Printing Nikkor 105mm F2.8 Far Eastern Traditional Weekend

De Revolutionibus Orbium Coelestium
Printing Nikkor 105mm F2.8

コペルニクスとレンズ

プリンティングニッコール。プリントはそもそも印刷物である。 なにやら急に印刷物の上にレンズを置きたくなった。 印刷物といっても、 新聞のマンションポエムな広告の上ではレンズにすこしばかり申し訳ない。 古い印刷物がいい。手元にある資料にはみあたらない。 手元にないところから探し出す。書棚や書類の束を探ってみたら出てきた。 古き西洋の骨董稀覯本コレクションである。

コペルニクス「天球の回転について」ニュルンベルク、ラテン語。1543年の初版。 オリジナルは16世紀の印刷である。 1543年。ようやく印刷された本が届いたその日にコペルニクスはこの世を去ったという。 とうぜんレプリカであるが精巧に復元されたそれは、時代のくすみもいい味わいに再現されている。 コペルニクスの上にレンズを置いた。 こんな使い方をされるとは歴史的天文学者は思わなかっただろう。 それにしても古きニュルンベルクの印刷はいい仕事をしている。

ファー・イースタン・トラディショナル・ウイークエンド

古い昭和の日本映画のようなトラッドな週末

極東のジャパネスク・クラシックに佇む

Printing Nikkor 105mm F2.8
Far Eastern Traditional Weekend

プリンティングニッコール105mm F2.8レンズの情況的姿写真撮影のために、 日本の三大クラシックホテルはベタな極東のジャパネスク・クラシック、 箱根宮ノ下の富士屋ホテルで二泊三日のロケを敢行した。 箱根宮ノ下の富士屋ホテルといえば、明治11年(1878年)創業、 全館が博物館のような日本を代表するクラシックな本格派リゾート・ホテルである。

箱根登山鉄道「宮ノ下駅」
(撮影年は2004年8月)

箱根宮ノ下の富士屋ホテル

ホテル敷地内の温室もある植物園

トラディショナルなロビー玄関前、オリエンタル調サンルーム、 メインダイニングの前庭、資料室の蔵書庫、飛行機旅行の古い案内書の上に、 いま現代も最高の超精細画像ソリューション・レンズとして君臨する プリンティングニッコール105mm F2.8を配置してみた。 ピタリと情景に収まったのは、さすがレンズの格である。 ホテルの景色のよい撮影ポイントにレンズを置き、 プリンティングニッコール105mm F2.8について話をしてみたい。

オリエンタル調サンルームには東洋趣味の植物コレクション

プリンティングニッコール105mm F2.8

古い昭和の日本映画のようなシーン

昭和43年(1968年)。プリンティングニッコールは、ごく限られた世界で登場した。 75mm F2.8、95mm F2.8、105mm F2.8、150mm F2.8の4本である。
すでに プリンティングニッコール150mm F2.8 をコレクションしていたが、レンズは友をよぶものであり、 同じようなかたちをしてそままスケールダウンした プリンティングニッコール105mm F2.8を保護することができた。 このサイトをご覧の方ならご存知だと思うが、プリンティングニッコール・シリーズは、 劇場映画フィルムのオプチカルプリント専用の完全無収差超高級アポクロマートレンズである。

日本のクラシックホテルの静かな午後

完全無収差と完全色収差除去

劇場映画用フィルムの拡大率は非常に大きい。 なんといっても大きな劇場スクリーンへの投影が目的だ。 とうぜん劇場映画用フィルムのプリントは、完全無収差と完全色収差除去が必要条件となる。 ごくわずかな色のにじみさえも無い超高性能マクロレンズが、 プリンティングニッコールシリーズなのである。

もちろん、極限の高解像力と歪曲収差・色収差の完全除去を実現しているわけであるから、 世間はほっておいてくれない。 産業用分野、ことに超高精画像計測レンズとして、いまも現役(注)のスーパーレンズなのである。 現行製品で唯一のアポクロマートレンズであること、 そして歪曲収差が基準倍率で完全な無収差(ゼロパーセント)である点が、 このお化けレンズの存在理由だ。 ニコンも企業向けの製品カタログで、地味ながら控えめに次のように紹介している。

