MACRO Nikkor 12cm F6.3 Strawberry Red

Vintage but Modern Pieces
The MACRO Nikkor 12cm F6.3
For Scientific Photographers
LENS MADE IN JAPAN

MACRO Nikkor 12cm F6.3 and Nikon Z 6

ストロベリーレッド

「赤いイチゴ」はショートケーキの主役である。 白い生クリームの上に赤いイチゴがのって完結する美がそこにはある。 レンズにイチゴをのせるわけにはいかないので、 レンズの黒い鏡胴に赤いエナメルでラインを入れてある。 顕微鏡の対物レンズのように、倍率で色分けしている。 赤が低倍率で白は高倍率なのは、マクロニッコールは顕微鏡の親戚だからだろう。 マクロニッコール12cm F6.3の赤はストロベリーレッドである。

マクロニッコール12cm F6.3

赤いラインのマクロニッコール12cm F6.3

マルチフォト専用レンズ

マルチフォトのカタログに、赤いラインのマクロニッコール12cm F6.3を2本置いてみた。 大型マクロ写真撮影装置(MULTIPHOT)のカタログは、1991年1月1日版。 おそらくこれが最後の版だと思われる。いまでは、このカタログさえも貴重品だ。

カラーアート紙12ページの科学機材用のそれのようなカタログには、 マクロニッコールレンズの紹介と装置を使った撮影方法が説明されており、 なかなかマニヤックでよい。 表紙のベースカラーは枯れた茶色基調の、日本の伝統色は赤銅色(しゃくどういろ)だろうか。 クールさを全面に出すカメラやレンズのカタログではありえない、 渋くて地味な色使いとなっているのが信頼できる。

マルチフォト専用レンズ
(撮影年は2001年11月)

ニコンから正式にレンズの性能諸元が公開されていないため、レンズ構成図ほか不明である。 重量だけは実測できるので、家庭用のデジタルスケール(TANITA KJ-114)で調べてみた。 サンプルは手持ちの3本。初期型が1本に後期型が2本である。

製造シリアル番号 12000番代(初期型)が 193.0g。 同じく 14000番代(後期型)が 192.0g。15000番代(後期型)が 204.5g。 見た目は同じだが10グラム程度の差がある。初期型と後期型の差はないように思える。 サンプル数が少ないので手元の事実だけであって、全体像の推測は控える。 製品カタログや価格表など公知の範囲で得られる情報と実測できる数値データをまとめてみた。

マクロニッコール12cm F6.3

−焦点距離: 120mm
−鏡胴帯の色: 赤
−最大口径比: 1 : 6.3
−絞り目盛り: 1、2、3、4、5、6、7
−基準倍率: 1X
−標準使用倍率範囲: 1/3X 〜 4X
−フィルター径: 38mm P=0.5
−マウント: ライカL39スクリューマウント
−全長実測:
   49.00mm (製造番号 12800番代 前期型)
   48.40mm (製造番号 14000番代 後期型)
   48.25mm (製造番号 15800番代 後期型)
−最大径実測:
   50.00mm (製造番号 12800番代 前期型)
   50.00mm (製造番号 14000番代 後期型)
   50.00mm (製造番号 15800番代 後期型)
−重量実測:
   193.0g (製造番号 12800番代 前期型)
   192.0g (製造番号 14000番代 後期型)
   204.5g (製造番号 15800番代 後期型)
−付属品: 前キャップ(金属製)、後キャップ(樹脂製)

−発売時期: 1968年
−当時の価格:
     21,400円 接続リング付(1970年 2月20日版価格表より)
     21,400円(1970年 7月10日版カタログより)
     24,500円(1972年 7月01日版カタログより)
     24,500円(1973年 1月)
     32,000円(1973年12月)
     54,000円 接続リング付(1979年10月)
     64,000円 接続リング付(1980年 4月)
     85,000円 接続リング付(1993年6月1日版価格表より)
   100,000円 接続リング付(1997年11月26日ニコンより回答)

前期型と後期型の話

マクロニッコールは、大きく分けて前期型と後期型がある。 前期型は絞りプリセットリングのローレット加工が細かい。 後期型は絞りプリセットリングのローレット加工がざっくりと荒い。

使いやすさでは、 後期型のほうが絞りプリセットリングのローレット加工が指にしっかりとなじみ、 優位と思える。 しかし、機械的美しさはローレット加工が細かい方が優れているという方もいるので、 好みの問題といえるだろう。

