![]() リプロニッコール 85mm F1.0 スーパーソニック・マクロレンズ ● 最初に手にした工業用ニッコールレンズ リプロニッコール 85mm F1.0。 このレンズは私にとって記念碑的存在である。 いちばん最初に入手した工業用ニッコールレンズ(産業用ニッコールレンズ)なのである。 この種のレンズに興味を持つきっかけとなった。 もしこのレンズを手にしなかったならば、RED BOOK NIKKORサイトは生まれなかっただろう。
時代はWindows95が世に出た1990年代は半ばの頃。
写真家の田中長徳さんが主宰されていたアルパ研究会。
月に1回都内で例会が開かれていた。多くのカメラファンが集まった。
1996年2月のこと。
会員として来ていたなじみのクラシックカメラ店の店長から、
「こんなレンズがあるんだけど。ニコンだから好きでしょ」と手渡された。
みたことのないレンズだった。値段も、相場も知らない。
店長のほうも事情は同じだった。 高速から超音速へ、そして光速の世界。 そう光速ニッコール。リプロニッコール 85mm F1.0。 なにもレンズ銘が印刷されていないニコンの紙箱に収納されていた。 Nippon Kogaku Tokyoの光学マークロゴが浮き彫りになっているキャップは、48ミリ径。 フロントとリア、実際にはその区別はないが、 オリジナルの48ミリキャップが2個付属していた。 検査合格証のサインは佐川剛(サガワ タケシ)氏である。
![]() 検査合格証(サガワカード)付き ● 輝かしい顔のレンズ 1970年頃に印刷されたニコンの総合カタログがある。 カメラ店に置いてあるそれではなくて、 どうも工場見学かなにか宣伝広報、イベント用につくられた小冊子のようだ。 そこに写真が出ていた。 その後、工業用レンズも掲載されたニッコールカタログをマニヤの方からいただいた。 カタログには、リプロニッコール 85mm F1.0が輝かしい顔をして載っていた。 1974年当時の価格で30万円。 レンズ構成 8群12枚。基準倍率 1×。歪曲収差が 0%。重量約 630g。 えらいレンズを手にしてしまったものだ。
元箱の底には手書きでレンズ名略称と製造シリアル番号がボールペンで書かれている。
![]() 箱の底にボールペンで手書きの銘は本物の証 ● テクニカルデータ 当時の日本光学製工業用レンズ群の資料をよく調べてみた。 とんでもないハイエンドの世界に驚愕した。 最初に性能と機能があって、価格は度外視の極超高解像力レンズの存在を知ることになる。 当時のニコンのオリジナル資料から性能諸元とレンズ構成図を転載させていただいた。
出典: リプロニッコール 85mm F1.0
−焦点距離: 87.5mm
−発売時期: 1967年 リプロニッコール 85mm F1.0のレンズ構成図を示す。 日本光学工業株式会社が発行した正式な技術資料から転載させていただいた。 クリックするとすこし大き目の図面が出るので正座して姿勢を正して鑑賞したい。 8群12枚の完全対称型の美しいレンズ構成。 寸法入りの図面からは、53mm P=0.75のネジマウントということが確認いただけるだろう。
![]() リプロニッコール 85mm F1.0のレンズ構成図
![]() レンズ構成図各部寸法入り ● 化け物レンズ
その当時は、資料を眺めるだけで満足だった。 非現実的な、たとえばマクロで開放 F1.0という高速レンズ。 でも、いざ手にしてみるとそのズシリとくる質感、どこまでもクリアな光学ガラス、 上質のメッキが施され数字が彫刻された金属加工の様式美には感動すらおぼえる。 コーティングの美しさは、一眼レフカメラ用レンズとは違うおもむきがある。 ひかえめなのである。 気が付くと、ちょっとずれた道を歩いていたのだつた。 リプロニッコール 85mm F1.0は日本光学が生んだ化け物レンズなのだ。 ● ニコンFマウント化 レンズを入手したものの、ニコン一眼レフカメラに装着できない。 リプロニッコール 85mm F1.0は、径が 53mm P=0.75mmのネジマウントなのだ。 52mmだとニコンのカメラ用接写リングセットとか、なにか工夫すればマウント可能だと思うが、 この中途半端な53mmだとお手上げだった。 結局、専用のマウントアダプターを特注で作った。 書いてしまうとたった 1行ではあるが、ここに至るまでには数々の試行錯誤があった。 しかしながら、 三次元CADを使った機械設計に詳しい専門技術者の設計協力と助言を得られることになり、 特注で限定生産してもらえることになった。 この専門技術者の方には、 工場に出す図面製作から製造手配まで、ボランティアでやっていただいた。
![]() 開発した53mmマウントアダプター ● リプロニッコール 85mm F1.0のFマウント化を実現
2004年8月にはマウントアダプターのプロトタイプが完成し、ニコン研究会でお披露目した。
秋には、いくつかのレンズを使って適合性を多摩川のフィールドで検証した。
実証試験して実際に使ってみて人にお奨めできるものが出来たと確信。 この53mm−ニコンFマウントアダプターは、 リプロニッコール 85mm F1.0だけではなく、ポピュラーなELニッコールを含む、 以下の多数の産業用ニッコールレンズにネジマウントが適合したので、 たった数日で予定数の全部が完売となった。
![]() リプロニッコール 85mm F1.0がFマウントになった
![]() ニコン一眼レフカメラに装着したリプロニッコール 85mm F1.0 ● 2021年のあとがき このコンテンツのオリジナルは2001年11月当時に書いたものです。 2016年のサイト移転に伴う見直しで、新たに撮り下ろした画像を入れ、 レンズを購入したいきさつやFマウント化した話を盛り込みました。 2019年にはレンズの性能諸元データを見直し書き改めました。 さらにすべての画像についてクリックすると大き目のサイズで表示するように直しました。 細かいところを確認したいコアなマニアの方には納得いただけると思います。
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