Ultra Micro Nikkor 50mm F1.8h Garnet Ruby Red

ウルトラマイクロニッコール 50mm F1.8h
涼しげなガーネットルビー色の赤いコーティング

静かな撮影作法

下の画像をご覧いただきたい。 フィルム式の古いニコン一眼レフカメラに、ウルトラマイクロニッコール 50mm F1.8hを装着している。 この状態で撮影が可能になる。 レンズをリバースしてマウントしている。 ウルトラマイクロニッコール 50mm F1.8シリーズは、 マウント部が52mmピッチ 1mmのネジマウントである。

ニコンFにマウントしたウルトラマイクロニッコール 50mm F1.8h

ウルトラマイクロニッコール 50mm F1.8シリーズを35ミリ一眼レフに装着して撮影する場合、 必ずリバースしてマウントする必要がある。 このレンズは、フィルター径が52mm ピッチ0.75mmである。 つまり、ありあふれたニコン純正のガラスフィルターやアクセサリーが使える。

一眼レフ用のリバースリング(ニコンBR-2A)をカメラにマウントし、 ウルトラマイクロニッコール 50mm F1.8hをリバースしてねじ込んだ。 非常に簡単に撮影体勢となる。 ファインダー上には極精細の画像がパワフルに叩き出されている。

青い稲田にウルトラマイクロニッコール 50mm F1.8h

ピタリとガッチリとマウントできる。 ウルトラマイクロニッコール 50mm F1.8シリーズのフィルター枠部分は、 砲金のような硬質な合金製で、しかもネジが幅広く切ってある。 リバースしてもマウントにがっちり堅牢に固定できる。

このレンズは、エリザベス女王の横顔の切手がベタベタ貼られた大きいダンボールに入って、 遠く大英帝国から日本にやってきた。2001年12月のことだった。

エリザベス女王と共に英国からやって来た

繊細弩級に華麗なコーティング

弩級といわれたウルトラマイクロニッコール 50mm F1.8hではあるが、 リバースして黒いつるんとした鏡胴をながめていると、 なぜかリラックスした気分が伝わってくる。 ガーネットルビー色の、華麗というべき赤いコーティングは、まさにレッドバロンであるが、 撮影状態ではこの緊張も和らぐ。

極超高解像力レンズをマウントしたカメラがポツンと1台。 これも風景になっている。 遠くを眺めるのではなく、極小の水中生物を観察するのが作法だ。 水の種子を探すのも、これは詩的で、それは自由な使い方だ。 太陽光線下でも、なんら問題なく撮影が可能だ。 またフォトレジスト感光材料専用のレンズといっても、 町のスーパーで売っているカラーフィルムで、完璧な写真が撮れる。 実物が真実を語る。事実だから事実である。

ニコンFにマウントした姿
(撮影年は2001年12月)

レンズをリバースして、 逆付け装着した接写しかできないカメラを持って鉄道写真は無理ではあるが、 線路沿いの名前のないような草木にレンズを向けるのも趣きがある。 昔から名前のない風景に、 ウルトラマイクロニッコール 50mm F1.8hをマウントした古いニコンカメラが1台。 それだけの風景である。

線路沿いにウルトラマイクロニッコール 50mm F1.8h

限界レンズの完成

ウルトラマイクロニッコールは、 限られた波長の単一光線下で最高性能を叩き出すように設計されたレンズであって、 このような工業用レンズは、普通のカメラ、 つまり一眼レフカメラには装着できないとか、ピントが出ないとか、 普通の写真用フィルムでは何も写らない、という説明をネットで見たことがある。 1990年代初頭の話だ。パソコン通信の時代だから話は古い。

しかしこれらは、すべて事実と反することである。 フィルム式の一眼レフカメラであっても、デジタル一眼レフカメラでも、 最新のフルサイズミラーレス機でさえも自然光線下で良く写る。 実際に見たことも触ったこともないレンズを仕様から想像して話をしたものと思われるが、 当時は市中の一般人には実物の入手が困難だった時代なので、 今となっては仕方ないことのように思える。

UMN 50mm F1.8hをマウントした古いニコンカメラが1台

自然界の撮影でも完璧な性能を引き出す。 赤いコーテングに潜む、9群12枚の弩級レンズ。 ずしりと重い高密度なスーパーレンズだ。 ウルトラマイクロニッコール 50mm F1.8シリーズのレンズには、絞りがない。 常に開放絞りである。 開放絞りだからこそ、明るいF1.8の理想レンズだからこそ達成できたのが、 800本/mmの驚愕ハイパワーだ。 おまけに歪曲収差はたったの0.002%である。右に出るレンズはない。

