EL Nikkor 50mm F4    Chapter 1

EL ニッコール 50mm F4

ニコンむかしばなし

EL ニッコール 50mm F4 を当時新品で買った。 保証書の購入年月日欄には、昭和48年12月26日と入っている。 令和生まれでこのサイトをご覧の方にはピンと来ないかもしれないが、昭和48年は1973年だ。 いまから半世紀前の話である。

年末のあわただしい時期に、引き伸しレンズとして購入したのだった。 引き伸し機は富士フイルム N690MF を買った。 トライX をフジドールでフィルム現像し、印画紙は月光のV3ばかり。 黒の諧調などまるで無視、トーン豊かでないガチガチでハードな焼きをしていた。 カメラはニコンF。交換レンズは 28ミリ F3.5 しか持っていない。 それでも写真は写った。

その後、カラーリバーサルの鮮鋭な描写とクリアな色彩の味を覚えてしまい、コダクローム64ばかり。 プリントはカラーネガ。サービス判プリントでレンズの画質を語る若気の至りの私だった。 暗室作業は休業状態となった。 EL ニッコール 50mm F4 はほんらいの写真引き伸しに使うことはなくなった。

テクニカルデータ

EL Nikkor 50mm F4

−焦点距離: 51.6mm
−最大口径比: 1 : 4
−最小絞り値: F16
−レンズ構成: 3群4枚
−基準倍率: 8X
−標準使用倍率範囲: 2X〜20X
−画角: 46度
−色収差補正波長域: 380nm〜700nm
−口径蝕: 0%(F8にて)
−歪曲収差: -0.17%
−原板サイズ: 43.2mm⌀(24×36mm)
−基準倍率における原板から画像までの距離: 522.5mm
−フィルター径: 34.5mm P=0.5mm
−マウント: ライカL39スクリューマウント
−全長: 28mm
−最大径: 44.5mm
−重量: 100g
−重量実測: 57.5g

−発売時期: 1967年 9月
−当時の価格:
   5,800円(1969年 1月)
   5,800円(1973年12月)
   7,000円(1974年 6月)
   7,000円(1976年 4月)
   7,900円(1976年 7月)
   7,900円(1977年12月)
   7,900円(1982年10月)

発売時期はニコンの社史で確認できたが、販売の終了はいつだろうか。 1982年10月1日付けのニコン標準価格表(普通のカメラ店でもらえるもの)に掲載されているのを確認した。 1982年12月21日付けのニコン産業用レンズ標準小売価格表(玄人向け)には、 EL ニッコール 50mm F4 に代わって、 新デザインの EL ニッコール 50mm F4N が 9,000円で登場していることを確認した。 よって、EL ニッコール 50mm F4 の販売の終了は1982年後半と推測している。

EL ニッコール 50mm F4のレンズ構成図(各部寸法入り)

ELニッコール 50mm F4の立ち位置

新世代の ELニッコール Nシリーズ最初の製品が登場するのが 1979年6月。 旧世代の ELニッコールが出揃っていた時代後期は 1977年12月の製品一覧を示す。 同カテゴリーの焦点距離のレンズ数本を前後に見てみると、 価格の点からも ELニッコール 50mm F4 は入手しやすいポピュラーな製品だったことが理解できる。

エル・ニッコール 製品一覧
ニコン産業用レンズ標準小売価格表(1977年12月21日版)より

エル・ニッコール 標準小売価格 原板サイズ
  50mm F2.8 12,700円    24 x 36 mm
  50mm F4 7,900円    24 x 36 mm
  63mm F3.5 21,700円    32 x 45 mm
  75mm F4 14,700円    56 x 56 mm
  80mm F5.6 19,400円    60 x 70 mm
  105mm F5.6 26,500円    65 x 90 mm
  135mm F5.6 37,500円    90 x 120 mm (4 x 5 inch)
  150mm F5.6 49,200円    100 x 130 mm (4 x 5 inch)
  180mm F5.6 74,600円    130 x 180 mm (5 x 7 inch)
  210mm F5.6 86,200円    150 x 210 mm (5 x 7 inch)
  240mm F5.6 111,000円    180 x 240 mm (8 x 10 inch)
  300mm F5.6 163,000円    270 x 330 mm (10 x 12 inch)
  360mm F5.6 231,000円    300 x 400 mm (11 x 14 inch)

