ウルトラマイクロニッコール 28mm F1.8初期型 ● ウルトラマイクロニッコールのスタンダード いま現在でも、アバウトにウルトラマイクロニッコールというと、一般的にはこの28mm F1.8レンズを指す。 それだけウルトラマイクロニッコール 28mm F1.8の現存数は多い。 多いといっても、希少種であることには違いないが。 爽やかに風が抜ける木陰の下。 ウルトラマイクロニッコール 28mm F1.8はライカL39スクリューマウントのため、 マウントアダプタさえ用意できればどんなカメラにもセット可能だ。 L-F接続リングを介してニコンFに取り付けてある。 この写真はウェブ掲載用に撮影したイメージ姿写真であって、 この状態では普通の一眼レフカメラで写真を撮影することはできない。 ピントが出ないのだ。ベローズ装置に付けて、長く伸ばしてもピントは出ない。 ミラーレスカメラではこの限りではないが、 フルサイズまたはAPS-Cサイズのデジタル一眼レフカメラに装着して撮影する方法は、「 UMN いかにマウントし使いこなすか 」で説明しているので参照してほしい。 ● 日本の果物は柿 柿にはウルトラマイクロニッコール 28mm F1.8がよくにあう。 むかしからよく言われていることだ。 のんびりした柿の木の下で、日本の秋を見つめている。
柿にウルトラマイクロニッコール 28mm F1.8とニコンF2チタン 上の画像は2001年当時に、現在では非力な150万画素のデジタルカメラで撮影した。 ジャギーにモアレが目立つ画像ではあるが、絵が力強く説得力があるのでそのまま残した。 レンズの気迫がよく出ていると思っている。 ● ウルトラマイクロニッコール 28mm F1.8の種類 ウルトラマイクロニッコール 28mm F1.8を分類してみると、 初期型と後期型にざっくり分けられ、後期型はさらに5つのタイプに分類できる。 以下に表にまとめてみた。 なお、このコンテンツでは、初期型について言及している。
● おおらかな初期型の存在感 ウルトラマイクロニッコール 28mm F1.8を生態系ごとに分類すると、かなりの数になる。 まず、初期型と後期型に分けられる。 後期型からh線用が製品化され、これをきっかけに、 e線用とh線用が明確に分けられて、主に企業や研究機関向けに販売された。 さて初期型の話だ。外観から見た特徴について説明したい。 レンズボディを横から見ると初期型は先がいくぶん細く仕上げてある。 後期型はストンと茶筒(円柱)のような形状なので比べるとすぐわかる。 コーティングはオーソドックスなパープルから深い瀬戸内海ブルーで、仕上げは美しい。 一般のカメラ用のレンズとは趣が異なり、涼しげな透明感があるのは、さすがである。 下の画像はニコン研究会でウルトラマイクロニッコールを持ち寄った時のもの。 28mm F1.8初期型だけでも3本が集まった。 先が細めという外観の特徴をよくとらえた画像なので掲載した。 ニコン研究会 2007年11月例会レポート より。
UMN 28mm F1.8初期型の外観の特徴 お気に入りのレンズなので、私はウルトラマイクロニッコール 28mm F1.8を4本所有している。 意図したわけではないが、集まっていた。 4本のウルトラマイクロニッコール 28mm F1.8のうち3本は、 ウィーン、ニューヨーク、ヨーロッパの海外から帰国した。 しかしこの初期型だけは、日本の出土品だ。 日本のネットオークションで入手した。 もっとも、出品者のお父さんが海外で買ってきたそうで、レンズは帰国子女となるようだ。 出品者さんのお話しによると、だれも使い方がわからないし、 カメラ店に聞いても何のレンズかわからなかったという。 長い間使われないでいたので、分かる人へ譲りたいとの出品だった。 やはり、レンズとの出会いは縁だ。2001年10月の話である。
レンズ前玉は小さいが精悍なコーティングの眼光は鋭い ● テクニカルデータ ウルトラマイクロニッコール 28mm F1.8の性能緒元をみてみよう。 初期型の性能緒元とレンズ構成図を示す。 ウルトラマイクロニッコール 28mm F1.8(初期型)
−焦点距離: 27.5mm
−発売時期: 1965年11月 以下の画像は縮小されているので画面で見ると少々薄いが、 画像上でクリックすると大き目のサイズで表示されるので確認していただきたい。
ウルトラマイクロニッコール 28mm F1.8(初期型)のレンズ構成図 レンズ構成は7群9枚。レンズ構成図に示すとおり、前玉も後玉も凹レンズ。 前玉が凹面というのは一眼レフカメラ用レンズではあまりなじみがない。 また前群2枚のレンズがごく薄いことに注目。 小さいわりにはゴツい鏡胴の仕上がりと重量感に比べて、 中のレンズ構成はかなりデリケートな造りとみた。
ウルトラマイクロニッコール 28mm F1.8(初期型)のレンズ各部寸法 ● テクニカルデータの考察 発売時期は、ニコンの社史(75年史、100年史)を参照し、1965年11月と確認した。 1966年9月のNikkor総合カタログに、 ウルトラマイクロニッコールのラインナップが掲載されているのを確認したが、 価格は示されていない。 当時の価格が知りたかったが、裏付けの取れる一次資料が長年見つからなかった。 しかしその後、「Nikkor」とタイトルの付いたパンフレットを入手できた。 日本光学工業株式会社が昭和44年(1969年)1月に発行した小冊子である。 ここにウルトラマイクロニッコール 28mm F1.8 の価格が掲載されていたのだ。 160,000円である。 昭和43年(1968年)〜昭和44年(1969年)の160,000円である。 現代の価値で考えるといくらぐらいか。 統計資料によると当時の大卒初任給は30,000円ちょい位らしい。 ● 昭和が生んだ伝説の極超高解像力レンズ 時代遅れとなった半導体製造装置に取り付けられていた、 ウルトラマイクロニッコール 28mm F1.8。 役目を終えたしまうと、そのほとんどが、日本では廃棄処分になってしまった。 研究開発目的であればなおさら、廃棄、ハンマーで砕かれる運命にあった。 税制のためかは知らないが、昭和が生んだ伝説の極超高解像力レンズは修羅場を見た。 海外では、まだまだウルトラマイクロニッコールが温存されている。 破壊から逃れたウルトラマイクロニッコールが、まだ日本への帰国を望んで生きている。 手を差しのべる機会はまだ、ある。