映画フィルムのオプチカルプリント用として開発したレンズですが、 産業分野における微細なパターンの検査・計測などの高精細画像の撮像用に最適です。
独特のレンズ構成によって諸収差を厳しく補正し、 特に色収差については最良の補正がなされたアポクロマートとなっています。
歪曲収差は、基準倍率で完全な無収差(0%)となっています。

(注)いまも現役
2016年現在、株式会社栃木ニコンから、 「ラインセンサ用高性能レンズ Nikon Rayfact」として現在もリリースされている。 ちなみにプリンティングニッコール105mm F2.8と仕様的に近い製品のおおよその価格は以下のとおり。

Nikon Rayfact 1.75倍  (100.2mm F2.8)  型式 L-OFM18113MN 132万円
Nikon Rayfact 1倍       (104.5mm F2.8)  型式 OFM10090MN     63万円

晴れの舞台はトラッドな金屏風で設える

テクニカルデータ

プリンティングニッコールはこのサイトで画像を公開している第一世代のレンズと、 レンズ構成が大幅に変わり鏡胴の塗装の質感が落ち着いた第二世代のレンズがある。 それぞれ、設計の根本であるレンズ構成枚数からして大きく異なり、 前期型、後期型というレベルのマイナーチェンジではないので、世代という概念で区別した。 まずは第一世代のレンズについて説明しよう。

(1)第一世代のレンズ

Printing Nikkor 105mm F2.8

出典:
日本光学工業株式会社 Nikkor
カタログ番号 8200-01G JC 403-2/Z 1974年2月1日発行
日本光学工業株式会社 Nikkor
カタログ番号 8200-02G JC 409-10 1
その他英語版資料による

−焦点距離: 105mm
−最大口径比: 1:2.8( ∞ にて )
−最小絞り: f/11
−レンズ構成: 4群12枚
−基準倍率: 1X
−標準使用倍率範囲: 1/1.5X - 1.5X
−画角: 14° 40′
−色収差補正波長域: 400nm〜800nm
−口径蝕: 0%(f/4にて)
−歪曲収差: 0%(1X にて)
−解像力: 未記載
−原画サイズ(基準倍率にて): 54mm⌀
−画像サイズ(基準倍率にて): 54mm⌀
−基準倍率における原画から画像までの距離: 405mm
−マウント: 45mm⌀ P=0.75mm ねじマウント
−フィルター径: 43mm⌀ P=0.5mm
−重量: 360g
−当時の価格: 280,000円(1974年 2月)
−当時の価格: 280,000円(1974年 6月)
−当時の価格: 280,000円(1976年 4月)
−当時の価格: 280,000円(1977年12月)

(2)第二世代のレンズ

次に参考として第二世代のレンズについて説明しておく。 日本国内向けのカタログ等一次資料には、プリンティングニッコール 105mm F2.8A と説明されている。 末尾のAは、マルA(丸の中にA文字)と表記されている資料もある。 ニューヨークのニコンが発行した英文カタログ 「Nikon Optics THE EYES OF INDUSTRY」 には、Printing Nikkor 105mm F2.8N と説明されているが、 外観と各部寸法ほか性能諸元データが一致するので同じものと考えている。 販売するエリアで名称を少し変えて管理したのだろうか。 いずれにしても、レンズ本体にAとかNの刻印が入っているわけではなく、 カタログや価格表などの紙資料だけに見ることができる。

Printing Nikkor 105mm F2.8A
Printing Nikkor 105mm F2.8N

出典:
株式会社ニコン Nikon Printing-Nikkor オプチカルプリント用レンズ
カタログ番号 8210-5 KJC 910-IZ/1 1989年10月1日発行
ニコン(米国ニューヨーク)発行 英語版カタログ
Nikon Optics THE EYES OF INDUSTRY

−焦点距離: 103.9mm
−最大口径比: 1:2.8( ∞ にて )
−最小絞り: f/11
−レンズ構成: 6群14枚(+保護ガラス2枚)
−基準倍率: 1X
−画角: 16° 25′
−色収差補正波長域: 400nm〜800nm
−口径蝕: 0%(f/4にて)
−歪曲収差: 0.0%
−解像力(f/2.8、e-lineにて): 240本/mm(中心、1X)
−解像力(f/2.8、e-lineにて): 180本/mm(60mm⌀、1X)
−原画サイズ(基準倍率にて): 60mm⌀
−画像サイズ(基準倍率にて): 60mm⌀
−基準倍率における原画から画像までの距離: 388mm
−マウント: 45mm⌀ P=0.75mm ねじマウント
−フィルター径: 43mm⌀ P=0.5mm
−重量: 375g
−当時の価格: 427,000円(1987年1月)
−当時の価格: 550,000円(受注生産品、1994.04.01)