左が前期型、右が後期型

レンズ鏡胴の彫り込みにも注意したい。 前期型はNippon Kogaku Japanと文字が重厚な彫刻で刻印されている。 後期型はNikonとのみ入っている。 どちらも文字の刻印はシャープで仕事が精密だ。

L-F接続リングにも、大きく分けて前期型と後期型がある。 前期型は硬質の金属削り出しで、光沢のある黒金属仕上げとなっている。 後期型は軽金属合金製となり、つやを抑えた金属仕上げとなっている。 なお、ネジと位置とか数、それに加えてマイナスネジかプラスネジかで分類すると、 さらに話が広がるがまずはここまでとしておきたい。 それでも広がる話に興味がある方は、 こちらをご覧いただきたい。

最後のセンチ表示

赤いエナメルのラインは、手作業で入れたように、きちょうめんにキッチリと引かれている。 こういう芸は技であって、いまどきのニコンレンズではお目にかかれない。
1991年のカタログに掲載されているマクロニッコール12cm F6.3は、 ミリでなくセンチ表示である。なぜセンチ表示にこだわったのか。

ほかの文字列の刻印は前期から後期で変更されているので、古い仕様のまま製造されたとは考えにくい。 ニコンのレンズ史上、最後の最後までセンチ表示にこだわり、 断固としてすじを通してセンチ表示を敢行したレンズなのである。 褒めてあげたい。

絞りリングのスムースさは、ほかに比べるものがない。 さすが日本光学顕微鏡部門が本気でつくりあげたレンズだけのことはある。 機密性が高いのか、レンズ内にチリが入り込む気配は、ない。

ニコンのベローズPB-4に装着して避暑地の涼しげな木陰にセットしてみた。 ほんらいは大型写真装置として、研究室の片すみの置かれているマルチフォトだ。 でも今となっては、専用レンズを最新型のフラッグシップ・デジタル一眼レフやら、 主流となったフルサイズ・ミラーレス機に装着して、 積極的にフィールドで使ってみたいものだ。 12cm F6.3という他にあまり類を見ない光学仕様のこだわりの孤高のレンズなのである。

ニコンベローズPB-4にマクロニッコール12cm F6.3は最強の組合せ

なお参考までに説明するが、上の画像のようにニコンベローズPB-4を最長に伸ばした状態で、 マクロニッコール12cm F6.3は倍率約1倍となる。 タテ24ミリ、ヨコ36ミリの35ミリフィルム(135)フォーマット、 デジタルカメラで言うところのフルサイズでの条件下である。

唯一無限を見た顕微鏡

顕微鏡部門お墨付きのマクロニッコールで、 35ミリ一眼レフカメラに装着して唯一無限遠が出るのが、この12cm F6.3だ。 そのためか、私がこのウェブを立ち上げてから、興味を持たれるのがこのレンズである。 たしかに、1本だけ持つとしたらこのレンズを私は推薦する。 小さいが非常に高い解像力と鋼性を併せ持つ、頼もしい存在のレンズといえる。 日本光学の顕微鏡部門が作ったライカL39スクリューマウントレンズという点も特筆ものだ。

気に入っているレンズなので3本になってしまった。 市場でもめったに出てこないレンズだけに、 すでに持っていても目の前を通過した瞬間、反射神経で入手してしまった。 これを機敏な反応というのか。こまったものだ。これもレンズがいけない。

日本光学の顕微鏡部門が作ったマクロレンズ

マニヤ必携の超高解像力レンズ

赤いラインのレッドラインニッコール。 万能レンズとしてマニヤの間では隠れた人気がある。 生物系、とくに標本撮影の医療関係者の評価も高い。 大学の医学部では、いまでも現役をキープしている研究室があるらしい。

拡大撮影する場合の倍率は、35ミリ一眼レフカメラでは1/3倍から4倍だ。 4×5インチ判の大判写真機では、1倍から4倍。 いずれもニコンが公式にアナウンスしている値である。 マルチフォトのカタログ(1991年1月版)に掲載されているデータを引用した。

大自然にあっても優美このうえない。 山岳写真家や自然科学写真家が絶賛するマニヤ必携の超高解像力レンズだ。

ストロベリーレッドはマクロニッコール12cm F6.3の目印

夜の雪見にマクロニッコール12cm F6.3

首都圏は東京23区に大雪警報(積雪20センチ)が出た夜。 テレビニュースでは、鉄道で、道路でも交通が混乱した映像を流している。 東京は雪。そんな中、喜々として雪見レンズを出す。
Macro Nikkor 12cm F6.3

