EL Nikkor 135mm F5.6 and Nikon Bellows PB-4

ELニッコール135mm F5.6をニコンベローズPB-4で使う

Super Slow Lens for Mission Critical People
Old Nikon Bellows PB-4 Make the Complete Operation with Shift, Swing, Tilt
EL-Nikkor 135mm F5.6 and Nikon Bellows Outfit

ライカL39スクリューマウント

ニコンの引き伸し用レンズ「ELニッコール」の話である。
「ELニッコール」は、「イーエル・ニッコール」ではなく「エル・ニッコール」と呼ぶ。 念のために書いておく。そんなのあたり前でしょうという方もおいでだと思うが、 株式会社ニコンが2006年に引き伸し用レンズの販売を終了してから十余年。 もうご存知の方は希少種だろう。そんな背景もありそこはきちんと言及しておきたい。

さて、本題に入ろう。 スローな生き方もよいが、こういう時代だからあおりを効かせた生活もよいだろう。 意味不明のアジテーションも、ハイパーシテイ・トーキョーでは記号を発信する。 と、妙な切り出して紹介するのが、スローレンズ界では有名なELニッコール135mm F5.6だ。 4×5判の引き伸し用レンズとして最高の性能を持っていた。

初代ELニッコール135mm F5.6の品位のある景色

ELニッコール135mm F5.6のデビューは古い。 ニコン75年史資料集によると発売は昭和41年(1966年)6月。 長きにわたり製造販売されていたが、 1980年代に入ってすこし経過した頃にモデルチェンジされ、 新設計のモダンな外装のレンズ、ELニッコール135mm F5.6Aが登場した。
しかしここでは、日本光学製の旧い黒塗りの鏡胴にクロームめっきのマウント加工が美しい、 初代のELニッコール135mm F5.6を掘りおこしたい。

ELニッコール135mm F5.6とPB-4ベローズ
(撮影年は2002年4月)

日本光学製の引き伸し用レンズは、一部の大型機用をのぞくと、 マウントはだいたいライカL39スクリューマウントだ。
ライカL39スクリューマウントであれば、L-F接続リングを介してニコンデジタル一眼レフに装着可能だ。 同様のL39マウントアダプタを使えば、新旧おそらくほとんどのカメラに装着できるだろう。 ELニッコール135mm F5.6は、 ライカL39スクリューマウントのニコン引き伸し用レンズの中でいちばん長焦点なレンズである。

PB-4にしかできない上目づかい

テクニカルデータ

このクラスのニコン引き伸し用レンズは複数のマウントを有するのが特徴である。
後側マウントはそのままだとライカL39スクリューマウント。 ところがクロームめっきの美しい後部リングを外すと、ねじ径45mm ピッチ0.5mmの精密なマウントが現れる。 さらに前側にもマウントがある。前部の化粧リングを外すと、ねじ径46mm ピッチ0.5mmの精密なマウントが現れる。 こちらは精密複写などの撮影用だろう。
以下のレンズ寸法図で確認いただきたい。 かなり使用範囲の広い135mmレンズ。イメージサークルもゆったりと余裕。歪曲収差が完全に補正されている。

EL Nikkor 135mm F5.6

−焦点距離: 135mm
−最大口径比: 1 : 5.6
−最小絞り: F45
−レンズ構成: 4群6枚
−基準倍率: 5X
−標準使用倍率範囲: 2X〜10X
−画角: 54度
−色収差補正波長域: 380nm〜700nm
−口径蝕: 0% (F8にて)
−歪曲収差: +0.025%
−原板サイズ: 90×120mm (160mm⌀)
−基準倍率における原板から画像までの距離: 972mm
−フィルター径: 43mm P=0.5mm
−マウント: ライカL39スクリューマウント
−重量: 260g
−当時の価格: 21,000円(1966年9月)
−当時の価格: 21,000円(1969年1月)
−当時の価格: 36,500円(1974年6月)
−当時の価格: 37,500円(1977年12月)

ELニッコール135mm F5.6のレンズ構成図

シフトにスイングPB-4によるこの自由で柔軟な光軸を見よ

ベローズとの相性

このレンズは、 ほかの標準的な引き伸し用レンズである50mmから80mmあたりに比べて生産量が少ない。 もともと4×5インチ判の引き伸し用レンズであったから、 そうは需要がなかったのだろう。

