Don't say it as BR-15 or BR-16
ニコンの正式な型番では ありません
Don't wrire it as BR-15 or BR-16
言ったり書いたりしては いけません ● L-F接続リングと対物リング なにやら中学校の廊下に掲示されている注意書きのようであるが、 重要な話なのでここでお願いをしておきたい。 Nikon 大型マクロ写真撮影装置 MULTIPHOT用に専用設計されたマクロニッコールのアダプターリングの話である。 本サイトでは、2001年10月の公開スタートいらい、 一貫して「L-F接続リング」、「対物リング」と表記してきた。 これらは、MULTIPHOT 使用手引書の説明に従って、ニコンが定義した用語を使っている。
L-F接続リング(MP J93040) 「L-F接続リング」はニコンFマウントで、ライカL39スクリューマウントのレンズをねじ込めるように作られている。 ライカL39スクリューマウントを有するマクロニッコール 65mm F4.5および12cm F6.3は、 L-F接続リングを介して MULTIPHOT装置あるいはニコン一眼レフボディ、ニコンベローズ装置にマウントできる。 ホンモノの「L-F接続リング」には刻印が入っていない。 NikonとかNippon Kogakuのメーカー名はもちろん、MADE IN JAPAN すら無い。 素っ気ない白の元箱がホンモノ。 顕微鏡の対物レンズの元箱とか産業用レンズの元箱と同じだ。 ちなみに私が最初に購入した L-F接続リングは左の箱である。 1992年11月。新宿のミヤマ商会の店内ショーケースに 4個新品で並んでいた。 見たことがなかった商品なので店員さんに用途を聞いた。 ライカマウントのレンズをニコンFに装着できると言う。 おもしろそうなので試しに 1個買ってみた。 5,000円だった。 最初にニコンの引き伸し用レンズ EL ニッコール 50mm F4をニコンFにマウントしてみた。 接写しかできなかったが、なにか新しい発見をした気分になった。
対物リング(MP J93050) 「対物リング」はライカL39スクリューマウントで、 顕微鏡対物レンズ(RMSマウント)規格のネジ径を持つレンズをねじ込めるように作られている。 RMSマウントを有するマクロニッコール 19mm F2.8および35mm F4.5は、 対物リングでライカL39スクリューマウントになり、 L-F接続リングを介して MULTIPHOT装置あるいはニコン一眼レフボディ、ニコンベローズ装置にマウントできる。 ホンモノの「対物リング」には刻印が入っていない。 NikonとかNippon Kogakuのメーカー名はもちろん、MADE IN JAPAN すら無い。 素っ気ない白の元箱がホンモノ。 顕微鏡の対物レンズの元箱とか産業用レンズの元箱と同じだ。 ちなみに英語の表記について。「L-F接続リング」は「BAYONET MOUNT ADAPTER」、 「対物リング」は「SCREW MOUNT ADAPTER」である。 いずれも英語版のMULTIPHOT 使用手引書の説明による。元箱にも書いてある。 なお私の手元にある「対物リング」の元箱には「SCREW MPUNT ADAPTER」との印字がある。 MOUNTではなくMPUNTとも読めるが、気のせいかもしれない。 ● フェイク情報が広がる 2001年10月に本サイトの公開がスタートした頃は、BR-15 とか BR-16 と表記した文献もサイトもなかった。 もっとも、大型マクロ写真撮影装置 MULTIPHOT用のマクロニッコールは誰も話題にする人がおらず、 そもそも情報が皆無だったが。 時期はいつ頃か正確には定かではないが、海外のサイトで、BR-15, BR-16 との説明を目にした。 2004年前後だったと思うが、その時は何も疑問を持たずに、そんなニコンの型番があったのかと思っていた。 古いログを見ると、nikonians.org のフォーラム(掲示板)に、 2004年2月付けの「Looking for a Nikon BR-15 adapter」なんて書込みが残っていた。 そうこうしているうちに、日本のサイトでも、BR-15, BR-16 と書いた説明が目立ってきた。 さらには中古カメラショップの商品紹介でも言及されるようになってしまった。 2010年11月には、新宿・アルプス堂のブログで「BR-15とBR-16が入荷しました」との説明と画像が出ていた。 さすがに疑問に思った。BRはニコンのカメラ部門の型番である。 BR1, BR-2(後にBR-2A), BR-3, BR-4, BR-5, BR-6 と実存している。 しかし、MULTIPHOTは顕微鏡部門の製品である。 大正時代から日本光学を背負ってきた名門である。JOICO顕微鏡の発売はなんと大正十四年だ。 そんな顕微鏡部門が、大東亜戦争後にぽっと出て来た民生用カメラ部門の型番に従うはずがない。 手元にある文献や資料をいくら探しても、BR-15, BR-16 の文字が出て来ない。 数年前にSNSで尋ねてみた。以下の画像は2016年6月のツイッターのログである。
