FR Nikkor 75mm F1.0

南南西の風 風力2 晴れ 1010ミリバール 正午をお知らせします

ガチで超スゴイ幻の F1.0光速ニッコールレンズ

For Real Lens。 ガチで超スゴイレンズ。ということか。 ブラックニコンにマウントされているレンズは幻の FR ニッコール 75mm F1.0 である。

私は数年前からツイッターなどSNSで画像を公開しているので、お気づきの方もおいでと思われるが、 それでも、産業用ニッコールレンズ、工業用ニッコールレンズに興味をお持ちの方でも、 このレンズのことをご存じの方は極めて少ないと思う。 「FR Nikkor 75mm F1.0」で画像検索しても、私が画像をアップしたものしか出て来ない。 ツイッターなどフロー型の環境下で書いたものが多いので、情報は流れ去ってしまうだろう。

FR ニッコール 75mm F1.0

カメラの国際オークションでいま最も有名なのがオーストリアのヴェストリヒト・オークション (WestLicht Auction)。 このオークションカタログにさえ、FR ニッコール 75mm F1.0 と表記されずに、 Repro ニッコール-O 75mm F2 ARと誤った表記が行われていた。2015年の話である。

昔からネット上にある情報では、Repro ニッコール 75mmと書かれた記事しかない。 裏付けを取る正確な資料がなかったと思われる。 このコンテンツの中で、製造メーカーであるニコンのオリジナルの一次資料を掲載し、 ことを正していきたいと思う。 サザビーズをはじめ世界的に有名なオークションのカタログは権威あるものと認識されており、 そのオークションカタログに記載されてしまうと、 誤りであってもそれが正しいものと信じ込まれてしまうからだ。

地上の成層圏を光速で疾走する FR ニッコール 75mm F1.0 の姿

2001年1月から15年間に渡りこの FR ニッコール 75mm F1.0 レンズの総生産台数(本数)を調査してきた。 得られた資料情報と世情実体が一致し、自分の持つ情報の正確性が担保できると判断できるようになった。 そんなもろもろの背景から、ここで情報を取りまとめ、 きちんとストックし後世に伝えておきたいので、本コンテンツに集約することにした。 資料性を高めるために、画像はクリックするとすこし大き目のサイズで表示するようにした。

珍しい国内出土

ニコン研究会のサイトをご覧になっている方ならば記憶に残っているかもしれないが、 FR ニッコール 75mm F1.0 No. 910155は 2006年5月にニコン研究会デビューを果たしている。

ニコン研究会に登場した FR ニッコール 75mm F1.0 No. 910155
(撮影年は2006年5月)

レンズ鏡胴に FR NIKKORとの刻印が入っていないために、 REPROニッコールと思い込んでいる方がいるが、FR ニッコールが正しい。 このレンズは、海外からではなく、日本国内で保護されたものである。 国内の研究機関で使用されずに、 あるいは予備の保守部品として保存されていたような雰囲気である。 未使用のデッドストック品だった。

親ツバメと目があった瞬間

駅舎の監視カメラの上にツバメの巣

FR ニッコール 75mm F1.0 のこと

すでにこのサイトでも取り上げているが、 リプロニッコール85mm F1.0 の生産は昭和43年(1968年)1月に開始された。 昭和52年(1977年)12月のニコン産業用レンズ価格表にも掲載されていることから、 長きに渡り生産されたものと思える。 その前身ともいうべき立ち位置に存在していたのが FR ニッコール 75mm F1.0 だった。

製造オーダー番号 64FL75。 生産期間は昭和40年(1965年)6月から昭和42年(1967年)6月。 記録によると総生産台数はたったの 65本。 この種の特殊用途ニッコールレンズの中でも極めて少ない。 製造番号の最初の 9101は捨て番と推測しているが、 これを否定するに十分な根拠は今のところ存在しない。

涼しい夏の朝

海外のオークションに何度か出現しているので数多く存在するように感じる。 が、その実体は同じレンズ(製造シリアル番号が同一)が時を変え、場所を変え、 開始価格を変えて(当然高額になる)出品されているだけのことである。 2001年から15年間の観測によると、 製造シリアル番号No. 910165を超える番号が確認できていないので、 総生産台数が資料のとおり 65本であることは担保できている。