ベローズPB-4をセットして、レンズを装着する。 簡単に余裕で無限遠が出る。 もちろんベローズを伸ばすと、そこは美しいマクロ撮影の世界が待っている。 135mmという長焦点レンズのメリットはワーキングディスタンスを長く取れる。 葉の上に止まった小生物をやや遠方からマクロ撮影可能だ。 レンズも小さくて控えめであるから、小生物にも無用な緊張を強いない。 きちんと撮影に応じてくれる。これはスローなレンズの人柄からくるものだ。

レンズだってまずは人柄だ話はそれからじゃないか

PB-4ベローズ作法

ニコンのベローズでは、唯一あおり機構が付いたのがモデルPB-4である。
後継機としてモデルPB-6が登場したのは記憶に新しい。 しかしながら、ついこの間まで見かけたような気がするが、 モデルPB-6は2018年現在では販売を終了している。 ニコンのベローズそのものがラインナップにないのはどうしたものか。

今もっとも人気があるのがこの旧・旧製品であるモデルPB-4である。 PB-4を最後に、あおり機構付きのベローズは生産されていない。
なぜこういった名品を製造中止にしてしまったかはよく知らないが、 あおり機構の実現には機械工作上の手間がかかることが容易に想像できる。

海外のサイトでも、PB-4ベローズは人気があり評価が高い。 彼らは、頑丈な4本レールとベローズ自身に三脚取り付けマウントを持っていることを評価している。 重いレンズを取り付けてもレールを移動しバランスが取りやすい。 もちろん、シフトにスイング、ティルト機構が装備されていることが最大の評価ポイントであることは間違いない。

PB-4にはベローズ蛇腹の両サイドにノブが付いている。 カメラを覗いて左手がすべて移動量調整のためのノブで、右手がすべてロックするためのノブだ。 こういう操作まわりを整然と装置しているところが、PB-4ベローズを海外のファンが認めている理由でもある。 私は右ききなので、右手が移動量調整ノブだと使いやすいと思うが、このあたりは好みが分かれるところだろう。

あおり機構というと、一般的には近接撮影、 いわゆるブツ撮りで、手前から奥までピントを合わせたいときに使うことをイメージする。 あるいは、建築物を下方から撮影しても、 きちんとまっすぐに撮影するときに使うことをイメージする。 ビルを台形に写すのではなく、ま四角に撮影する作例がよく載っている。

しかしもっとおもしろい使い方は、遠方の景色を一部だけピント合わせする手法だ。 同じ距離にある京都の山々を撮影した場合に、同じ距離にある五重塔だけがピントが合っている絵が撮れる。 また、本物の街の風景をミニチュアのジオラマのように撮影することも簡単にできる。 遠景と手前がアウトフォーカスにぼけていて、真ん中にピントが合っている情景になる。

ポートレートで、目だけにピントがギリギリ出た絵を撮ることも可能だ。 料理やお菓子の写真ではこの使い方がお約束で、 パフェの上のイチゴだけにピントがキリリと出た雰囲気な描写にはピタリきまる。

知れば無敵なPB-4ベローズ作法

有段者も納得の高性能

自然シーンから、ポートレート撮影も、そして超マクロな状況まで、非常に「使える」セットがこの組み合わせだ。 本サイトを立ち上げた頃、この記事のオリジナルを書いたのは2002年であったが、 その当時の中古カメラ市場では、ベローズもELニッコールもキワモノ扱いで、人気がなかったのは事実である。

とこが昨今はどうだ。 特にフルサイズの高性能ミラーレス一眼カメラが出た頃から急に事情は変わった。 さらに若い写真人を中心にフィルムを新しい表現手段として使う人たちが出てきた。 写真も自分でプリントする。ここへ来て引き伸し用レンズを探す人、手にする人たちがいる。 一時は市場から見放された装置を、再び陽のあたるところへ連れ出そうではないか。 あおりを効かせた生活もいいものだ。

ELニッコール135mm F5.6とPB-4ベローズ
(撮影年は2002年4月)

