EL Nikkor 75mm F4N    Chapter 1

EL ニッコール 75mm F4N

新品未使用品のお道具である。レンズの前キャップはポンと上に乗せるスタイル。 パチンと閉まるわけではない。Nikonのロゴが入っている。

ニコンの資料によると、ELニッコールがひっそりと販売を中止したのは 2006年。 いらい、販売再開の気配もないので製造も販売も完全に終了したと言える。 このEL ニッコール 75mm F4Nは 10数年前だろうか、念のために標本として買っておいたものだ。 EL ニッコールを集めるつもりではなかったが、 新品未使用のデッドストック品が出たら入手しておこうと軽く決めていた。 こういうタイトな条件を付けると、めったにモノが出て来ないし、無駄に集めなくて済むからだ。

EL ニッコール 75mm F4N

コレクター様向けのご参考として、コンプリート・コンディションの揃い一式の姿を置いた。 これらが揃っていれば完品となる。 実際に写真の引き伸し用レンズとして使用する方や撮影用レンズとして実用する本格派写真家の方は、 レンズ本体があればよいのであって、ここまで気にすることはない。 それでも揃っていると気分はよい。

テクニカルデータ

EL Nikkor 75mm F4N

−焦点距離: 74.9mm
−最大口径比: 1 : 4
−最小絞り値: F22
−レンズ構成: 3群4枚
−基準倍率: 5X
−標準使用倍率範囲: 2X〜10X
−画角: 48度(5X の時)
−色収差補正波長域: 380nm〜700nm
−原板サイズ: 80mm⌀(6cm×6cm判)
−フィルター径: 40.5mm P=0.5mm
−マウント: ライカL39スクリューマウント
−全長: 33mm
−最大径: 51mm
−重量: 90g
−重量実測: 87.5g(製造番号 503147)
−重量実測: 68.5g(製造番号 531100)

−発売時期: 1982年 4月
−当時の価格:
   16,400円(1982年 6月)
   16,400円(1984年10月)
   16,400円(1985年12月)
   16,400円(1987年 1月)
   16,900円(1993年 7月)
   16,900円(1999年 9月)
   16,900円(2003年 6月)
   16,900円(2004年 6月)

(注)以下のデータは製品カタログに掲載されていないため未記載。

−口径蝕
−歪曲収差
−基準倍率における原板から画像までの距離

EL ニッコール 75mm F4Nのレンズ構成図(各部寸法入り)

レンズ構成図を見て驚いた。びっくりするほど簡素。よくいえばシンプルな 3群4枚。 パウル・ルドルフが百年前に考案したテッサーそのまんま。 教科書に出てくるレンズ構成図そのもの。 しかしながら次の章で示す実写画像のとおり、 現代のガラス材料を使って磨き上げたレンズは極めて鮮鋭で重厚な絵を叩き出す。

EL ニッコール 75mm F4N の立ち位置

価格情報は製品の立ち位置を知る上で重要な情報となる。 Nシリーズのレンズが全 7種ラインナップされていた時代の当時の価格を確認いただきたい。 EL ニッコール 75mm F4Nは、中判はブローニー判(6 X 6判)の写真引き伸し用である。 価格的にも入手しやすい中判用の入門レンズ的な存在だったので、数は比較的多く出たと思われる。

エル・ニッコール Nシリーズ 製品一覧
ニコン標準小売価格表(1984年10月 1日版)より

EL ニッコール 標準小売価格 原板サイズ
  40mm F4N 29,000円    35mm判
  50mm F2.8N 14,200円    35mm判
  50mm F4N 9,000円    35mm判
  63mm F2.8N 24,100円    35mmマイクロ・35mm判
  75mm F4N 16,400円    6x6cm判
  80mm F5.6N 21,000円    6x6cm判・6x7cm判
  105mm F5.6N 27,500円    6x9cm判

EL ニッコール 75mm F4Nは、2006年の販売終了からすでに10数年以上は経過しているので、 いま入手しようとすると中古品ということになる。 中古市場では潤沢に出回っており、普通に使うレベルのレンズだったら気軽な価格で入手できる。 時価はヤフオクあたりで見ていただければ理解いただけると思う。

2本のレンズ

ニコン・ゼットが世に登場した時に合わせて、EL ニッコール 75mm F4Nをもう 1本調達した。 これは普段使いのレンズとして用意したものである。 通常のUSEDコンディションだったのでお安くさくっと買えた。 さて 2本並べてみると、なにかすこし違う。