限界レンズの完成

夢の極超高解像力レンズは、ウルトラマイクロニッコール 50mm F1.8シリーズの時代に 完成の域に達した。 極限の性能、性能限界を超える情熱をレンズにみたとき、本物の普遍性をかんじた。 夢か弩級の名レンズ。ウルトラマイクロニッコール 50mm F1.8h。

UMNレンズとBR-2Aリング

弩級の名レンズ
(撮影年は2001年12月)

テクニカルデータ

ウルトラマイクロニッコール 50mm F1.8シリーズのオリジナル性能をみてみよう。 手元にe線用のウルトラマイクロニッコール 50mm F1.8e、 それに、h線用のウルトラマイクロニッコール 50mm F1.8hの性能緒元が記載された一次資料がある。 日本光学が発行したセールスマニュアルである。 どこかで誰かのお役に立つだろうから両方のレンズの性能緒元を示す。

レンズ構成図は、1970年代となると、 レンズ本体外観の各部の寸法のみを記載したものしか公開されていない。 レンズエレメントはブラックボックスになっているのだ。 レンズ各部寸法図ということで掲載してみた。 円柱形のストンとした茶筒のような鏡胴デザインが図面から読み取れる。 画像上でクリックすると大き目のサイズで表示されるので確認していただきたい。

ウルトラマイクロニッコール 50mm F1.8e

−焦点距離(設計値): 49.2mm
−最大口径比: 1 : 1.8
−最小絞り: F1.8 固定
−レンズ構成: 9群12枚
−撮影基準倍率: 1/5X
−画角: 13.1度
−色収差補正波長: 546.1nm (e-line)
−口径蝕: 0%
−歪曲収差: 0.004%
−解像力: 500本/mm (14mm⌀), 600本/mm (12mm⌀)
−画像サイズ: 14mm⌀
−原稿サイズ: 70mm⌀
−基準倍率における原稿から画像までの距離: 315mm
−フィルター径: 52mm P=0.75
−マウント: 52mm P=1.0 ねじマウント
−重量: 760g

−発売時期: 1969年
−当時の価格:
   360,000円(1974年 6月)
   360,000円(1976年 4月)
   360,000円(1977年12月)

ウルトラマイクロニッコール 50mm F1.8eのレンズ各部寸法

ウルトラマイクロニッコール 50mm F1.8h

−焦点距離(設計値): 49.2mm
−最大口径比: 1 : 1.8
−最小絞り: F1.8 固定
−レンズ構成: 9群12枚
−撮影基準倍率: 1/5X
−色収差補正波長: 435.8nm (g-line), 404.7nm (h-line)
−口径蝕: 0%
−歪曲収差: 0.002%
−解像力: 650本/mm (14mm⌀), 800本/mm (10mm⌀)
−画像サイズ: 14mm⌀
−原稿サイズ: 70mm⌀
−基準倍率における原稿から画像までの距離: 315mm
−フィルター径: 52mm P=0.75
−マウント: 52mm P=1.0 ねじマウント
−重量: 700g
−重量実測: 583.0g

−発売時期: 1969年
−当時の価格:
   385,000円(1974年 6月)
   385,000円(1976年 4月)
   385,000円(1977年12月)

レンズの重量をよく見ていただきたい。カタログデータは 700gである。 ところが実測してみると 583.0gとまるで別物のように大幅に重量が異なる。 この点は 一つ前の記事 で言及してみた。

ウルトラマイクロニッコール 50mm F1.8hのレンズ各部寸法

解像力800本/mmの驚愕ハイパワー

ウルトラマイクロニッコール 50mm F1.8hの涼しげなガーネットルビー色の赤いコーティング。 宝飾品かガラス美術工芸品のような格調高い仕上り。 極限の性能を突き詰めていったら、工業製品ではなく宝石のような美術品となったのだ。

宝石のような夢の極超高解像力レンズ

2021年のあとがき

このコンテンツのオリジナルは2001年12月当時に書いたものです。 その後2016年のサイト移動に伴う大幅な見直しで、新たに撮影した画像を追加しました。 続けて2017年の改版では、テクニカルデータを整理し、 レンズ構成図の追加と当時の価格について説明を加えました。 2020年にはレンズ重量を実測した結果を追記しました。

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