EL ニッコール 63mm F3.5 ● EL ニッコール 63mm F3.5の特長 特徴ではなく特長の話。 昭和二十三年に登場したニコンカメラ初号機の時代から、令和現在のニコン・ゼット機の時代まで、 焦点距離が63ミリのニコン製35ミリ判フォーマット用撮影レンズは存在しない。 例外的に写真引き伸し用のレンズのみ存在する。 開放F値が3.5の初代 EL ニッコール 63mm F3.5。 そして開放F値が2.8と明るくなった新世代の EL ニッコール 63mm F2.8N だけである。 旧型となる EL ニッコール 63mm F3.5 の色収差補正波長域は、 350nm〜700nmと玄人向けの技術資料に出ており、350nmの近紫外線域に踏み込んでいる。 その特性を生かした科学写真を撮影している方もいる。 EL ニッコール 63mm F3.5 を使って実験結果を記録し、 論文が掲載された学会誌をいただいたこともある。 EL ニッコール 63mm F3.5 は、フルサイズのミラーレス機との相性が極めて良い。 普通の撮影レンズとして使って、マイクロコントラスト特性に優れた性能を実感している。 清涼でダイナミックレンジが広い均一な精密描写は、現在でも斯界の優位に立つ。
EL ニッコール 63mm F3.5 ● テクニカルデータ EL Nikkor 63mm F3.5
−焦点距離: 63mm
−発売時期: 1966年 8月
(注)色収差補正波長域
EL ニッコール 63mm F3.5のレンズ構成図(各部寸法入り) ● ELニッコール 63mm F3.5の立ち位置 新世代の ELニッコール Nシリーズ最初の製品が登場するのが 1979年6月。 旧世代の ELニッコールが出揃っていた時代の後期に位置する 1977年12月の製品一覧を示す。 同カテゴリーの焦点距離のレンズ数本を前後に見てみると、 価格の点からも ELニッコール 63mm F3.5 は一歩前に出た、尖った存在だったことが理解できる。
ニコン産業用レンズ標準小売価格表(1977年12月21日版)より
● なぜ 63ミリなのか 写真工業 昭和49年5月臨時増刊「ニコン・テクニカル・マニュアル」 のエル・ニッコールの全般的な説明記事より、63mm F3.5の説明を以下に転載させていただいた。 著者は、日本光学の片桐文義氏・高橋正氏である。
EL ニッコール 63mm F3.5 の説明 「このレンズはマイクロフィルムの撮影にも使用できるほどの高い解像力をもち」 との熱い檄文が目に止まる。 マイクロ判のサイズは 32mm x 45mm と明確に説明されている。 「ネガサイズは 55.2mm⌀、35mmのマイクロ判用である」とのこと。 色収差補正波長域が 380〜700nm と一般的なエル・ニッコールの説明になっている。 なぜ 63ミリなのか。ライカ判は焦点距離 50ミリのレンズとなっている。 ブローニー判(6 x 6判)は75ミリ。 となるとその間のフィルムサイズであるマイクロ判は 63ミリのレンズとなる。 かなりアバウトな論ではあるが、そこは控えていただきたい。 ● 販売の終了 EL ニッコール 63mm F3.5 の発売時期はニコンの社史(75年史、100年史)で1966年 8月と確認できたが、 販売の終了はいつだろうか。 1980年2月15日付けのニコン標準価格表(普通のカメラ店でもらえるもの)に掲載されているのを確認した。 同年、1980年6月15日付けの同価格表には、EL ニッコール 63mm F3.5 に代わって、 開放 F値が F3.5から F2.8となり、 外観デザインも一新された EL ニッコール 63mm F2.8N が 24,100円で登場していることを確認した。 よって、EL ニッコール 63mm F3.5 の販売の終了は1980年の中頃と推測している。
EL ニッコール 63mm F3.5