マクロニッコール12cm F6.3 雪は華

雪見レンズはマクロニッコール12cm F6.3
(撮影年は2018年1月)

マクロニッコール12cm F6.3による実写

ベローズPB-4にマクロニッコール12cm F6.3をマウントして 35ミリ一眼レフにおける等倍(1倍)の条件下で撮影してみた。 使用したカメラはDXフォーマット(APS-C)のデジタル一眼レフカメラなので、 画面サイズから換算するとアバウトに言って撮影倍率は約1.5倍となる。

被写体は江戸時代末期は幕末の万廷元年〜明治二年(1860〜1869)の貨幣で万廷二朱判金。 金含有率は金229/銀771である。金品位は低く黄金の輝きにはすこし地味な色合い。 しかしながらここは秘密兵器「 40.5mmニコン純正e線フィルター 」をレンズに装着して、金金ゴールド・アンド・ゴージャスな雰囲気を表現してみた。

光源はタングステン白熱電球。 下敷きにしているのは木版手摺の江戸千代紙。 拡大しすぎて千代紙だか何だかわからなくなったが。

被写体のサイズはとても小さい

演目は第11族元素原子番号79 主演マクロニッコール12cm F6.3
MACRO Nikkor 12cm F6.3
Powered by Nikon e-line (546.074 nm) Filter

黄金に輝く万廷二朱判金(1860〜1869年)マクロニッコール12cm F6.3
MACRO Nikkor 12cm F6.3
Powered by Nikon e-line (546.074 nm) Filter

ニコン Z 写真帖

ニコン Z 6 にマクロニッコール12cm F6.3を装着した。ベローズではなくもうすこし身軽に組んでみた。 手持ち撮影が可能となりフットワークが軽くなった。接写ではなく、すこし距離感のあるシーンを撮影してみた。 以下のスタイルで無限遠が出ている状態。

MACRO Nikkor 12cm F6.3 on Nikon Z 6

ニコン Z 6 にはニコン純正のFTZマウントアダプターを装着。 カメラボディがFマウントになったので、ニコンの接写リングM2で延ばしてBORGのM42ヘリコイドを入れた。 BORGのM42ヘリコイドのカメラ側はニコンFマウントで、 レンズ側がライカL39スクリューマウントにセットしてある。 そのままマクロニッコール12cm F6.3を装着。 レンズには特注の38mm - 40.5mm のステップアップリングを取り付け、 ニコン純正の40.5mm NCフィルターを付けた。

Nikon Z 6 + FTZ + M2 + BORG M42 (F to L39) + MACRO 12cm F6.3

ミディアムレンジ・ビュー

この種のレンズは絞り開放でいきなり1億6千万馬力が出るので、開放F6.3で撮影してみた。 1億6千万馬力はいいかげんな数値ではなくサターンV型第1段ロケット5基の総出力。 その1億6千万馬力のレンズでいきなり道行の健康的なお花を撮ってみた。

MACRO Nikkor 12cm F6.3
ASA 400   SCALE=1   1/1600 sec.   -0 +0

ミディアムレンジと書くとミサイルをイメージしてしまうが、 ここは写真世界の話なので、中距離と言っても、接写ではなく無限遠でもない距離感の風景といこう。

MACRO Nikkor 12cm F6.3
ASA 400   SCALE=1   1/8000 sec.   -0 +0

いいかんじにやれたオールド建造物と遭遇。むかしは中でおじさんが仕事していたのだろう。 いまは物置か倉庫のような気配だ。開放F6.3でこの弩級の解像力は素晴らしい。 これで拡大、それも超拡大撮影用の専用レンズなのだ。あんた何者?と言いたい。

MACRO Nikkor 12cm F6.3
ASA 400   SCALE=2   1/5000 sec.   -0 +0

いつもの遠景チェック用の撮影ポイントに立った。約600メートル先の風景を望む。京王線多摩川橋梁。 一般常識的な感覚ではこのくらいの距離でピタリと合焦すれば無限遠が出ると言っても問題はないだろう。 開放F6.3は目盛り1である。試しに絞り目盛りを1つ進めて2にして撮影した。