いくら希少なレンズであっても一般の写真撮影用レンズであれば、 例えばライツ社の明るい高級手磨きレンズであっても、 非常に高額だった故にだいじに保存されていて、それなりの数が流通している。 しかしながら、工業用(産業用)ニッコールレンズの場合は、この種のレンズの宿命として、 レンズがマウントされた装置の運用期間が過ぎると、 こと日本においては装置ごと廃棄され残っていない。 ただ、比較的小さいレンズは残るケースがあった。 ネジマウントなので装置から取り外されて、 エンジニアの机の引き出しの中に残っていた運の強いレンズもいた。 あるいは、保守部品として予備の交換用部品の扱いで、 使われずに新品のまま倉庫で眠っていたケースもある。

全世界で 10本程度は残っているものと推測している。 推測の根拠は、この20年の間に私が所有しているものを含めて 5本市場に出現しているからだ。 そのうち2本は英国のコレクターの放出品。 高く売れることがわかれば市場に出てくるのは正しい姿ではあるが、 それにしても出現数が少ない。10本残っているとの推測は楽観しすぎだろうか。

どういうわけか、旧社会主義圏の東ヨーロパあたりで突然出てくることを観測している。 しかしよくトレースしてみると投資家の方の出品のようだ。 ひらたく言えば国際的な転売家の方。 経済活動は自由であるから、大人の感覚ではこれはこれでまあいいかなと思うが、 本当に必要と思われる人に適切な価格で渡ってほしいとするのが人情だ。 ともあれ、見かけたら保護してあげていただきたい。 日本が世界に誇る有形の工業文化遺産なのですから。

季節も色彩も変わる結界

英国の名門写真誌に登場

FR ニッコール 75mm F1.0 が写真誌に紹介された話をしよう。 写真誌といっても老舗の名門誌である。 いまもメジャーに刊行されている写真誌との条件であれば、 日本で最も古いのは「アサヒカメラ」だろう。 大正十五年(1926年)4月号として創刊。 この年の12月25日に昭和元年となる。古いといえば古い。

しかし大英帝国のそれは古さの格が数段上である。 ブリテッシュ・ジャーナル・オブ・フォトグラフィーの創刊はなんと幕末は嘉永七年(1854年1月)。 ペリーが 9隻の軍艦を率いて浦賀に来航した頃の話だから迫力が違う。 その歴史ある有名な英国の写真誌「The British Journal of Photography (BJP) 」 の 1967年8月4日号の 666ページに、 「NEW NIKKOR LENSES FOR THE INDUSTRIAL USER」 (産業向けニッコールレンズの新製品)と題して、 8本(8種類)の産業用・工業用ニッコールレンズが紹介された。

FR ニッコール 75mm F1.0 も取り上げられており、 外観写真とかレンズ構成図は無しの文字情報だけで、 レンズの性能諸元データがまとめてある。 私が調査した限りでは、写真誌に FR ニッコール75mm F1.0 が取り上げられた例は日本国内にはなく、 英国であることに興味を持った。

美しいパープルコーティングの FR ニッコール 75mm F1.0

テクニカルデータ

さて、前段の話が長くなってしまったが、 ここで性能の概略としての緒元を見ていただこう。 当時の日本光学製工業用レンズ群の資料に掲載されているデータを示す。 画像サイズが 24mm×36mm、焦点距離が 75mmのレンズであって、 解像力が 200本/mmというのは素晴らしい。

75mmのレンズといえば天下のライカ アポ・ズミクロンM f2.0/75mm ASPH. が君臨している。 こういった、世界的な名レンズと比べても楽しいだろう。 FR ニッコール 75mm F1.0 は 1965年に登場した古いレンズではあるが、 さすが弩級の性能を有するハイエンドなレンズなのである。

