

ミヤマ商會のこと

2000年11月。東京は新宿三丁目のミヤマ商會。 正面から入店して目の前の大きいショーケースの中に元箱付きで鎮座していた。 デッドストックの未使用だが中古扱いで出していると言う。 プライスカードは 20,000円。 定価 10万円と知っていたから即ゲットとなった。 当時の消費税は 5パーセント。千円を国家に納めて、21,000円で購入した。

私の知っている(行ったことのある)ミヤマ商會は、 いずれも東京であるが、池袋、銀座、そして新宿にあった。 池袋店は 2011年、銀座店は 2017年に閉店した。そして新宿店も 2020年に閉店してしまった。 新宿店はよく立ち寄って、ニコンの小物を買ったものだ。 ニコンマルチフォト装置用の L-F接続リングとか、 Fモータードライブ用のマイクロスイッチ付きグリップとか、マニア物件が揃っていたのである。

テクニカルデータ

EL Nikkor 210mm F5.6

−焦点距離: 210mm
−最大口径比: 1 : 5.6
−最小絞り値: F45
−レンズ構成: 4群6枚
−基準倍率: 4X
−標準使用倍率範囲: 2X〜8X
−画角: 54度
−色収差補正波長域: 380nm〜700nm
−口径蝕: 0%(F8にて)
−歪曲収差: +0.01%
−原板サイズ: 150×210mm(5×7 inch)
−基準倍率における原板から画像までの距離: 1,312.5mm
−フィルター径: 68mm P=0.75mm
−マウント: 後側 d=72mm、p=1.0mm
−マウント: 前側 d=72mm、p=1.0mm
−座金: 外径 d=98mm
−全長: 77mm
−最大径: 82mm
−重量: 600g
−重量実測: 586.5g

−発売時期: 1968年 5月
−当時の価格:
   36,800円(1969年 1月)
   36,800円(1971年 3月)
   36,800円(1973年 4月)
   69,000円(1973年12月)
   86,200円(1974年 6月)
   86,200円(1976年 4月)
   86,200円(1977年12月)
   86,200円(1980年 2月)
   86,200円(1980年11月)
   99,200円(1981年 2月)
   99,200円(1982年 8月)
   99,200円(1984年 4月)

EL ニッコール 210mm F5.6のレンズ構成図(各部寸法入り)

ELニッコール 210mm F5.6の立ち位置

新世代の ELニッコール Nシリーズ最初の製品が登場するのが 1979年6月。 旧世代の ELニッコールが出揃っていた時代後期は 1977年12月の製品一覧を示す。

ELニッコール 210mm F5.6の価格 86,200円を同時期のカメラ製品で見てみると、 ニコンF2アイレベルボディが 76,000円、Ai ニッコール 16mm F3.5 が82,000円、 Ai ニッコール 300mm F4.5 が 67,000円だった。 まさかニコンF2アイレベルボディより高いとは思わなかった。

エル・ニッコール 製品一覧
ニコン産業用レンズ標準小売価格表(1977年12月21日版)より

エル・ニッコール 標準小売価格 原板サイズ
  50mm F2.8 12,700円    24 x 36 mm
  50mm F4 7,900円    24 x 36 mm
  63mm F3.5 21,700円    32 x 45 mm
  75mm F4 14,700円    56 x 56 mm
  80mm F5.6 19,400円    60 x 70 mm
  105mm F5.6 26,500円    65 x 90 mm
  135mm F5.6 37,500円    90 x 120 mm (4 x 5 inch)
  150mm F5.6 49,200円    100 x 130 mm (4 x 5 inch)
  180mm F5.6 74,600円    130 x 180 mm (5 x 7 inch)
  210mm F5.6 86,200円    150 x 210 mm (5 x 7 inch)
  240mm F5.6 111,000円    180 x 240 mm (8 x 10 inch)
  300mm F5.6 163,000円    270 x 330 mm (10 x 12 inch)
  360mm F5.6 231,000円    300 x 400 mm (11 x 14 inch)

