June 2012, Nikon Kenkyukai     3

クラシック大型双眼望遠鏡

テラスセッション

東京湾が見下ろせる会場は晴海。 プレゼンテーション・セッション(異常に濃い)が終了後は、 テラスセッションに移行。 梅雨時の開催なので、雨模様でも快適に観望ができるように、 レストランのテラスを予約。 次々に大型機が台車で搬入され、セッティングされていきました。

集まった、歴史的大型双眼望遠鏡、大型高角双眼望遠鏡が 18基。 ここに写っているのは「ごく一部」。 本物の古典機で、ゆったりと「歴史的大型双眼望遠鏡の世界」を堪能しました。 ちょうど近くの晴海ふ頭には、米国の軍艦と大日本帝国海軍の軍艦も停泊しており、 格好の観測対象となりました。 なにかの演習か、一般公開の準備でしょうか。 自動小銃を持った戦闘態勢の兵士が甲板上を行ったり来たり。 私たちニコン研究会は、安全地帯から遠く艦上の光学兵器の完成度を監視しました。

台車でテラス運び込まれたヴィンテージ大型双眼望遠鏡の数々

目視による評価のために現代の新鋭機も投入(右はし)

テラスには大型双眼望遠鏡がスタンバイ

機器の最終調整をする寺田茂樹研究部長

天頂を向く榎本光学機器製造製 10糎 70度 15倍高角双眼望遠鏡
長崎県長工醤油味噌協同組合様収蔵品

鮮鋭なシーイングに声が上がるテラス会場

コーヒーブレイクのお菓子(両口屋是清)

口径12センチの夜間用 15倍 12糎双眼望遠鏡

現代でも最高の光学性能をたたき出す Nikko対空双眼鏡も並ぶ
英国の世界的な双眼鏡修復家トニー・ケイ氏によるフルレストア済み

晴海ふ頭に向けられた大型双眼望遠鏡の隊列

米国海軍報道部のプレスニュースを見てみたら、軍艦の正体と、 停泊している理由が分かりました。以下は、プレスニュースの要約です。

指揮統制艦ブルーリッジ、晴海寄港へ

横須賀−米第7艦隊の旗艦として、 横須賀に前方配備されている指揮統制艦USSブルーリッジ(LCC-19)が、 海上自衛隊第4護衛隊群の旗艦として呉に配備されているヘリ搭載護衛艦「いせ」 (DDH-182)と共に 6月16日に東京の晴海ふ頭に日米合同親善寄港します。

寄港中、ブルーリッジは東京近郊から自衛隊幹部を含む賓客をお招きし 「ビックトップ」という艦上レセプションを開催します。 護衛艦「いせ」とブルーリッジの両艦共、一部一般開放されます。 また、両艦の乗組員達は、スポーツや社交行事などの相互交流、 ショッピングや食事など東京での観光を楽しみにしています。 一般公開については以下のとおりです。

日時: 2012年 6月17日(日) 13:00〜16:30
場所: 東京晴海ふ頭
艦艇: 指揮統制艦ブルーリッジ & 護衛艦「いせ」

高角双眼望遠鏡の眺め

昭和14年 6月製造の、真新しい十二糎高角双眼望遠鏡でブルーリッジを監視。 自動小銃を持った完全武装の兵士が甲板上を行ったり来たり。 本物の緊迫感が漂います。 明日からの一般公開にはこういった警備体制はないと思いますが、 安全な一般公開のための準備なんでしょうか。

米第7艦隊旗艦ブルーリッジを古式双眼鏡で監視

甲板を横に見ていくと、な、なんと、 むこうも兵士が艦載用双眼鏡でこちらを見ています。 「古くさい大型双眼望遠鏡がズラリと並んで、我が艦を見ているが、あれは何だ?」 とでも言っているのでしょうか。 「けっしてあやしいものではありません」って、 あやしい団体が叫んではみたものの、少々説得力に欠け、 どこか無理があるように思えました。

米軍の艦載用双眼鏡はどうも口径 8センチ程度のようでした。 こちらは大日本帝国海軍の口径 12センチです。明らかに勝っています。 古さでも圧倒的勝利です。 いずれも 70年以上前の最高性能を誇る光学兵器群です。 しかしながら、今時レーダーやら暗視装置が発達しているので、 時代の光学双眼鏡は実質的には補助的な装備なのでしょうか。