コレクターズノート

このレンズは、レンズ本体に加えて、オリジナルの元箱に紙モノ(検査合格証)が揃いで入手できたので、 参考のためにその姿を見ていただきたい。

オリジナルの金箱と検査合格証

元箱はこの時代おなじみの金色の紙製ボックス。 コンパクトな箱に発泡スチロールのパッキング材できっちりと格納されている。 直筆サイン入りの検査合格証も揃っている。

レンズと検査合格証

検査合格証

透明ビニールケースに収まった検査合格証には、M. Kotaki(漢字だと小滝氏でよいのだろうか)の直筆サインが記されている。 成品検査責任者のサインである。

検査合格証の裏面はLENS DATAとして、測定した実測データが書き込まれている。 製品カタログに明示された焦点距離は105mm。実測データが106.3mmとは素晴らしい。

レンズの実測データ

歴史を語る史料展示室

プリンティングニッコール105mm F2.8を持って日本庭園を散策した。 夏草が元気に生きている。 ティーラウンジの裏庭が涼しい。 花御殿にある「富士屋ホテル史料展示室」は素晴らしいコレクションが常設展示されている博物館である。 蔵書庫には古い時代の洋書がその時代のまま残っており興味深い。 古い航空機旅行時代の貴重な案内書コレクションも必見である。 豪華で華やかな時代のパンフレットの上にレンズを置いた。

午後に日本庭園を散策する

箱根の山を背景に夏草の上

白い洋館の先にはティーラウンジの裏庭

富士屋ホテル史料展示室の蔵書庫には古い洋書のコレクション

古い航空機旅行時代の貴重な案内書コレクション

避暑地の夏の夕食

古い昭和の日本映画のような夏の夕刻

1978年夏。ジョン・レノン一家は、富士屋ホテルのフラワー・パレスに長く滞在したという。 3階の352 Chrysanthemum(菊)は1泊11万円のスイートだ。 登録有形文化財の各館をむすぶ紅色の絨毯の長い廊下には、歴史的写真が展示されている。 いちばん新しくて古い写真が、セピア色した音楽家一家のスナップである。

そろそろ夏の夕食の時間

メインダイニング

アルベルト・アインスタイン博士が、ヘレン・ケラーが、三島由紀夫が、 そしてジョン・レノン一家が夏の夕食をたのしんだメインダイニングに、 私はプリンティングニッコール105mm F2.8を置いた。 大倉陶園の藍淡く岡染め付けフジヤマ景色には、 時代の極超高解像力無収差レンズが似合う。 ヒグラシ聞こえて、箱根の山涼し。E=mc²

青いフジヤマ景色を眺める夏の夕食のはじまり

冷涼な前菜

メインレンズ

冷たいデザート

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撮影場所:箱根・宮ノ下 富士屋ホテル
Special Thanks to the Fujiya Hotel, Miyanoshita Hakone, Japan

本コンテンツの画像は、箱根・宮ノ下の富士屋ホテルで撮影したものです。 ホテル内および外観を含む写真をウェブサイトへ掲載するにあたり、 富士屋ホテル宿泊課様の許可承諾を得ています。

プリンティングニッコール105mm F2.8による撮影の方法

このレンズをどのようにしてカメラに装着するか。しばらくのこと悩んだものだ。 市販されている各種アダプタリングで試してみたが、 いくら探してもねじマウントのねじ径(45mm P=0.75)が合わない。 入手しやすいニコンのKリングにねじ込もうとするとブカブカだった。

ある時ひらめいて、レンズのねじマウントのねじ径を大きくする変換リングを入れれば、 Kリングにピタリと収まるのではないかと思いついた。 機械設計の専門家に協力してもらい工場図面を作り、 プリンティング・ニッコールを精度高くFマウントにするための変換リングを特注した。

下の写真画像でご覧のとおり、 Kリングのメスねじとレンズ(プリンティング・ニッコール)のマウントねじはサイズが異なる。 そのため、レンズのねじ径をかさ上げして大きくし、 Kリングのメスねじに合うように設計したアダプターである。 航空エアロパーツ用の最高級ジュラルミン(超超ジュラルミン)をブロックから削り出しで作っていただいた。 純国産の日本製である。 アダプターにはスリット溝が切ってあるので、きつく締めることもできるし、容易に外すこともできる。

