EL ニッコール 50mm F2.8N 真夏の炎天下。写真の引き伸し用レンズが日光浴を楽しんでいる。 いつもは暗い暗室に暮らしていたので、太陽の自然光線なんて贅沢なものは見たことがない人生だった。 机の引き出しの片隅で、あるいは防湿庫の奥の奥で、何十年も使われないままではレンズの人権上問題である。 ● Nシリーズの誕生 ニッコール千夜一夜物語 「第六十四夜 EL-NIKKOR 80mm F5.6N」で、 Nシリーズが誕生した前後の時代がざっくりと語られている。 では Nシリーズの EL ニッコールが誕生したのは正確にはいつなのか。 何年何月くらいは知っておかないとまずい。 ニコンの社史を調べてみる。しかしこのあたりがきちんと説明されていない。 製品史にはいきなり飛んで1982年4月に EL 75mm F4N、同年12月に EL 50mm F4N が発売と出ている。 どういう理由でこの製品が最初に出てくるのかは意味不明である。 こと産業用レンズの枠組みにおいては、 100年史は 75年史の誤りを含めて中身の検証(裏付け確認)をせずにそのままのコピーなので役に立たない。 Nシリーズ第一号の製品が記録されていないのは困ったものである。 社史に忘れられているようだ。そうなると本サイトは俄然強くなる。 ここではっきりしておきたい。Nシリーズは昭和54年(1979年)6月21日に誕生した。 製品第一号は EL ニッコール 50mm F2.8N である。 具体的な一次資料、エビデンスを示す。 EL ニッコール 50mm F2.8N は 1979年 6月21日付けの 1枚ものパンフレットで、 新発売として登場した。 1979年 9月 1日付けのニコンシステムチャートには、14,200円(新発売)と価格が記載されている。
PDFデータはこちらからどうぞ。 >>> EL 50mm F2.8N DATA. pdf ● コンクール・コンディション 製品の発売当時オリジナルの雰囲気を残しているのは、デッドストック新品未使用のコンディションだ。 「モノは使ってナンボ」と言って使い倒すのも自由、 新品級コンデイションで当時の姿を出来るだけ忠実に後世に残すのも自由。 自分のお金でいわばボランティア活動なので、人からの論評などお呼びでない。
EL ニッコール 50mm F2.8N 製品としては初期ではなく、販売期間中盤のロットだろうか。 レンズの上にポンと乗せるフタ(キャップ)には、Nikon のロゴが浮いて見える。 スポンジはシカクである。 Nシリーズのレンズにはカチリと装着するレンズキャップは付属されていないので、 このフタをレンズに乗せて、 スポンジをはさみコンテナ(プラケース)のネジをきゅっと閉めて収納完了となる。
EL ニッコール 50mm F2.8N コレクター様向けの画像を示す。全部揃いの図である。 倉庫に眠っていたのか、販売店の片隅に残っていたかもしれないデッドストック品だ。 実際に販売されなかったので、販売カードがそのまま残っている。 販売カードの中には製品保証書が挟まれていて、 通常はこの保証書のみが購入者の手に渡る。 ● プライスタグから消費税導入の話 EL ニッコール 50mm F2.8N の新発売当時の価格は 14,200円。 1979年に 14,200円でスタートしたのである。 ところがこの標本に付属していたプライスタグは、12,900円になっている。 なんだこれは。 ニコンの製品史をリファレンスしてみると、 標準小売価格がある時一斉に値下げとなった歴史的事実がある。 50代以上の高齢者の方だったらリアルタイムに経験しているので記憶に残っていると思うが、 消費税の導入である。 1989年(平成元年)4月1日のことだった。 当時の消費税、税率は 3パーセントでスタートした。 それまでは、一眼レフカメラや交換レンズなど、いわゆる贅沢品には高い税率の物品税がかかっていた。 それが撤廃され、消費税に一本化されたのである。 身近な例では、ウイスキーなど大幅に税率が下がり、ずいぶん安くなったと実感したものだ。 特級とか一級のランクが廃止され表示がボトルからなくなった。 サントリーだったら、オールドが特級、ホワイトが一級、レッドが二級だった。 プライスタグ一つ取ってみても、このような時代考証が成立するので、 コンプリート・コンディションのコレクションは検証装置たる史料として重要であることがわかる。 ● テクニカルデータ EL Nikkor 50mm F2.8N