レンズの重量について

EL ニッコール 50mm F4は小さくて軽い。 デジタルスケールで実測すると、57.5gしかない。 市販されたニッコールレンズでは、おそらく最小の部類に属する マクロニッコール 19mm F2.8。重量は実測すると 68.0gだ。 EL ニッコール 50mm F4の方が見た目は大きいが、軽いのである。

EL ニッコール 50mm F4 の重量

1970年代のカタログ4種とセールスマニュアルには、 EL ニッコール 50mm F4 の重量は 100g と記載されている。 所有している1本だけのサンプルであるが、実測すると 57.5g だった。

レンズの重量がカタログと現物で異なることはニコンの場合よくあるので驚かないが、 カタログ値が 100g で、実測値が 57.5g とはあまりにも酷い話ではないか。 しかも長期間に渡り各種資料で重量値はそのまま踏襲、見直した形跡がない。 このあたり、話があるので、体育館の裏に来ていただきたい。
・・・50年前の古文書に意見してもしょうがないか。

しかし一つくらいまともに仕事をしている資料やら文献がないものか。 さらに手持ちの範囲で探してみた。あった。 日本光学が監修し共立出版から刊行された「ニコンFニコマートマニュアル」 (昭和44年初版)。 117ページに重量は 63g と記載されている。 こちらの方が実測値 57.5g に近いので、これが正しい数値なのだろう。

さらにもうひとつエビデンスが見つかった。 EL Nikkor 50mm F4レンズ単体の古いパンフレット(ペラ1枚もの)に、 重量 63gと記載されていることが確認できた。 発行年が記されていないので史料の正確な時代が特定できないが、 日本光学の本社が日本橋のフトン屋さん(日本橋西川ビル)となっている。 本社所在地が日本橋西川ビルとなったのは、昭和37年(1962年)12月17日からだ。 昭和46年(1971年)12月13日には丸の内の富士ビルに移転している。 おそらくレンズが発売された1967年直後に発行されたものと推測した。

コレクターズノート

EL ニッコール 50mm F4

本レンズの兄にあたる EL ニッコール 50mm F2.8 の歴史は古く、1957年2月に発売された。 その10年後、1967年9月に、価格を低く抑えてポピュラーにした EL ニッコール 50mm F4 が発売となった。 基本性能はきちんと押さえ、高性能だが低価格を実現している。 マウンテンニッコール 10.5cm F4 のコンセプトと同じだ。

ニコン引き伸し用レンズのカタログには、 EL ニッコール 50mm F2.8と、EL ニッコール 50mm F4が、2本並んで登場していた。 予算がある人は F2.8の方を、お手頃価格の方がよい人は F4を選んだものだ。

引伸機にフィルムをセットして、ランプのスイッチをオン。 引き伸し用レンズは開放にして投影面のピントを合わせる。 開放F値が明るい方が投影面は明るく、ピントの山をつかみやすい。 しかし実際に焼く時、つまり印画紙を置いてランプのスイッチをオンにする時には、 絞りをF8とかに絞る。当時はこんな使い方がアマチュアには一般的だった。

EL ニッコール 50mm F4

EL ニッコール 50mm F4 は同 50mm F2.8 に比べて価格が安いことからよく売れたのだろう。 いまだに中古市場でよく見かける。 新品未使用元箱紙モノ揃い一式、 いわゆるミュージアム・コンディションだとこのクラスのレンズでも良い値段となるが、 レンズ単品とか付属品はプラケースのみとかだと、かなりお手頃価格で入手できる。

小学生のおこづかいでも買えるので、夏休みの自由研究は、 自分で買った EL ニッコール 50mm F4 にお父さんかお母さんのミラーレス機を借りて、 夏の雲のカタチとか流れの様子、月の満ち欠けと位置、 などをテーマに写真記録したらおもしろそうだ。 私も夏休みの自由研究は、これらをテーマにしてみた。結果は以降の章で公開している。

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 次は実写の写りを。   第 2 章    ニコン Z 写真帖 1

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