重量実測と価格の遷移

カタログ等の資料には重量 600gとなっている。 家庭用のデジタルスケールで実測してみた。重量 586.5gだった。 付属品も実測してみた。座金 25.5g、プラ製前キャップ 13.5g、そして金属製後キャップ 18.5gだった。

価格の遷移が興味深い。日本は 1970年代に入ると物価は異常に高騰した。 「狂乱物価」で調べると時代背景が見えてくる。 1973年10月に始まった第1次オイルショックの影響を、 EL ニッコール 210mm F5.6のリストプライス(カタログ等に明示されている定価) で検証してみた。教科書に出てきそうなデータである。

   36,800円(1973年 4月)
   69,000円(1973年12月)
   86,200円(1974年 6月)

なんと 1年の間に何回か価格改訂があり、しかも金額は二倍を超えている。 価格が変わった瞬間のポイントを捉えたわけではなく、 手持ちの紙モノエビデンスの範囲で裏付けが取れる年月日でまとめてみた。

第2次オイルショックのピークは 1980年。 みごとに EL ニッコール 210mm F5.6の価格に連動している。 レンズを見れば社会情勢と日本経済が読める。 そこらの経済書を読むよりはレンズを買った方がよい。

もちろんこんな簡単な単一の原因ではなく複合的な要素が重なった上での経済事象と理解しているが、 ここではざっくりとした話ということで納めていただきたい。

検査合格証

EL ニッコールのうち、一般のアマチュアがよく使う 50ミリから 105ミリくらいのレンズだと、 検査合格証は添付されていない。 何ミリから検査合格証が添付されるのか未確認ではあるが、EL ニッコール 210mm F5.6には、 レンズ 1本づつ検査が行われ測定値が記載された検査合格証が付いていた。

日本光学工業株式会社の検査責任者のサインがペンで認められている。 検査合格証の裏には、LENS DATAのタイトルが入り、 「使用上不必要と思われるデータは記入してありません」と、ちょっと素っ気ない。 否定で終わっている。現代だったらポジティブに 「使用上必要と思われるデータを記入しています」とするだろう。

検査合格証には T. Sagawa (Takeshi Sagawa、佐川 剛氏) の直筆サイン入り

検査合格証の裏面

販売の終了

EL ニッコール 210mm F5.6の発売時期はニコンの社史で 1968年 5月と確認できたが、販売の終了はいつだろうか。 1984年4月1日付けのニコン標準価格表(普通のカメラ店でもらえるもの)に掲載されているのを確認した。 1984年10月1日付けの同価格表には、EL ニッコール 210mm F5.6 に代わって、 新デザインの EL ニッコール 210mm F5.6A が 104,000円でリストされていることを確認した。 よって、EL ニッコール 210mm F5.6 の販売の終了は 1984年半ば前後と推測している。

EL ニッコール 210mm F5.6

金箱に水色の緩衝材。白い発泡スチロール製の緩衝材はよく目にするが水色は珍しい。 フロントキャップはプラ製、リアキャップは黒縮緬塗装の金属削り出し製。 検査合格証は Nikonのロゴが入ったビニール製のカードケースに収められている。

マウント

レンズのマウントは、径 72mm P=1.0mm のネジマウントである。 ウルトラマイクロニッコール 155mm F4と同じ規格なので、 専用のマウントアダプターを装着して Fマウントにしてから PB-4ベローズにセットした。 このマウントアダプターの詳細については、 ウルトラマイクロニッコール 155mm F4の記事を参考にしていただきたい。

ニコン PB-4 ベローズ

ニコンFTZマウントアダプターでニコン Z マウント化

画像に示すようにマウントアダプターの径が大きいので、 中間リング(M2リング)を入れた。 ベローズ装置のクランプやレバーとの干渉が無くなり操作性がよくなる。

EL ニッコール 210mm F5.6

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