EL Nikkor 105mm F5.6N    1

EL ニッコール 105mm F5.6N

スタイリッシュでカジュアルな、新時代の、マウンテン・エル・ニッコール 105mm F5.6N。 新時代と言っても、製品の発売は 1980年のことだ。 今から 40年以上昔の世界。時代はすでにバブル景気に向かって順風満帆。 1987年当時のこと。 東京は山手線内側だけの土地価格で、米国全土が買えてしまうという史上最強の勢いがあった。

そんな時代背景を生き抜いた EL ニッコール 105mm F5.6N。 ニコン一眼レフでたまに撮影に使ってみたりもした。 引き伸し用レンズでも写真撮影ができるとの知見は得られたが、 試写レベルの撮影はそこで終わってしまった。

しかし 35ミリ判フルサイズ・ミラーレス機が世に出ると大きなパラダイムシフトが起きた。 ニコン・ゼットカメラは極めて工業用ニッコールレンズと相性が良いことが判明したのだ。 ニコン・ゼットの登場で、この種のレンズを持ち出す機会がぐっと増えた。 なによりも劇的によく写るのである。

EL ニッコール 105mm F5.6N

コンプリート・コンディションの揃い一式の姿である。 コレクター様向けのご参考として、これらが揃っていれば完品となることを示す。 新品未使用品のお道具は美しい。

小さい元箱にきっちり入っているものを全部出して並べてみた。 レンズの前キャップはポンと上に乗せるスタイル。 ワンカップ酒のキャップに似ている。 初期型はほんとにカップ酒のキャップだったのかもしれない。 Nikonのロゴが入っていないのである。ちなみにこれは初期型。 後期型のキャップには Nikonのロゴが入っている。

キャップを押さえるスポンジはマルである。 シカク型もあるので、スポンジコレクターは両方集めることになる。 スポンジも 50年や 60年が経過すればボロボロになる。 表面が触れるとプラスチックケースやレンズ本体にダメージを与えることがあるので、 スポンジだけ分けておくかポリ袋に入れて隔離した方がよい。

テクニカルデータ

EL Nikkor 105mm F5.6N

−焦点距離: 105.5mm
−最大口径比: 1 : 5.6
−最小絞り値: F32
−レンズ構成: 4群6枚
−基準倍率: 5X
−標準使用倍率範囲: 2X〜10X
−画角: 51度(5X の時)
−色収差補正波長域: 380nm〜700nm
−原版サイズ: 120mm⌀(6cm x 9cm判)
−フィルター径: 40.5mm P=0.5mm
−マウント: ライカL39スクリューマウント
−全長: 40mm
−最大径: 51mm
−重量: 110g
−重量実測: 101.5g

−発売時期: 1980年 6月
−当時の価格:
   27,500円(1980年 6月)
   27,500円(1981年10月)
   27,500円(1982年12月)
   27,500円(1984年10月)
   27,500円(1985年12月)
   27,500円(1987年 1月)
   27,500円(1988年12月)
   25,000円(1989年 4月)消費税(3%)施行
   25,000円(1990年 9月)
   25,000円(1991年 7月)
   27,500円(1991年10月)
   27,500円(1993年 7月)
   27,500円(1999年 9月)
   27,500円(2003年 6月)
   27,500円(2004年 6月)
   27,500円(2005年 3月)

(注)以下のデータは製品カタログに掲載されていないため未記載。

−口径蝕
−歪曲収差
−基準倍率における原板から画像までの距離

1989年(平成元年)4月 1日。日本で初めての消費税が施行となった。 税率は 3パーセント。 消費税の導入前は、いわゆる贅沢品には物品税がかかっていた。 一眼レフカメラや交換レンズ、そして写真引き伸し用レンズの物品税の税率は 15パーセント。 EL ニッコール全 13種類の価格の推移を確認したところ、40mm F4Nから 210mm F5.6Aまで 10本は、 消費税の導入により、ほぼ 10パーセント価格が下がった。 今までかかっていた物品税がなくなったためと思われる。

EL ニッコール 105mm F5.6N のレンズ構成図(各部寸法入り)

EL ニッコール 105mm F5.6N の立ち位置

N シリーズの EL ニッコールは全部で 7種類販売された。 50mm F4N のように早くに姿を消したモデルもあり、 7種類すべてがラインナップされた 1984年10月当時の製品一覧を見ていただきたい。

7種類を七人兄弟とするか、七人の侍とするかは、議論が分かれるところではあるが、 EL ニッコール 105mm F5.6N は長老クラスと言えるだろう。 価格的にもふさわしい位置にある。 このクラスまではアマチュアも使った焦点距離であること、 長きに渡り生産され販売された事実を踏まえ、 現在の中古カメラ市場では比較的安定的にモノが流通していると言える。 未使用デッドストック新品だと話は別だが、一般の USEDランクであれば、 試しに買って実写してみるか派の方には財布に優しい。