−焦点距離: 75mm
−最大絞り: F1.0 (∞にて)
−最小絞り: F16
−レンズ構成: 6群8枚
−基準倍率: 1X
−標準使用倍率範囲: 0.9X - 1.1X
ー画角: 16.4°(1Xにて)、17.2°(0.9Xにて)
−色収差補正波長域: 400nm〜650nm
−口径蝕: 0% (F2、∞にて)
−歪曲収差: 0.00%
−解像力: 200本/mm
−画像サイズ: 24mm×36mm
−基準倍率における原稿から画像までの距離: 201mm
−フィルターアタッチメントサイズ: 径48mm P=0.5mm
−レンズマウント: 径53mm P=0.75mm ねじマウント
−全長: 80.5mm
−最大径: 57.5mm
−重量: 340g
−重量実測: 348.0g

−発売時期: 1965年
−当時の価格:
   212,500円(1966年9月)

FR ニッコール 75mm F1.0 のレンズ構成図

FR ニッコール 75mm F1.0 のレンズ各部寸法

フロントとリア用48ミリキャップとオリジナルの本革ケース付き

販売当時の価格。これがなかなか判明しなかったが、 1966年で 212,500円とのニコンの一次資料が出てきた。 ネットで検索すれば、当時の大卒の初任給、 国電(JR)の初乗り運賃、コーヒー代(都内中央部の喫茶店)、 などのスケールが把握できる。 現在のリアルな感覚で言えば、200万円程度だったと私は思う。 ベラボウに高額ではない、でも個人で買うようなシロモノではないということだ。

製造番号55番は最後の方の製造ロットと思われる

最大絞り値 1:1.0 と並んで AR 1:2 の刻印が入る鏡胴

発売時期について

発売時期を記載するにあたり、ニコンの社史を確認した。 ニコン75年史・資料集の 73ページ。 製品史の産業用レンズの欄には RF 75mm F1 との記載がある。 ニコン100年史(英語版)には、1964   RF 75mm f/1 と出ている。 そもそも、FR 75mm F1 と書くべきところを、RF 75mm F1 になっている。 この誤りはとうぜん 100年史では修正されると思っていたが、 75年史の誤植がそのまま継承されてしまった。 次回のニコン200年史の刊行のさいには、 ぜひ私に産業用レンズの部分だけ校正させていただきたい。 まだ明らかな誤りがあるので。

そんな背景から、社史にある 1964年をそのまま書き写すのは危険である。 正しいのか調べてみた。 FR 75mm F1 の生産期間は1965年1月から1967年6月なので、 発売時期を1964年とするには無理がある。 1964年当時のカタログや価格表が確認できていない。 総合的に判断して、当サイトでは、発売時期を 1965年と記載した。

なお、すこし弁護をしておきたい。 ニコンの社史にある年月の意味は以下のとおり定義されている。

注:年月は原則として発売、出荷、受注開始のいずれかによる。

発売し、出荷という時系列は理解できるが、受注開始は発売、出荷よりも前と考える。 社史に出ている 1964年は、受注開始と考えると無理はない。

詳しいレンズの話

もうすこし詳しくこのレンズのことを説明したい。 しかしながら、性能データや特長などを想像や思い込みで書くわけにはいかない。 ネット上に掲載されている情報の中には、 出典が明らかでない情報の焼き直しによる焼き直しで情報が劣化しており参考にならないものもあるし、 個人の思い込みによる記述が目にあまるので、 当時の日本光学工業株式会社が発行した正式資料をそのまま以下に引用することにした。

資料を画像で貼れば事足りるが、あえて日本語のテキストに文字を起した。 googleの翻訳機能を使えば、およそ世界中の言語に翻訳できる。 きっとどこかに日本語であっても機械翻訳のソースとなるテキストを必要とする人がいることだろう。 資料の現物は下に示す。最初の2枚が日本語の日本国内版。次の2枚が英語の海外版。
いずれも画像上でクリックすると拡大表示されます。

FR ニッコール 75mm F1.0 の技術資料(日本語版)

FR ニッコール 75mm F1.0 の技術資料(英語版)

