ウルトラマイクロニッコールの木箱 ● 堅牢優美な木の箱 ウルトラマイクロニッコールの格納用の木箱だ。極箱(Kiwame-Bako)の趣がある。 いくつか木箱を並べてみたが、ニス塗り仕上げの色とか、 留め金の形状に種類があるようだ。堅牢優美な木の箱である。 下の写真で、左はウルトラマイクロニッコール28mm F1.8の専用格納箱、 右はウルトラマイクロニッコール55mm F2の専用格納箱である。 コレクションするならば、ぜひ木箱は手に入れたいアイテムだ。 非常に堅牢にできている。 厚さ1センチの堅木を素材に、ていねいなニス塗り仕上げだ。 中は赤いビロード張りで、 ふたの部分はクッション入りのゴージャスな仕上がりになっている。 留め金は、クロームめっきの美しい上質で丈夫なものが使われている。 箱のトップには、極め書きがある。 極め書き(鑑定書)と言っても毛筆で書かれているわけでなく、 レンズの名称が書かれた金属製のプレートが貼られている。 木箱の質感と金属製のプレートのバランスがよく、 コレクターにとって魅力的なアイテムとなっている。
UMN 28mm F1.8とUMN 55mm F2の木箱 ● ハコもの人気 なぜここまで上等な箱を用意したのだろうか。 日本光学の木箱は、マニヤの間でも「ハコもの」として人気がある。 時代は古いほどよい。 古いといっても、昭和20年代から30年代にかけてのハコがよくできている。 このサイトでも紹介しているが、 ニコンS型の時代の複写装置 が格納されていた木箱もよくできている。 上質の木材を使用し、がっちりと堅牢に組み上げ、 吟味された金属部品が使われ、ていねいなニス塗りが施されていることが特徴だ。 現在では販売されていないウルトラマイクロニッコールだから、 クラシックカメラ市場で探すことになる。 レンズ単体に比べると、木箱入りは少ない。 それでも、ウルトラマイクロニッコール28mm F1.8であれば、 専用格納箱付きがたまに出てくる。 ここ1年の間でも、出てくるところには出てきている。
赤いビロード張りの高級な木箱 しかし、ウルトラマイクロニッコール55mm F2の木箱入りはかなり少ないようだ。 もし、専用格納箱付きのウルトラマイクロニッコール55mm F2が出たら、 これはもう押さえるしかないだろう。 値段は、この世界では時価だから、こまったものである。 でも木箱入りのレンズも、風景としては完成してくるので、 愛用のデスクの上に置いて鑑賞するのも現代を生きるうえで必要なことだ。
ウルトラマイクロニッコール55mm F2の木箱入り ● 木箱の種類 木箱に入った、ウルトラマイクロニッコールにはどんなものがあるのだろうか。 私が調べたかぎりでは、確実なところでは以下のとおりである。 日本光学の正式な資料に、「木製格納箱入」と明記があるものだけをリストする。 なお、ここにはリストしないが、 ウルトラマイクロニッコール用の専用フィルターも木箱入りである。
なお、最初期の Ultra-Micro-NIKKOR 105mm F2.8 も、 最後期の Ultra-Micro-NIKKOR 165mm F4 も木箱入りである。 さらに、大型の Ultra-Micro-NIKKOR 250mm F4 や Ultra-Micro-NIKKOR 300mm F1.4g なども木箱入りということを、 ニコンミュージアムでの現物の展示や、ネット上の画像で確認しているので、 ウルトラマイクロニッコールはすべて木箱に収納されて販売されたと言ってもよいだろう。
ウルトラマイクロニッコール155mm F4用の美しい木箱 ● 美術品とレンズ ウルトラマイクロニッコールは、昭和が生んだ名品である。 名品はその箱も美しいことがわかった。 極めは日本光学。銘はウルトラマイクロニッコール。完成した本物だ。 美術品とレンズ。だまっていてもよいものはわかる。 ある種のレンズは骨董の一分野であることは確実な事実だ。 だれも口にしないが。ここでは言ってしまおう。レンズは美術品なのである。 骨董はもてばわかるという。骨董はそばに置くと語るという。 骨董は朽ちないという。 ウルトラマイクロニッコールと同じだ。完成した本物。 だまっていてもよいものはわかる。
レンズは美術品であることがわかる設え ● 木箱の謎 ウルトラマイクロニッコールのような装置に組み込んで使用するレンズは、 一般の一眼レフ用交換レンズと異なり、いったん装置にレンズを取り付けたら、 そう度々付けたり外したりするものではない。 むしろいったん装置に取り付けたらそのままで、レンズが入っていた箱など無用となる。 それなのに、なぜこのような立派な木箱に収納して販売したのだろうか。 2004年2月ことだった。 ウルトラマイクロニッコールの設計者のお一人と、 ニコン新宿サービスセンターでお会いし、インタビューさせていただいたことがある。 いろいろなお話を伺ったが、疑問に思っていた点を聞いてみた。
「なぜこのような立派な木の箱に入れて販売したのですか」
すると設計者の方は、 なんと、なんと。 ウルトラマイクロニッコールの収納箱は、高級オルゴールの木箱の品質だったとは。 どうりで豪華なはずだ。なにせ内装は赤いビロード張りですから。 クルミ材は聞くところによると、銃床の良質な材料とのこと。 銃床とは猟銃のような長い銃の肩当ての部分。 なにやら重厚な材料で木箱を作りレンズを収納したようだ。 そこまでやるかのオーバースペックは箱までこだわっていたのだ。 当時の技術者は、後年になって誰かがこの木箱に込められた暗号に気が付くだろうと、 挑発的に世に出したものと思われる。
厨子に納められた御本尊様の風情 ● 時代の文化 レンズを素っ気ない白い紙の箱ではなく、 高級オルゴール品質の木箱に入れて出荷した当時の光学設計技術者。 その心意気、気概は、よく理解できる。 ではなぜいまはレンズを木箱に収納して販売しなくなったのだろうか。 おそらくは、意識高い系の購買担当者から、 「レンズなんてプチプチに包んでそこらのダンボール箱に入れて納品してくれてよいから、 もっと安くしてくれ」とかなんとかあったのかもしれない。 現在この種の、栃木ニコンから販売されている「紫外線撮影用レンズ UV-105mm F4.5」とか、 「低倍率産業用レンズ Nikon Rayfact IL」を購入すると、 なにも印刷されいないただの白い紙箱にレンズがゴロンと入って納入されるようだ。 すべてコストだけで物事を考えては文化は廃る。 時代の文化を壊していたのはユーザーだったのかもしれない。
ウルトラマイクロニッコール専用40.5mmフィルターの木箱 それにしても。それにしてもである。 たった1枚のフィルターのケースがこんな贅沢な木箱ってあるか。 高級腕時計とか趣味の美術品ならばともかく、 最先端の半導体製造に係る産業用途の武骨な工業製品だ。 豪華とかゴージャスという概念があった時代を想う。 ● 2020年のあとがき このコンテンツのオリジナルは2001年12月に書いたものです。 画像は1枚きりでした。 2016年のサイト移動に伴う見直し大改訂では、木箱の集合写真を加え、 その後に判明した事実を「木箱の謎」として追加レポートしました。 2018年2月の改版を機に、画像がすこし少ない印象でしたので、 UMN 155mm F4の木製格納箱の姿を新規に撮りおろし、画像を追加しました。
Copyright Michio Akiyama, Tokyo Japan 2001, 2020
|