Repro Nikkor 85mm F1.0 Supersonic Macro Lens

リプロニッコール85mm F1.0 スーパーソニック・マクロレンズ

最初に手にした工業用ニッコールレンズ

リプロニッコール85mm F1.0。
このレンズは私にとって記念碑的存在である。 いちばん最初に入手した工業用ニッコールレンズ(産業用ニッコールレンズ)なのである。 この種のレンズに興味を持つきっかけとなった。 もしこのレンズを手にしなかったならば、RED BOOK NIKKORサイトは生まれなかっただろう。

時代はWindows95が出現する1995年頃の話だ。 写真家の田中長徳さんが主宰されていたアルパ研究会。 月に1回都内で例会が開かれていた。多くのカメラファンが集まった。 会員として来ていたなじみのクラシックカメラ店の店長から、 「こんなレンズがあるんだけど。ニコンだから好きでしょ」と手渡された。 みたことのないレンズだった。値段も、相場も知らない。 店長のほうも事情は同じだった。
「いくらだったら買う?」
この言葉にはよわい。 ほんとにそのレンズのことを知らなかったから、 大人のおこづかいていどの金額を示したら、それで商談成立。

高速から超音速へ、そして光速の世界。 そう光速ニッコール。リプロニッコール85mm F1.0。 なにもレンズ銘が印刷されていないニコンの紙箱に収納されていた。 Nippon Kogaku Tokyoの光学マークロゴが浮き彫りになっているキャップは、48ミリ径。 フロントとリア、実際にはその区別はないが、 オリジナルの48ミリキャップが2個付属していた。 検査合格証のサインは佐川剛(サガワ タケシ)氏である。

検査合格証(サガワカード)付き

輝かしい顔のレンズ

1970年頃に印刷されたニコンの総合カタログがある。 カメラ店に置いてあるそれではなくて、 どうも工場見学かなにか宣伝広報、イベント用につくられた小冊子のようだ。 そこに写真が出ていた。 その後、工業用レンズも掲載されたニッコールカタログをマニヤの方からいただいた。 カタログには、リプロニッコール85mm F1.0が輝かしい顔をして載っていた。 1974年当時の価格で30万円。 レンズ構成8群12枚。基準倍率1×。歪曲収差が0%。重量640g。 えらいレンズを手にしてしまったものだ。

元箱の底には手書きでレンズ名略称と製造シリアル番号がボールペンで書かれている。
生産数が少ないためか、印刷した製品シールはもちろん、 箱用のゴム印さえも用意していなかったようである。手で書けば用は足りる。 そのあたりが日本光学らしい。
もっとも検査合格証に押してあるゴム印を使えばいいんじゃないかと思うが、 検査合格証にサインを入れる部門と元箱の底に製造シリアル番号を記入する部門は異なるのだろう。 そのあたりが日本光学らしい。

箱の底にボールペンで手書きの銘は本物の証

テクニカルデータ

当時の日本光学製工業用レンズ群の資料をよく調べてみた。 とんでもないハイエンドの世界に驚愕した。 最初に性能と機能があって、価格は度外視の極超高解像力レンズの存在を知ることになる。 当時のニコンのオリジナル資料から性能諸元とレンズ構成図を転載させていただいた。

出典:
日本光学工業株式会社 LENS DATA 1968.6 Repro-NIKKOR および
日本光学工業株式会社 REPRO-NIKOR LENSES(英語版)
カタログ番号 KBL 8702-910 (E) 1965年10月1日発行

リプロニッコール85mm F1.0

−焦点距離: 87.5mm
−最大口径比: 1:1.0 ( ∞ にて )
−最小絞り: F8
−レンズ構成: 8群12枚
−基準倍率: 1X
−標準使用倍率範囲: 0.9X - 1.1X
ー画角: 14°(1Xにて)、14.8°(0.9Xにて)
−色収差補正波長域: 400nm〜650nm
−口径蝕: 0%(F2.3にて)
−歪曲収差: 0%
−解像力: 200本/mm
−画像サイズ: 24mm×36mm (43.2mm⌀)
−基準倍率における原画から画像までの距離: 224mm
−フィルター径: 48mm P=0.5
ーマウント: 53mm P=0.75 ねじマウント
−重量: 640g
−当時の価格: 250,000円(1968年 6月)
−当時の価格: 250,000円(1969年 1月)
−当時の価格: 300,000円(1974年 6月)
−当時の価格: 300,000円(1977年12月)