前玉が凹面のただものではない気配とオーラを放つレンズ ● 小さなスーパーハイエンド ウルトラマイクロニッコール 28mm F1.8 初期型。 レンズ構成7群9枚。基準倍率1/10倍。色収差補正は546nm(e-line)。 歪曲収差はたったの-0.06%だ。 ウルトラパワーが引き出す解像力スペックは、700本/mm!のスーパーハイエンド。 手になじんだカメラに着けてあげて、第二の人生をレンズにも。 望郷の夢をみるレンズが多いことを知ったのは、最近のことだつた。
木陰で思想するウルトラマイクロニッコール 28mm F1.8の知的な横顔 ● ウルトラマイクロニッコール 28mm F1.8の順方向マウント さて従来の35ミリ一眼レフカメラでは、このレンズを使用する場合は、 レンズをリバース(逆付け)してカメラやベローズ装置等に装着していた。 デジタル一眼レフであろうとフィルム式の一眼レフカメラであろうと、 従来の35ミリ一眼レフカメラでは、 このレンズのバックフォーカスが短かいことから合焦できなかったためである。 その問題が、 バックフォーカスが短かく撮像素子のフォーマットが小さいミラーレスカメラの登場により解決した。 レンズをリバースしなくても、レンズを順方向に装着して、ピントが出ることが確認できた。 ただし、順方向ではイメージサークルが小さいので、レンズを順方向に装着した場合は、 撮像素子のフォーマットが小さいカメラの方が有利である。 以下の画像は、ニコン研究会の例会(2009年9月)で、 実際にカメラに装着して撮影している様子を紹介する。 場所はカジュアルなレストラン。 東大駒場キャンパス内の「ブラッスリー ルヴェ ソン ヴェール 駒場」である。
大学キャンパス内の静かなレストランでレンズ談義
初期型のUMN28mm F1.8を順方向に装着し撮影している様子 ● フィルター径は40.5mm ウルトラマイクロニッコール 28mm F1.8はアタッチメントサイズが40.5mm(P=0.5)なので、 「Nikon 1」シリーズ用の40.5mmフィルターが活用できる。 ニュートラルカラーNCフィルターは無色透明のレンズプロテクションフィルターである。 ニコン純正で凛々しい「MADE IN JAPAN」の刻印が嬉しい。 同シリーズの40.5mmねじこみ式レンズフードは 「HN-N102」か「HN-N103」から選ぶことができる。 40.5mmレンズキャップは「LC-N40.5」である。 いずれも2021年現在まだ現行品で購入できるので、外歩きに用に気軽に使える。
ニコン純正品の40.5mm HN-N102 フードを着けた姿 また、このウルトラマイクロニッコール 28mm F1.8は、撮像素子が小さく、 バックフォーカスの短いミラーレスカメラならば、 レンズを順方向に装着して撮影が可能なので、レンズフードを装着した画像を示した。 アクセサリーの1つの提案としてお読みいただきたい。 ● 2018年ニコンミュージアムの展示から 「ウルトラマイクロニッコール展」において、ウルトラマイクロニッコール 28mm F1.8最初期型が、 ユニークなプレゼンテーション展示されていたのでここで紹介したい。 画像の上で左クリックすると大きいサイズの画像が表示されます。
ニコンミュージアム「ウルトラマイクロニッコール展」から 上の画像を大きく表示すると、レンズ性能諸元データが記載されるべき説明パネルに、 詳細不明と書かれてあるのがわかる。 レンズの外観上の特徴から初期型のように見える。 製造シリアル番号が28ではなく29で始まっているのが興味深い。
ウルトラマイクロニッコール 28mm F1.8 初期型(1967年) カメラ本体はニコンのミラーレスカメラ、Nikon 1 J5 ブラックボディである。 ライカL39スクリューマウントアダプターを介して、ウルトラマイクロニッコール 28mm F1.8の初期型がマウントされている。 この展示スタイルは、開催期間中このあたりに興味を持つ方々の間で話題になった。 それにしても初期型でこれほどの美品は珍しい。
Nikon 1 J5にフィットするウルトラマイクロニッコール 28mm F1.8 画像は、企画展 「世界最高解像度レンズの系譜 ウルトラマイクロニッコール」より紹介させていただいた。 開催場所は、東京・品川のニコンミュージアム。 開催期間は、2018年4月3日(火)〜6月30日(土)であった。 詳しいその全貌と記録は「 ニコンミュージアムUMN展レポート 」 をご覧いただきたい。 ● 2021年のあとがき このコンテンツのオリジナルは2001年10月当時に書いたものです。 その後2016年のサイト移動に伴う大幅な見直しで、 記述の修正や画像の追加を行いました。 さらに2017年の改版では、今となっては画像品質がよくない画像を一部取り下げ、 新たに撮影した画像と差し替えました。 2019年の改版では、 2018年ニコンミュージアムの企画展「ウルトラマイクロニッコール展」で展示された品目から、 ウルトラマイクロニッコール 28mm F1.8に関する展示を紹介しました。
Copyright Michio Akiyama, Tokyo Japan 2001, 2021
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