EL Nikkor 80mm F5.6    1

EL Nikkor 80mm F5.6

京王夏の中古カメラ市

東京・新宿。西口に並んで立つ老舗デパートは、小田急百貨店と京王百貨店。 その京王デパートで中古カメラ市が開催されていたのをご存知の方はおいでだろうか。 元箱の中に、購入当時の京王百貨店の領収書が入っていた。 日付は 1999年9月4日(土)となっている。 初日は労働で行けなくて、土曜日の休日に行ったのだった。 夏の中古カメラ市は活気があった。 中古の EL ニッコール 80mm F5.6 は販売価格 8,000円。消費税 5% 400円。計 8,400円だった。 20数年前の話である。

1999年はまだまだフィルムの時代だった。 デジタル一眼レフと言えば、600万画素のキヤノン EOS D6000がボディだけで 360万円。 アマチュアはお呼びでない世界だった。 世間では 1999年 7月に人類は滅亡するとの終末論でにぎわったものだ。 パソコン通信はモデム内蔵のワープロでやっていた。 当時はダイヤルアップ接続なので電話代がすごいことに。 ログはフロッピーディスクに入れていた。 本サイトを熱心に愛読してくださる 10代の小中学生の読者様には意味不明のことばかりだと思う。

フィルムの一眼レフカメラで何回か EL ニッコール 80mm F5.6 を装着して使ってみたことがあった。 開放絞りで F5.6、撮影時に F8 に絞ると、光学ファインダーでは暗くてピント合わせが難しい。 試写のみで終わってしまった。 この古いレンズがまた第一線に戻って来られたのは、ニコン・ゼットカメラのおかげだ。 暗視カメラのような光増幅機能はピント合わせを劇的に変えた。 古いレンズを使うことがたのしくなった。

EL Nikkor 80mm F5.6

テクニカルデータ

EL Nikkor 80mm F5.6

−焦点距離: 80mm
−最大口径比: 1 : 5.6
−最小絞り値: F45
−レンズ構成: 4群6枚
−基準倍率: 5X
−標準使用倍率範囲: 2X〜15X
−画角: 57度40分
−色収差補正波長域: 380nm〜700nm
−口径蝕: 0%(F8にて)
−歪曲収差: -0.035%
−原板サイズ: 56×72mm
−基準倍率における原板から画像までの距離: 576mm
−フィルター径: 34.5mm P=0.5mm
−マウント: ライカL39スクリューマウント
−全長: 34.5mm
−最大径: 44.5mm
−重量: 150g
−重量実測: 148.0g

−発売時期: 1966年 5月
−当時の価格:
   14,000円(1966年 9月)
   14,000円(1969年 1月)
   14,000円(1971年 3月)
   14,000円(1973年 2月)
   14,000円(1973年11月)
   14,000円(1973年12月)
   17,100円(1974年 6月)
   17,100円(1976年 4月)
   19,400円(1976年 7月)
   19,400円(1977年12月)
   19,400円(1979年12月)
   19,400円(1980年 6月)
   価格表落ち(1980年 9月)

EL ニッコール 80mm F5.6 のレンズ構成図(各部寸法入り)

ELニッコール 80mm F5.6 の立ち位置

新世代の ELニッコール Nシリーズ最初の製品が登場するのが 1979年 6月。 旧世代の ELニッコールが出揃っていた時代後期は 1977年12月の製品一覧を示す。 同カテゴリーの焦点距離のレンズと比べてみると、 価格の点からも ELニッコール 80mm F5.6 は少しばかり上級者向けの存在だったことが理解できる。

エル・ニッコール 製品一覧
ニコン産業用レンズ標準小売価格表(1977年12月21日版)より

エル・ニッコール 標準小売価格 原板サイズ
  50mm F2.8 12,700円    24 x 36 mm
  50mm F4 7,900円    24 x 36 mm
  63mm F3.5 21,700円    32 x 45 mm
  75mm F4 14,700円    56 x 56 mm
  80mm F5.6 19,400円    60 x 70 mm
  105mm F5.6 26,500円    65 x 90 mm
  135mm F5.6 37,500円    90 x 120 mm (4 x 5 inch)
  150mm F5.6 49,200円    100 x 130 mm (4 x 5 inch)
  180mm F5.6 74,600円    130 x 180 mm (5 x 7 inch)
  210mm F5.6 86,200円    150 x 210 mm (5 x 7 inch)
  240mm F5.6 111,000円    180 x 240 mm (8 x 10 inch)
  300mm F5.6 163,000円    270 x 330 mm (10 x 12 inch)
  360mm F5.6 231,000円    300 x 400 mm (11 x 14 inch)