その当時は、資料を眺めるだけで満足だった。
とても実物が手にできるとも、また、実物が存在するとも知らなかったのだ。

非現実的な、たとえばマクロで開放F1.0という高速レンズ。 でも、いざ手にしてみるとそのズシリとくる質感、どこまでもクリアな光学ガラス、 上質のメッキが施され数字が彫刻された金属加工の様式美には感動すらおぼえる。 コーティングの美しさは、一眼レフ用レンズとは違うおもむきがある。 ひかえめなのである。

気が付くと、ちょっとずれた道を歩いていたのだつた。 リプロニッコール85mm F1.0は日本光学が生んだ化け物レンズなのだ。

リプロニッコール85mm F1.0のレンズ構成図

リプロニッコール85mm F1.0のレンズ構成図を示す。 日本光学工業株式会社が発行した正式な技術資料から転載させていただいた。 クリックするとすこし大き目の図面が出るので正座して姿勢を正して鑑賞したい。 8群12枚の完全対称型の美しいレンズ構成。 寸法入りの図面からは、53mm P=0.75のネジマウントということが確認いただけるだろう。

レンズ構成図各部寸法入り

ニコンFマウント化

レンズを入手したものの、ニコン一眼レフカメラに装着できない。 リプロニッコール85mm F1.0は、径が53mm P=0.75mmのネジマウントなのだ。 52mmだとニコンのカメラ用接写リングセットとか、なにか工夫すればマウント可能だと思うが、 この中途半端な53mmだとお手上げだった。

結局、専用のマウントアダプターを特注で作った。 書いてしまうとたった1行ではあるが、ここに至るまでには数々の試行錯誤があった。 しかしながら、 三次元CADを使った機械設計に詳しい専門技術者の設計協力と助言を得られることになり、 特注で限定生産してもらえることになった。 この専門技術者の方には、 工場に出す図面製作から製造手配まで、ボランティアでやっていただいた。

開発した53mmマウントアダプター

リプロニッコール85mm F1.0のFマウント化を実現

2004年8月にはマウントアダプターのプロトタイプが完成し、ニコン研究会でお披露目した。 秋には、いくつかのレンズを使って適合性を多摩川のフィールドで検証した。 実証試験して実際に使ってみて人にお奨めできるものが出来たと確信。
2005年2月にはウェブ上で同好の方に声をかけ、 共同購入という形で試作の1ロット分(10個)作ってもらい、 希望者には製作実費を均等割りして買っていただいた。

この53mm−ニコンFマウントアダプターは、 リプロニッコール85mm F1.0だけではなく、ポピュラーなELニッコールを含む、 以下の多数の産業用ニッコールレンズにネジマウントが適合したので、 たった数日で予定数の全部が完売となった。

  • FR Nikkor 75mm F1.0
  • EL Nikkor 150mm F5.6
  • APO Nikkor 150mm F9
  • APO Nikkor 180mm F9
  • APO Nikkor 210mm F9
  • APO Nikkor 240mm F9
  • APO Nikkor 300mm F9、など。

リプロニッコール85mm F1.0がFマウントになった

ニコン一眼レフカメラに装着したリプロニッコール85mm F1.0

2019年のあとがき

このコンテンツは2001年11月当時に書いたものがベースになっています。
2016年の見直しにあたり、レンズを購入したいきさつや、 その後の2004年にFマウント化した話を盛り込みました。 画像は、ストーリー展開にふさわしいものに変更し、差し替えしてあります。 レンズ構成図は日本光学工業株式会社が発行した正式な技術資料から転載させていただきました。
2019年には、レンズの性能諸元データを見直し、 複数のニコン正式資料との突き合わせを行い、足りないところを補い、より詳しい説明に書き改めました。

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