エル・ニッコール Nシリーズ 製品一覧
ニコン標準小売価格表(1984年10月 1日版)より

EL ニッコール 標準小売価格 原板サイズ
  40mm F4N 29,000円    35mm判
  50mm F2.8N 14,200円    35mm判
  50mm F4N 9,000円    35mm判
  63mm F2.8N 24,100円    35mmマイクロ・35mm判
  75mm F4N 16,400円    6x6cm判
  80mm F5.6N 21,000円    6x6cm判・6x7cm判
  105mm F5.6N 27,500円    6x9cm判

発売時期のこと

EL ニッコール 105mm F5.6N の発売時期を調べてみた。 ニコンの社史(75年史と100年史)には説明が無い。 全部で 7本の Nシリーズの EL ニッコールのうち、 EL ニッコール 75mm F4N、同 50mm F4N、同 40mm F4N だけが掲載されている。 開放絞り値 F4 のレンズだけを選んで掲載したようで意味がわからない。

さて困ったままで終わってしまうがところだが、そういうわけにはいかない。 手持ちの史料を掘り起こし、当時のニコン標準小売価格表を順に精査してみた。

1980年 2月15日付の価格表には、旧 105mm F5.6 が26,500円で出ている。 4か月後の 1980年 6月15日付の価格表には、旧 105mm F5.6 に代わって、 新しい Nシリーズの 105mm F5.6N が27,500円で登場している。 1980年に発売されたことは間違いないだろう。 正確な発売日となるとニコンからのエビデンスがないと断定は難しいが、 ニコン標準小売価格表に出現した 1980年 6月と推測してみた。

価格のこと

価格情報はその製品の時代の立ち位置を理解する上で重要な材料となる。 ニコン標準小売価格表(あるいは希望小売価格表)は貴重な情報源となる。 ここで極めてやっかいな問題がある。 オープン価格(オープンプライス)というやつだ。 製品が発売された時点では販売店やネットの価格情報で見当がつくが、50年を経過したらまずわからない。

ニコン製品がオープンプライスを採用するようになったのはいつからか。 価格表を精査してみた。 2002年9月28日版までは希望小売価格がすべてきっちり記載されている。 2003年3月10日版ではオープンプライスが登場する。 ニコン F5 や D1X は希望小売価格が明示されているが、 COOLPIX 3100、COOLPIX 2100、COOLPIX SQ はオープンプライスとなっている。 ニコンは 2003年春頃からオープンプライスを採用するようにしたようだ。

50年を経過したらまずわからないと書いたが、実際はたかだか 20年で価格情報が消滅した。 例えば、COOLPIX SQ を調べてみたら、ニコンの旧製品のサイトを見てもオープンプライスとしか出ていない。 価格情報のサイトからも相場が消えている。5千円なのか 1万円なのか 10万円なのかもわからない。 カメラ技術文化史が崩壊するのを実感した。

EL Nikkor 105mm F5.6N

EL ニッコール 105mm F5.6N の使い方

このレンズはフランジフォーカルディスタンス(フランジバック)が公称 100.5ミリと非常に長いので、 ニコン一眼レフでも余裕で無限遠が出る。 さらには、フランジバックの短いフルサイズ・ミラーレス機へのマウントが容易だ。 私は以下のセットで EL ニッコール 105mm F5.6N をニコン Z 6 にマウントし、無限遠を出している。

EL ニッコール 105mm F5.6N

ニコン FTZ マウントアダプター+ニコン E2リング+ BORG製 M42ヘリコイド + Fuji EX 中間リング(最短)+ EL Nikkor 105mm F5.6N。

EL ニッコール 105mm F5.6N レンズには、 NC 40.5mmフィルターを装着し、40.5mm-52mmステップアップリングを入れて、 深い Nikon HS-14 フードをセットしている。

Nシリーズのレンズ使用上の注意

Nシリーズのレンズには、引き伸し機のランプの光を取り込み、絞り値を照明する機構が備わっている。 レンズ内に採光窓があるので、そのまま撮影用に使うと漏光の原因となると言われていた。 ホントか。

私が苦節 3年間に渡り繰り返した実写による実証実験では、 真夏の炎天下ほか過酷な条件でも漏光による画像の影響は皆無だった。 いまだ一度も漏光が原因による光カブリなどの画像が撮れたためしがない。

なんら気にすることはない。 100万ショットに 1回くらいは光カブリがあるかもしれないと心配するならば、 絞り値表示窓にバンドエイドでも貼っておけばよい。黒パーマセルテープなら完璧だ。 しかし、レンズ底板のネジを外して明かり取り窓の位置をずらして取り付けるなどの無用な改造はもっての外。 これはやめないといけない。

EL Nikkor 105mm F5.6N

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 では次のお話。   第 2 章    ニコン Z 写真帖 1

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