設計は高橋 正氏

ニコンのウェブサイトで大好評連載中の「ニッコール千夜一夜物語」。 第七十夜でとりあげられているのは、Ai NIKKOR 300mm F4.5 S。 大下孝一さんがお書きになった文章を読み進めると、以下の説明があった。 原文のまま転載させていただいた。

この 300mmの性能改善のテーマに取り組んだのが高橋正(たかはしただし)さんである。 高橋さんは、脇本さん、一色さん、樋口さんらとともに初期のニッコール開発に活躍された方で、 多くの産業用ニッコールの設計を手掛けられ、 第六十四夜にとりあげた EL-NIKKOR 80mm F5.6N の旧タイプを設計したのもこの高橋さんなのであった。

ここで言う旧タイプこと、EL ニッコール 80mm F5.6 を設計したのは高橋 正氏であることがわかった。 写真工業 昭和49年5月臨時増刊「ニコン・テクニカル・マニュアル」 にはエル・ニッコールの全般的な説明記事が掲載されている。 著者は、日本光学の片桐文義氏・高橋正氏である。 設計者が自らエル・ニッコールを語っている。どうりで熱いはずだ。

販売の終了

EL ニッコール 80mm F5.6 の発売時期はニコンの社史(75年史、100年史)で1966年 5月と確認できたが、 販売の終了はいつだろうか。 1980年 6月15日付けのニコン標準価格表(普通のカメラ店でもらえるもの)に掲載されているのを確認した。

同年、1980年 9月15日付けの同価格表には、EL ニッコール 80mm F5.6 に代わって、 新デザインの EL ニッコール 80mm F5.6N が 21,000円(新発売)で登場していることを確認した。 よって、EL ニッコール 80mm F5.6 の販売の終了は 1980年の後半と推測している。

EL ニッコール 80mm F5.6 の使い方

レンズ構成図の図面から読み取れるように、 フランジ・フォーカル・ディスタンス(フランジバック)が 70mmと長い。 ニコンの一眼レフに装着しても余裕で無限遠が出る。 ニコンのミラーレス機に装着した例を示す。

Z-M42マウントアダプターで、Z マウントを M42マウントに変換した。 BORG製の M42ヘリコイドを入れている。 M42ヘリコイドのレンズ側は、ライカL39スクリューマウントにしてあるので、 そのまま、EL ニッコール 80mm F5.6 が装着できる。 下の画像の状態で無限遠から 1メートル 60センチまでの近接撮影が可能だ。 もうすこし距離を詰めたい場合は中間リングを入れて解決。 この例では EL ニッコール用の EXリングを用意した。 さらに 50センチまで近づける。

EL Nikkor 80mm F5.6

フィルター径は 34.5mm。 ニコン純正品で探すと現行品にはなく、レンジファインダーニコンの時代は 1950年代から 1960年代初頭の旧いニッコールレンズ用からの選択となる。 私はマウンテンニッコール 10.5cm F4 用に揃えたアクセサリーを使っている。 レンズプロテクションとして使えるガラスが透明の、 L38とか L39と刻印の入ったニコン純正の銀枠 34.5mm UVフィルターは今でも希少アイテムだ。

EL Nikkor 80mm F5.6

マウンテンニッコール専用の 34.5mm ちびフードを装着しているカジュアルな姿。 ニコン純正の銀枠 34.5mm L39フィルターでこだわってみた。

EL Nikkor 80mm F5.6

お手持ちの 52mmフードを活用するのもよい。 この例では、Ai マイクロニッコール 105mm F2.8S に付いていた HS-14 を装着した。 かなり深めのフードであるがケラレはまったくない。 ハレ切りにはかなり効果がある。スコーンとヌケのよい絵が期待できる。 フィルターは手元にあった Nikon 52mm L37cフィルターだ。

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