EL ニッコール 63mm F3.5 ● EL ニッコール 63mm F3.5の使い方 レンズ構成図の図面から読み取れるように、 フランジ・フォーカル・ディスタンス(フランジバック)が 55mmある。 ニコン Fマウントのフランジバックは 46.5mm。 ニコンの一眼レフ(フィルム式、デジタル式)に、 L-F 接続リングを介して装着が可能である。ほぼ直付けで無限遠が出る。 しかしながら、ここにヘリコイドを入れると接写専用機にしかならなかった。 ニコン・ゼット機のフランジバックは 16.0mm。 フルサイズのミラーレス機となり、 フランジバックがニコン Fマウントの約 3分の1と大幅に短くなった効果は絶大だ。 M42ヘリコイドを入れて EL ニッコール 63mm F3.5レンズを装着しても、 無限遠から近接撮影まで余裕でカバーできるようになった。 撮影セットの一例を以下に示す。
ニコン Z 撮影セット おすすめのレンズ装着方法についてすこし。 ニコン Z マウントを M42マウントに変換する超薄型のアダプター(形状はリング)が良い。 具体的には、Pixcoの M42-Nikon Z Ultra-slim Adapter (Macro) を使っている。 これに手持ちの日本製 BORG M42ヘリコイドを入れた。 このヘリコイドは現在では終売になってしまったようだ。 しかし同等品のM42ヘリコイドは海外製ではあるが、安価に入手可能である。 M42ヘリコイドのレンズ取り付け側には、 変換リングを付けてライカ L39 スクリューマウントにしてある。 このままだとかなりのオーバーインフとなるので、中間リングを入れている。 ELニッコール用の純正オプションである、エルエクステンションリングだ。 この簡単装備で無限遠から近接撮影まで可能だ。 最短撮影距離は、距離基準マークから測って75センチ程度。 さらに接写したい場合は長めの中間リングを入れて解決。 フジフイルムの中間リングセットを挿入すると同じく最短25センチまで寄れる。 なお距離基準マークとは、カメラ上面に刻印されているマルに横一本線が入った目印のこと。 古くはフィルム面マーク、近代ではセンサー位置マーク、撮像面マークと言う人もいる。
土星マーク ネットで確認するとこの印は「土星マーク」と言うらしい。 うまいことを言うものだ。 情報の芯までたどり着いたわけではないと思うが、 ITmediaの荻窪圭さんが 2008年5月22日付け公開の記事で、 円を棒が貫いてる「土星」みたいなマーク、と言及されているのを確認した。 これからは「土星マーク」と呼ぶことにしよう。
40.5mm フィルターとフード付き フィルター径は 40.5mm。 ニコン純正品で、40.5mmネジ込み式フィルター 40.5NCがまだ入手可能なのでありがたい。 レンズフードは、ニコン純正品の40.5mmネジ込み式フード HN-N103 を装着した。 本サイトでは、ニコン純正の40.5mmネジ込み式フードは今のうちに買っておくべき、 としつこくアナウンスしてきたが、時は2022年秋現在、 すでにニコン純正 40.5mmレンズフード各種は、どうやらディスコンになってしまったようだ。
52mm フィルターとフード付き フィルター径を52mmに拡大させると、活用の範囲はさらに広がる。 簡単に入手できる市販の 40.5mm - 52mm ステップアップリングを介して、 アタッチメントサイズ(フィルター径)を52mmにした。 古くからのニコンファンならば、そこらに転がっている52mmフィルターや52mmフードが活用できる。 この例では、AI マイクロニッコール 105mm F2.8S に付いていた HS-14 を装着した。 かなり深めのフードであるがケラレはまったくない。ハレ切りにはかなり効果がある。 余計な入射光を遮断するので、スコーンと極めてヌケのよい絵が生成できる。 ● 記事のご案内 画像の上で左クリックすると、大きいサイズの画像を表示できます。 細部までを確認したい方はどうぞ拡大してご覧ください。 → 次は実写の写りを。 第 2 章 ニコン Z 写真帖 1 ショートカットはこちらからです。
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