豊川海軍工廠光学部製 12糎 20度高角双眼望遠鏡
(三脚架と三脚は日本光学製)

昭和14年 6月製造の刻印のある十二糎高角双眼望遠鏡の三脚架

大型双眼望遠鏡コレクション

本日の主役"古式大型双眼望遠鏡"のスパルタンな雄姿

大型双眼望遠鏡コレクション

大型双眼望遠鏡コレクション

大型双眼望遠鏡コレクション

軍艦に搭載された双眼鏡等光学兵器の日米の差異について、 歴史の報道シーンの現場に立ち会ってきた、 現役のプレスである小秋元龍プロに聞いてみました。
小秋元龍氏はご承知の通り、 昭和36年、四国沖で海上自衛隊航空部隊のプレス取材を敢行。 さらにトンキン湾事件に続くベトナム戦争の取材を通して、 経験に基づく説得力のある報道写真論をお持ちです。
今回のレポートにたいして以下のコメントが寄せられました。

日米艦載用大型双眼鏡について

日本海軍は、レーダーなど電波兵器の導入ではアメリカに遅れをとったまま、 最後まで追いつけませんでした。 その代わり、光学兵器の充実ぶりは世界最高でした。

私は数多くのアメリカの軍艦にのせてもらいましたが、 その際毎回、まっさきにブリッジに行って、 彼らのメガネ(大小双眼鏡のこと)を調査しました。 その結果、アメリカ海軍は、 かなりの大型艦でも日本海上自衛隊の小型艦にも及ばない 貧弱な固定双眼鏡しか装備していないことをこの目で確認してきました。

重巡洋艦や空母といった大型艦でも、せいぜい口径 10センチ程度の双眼鏡でした。 すでに、現代の海軍では、 双眼鏡はレーダーの探知した目標の確認程度の役割しかしていないようでした。

アメリカが戦時中に完成させた主力戦艦「アイオワ」級5隻(「ミズーリ」はそのT艦) の艦橋構造物の頂上にある測距儀は、 「大和」の 15メートルに比べれば 3分の 1程度の可愛いものです。 レーダー測距の補助的役割のようでした。

今回、ニコン研究会は世界でも稀有な、 戦時中の大型双眼鏡の世界遺産を一同に集めて検証するという、 大事業を実現できたと思っています。

小秋元龍

スーパー・ディープなセッションを終えて

集まりも集まったり、歴史的大型双眼望遠鏡、大型高角双眼望遠鏡が 18基。 重量級の大型双眼望遠鏡の撤収には時間がかかります。 約1時間かけて撤収を完了。 最後のセッションはハッピー・アワーです。 晴海のレストランで冷たい生ビールで乾杯。 古式大型双眼望遠鏡談義がいつまでも続きました。

ミーティング参加者による記念写真

関連情報

英国OptRep社( Optrep Optical Repairs )
歴史的双眼鏡の修復家 技術部長 トニー・ケイ氏 ( Antony L. Kay )
ニコン研究会 2011年 05月例会
古式大型高角双眼望遠鏡の研究スーパー・ディープ
ニコン研究会 2010年 10月例会
歴史的艦載用双眼鏡と国土防衛対空高角双眼望遠鏡の総合的研究

ご報告

ニコン研究会の例会レポートで何回か取り上げてきましたが、 長崎県大村市の長工醤油味噌協同組合様が戦後より所有している 「榎本光学機器製造製 10糎 70度 15倍高角双眼望遠鏡」 のフルレストアがこのたびニコン研究会望遠鏡専門部会の 寺田茂樹研究部長の手により完了いたしました。

本レポートで説明の通り、 2012年 6月の野外における目視官能試験を中心とした光学性能検証をもって、 この歴史的高角双眼望遠鏡が昭和17年(1942年)の製造直後に有していた光学性能を ほぼ忠実に修復再生できたことが確認されました。

2012年 7月には、寺田茂樹研究部長より直接、 「榎本光学機器製造製 10糎 70度 15倍高角双眼望遠鏡」を 長工醤油味噌協同組合様に返却されましたことを、 ここにご報告申し上げます。

最後に、長きにわたり、貴重な歴史的高角双眼望遠鏡をお貸しくださり、 光学兵器から見た日本の光学技術史研究にご理解をくださった、 長工醤油味噌協同組合様に感謝申し上げます。

2012年 8月
ニコン研究会

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