MACRO Nikkor 12cm F6.3
ASA 800   SCALE=2   1/5000 sec.   -0 +0

MACRO Nikkor 12cm F6.3
ASA 800   SCALE=2   1/5000 sec.   -0 +0

ここに掲載しているニコン Z 6 による作例画像は、 すべてJPEG撮って出しオリジナル画像をそのままファイル名だけ変更してアップしている。 画像をクリックするとオリジナル原板を表示する。撮影データもそのまま残してある。 ただしニコン Z にとっては想定外のレンズなので、レンズ名と絞り値はファイルに記録されていない。

絞り開放スコーンと写る世界

もともとは実験室やら研究室の室内に設置されて、管理された光源で使用するレンズである。 炎天下の屋外で使うにはレンズシェードは必須である。 52mm径用の深めのレンズフード(Nikon HS-14)を付けてヌケのよい絵を狙った。 レンズ鏡胴にある目盛を 1に合わせた。SCALE=1 絞り開放 F6.3 だ。

MACRO Nikkor 12cm F6.3 and Nikon Z 6

ニコン純正のマウントアダプターFTZを使用している。 すでに持っているニコンFマウントの資源がニコン Z でシームレスに使えるのは嬉しい。 好きなレンズでそのまま撮り続けられるのである。

MACRO Nikkor 12cm F6.3
ASA 400   SCALE=1   1/1600 sec.   -0 +0

さすが科学写真用レンズだけあって、よけいな脚色がないのがよい。 人間の眼で見たとおりの色彩の青空が写った。 南風が強い日だったので樹木が音を立ててうねっていた。

MACRO Nikkor 12cm F6.3
ASA 400   SCALE=1   1/640 sec.   -0.3

強く光の当たる部分と日陰の部分が混在するシーンであるが 「なにも問題なし」と言ってきっちりと再現性のよい映像を叩き出した。 科学写真用レンズはその覚悟が違う。

MACRO Nikkor 12cm F6.3
ASA 3200   SCALE=1   1/320 sec.   -0 +0

MACRO Nikkor 12cm F6.3
ASA 1600   SCALE=1   1/640 sec.   -0.3

MACRO Nikkor 12cm F6.3 and Nikon Z 6

なんともさくさくと気持ちよく撮れて写ってしまうレンズである。 ニコン Z シリーズの極めて優れたファインダー機能でピントもきっちり追い込めるし、 絞り優先オートで露出はもうカメラにまかせている。 ニコン Z シリーズは産業用ニッコールレンズファンや工業用ニッコールレンズマニヤに優しい。 カメラだって気立てのいいやつに限る。

晩秋のマクロニッコール

拡大撮影用に専用設計されたレンズであるマクロニッコール 12cm F6.3 で日本古来の色彩を撮ってみた。 すべてレンズ開放絞りである。 開放で F6.3のレンズは極めてシャープで色乗りがよい。

MACRO Nikkor 12cm F6.3 and Nikon Z 6

MACRO Nikkor 12cm F6.3
ASA 800   SCALE=1   1/4000 sec.   -1.0

レンズを通して見たファインダーには重たく濃い色彩が映っていた。 コダクローム25のような落ち着いた精密な情景描写。 これでいいのである。

MACRO Nikkor 12cm F6.3
ASA 800   SCALE=1   1/1600 sec.   -0.3

MACRO Nikkor 12cm F6.3
ASA 800   SCALE=1   1/500 sec.   -1.0

明治時代の日本の油絵のような茶色。 渋紙色、朽葉色、樺茶色、璃寛茶、古い和の色は感情豊かだ。 静かな午後の東屋。

MACRO Nikkor 12cm F6.3
ASA 800   SCALE=1   1/640 sec.   -0.3

MACRO Nikkor 12cm F6.3 and Nikon Z 6

2022年のあとがき

本記事のオリジナルは2001年11月当時に書いたものです。 画像は1枚のみに簡単な説明のシンプルなものでした。 2016年のサイト移転に伴う見直しで、その後撮りためた画像を追加しました。 2017年にはイチゴとレンズの画像を新たに撮影してみました。

2020年の改版では「ニコン Z 写真帖」として Z 6 による実写作例を組み込みました。 拡大系の接写撮影の結果がよいのはあたり前ですが、 遠景においても非常によく解像している精悍な描写が好感です。 軽みなスタイルで撮影しましたが上がりは良好です。

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Copyright Michio Akiyama, Tokyo Japan 2001, 2022