−焦点距離: 52.0mm
−発売時期: 1979年 6月21日 (注)以下のデータは製品カタログに掲載されていないため未記載。
−口径蝕
EL ニッコール 50mm F2.8N のレンズ構成図(各部寸法入り) ● EL ニッコール 50mm F2.8N の立ち位置 価格情報は製品の立ち位置を知る上で重要な情報となる。 Nシリーズのレンズが全 7種ラインナップされていた時代の当時の価格を確認いただきたい。 一般にカメラ店で購入できるカメラやレンズのユーザーは、 圧倒的に絶対数が多いのはアマチュアである。 写真引き伸しプリントを自分で行うアマチュアは、 まずは原板が 35mm判用のレンズを選んだ。選択肢の中では、50mm F2.8N が優位に立つ。 価格的には安価な 50mm F4N があったが、5千円の差で上級ランクのレンズが買えたわけだから、 やはり 50mm F2.8N が多く選ばれた。そんな背景から中古カメラ市場で現存数が多い。
ニコン標準小売価格表(1984年10月 1日版)より
● 設計は森 征雄氏 レンズ設計者の名前をオフィシャルに知る機会はめったにない。 そもそも社史には記載がない。製品カタログにはもちろん登場しない。 そんな背景において、ニッコール千夜一夜物語は貴重かつ最も信頼できる一次資料となる。 第九夜 NIKKOR 13mm F5.6。 佐藤治夫氏の説明によると、EL ニッコール 50mm F2.8N の設計者は森 征雄氏とのこと。 森 征雄(もり いくお)さんはあの脇本善司氏の右腕的存在だったと言う。 脇本さんが設計した初代 EL ニッコール 50mm F2.8 を改良設計したのが森さんなのだ。 EL ニッコール 50mm F2.8N の仕上がりを絶賛したのは脇本さんだったことが千夜一夜物語に言及されている。
EL ニッコール 50mm F2.8N Fマウントのニッコールレンズでは、スーパーレアで極めて貴重な NIKKOR 13mm F5.6を設計した 優れたレンズ設計者である森 征雄氏。 そんな森さんが設計した超小型高解像力レンズだ。劇的によく写るにきまっている。
EL ニッコール 50mm F2.8N EL ニッコール 50mm F2.8N レンズを水辺に置いた。 場の気配が一転し、空気も浄化され、後光が射してきた。 気立てが良く美しい鏡玉は数値計測では観測不可能なパワーを持つ。 ホンモノとはそういうものである。 ● Nシリーズのレンズ使用上の注意 Nシリーズのレンズには、引き伸し機のランプの光を取り込み、絞り値を照明する機構が備わっている。 レンズ内に採光窓があるので、そのまま撮影用に使うと漏光の原因となると言われていた。 ホントか。 私が苦節 3年間に渡り繰り返した実写による実証実験では、 真夏の炎天下ほか過酷な条件でも漏光による画像の影響は皆無だった。 いまだ一度も漏光が原因による光カブリなどの画像が撮れたためしがない。 なんら気にすることはない。 100万ショットに 1回くらいは光カブリがあるかもしれないと心配するならば、 絞り値表示窓にバンドエイドでも貼っておけばよい。黒パーマセルテープなら完璧だ。 しかし、レンズ底板のネジを外して明かり取り窓の位置をずらして取り付けるなどの無用な改造はもっての外。 これはやめないといけない。 ● 記事のご案内 画像の上で左クリックすると、大きいサイズの画像を表示できます。 細部までを確認したい方はどうぞ拡大してご覧ください。 → 次は実写の写りです。 第 2 章 ニコン Z 写真帖 1 ショートカットはこちらからです。
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