「Nikkor」日本光学発行 資料番号 BAOL 6503-69 昭和41年9月
当時の価格が記載された1966年9月版の資料から
スロバキアのマーチンさん(Mr. Martin Moravcik-san)提供

FR ニッコールの技術資料

FR ニッコールは、35ミリ判サイズをカバーする等倍撮影専用のレンズです。
画面から像面までの距離によって次の焦点距離のレンズが用意されています。

焦点距離 75mm
最大口径比 1:1.0 標準使用倍率範囲 0.9×〜1.1×
画面サイズ 35ミリ判(24×36mm)
画面から像面までの距離 201mm(1×にて)

焦点距離 150mm
最大口径比 1:1.4 標準使用倍率範囲 0.9×〜1.1×
画面サイズ 35ミリ判(24×36mm)
画面から像面までの距離 399mm(1×にて)  販売予定

35ミリ判、あるいはそれ以下の画面サイズを等倍前後の倍率で撮影する場合には、 マイクロニッコールが多く用いられています。
しかし、使用目的によっては、 明るさF3.5のマイクロニッコールよりも明るいレンズが要求されます。 この場合、単に明るさを追って、 F1.2とか、F1.4の大口径比をもつ一般写真用レンズを用いるのは必ずしも適当ではありません。
大口径の写真レンズは、通常無限遠の物体に対して設計されているため、 一般撮影においては良好な結果を示すレンズでも、 等倍撮影において良い結果を示すとはいえないからです。
FR ニッコールは、 このような目的を満たすため、等倍で高い解像力をもつ明るいレンズとして設計されたものです。 従って、等倍撮影においては、 他のいかなるレンズの追従も許さぬ極めて優れた性能をもっています。

レンズの特性

等倍設計のレンズは、無限遠設計のものに比べて収差の補正が困難であるため、 その数も少なく、わずかに写真製版用あるいは複写用の数種類があるに過ぎず、 明るさもF8前後の暗いものとなりがちでした。
ところが、FR ニッコールはこのような存在の考えを打破してつくられたもので、 等倍でF1.0(有効口径比でF2.0)ないしF1.4という大口径比をもっております。
高解像力で世界的に知られているマイクロニッコールと比べて、 数倍の明るさをもっているにもかかわらず、等倍撮影においては、 はるかに高い解像力を示すのが特長です。
有効FナンバーでF5.6に絞りますと、全面200本/mm以上の高解像力をうる事が出来ます。 ただし、レンズが明るく倍率による収差変化が大きいので、 使用可能な倍率範囲は0.9倍ないし、1.1倍と比較的狭い範囲に限られます。
FR ニッコールのもう一つの大きな特長は、入射瞳及び射出瞳がレンズのはるか遠方にある事です。 このため入射光束及び射出光束の主光線(絞りの中心を通る光線)は、 光軸と平行に近い状態になります。

図1 入射瞳、射出瞳と光束

この性質は前のレンズ系によって作られた像をそのまま引き継いで等倍に結像させる リレーレンズとして極めて好都合なもので、他のレンズでは得られない利点です。

応用

等倍の明るいレンズとして、FR ニッコールの使用法は種々考えられます。
第一には、光量の少ない現象の記録、 あるいは電子管の極めて高速度に変化する像の接写等に有用です。

第二の使用法としては、高解像力をもったフイルムの複製があります。 無限遠に近い状態でレンズを絞り込んで撮影された高解像力フィルム上の像は、 100本/mm程度の解像力をもっていると思われますが、 従来の等倍レンズは、暗い上に収差が大きくなって、 とてもこの値を再現する事ができませんでした。 しかるに FR ニッコールは、 たとえ微粒子フィルムにとられたものでも細部にわたって充分再現する事ができます。 また等倍撮影の場合、えてしてピント面はつかみにくいものですが、 このレンズは明るく極めて焦点深度が浅く、容易に像面を決定する事ができます。

第三には、リレーレンズとしての使用法があります。 FR ニッコールは、光速が平行に近い上にF1.0と極めて明るいため、 コンデンサーレンズを使用しないでも、 前のレンズ系による発散光束を大部分受け継ぐ事が出来ます。 通常形式のレンズは、入射瞳がほぼレンズの中心にありますので、光束を受け継ぐためには、 強度のコンデンサーレンズが必要となり、 そのため像の弯曲を生じてレンズ系のもっている解像力を低下させる原因となります。