スローなレンズとスローなベローズ装置が出会うと、そこは底力のあるスーパーパワーを引き出す。 マクロ撮影ではドイツやスイスの海外製高級マクロレンズを愛用する、 そのすじではうるさい有段者の方(Mission Critical People)に、このセットでファインダーを覗いてもらった。 群生する野草の姿を見つめた彼は、一言「すごいね、コレ」とうなった。 思うことがあったようだった。

この状態で距離1万メートル先にピントが合っている

どっしり構えた写真生活

引き伸し用レンズでは写真撮影ができない、と思っている方がいる。 しかし実際には、引き伸し用レンズは解像度、描写性、発色、すべてに優れている。 もちろん万能レンズではないから、一般撮影用レンズと比べるとデメリットもある。 取り回しがまず面倒だ。レンズは暗いのが多い。ピントリングがない。 しかしそれを知った上で使うと、思わぬ能力に驚く。

このセットは、手持ち撮影では無理だ。 必然的に三脚に乗せて、どしりと構えて撮影する。 動く被写体を狙うのも無理がある。だからスローレンズだ。 まる一日、定点に三脚をセットして、トマトの赤い艶を追うのもいいだろう。 山深く青い渓流に、流れを記憶するのもよし。 明け方か、海に早朝の音が写れば、それは成功ということだ。

写真生活もスローなのがよい。 デジタルとかフィルムとか、その程度の議論ではなく、アナログよりもアナクロ、 おおいに時代錯誤を楽しむのが大人の作法であり矜持ではないだろうか。

質実剛健だが心優しき頼れるレンズ

初代ELニッコール135mm F5.6による実写

引き伸し用レンズもさすが135mmの長焦点となると余裕で無限遠が出る。 数メートル先の近距離でも無理のない素直な描写となる。
色再現性は非常に優れている。ニュートラルでストレート。雑味がない。 派手さよりも涼し気な表現を得意とする。 それでいて風合いのある映画のような優しい総天然色画像が得られる。
日本は晴れだというので、簡単な軽い装備で日本古来の色彩を訪ねてみた。
実写画像をクリックすると少し大き目のサイズの画像が出ます。

あり合わせの筒にレンズを付けただけの軽みな装備

牡丹桜

八重桜

八重牡丹桜

灯台躑躅

満天星

山吹

棣棠

2018年のあとがき

本コンテンツは2018年3月に全面改版してアップしたものです。 2018年の視点に立ち、現状をふまえて内容を大幅に書き直しました。
オリジナルのコンテンツは2002年4月に公開しました。 ここでニコンベローズPB-4の機能を紹介したことがきっかけで、興味を持たれる方が増えました。 最初のコンテンツでは、レンズの画像を1枚のみでしたが、 2016年の見直しにあたり、当時に撮影した画像を追加しました。 また、テクニカルデータを掲載していませんでしたので、正式資料から正しい情報を引用し盛り込みました。

2018年の改版時にレンズ構成図を追加しました。 あわせて記事をよく精査したところ、 2016年に掲載したデータのレンズ重量が230gとなっており誤っていることが判明しました。 ELニッコール105mm F5.6 の修正ログで説明した件と同じで、 誤ったデータが掲載されていたセールスマニュアルの内容をそのまま引用していました。 複数の版数が異なるセールスマニュアルの再確認、カタログに掲載されているデータとの突き合わせ、 そして実物をハカリで実測し、260gと正しい数値に修正しました。

記事の中で言及しているとおり、 ニコンベローズPB-4は現在では人気のある撮影アクセサリーになっています。 「ニコンベローズ_PB-4」をキーワードに、本コンテンツのアクセスが多いことから、 興味を持たれる方が多くなっていることを実感しています。 すでにはるか昔に生産を終えたものですから、中古カメラ市場で探すことになります。 そうは言ってもレンズと違ってベローズは、普通は1台あれば十分なので、 注意していれば状態のよい良品を適価で見つけることができると思います。 ぜひ昔のメカを積極的に使ってみましょう。楽しいですよ。

ELニッコール135mm F5.6による実写のサンプル画像を追加しました。 色再現性はとても優れていると思います。 さらりと涼し気なレンズの描写を確認してください。 きわめて簡単な装備で撮影してみましたが上がりは良好です。

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