EL ニッコール 75mm F4Nのレンズ

左が前期型(製造番号 503147)。右が後期型(製造番号 531100)。

レンンズの重量のこと

テクニカルデータをよく見ていただきたい。

−重量: 90g
−重量実測: 87.5g(製造番号 503147)
−重量実測: 68.5g(製造番号 531100)

重量とはカタログに掲載されている、いわゆるカタログ値。 重量実測は、家庭用のデジタルスケール(TANITA KJ-114)で、 手持ちの現物を実際に量ってみた数値。試料によって19グラムの差がある。 このくらい重量が違うと手で持って比べただけでわかる。 カタログ値より20グラム以上軽い。

小型軽量の日本製10式戦車の重量は44トンあるらしいが、 この場合は20グラムの差は問題としない。 しかしこれがダイアモンドだったら話は違ってくる。 90グラムのダイヤモンドを買い、実際に重量を量ったら68.5グラムだった。 その差は21.5グラム。 1カラットは0.2グラムとして計算すると、107.5カラット。 なにやら想像がつかない金額だが、100カラットのダイヤは 26億円なんて話題も。

レンズの重量に着目してみたが、 前期型(製造番号 503147)と後期型(製造番号 531100)ではこれほど重量が異なる。

前期型と後期型

重量ばかりではなく外観上も大きく異なる。 前期型はレンズ前玉リム部分(化粧板)に「MADE IN JAPAN」と刻印が入っている。 鏡胴には3か所ほどプラスのビス(なべ小ネジ)で止めてあり、ガッチリ堅牢武骨な印象。 後期型はレンズ鏡胴部に「MADE IN JAPAN」とシールのようなものが貼ってある。 鏡胴にビスの打ち込みはなく、あっさりツルンとした印象。 あきらかにコストダウンまる出しとなっている。

ガッチリ堅牢武骨がよいか、あるいは、あっさりツルンがよいか、 このあたりは好みの問題であるが、 日本国製のプライドを示す「MADE IN JAPAN」がチープなシールとはいただけない。 日本の法律で禁止すべきである。

EL ニッコール 75mm F4Nのレンズ

なお製造シルアル番号は Nシリーズに共通であるが、 鏡胴の見にくいところにほとんど見えない彫り込みの浅さで、 おそらくレーザー加工だと思うが、か細い線でひっそりと入っている。

なお、この記事では前期型、後期型と区別したが、 市中に存在しているのはほぼ前期型が多い。 レンズ前玉の化粧板に「MADE IN JAPAN」と刻印が入っているモデルである。 MADE IN JAPAN と印刷されたシールが貼ってある後期型は数が少ない。

Nシリーズのレンズ使用上の注意

このレンズには、引き伸し機のランプの光を取り込み、絞り値を照明する機構が備わっている。 レンズ内に採光窓があるので、そのまま撮影用に使うと漏光の原因となると言われている。 解決方法は簡単で絞り値の表示部分を黒のパーマセルテープ等を貼って遮蔽すればよい。 私はこの簡単作法で撮影しているが、 本格派の方々にはレンズ底板のネジを外して明かり取り窓の位置をずらして取り付けている方も多い。

EL ニッコール 75mm F4N

しかしながら、黒テープを貼り忘れることがあっても気にすることはない。 夏の炎天下に意図的に絞り値の表示部分を強い直射日光に当てて撮影してみた。 何度も何回も実証実験を繰り返したがなんら影響はなかったのだから。

EL ニッコール 75mm F4Nのある風景

硬質感のある樹脂製の鏡胴は高級感があり、全体にバランスが取れて品よくまとまっている。 日本光学製のオプチカルフラットの木箱の上に置いてみた。 格式高いニス塗りの木肌に、EL ニッコール 75mm F4Nが美しく調和する。

EL ニッコール 75mm F4N

EL ニッコール 75mm F4N

実用面を考えると、ミラーレス機はもちろんだが、一眼レフに装着しても、 フランジ・フォーカル・ディスタンス(フランジバック)が長いので、 ヘリコイドを入れても余裕で無限遠が出る。 お手頃価格で入手できるならば、一本は手元に置いてよいレンズだと言える。

記事のご案内

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 では次のお話。   第 2 章    ニコン Z 写真帖 1

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