従って FR ニッコールの性質は、リレーレンズとして極めて有利なもので、高い解像力と相まって、 像の合成がしばしば行われる映画あるいはテレビの光学系として欠く事の出来ないレンズです。 なおこのレンズをリレーレンズとして使用するには、前後の光学系との関係を考慮する必要があり、 場合によっては弱いコンデンサーを付け加えねばなりません。 レンズの配置が適当でないとケラレを生じますので 光学系を新たに組み立てる場合には遠慮なくご相談ください。

以上で、当時の日本光学工業株式会社が発行した正式資料の引用を終り。

FR の由来

ここで、レンズの刻印のことについて考察してみたい。 そもそも、FR ニッコールの FR とはどういう意味か。 もちろん、スラングの For Real ではない。何の略語だろうか。

1960年代中盤の日本光学工業株式会社が発行した各種技術資料を中心に、 フォトキナ発表資料(西ドイツ現地で配布された一次資料)までもあたってみた。 私が調査した限りにおいては、FR の意味が具体的に説明された資料はなかった。

しかしながら、1965年10月1日付けで当時の日本光学が製作した英文資料では、 Full Size Reproduction and Relay Lens Series ( FR Nikkor Series ) と説明があることから、FR ニッコールの FR とは Full size Reproduction ニッコールの略語である可能性が高い。 名前からして、後に続くREPRO ニッコールの元祖であることが理解できる。 以下の画像をクリックすると資料全体を表示します。

Full Size Reproduction and Relay Lens Series (FR Nikkor Series) , 1965

ARは何の略語か

次にAR 1:2 の AR とは何の略語なのだろうか。実効F値を示す略語として使われている。 実効F値の意味は検索するとたくさん解説されているので、そちらを参照していただきたい。 ARは何の略語か、手持ちの当時資料を精査してみたが、一次資料に基づく説明は見出せなかった。

ここで、一次資料とは当時の日本光学あるいは現在のニコンが発行した社史、 製品カタログ、取扱い説明書、価格表、広告等を指す。 写真雑誌などの新製品紹介記事は致命的なタイプミス (解像力を200本/mmとすべきところを100本/mmと書いてある等) が見受けられ、内外を問わず参考レベルの記念に読む程度としたい。

市販されたニッコールレンズ本体にARと刻印が入っているのは FR ニッコール 75mm F1.0 だけである。 例外的に、市販されず試作機となるが、 オッシロ50mm F1.2 こと Nikkor-O Auto 50mm F1.2 - 1.4 には A.R. 1:1.4 と刻印が入っている。 現物の画像は、2018年のニコンミュージアム企画展 「幻の試作レンズたち」レポート で見ることができる。

ARは何の略語か正確な裏付けが取れない状態がしばらく続いた。 そんな中で話は2019年1月のことである。 日本光学工業株式会社が発行した技術資料「REPRO-NIKKOR LENSES」を別件で調べていたら、 ARの略語の意味(フルスペル)が掲載されているのを発見した。 長い間手元にあった資料であるが、見落としていたのである。

まさかREPROニッコールの資料の中で説明されているとは思わなかった。 考えてみれば FR ニッコール 75mm F1.0 の発展形がREPROニッコールなので、 あるべきところに説明が入っていたわけだ。 以下の英文抜粋の画像をクリックすると資料全体を表示します。

ARは effective Aperture Ratio の略語

これをもって、ARは effective Aperture Ratio の略語であることがニコンの正式な一次資料で裏付けられた。

FR ニッコール 75mm F1.0 の使い方

本レンズをカメラにマウントする上で、きわめて重要なことがある。 FR ニッコール 75mm F1.0 のニコンオリジナルの仕様緒元を見ると、 レンズマウントが48mm P=0.5mmのスクリューと説明されている。 だがこれは、一般に言うところのフィルターサイズ(アタッチメントサイズ)なのだ。 とうぜんメスネジである。 カメラに搭載するマウントとなると図面を見ていただくとわかるのだが、 外側のオスネジを使うことになる。径が53mm P=0.75mmのネジマウントなのだ。

