EL Nikkor 135mm F5.6A    Chapter 1

EL Nikkor 135mm F5.6A

入手のいきさつ

このような特殊用途のニッコールレンズを紹介するサイトを運営していると、 私のところに読者の方から「そのレンズはどこで売っているのか」とかのお尋ねが多い。 圧倒的に海外の方からのお問合せだ。 私だって教えてほしいところだが、そうは言ってもなんなので、ご相談には乗ることもある。

また、たまにレンズを買ってくれと言われることがある。 オファーというスタイルだ。2007年のことだった。 日本国内で写真製版業を営んでいる方から、倉庫を整理したら出て来たとのお話だった。 APO ニッコールの 890mm F11 新品木箱入り、同 610mm F9 USED、同 420mm F9 USED の3本である。 1987年当時の定価を調べてみると、890mmが 257,100円、610mmが 126,500円、420mmが 86,900円。 なかなかの価格である。その上で提示された価格は中古にしてはすこし高かった。 でも値切らずに言い値で購入させていただいた。

あれはいつだったか。1990年代の中古カメラブームが最盛期の頃の話だ。 たぶん銀座・松屋の中古市だったと思う。 私の横で商談している人がいた。 ショーケースから出されたレンズを前にして、店員さんとなにやらやり取りしている。 微細な価格交渉が聞こえてくる。どうやら、10円、20円の値切りが白熱しているようだ。 しまいには店員さんが「アンタには売らない!」と速攻でレンズをショーケースに戻すシーンに遭遇。 これがフリマや蚤の市だったら「値切りは重要なコミニュケーション」となるところだが、 さすがに、百貨店側に高額な出店料を払ってブースを出しているお店には無理筋な話だろう。 なんでも、ほどほどにしておいた方がいいんじゃないか。

さて、値切らずに言い値で購入させていただいた物件は大きなダンボール箱で届いた。 なんと、おまけの方がすごいことになっていた。APO ニッコールにはすべて専用のフード付き。 いくつかのAPO ニッコール専用アクセサリー。元箱入りもあった。 業務用の証は、コダックのラッテン・ゼラチンフィルターの束。 コダックのレンズクリーナーのボトル数本。 さらには EL ニッコールもおまけに付いていた。 EL ニッコール 50mm F2.8N、そしてここで紹介する EL ニッコール 135mm F5.6A である。

黙って言い値で買ってお互いにハッピーなこともある。 おまけという形で思いがけず入手した EL ニッコール 135mm F5.6A の話を続けよう。 まずはレンズの性能諸元をご覧いただきたい。

テクニカルデータ

EL Nikkor 135mm F5.6A

−焦点距離: 135mm
−最大口径比: 1 : 5.6
−最小絞り値: F45
−レンズ構成: 4群6枚
−基準倍率: 5X
−標準使用倍率範囲: 2X〜10X
−画角: 53度(5X の時)
−色収差補正波長域: 380nm〜700nm
−原版サイズ: 160mm⌀(4 x 5 インチ判)
−フィルター径: 52mm P=0.75mm
−マウント: ライカL39スクリューマウント
−マウント: 50mm⌀ P=0.75mm
−全長: 47.5mm
−最大径: 56mm
−重量: 190g
−重量実測: 180.5g

−発売時期: 1983年 7月1日
−当時の価格:
   40,500円(1983年 8月)
   40,500円(1984年10月)
   40,500円(1985年12月)
   40,500円(1987年 1月)
   40,500円(1993年 7月)
   40,500円(1999年 9月)
   40,500円(2003年 6月)
   40,500円(2004年 6月)

(注)以下のデータは製品カタログに掲載されていないため未記載。

−口径蝕
−歪曲収差
−基準倍率における原板から画像までの距離

EL ニッコール 135mm F5.6Aのレンズ構成図(各部寸法入り)

EL ニッコール 135mm F5.6A の立ち位置

A シリーズの EL ニッコールは全部で 6種類販売された。 6種類すべてがラインナップされた1987年1月当時の製品一覧を以下にまとめた。

エル・ニッコール Aシリーズ 製品一覧
Nikon 産業用レンズ標準小売価格表(1987年 1月12日版)より

EL ニッコール 標準小売価格 原板サイズ
  135mm F5.6A 40,500円    4x5 インチ判
  150mm F5.6A 59,000円    4x5 インチ判
  180mm F5.6A 88,500円    5x7 インチ判
  210mm F5.6A 104,000円    5x7 インチ判
  240mm F5.6A 150,000円    8x10 インチ判
  300mm F5.6A 195,000円    10x12 インチ判