試作1ロット分の10個のみを限定で製作した。 完成したことはとくにアナウンスしなかったが、本サイトをご覧になり 「どのようにカメラに装着しているのか」等のお問合せのあった方に紹介した。 この変換リングは希望された方に実費(1個3,000円)でお分けした。 なお2019年現在すでに完売してしまい、私の手元には自分用の1個しかなく、 お分けすることができないのでご容赦いただきたい。

プリンティングニッコール105mm F2.8をFマウントにする

プリンティングニッコール105mm F2.8による実写

焦点距離が105mmのレンズとなると十分に遠景(いわゆる無限遠)の撮影も容易に可能となる。 しかしながら、いろいろと試してみると、やはり、もともとのレンズ設計思想に準拠した、 近距離での撮影に高性能を発揮することが実感できた。

四季を通して持ち歩くことの多いこのレンズであるが、 日没後の夕刻のごく少ない光量での撮影から、 太陽を順光に浴びて輝く被写体も、大きく受け入れてくれる。 色収差はまったく見い出せず皆無と言える。

実写画像をクリックすると少し大き目のサイズの画像が出ます。

日没後に蛍光体のように青白く光るコスモス

野に咲き誇る山吹色のコスモスの群生

盛夏の葉っぱは生きているかんじがする

プリンティングニッコール105mm F2.8で撮影している姿

超絶的に美しい若い彼岸花と目が合った

生命体としての彼岸花は赤く躍動的だ

春寒い静かな桜に風の音が聞こえる

ブリリアントな桜の元気な朝に日本晴れ

プリンティングニッコール105mm F2.8

プリンティングニッコール105mm F2.8を使って撮影した画像は非常にいいかんじである。 なんといっても、劇場用映画フィルムのプリント用に設計されたレンズなので高性能はあたりまえのこと。 色収差は皆無で色彩はきわめてニュートル。もうこれを使うしかない。 金屏風の前で紹介したい気分はご理解いただけると思う。

金屏風には金箱が似合う

コペルニクスとレンズ

2018年ニコンミュージアムの展示から

「ウルトラマイクロニッコール展」において、 プリンティングニッコールの試作レンズほか製品版など興味深いレンズが展示されていたのでここで紹介したい。
画像の上で左クリックすると大きいサイズの画像が表示されます。

ニコンミュージアム「ウルトラマイクロニッコール展」から

プリンティングニッコールの展示品

プリンティングニッコール

プリンティングニッコールコレクション

プリンティングニッコール105o F2.8
左:試作レンズ(1971年)、右:(1968年)

プリンティングニッコール95mm F2.8と105o F2.8
左:95mm F2.8試作(1971年)、右:105mm F2.8(1971年)

画像は、企画展 「世界最高解像度レンズの系譜 ウルトラマイクロニッコール」より紹介させていただいた。 開催場所は、東京・品川のニコンミュージアム。 開催期間は、2018年4月3日(火)〜6月30日(土)であった。 詳しいその全貌と記録は「 ニコンミュージアムUMN展レポート 」 をご覧いただきたい。

2019年のあとがき

オリジナルのコンテンツは2004年8月に公開しました。 当時のコンテンツでは画像を数枚のみ掲載していましたが、 2016年の見直しにあたり、ストーリーの内容に合わせて、 当時に撮影した画像を追加しました。 追加した分も古い時代のデジタルカメラの画像のため、 ウェブに掲載するには今となっては画像が小さく品質もあまりよくないのですが、 当時の雰囲気や気分がよく出ているのでそのまま使いました。 さらに、プリンティングニッコール105mm F2.8による撮影の方法を説明し、 実際の撮影画像を追加掲載しました。

2019年の見直しでは、記事先頭と末尾に稀覯本とレンズの姿画像を新たに組み込み、構成を大きく変更しました。 元箱とレンズの画像を加えて大幅に内容を書き改めました。 本記事で紹介している第一世代のレンズの性能諸元データを、手持ちの資料から掲載しました。 合わせて、第二世代のレンズの性能諸元データも参考に示すことで、活用しやすいようにしました。
さらに、 2018年ニコンミュージアムの企画展「ウルトラマイクロニッコール展」で展示された品目から、 プリンティングニッコールに関する展示を紹介しました。

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