FR ニッコール 75mm F1.0 は、 リプロニッコール85mm F1.0と同じ径が53mm P=0.75mmのネジマウントであるために、 同じ専用のマウントアダプターを介してニコン一眼レフカメラに装着した。 専用のマウントアダプターについては本サイト内の こちらの記事 を参照していただきたい。

Fマウント化された FR ニッコール 75mm F1.0

FR ニッコール 75mm F1.0 が叩きだす珠玉の映像

実写のサンプルを見ていただきたい。 すでにファインダースクリーン上に明るい映像が浮き出ている。 総天然色の世界である。 ふだん見慣れたものでも、このレンズを通すとブリリアントな珠玉の映像世界が展開する。
(画像をクリックすると大き目のサイズで表示します)

さくら色に染まる季節 この品格ある清楚な写りには驚いた

さくら前線を支える生命体

桜花日本晴れ 白が純白に写る素晴らしさ

菜の花の引力 重厚な描写も得意

力強い花の重量感 空気感の写り方が特徴的

自然光線下で豊かな諧調と天然な発色

洗濯バサミの横顔 プラスチックさえも生きているように写る

明るい超高性能レンズなのに、 見た目は昨今のデジタル機用の明るいレンズ軍団に比べると、 なんとも小型で軽量である。 そのため、自然と持ち出す機会が多くなる。
缶ビール1本よりも軽いのだ。

FR ニッコール 75mm F1.0 だと写真は軽く俳句になる

記事製作日記

本コンテンツのオリジナルは2016年11月に執筆し公開したものです。
FR ニッコール 75mm F1.0 は、ごくわずかしか世の中に残っていないマイナーなニッコールレンズです。 ネットではレンズの名称さえも誤っており、不正確な情報が伝搬されていました。 ここで正しい情報を再確認するために、 機能の詳細からレンズを使った実際の写りまでウェブで公開することにしました。

実際の写りはご覧のとおりで、フイルムの複製用途をも狙った高性能レンズだけあって、 色彩はきわめてニュートラル、そしてダイナミックレンジの広い描写をします。
いくら珍しいレンズだからといって防湿庫の飾りとせずに、 実際にフィールドで撮影に使って楽しいレンズといえるでしょう。

2018年の夏のことです。 スロバキアのブラチスラヴァ在住の写真家であってニコンのスーパーコレクターでもある、 マーチンさん(Mr. Martin Moravcik-san)から 1966年当時の価格が記載されたニコンの資料(日本語版)が送られてきました。 長い間、私の手持ちの資料では販売当時の価格が判明せず、空白となっていた情報です。
たった1行、文字数にすると、わずか6文字の情報ですが、 信頼できる一次資料に巡り合うまで12年を要しました。 情報とはそういうものです。 ネットにさりげなく置かれた情報でも、実は時間と手間がかかっているのです。 その世界を先行するとはそういうことなのです。 スロバキアのマーチンさんありがとうございました。

2019年1月のことですが、レンズ本体に刻印されているARの略号の意味(フルスペル) が手持ちのニコンの正式一次資料より判明しました。 「ARは何の略語か」とサブタイトルを付けて記事を新たに追加しました。

なお参考のために説明しておきますが、 当サイトで公開しているニコン製品のデータ(仕様、説明、レンズ構成図等)は、 包括的に、株式会社ニコンへ正式に掲載許可申請を行い、 株式会社ニコンより正式に掲載許可を文書で得ています。
(許可申請日 2002年12月18日、許可受領日 2003年 6月13日)

2022年のあとがき

本記事は2016年11月に初稿を公開していらい、 新しい事実の出現ごとに記事の増強を重ねてきました。 いつの間にか 1本にしては長すぎる記事となりました。 Nikon Z 機による実写作例を入れる時が来たら、 記事を分割して読みやすくしたいと考えています。

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