N シリーズの EL ニッコール全 7種類を集めることは容易だが、 A シリーズの EL ニッコールとなると 6種類ではあるがかなり難易度は高くなる。 特に長焦点の大型レンズほど入手は難しい。 しかし未使用デッドストック新品だと話は別だが、一般のUSEDランクであれば、 まだまだコンプリートする機会は残っている。 大判写真機の世界ではいまだ現役で活躍していると思われる。

ただし無理に買う必要はない。今どきこんなレンズは流行らない。 興味を示すのは物好きだけだからやめておいた方がよい。 いちおう書いておいた。念のため。 それでもと覚悟のある方には断固としてお薦めする。

発売時期のこと

EL ニッコール 135mm F5.6Aの発売時期を調べてみた。 ニコンの社史(75年史と100年史)には説明が無い。 手持ちの史料を掘り起こし、 当時のニコン標準小売価格表およびプライスリスト(希望小売価格表)を順に精査してみた。

1983年6月1日付の価格表には、旧 135mm F5.6 が37,500円で出ている。 2か月後の1983年8月1日付の価格表には、旧 135mm F5.6 に代わって、 新しい Aシリーズの 135mm F5.6A が40,500円で登場している。 7月1日発売との力強い活字が目に入る。 ニコン発行の正式文書による信頼できるエビデンスにより、正確な発売日が確認できた。 EL ニッコール 135mm F5.6Aが発売された時期は1983年7月1日である。

EL Nikkor 135mm F5.6A

美しいレンズ前玉

アメージング・レンズ

マウントのこと

レンズ構成図の図面上から読み取れるが、 EL ニッコール 135mm F5.6AはスタンダードなライカL39スクリューマウントである。 写真撮影用のレンズとして使う場合には、非常にフレンドリーであって、 なんら苦労することなく写真撮影用機材にマウントできる。 ライカL39スクリューマウントのレンズは、 およそどんなレンズ交換式カメラにも装着可能だと思う。

さらには、このマウント部をネジって外すと、 50mm⌀ P=0.75mmマウントが出てくる。 このギミックは EL ニッコール 150mm F5.6Aにも仕込まれている。 このあたりのマウントは業務用途の世界なのだろう。 ネット上に画像が存在しなかったので、以下に撮り下ろしを公開する。

EL ニッコール 135mm F5.6Aのマウント部

EL ニッコール 135mm F5.6Aの使い方

このレンズはフランジフォーカルディスタンス(フランジバック)が公称値 121.0ミリと非常に長いので、 ニコン一眼レフでも余裕で無限遠が出る。 さらには、フランジバックの短いフルサイズ・ミラーレス機へのマウントが容易だ。 私は以下のセットで EL ニッコール 135mm F5.6Aをニコン Z 6 にマウントし、無限遠を出している。

ニコン FTZ マウントアダプター

ニコン FTZ マウントアダプター+ニコン E2リング+ニコン M2リング+BORG製 M42ヘリコイド + EL Nikkor 135mm F5.6A。

EL ニッコール 135mm F5.6Aレンズには、深い Nikon HS-14 フードをセットしている。 フィルター径が汎用の52mmなので手持ちの資源が活用できる。

ニコン製でないマウントアダプター

ニコン純正でない F to Z マウントアダプターも実は活躍する。 K&F CONCEPT製は安価に購入できるし、電子接点がないので、 中間リング等の装着でガリっと引っかいて電子接点にダメージを与える心配がない。 ニコン純正の FTZ マウントアダプターに比べると精度は紙一枚の差でゆるいが、 接続するあやしいレンズや接続リングによってはゆるい方がよい場合もある。 状況により使い分けるのがいいかもしれない。

接写スタイル

近接撮影したい場合にはさらに中間リングを1個入れるだけ。簡単である。 ライカL39スクリューマウントの中間リングは、 日本国製では富士フイルムの専用品(中間リングセット)が有名だが、 この例ではニコン純正である エルニッコール専用のエクステンションリングを入れてみた。

記事のご案内

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 では次のお話。   第 2 章    ニコン Z 写真帖 1

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