2016年6月のツイッターのログ いつもだったら、ニコンにお詳しい方々からリプライが付くのであるが、 この件に関しては、なにも裏付けとなる情報も手掛かりも得られなかった。 多くのカメラファン、ニコンファン、マクロ愛好家、顕微鏡部門の専門家の方々が目にし参照されても、 なにもわからなかったのである。
2016年7月のツイッターのログ そのあと翌月。2016年7月にダメ押しで再度呼びかけてみた。 しかし同様に、なにも裏付けとなる情報も手掛かりも得られなかったのである。 どうやら、ニコンの話ではないことが確実のようだ。 ないものはあると証明できない。 ● フェイク情報のもとをたどる この型番の問題は海外に端を発している。 マクロ撮影のノウハウ本や、ニコンカメラの解説書などに、問題となる型番が記載されていた。 それを見た日本の方が、こんな型番があったのかと、そのままウェブサイトに書いて伝搬した。 2021年4月のことである。 オランダのニコン研究家ハンス・ブラークハウス氏(Hans Braakhuis)の著書「Macro met Nikon」を再読した。 オランダ語で書かれているので、今までは読むというより掲載されている図版や写真をさらりと見る程度だった。 しかしこの機会に33〜34ページのBR-15, BR-16についての説明をちゃんと読み直した。 読んでみて、これはまずいなと思った。 一部分を日本語に翻訳したので以下に示す。
ニコン「L-F接続リング」の画像にはBR-15との説明がある。 ニコン「対物リング」の画像にはBR-16との説明がある。 BR-15, BR-16は、ニコンで製造したものではなくアメリカで製造したとか、 いろいろツッコミどころ満載の説明である。 こうなったら聞くしかない。 オランダのハンス・ブラークハウス氏に直接メールで尋ねてみた。
かなり単刀直入でストレートな問合せであるが、 日本人以外には言いたいことをストレートに言い切らないと伝わらない。 日本的には辛辣な物言いかもしれないが、聞きたいことを伝えるのが目的だ。 すると、10分もしないうちにオランダから返信が入った。
あっけなく解決してしまった。 BR-15、BR-16 がニコンの正式な型番ではないことが確認できた。 オランダのハンス・ブラークハウスさん、ありがとうございました。 ● まとめ BR-15、BR-16 はニコンの正式な型番ではない。 さらには、ニコンの正式な商品名、製品名でもない。 BR-15、BR-16 と呼んだり書いたりしてはいけない。 いま誤った情報を修正しておかないと、22世紀になって考古学者や研究者の方々が、 ニコンのどの史料にも出て来ないBR-15、BR-16 って一体なんだ?ということになるだろう。 BR-15と書きたいところを、ニコンが正しく定義した「L-F接続リング」または「接続リング」と書いてください。 BR-16と書きたいところを、ニコンが正しく定義した「対物リング」と書いてください。 これはお願いです。 ● L-F接続リングと対物リングの種類
1968年に発売されたNikon 大型マクロ写真撮影装置 MULTIPHOT。
1995年に製造を終了したが、販売は1997年末頃まで続いたと言う。
長きに渡り製造・販売されたので、いくつかの改良・改善があったと思う。
「L-F接続リング」および「対物リング」の小さな付属品でさえも、
ざっくり言って前期型と後期型に分類できる。
さらにはネジの種類や本数でいくつかのバージョンがある。
● 裏付け資料の一覧 ニコンの資料では、BR-15、BR-16 の記載が見当たらないことを確認した、 裏付け資料の一覧を残しておく。 → 裏付け資料の一覧 ● おまけ BR-15, BR-16 は存在しないが、BR-2は実存する。後にBR-2Aとなる。 2021年5月時点でのニコンの正式な商品名は「BR-2Aリング」。 現物にはBR-2Aと刻印が入っている。元箱にもBR-2Aと印刷されている。 画像では41個写っているが、たしか45個くらい買ったはずだ。 おそらく、一般個人では私が一番多く購入したのかもしれない。 しかし世界にはとんでもない人がいるので、日本国内限定での話ではあるが。
BR-2A リング ● あとがき 本記事の初稿は2021年5月にリリースしました。
Copyright Michio Akiyama, Tokyo Japan 2021
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