アポニッコール240mm F9 ランドスケープ・フォトグラファー
APO Nikkor 240mm F9 Every Day is a Good Day
アポニッコール240mm F9 ランドスケープ・フォトグラファー
Every Day is a Good Day 十五日のスケールを十五年に変えてみた。 15年前に撮影した景色に、15年後に撮影した景色を重ねて想った。 なにも変わっていない。ありのままに生きたレンズだ。なにも動じない。 アポニッコール240mm F9が記録した映像は、15年前も今もあかるく元気である。 この一瞬を精一杯に生きるレンズ。日日是好日。 ● 風景写真家の軽い装備 アポニッコールは大きく分けて二種類ある。 3群4枚レンズを搭載したアポニッコールと4群4枚レンズを搭載した対称型アポニッコールである。 本稿では対称型アポニッコールに分類されるアポニッコール240mm F9について述べている。 アポニッコール240mm F9は写真製版用の産業用レンズだ。 写真が、そして印刷処理がデジタル化され、 町の印刷屋さんほか印刷業界から大量に廃棄あるいは放出されたレンズという位置付けである。 アポニッコール240mm F9。 開放F値はF9。感動的に暗い。最小絞りはF128だ。 これ以上の最小絞り値目盛を備えているニッコールレンズは聞いたことがない。 アポニッコール240mm F9は風景写真家におすすめだ。 レンズが軽い。軽い装備で壮大なランドスケープと対峙できる。
ニコンPB-4ベローズとアポニッコール240mm F9は最強の組合せ
ニコン一眼レフカメラ用のレンズフードが似合う ● テクニカルデータ
アポニッコール240mm F9は写真製版用で、
可視光線はもちろん近紫外線についても色収差を除去・補正した完全なるアポクロマートレンズだ。 APO Nikkor 240mm F9
−焦点距離: 240mm
−発売時期: 1967年 当時の価格を調べて驚いたのであるが、 販売期間が約20年の長きに渡ったようである。 1987年 1月以降の価格表が確認できていないが、それにしても息が長い。
(注)重量のこと
アポニッコール240mm F9のレンズ構成図
特注したマウントアダプターでFマウント化を実現
パワフルで精悍な存在感を放つアポニッコール240mm F9 ● マウント座金の話 中古品がよく流通しているこのクラスのレンズは、 写真撮影装置からレンズだけを手で持ってクルクル回して外したのだろう。 座金は装置本体に残したままだ。 6本のネジやボルトで止めてあるため、座金を外すのは手間がかかるのか。 それとも解体業者は、それほど座金が重要なパーツと思わないのかもしれない。 とも角、下の写真ではこの53ミリネジ(ピッチ0.75)のマウント座金が4枚写っている。 じつは苦労したのは、このマウント座金を探すことだった。 4枚とも日本光学製のオリジナルで新品だ。 非常に精緻な金属加工された座金は、うすいみどり色の簡素な紙に包まれている。 必要な人は探す。でも、なかなか出てこない。そういうものなのだ。
アポニッコール240mm F9と専用マウント座金 この53ミリネジ(ピッチ0.75)のマウント座金を探していた理由は、 ほかの産業用ニッコールレンズには座金がこのサイズのものが多いためだ。 例えばリプロニッコール85mm F1.0がある。 マウント座金さえあれば、たとえばFマウントにするアダプタの製作がひかくてき実現しやすい。 ニコン純正オリジナルのため精度も高い。 ● フィルターとフードの話 アポニッコール240mm F9のフィルター径は47mm P=0.5mm。かなり特殊なサイズといえる。 2004年当時では適合するステップアップリングが市販されておらず、 特注で47mm→49mmのステップアップリングを造ってもらった。 1個だけである。ローレット加工の高級品。 49mm→52mmのステップアップリングは標準的なサイズのため、大手メーカーの市販品が買えた。 フィルター径52mmが確保できるとニコン純正アクセサリーは格段に豊富となる。 フードはニッコールオート105mm F2.5/135mm F3.5用の汎用の市販製品を装着している。 なお2020年現在でも、47mm→49mmのステップアップリングはケンコーやマルミ光機の大手メーカーからは販売されていない。 しかしながら、ネット通販だと中国製ではあるが入手可能だ。 しかも350円とか考えられない格安の価格となっている。 この価格は日本の産業界にとっては問題を含む話であるが、ユーザーにとってはありがたい時代になったものだ。 ただしピッチが0.75mmとなっている。アポニッコール240mm F9は47mmでピッチは0.5mmである。 購入される方は事前に正しく装着できるか確認した方がよいだろう。 ● レンズのためなら情けは このレンズは、めずらしく国内で入手した。 2000年2月のことだった。場所は東京・銀座の松屋デパート。恒例の中古カメラ市。 初日に行けず土曜日に落穂拾いに行ったら、アルプス堂のブースで誰にも相手にされずに待っていた。 アポニッコール240mm F9とワイドアングルアポニッコール150mm F8が2本並んでいる。 APO 240mm F9には貴重な 53mm P=0.75 の座金と、プラ製の前キャップが付いている。 リアキャップが付いていないので聞いたら、 お店の人が W.A. APO 150mm F8に付いていたリアキャップを外して付けてくれた。 オリジナルの縮緬塗装の金属製リアキャップである。 これでどう?との提案に即時商談成立。 私が2本レンズを並べて品定めしていた時に熱い視線を手元にかんじた。 ワイドアングルアポニッコール150mm F8の方が希少で当時でも高価だったのだが、 もう1本買ってもよいリーズナブルな値段になっている。 しかしここはマニヤ同士ゆずりあいの気持ちで1本だけ求めた。 熱い視線の人は、すごい勢いで残された W.A. APO 150mm F8を手にとり、 こころの中でガッツポーズをしたようにみえた。 それにしても、しかしながら、あのとき無情にも、 ワイドアングルアポニッコール150mm F8も買っておけばよかったなあ。 と、思うことしきり。美品だったし。 いまは昔のこの出来事いらい、ワイドアングルアポニッコールとはご縁がない。 レンズのためなら情けは無用。しない方がいい苦労は買ってでもするな。 逃がしたサカナはなんとかと言うが、これは、この世界の鉄則なのです。
少年野球の観戦にもぴったり ● ロースピード絞りは開放F9からF128まで 大きいバレルレンズはそのサイズと重量で迫力満点ではあるが、 そのままスケールダウンした、手のひらにのる業務用レンズもかわいくてよい。 写真の世界は広い。 風景写真家におすすめと言ってはみたが、鳥とか野生生物を狙う方もおいでだろう。 鉄道写真にモータースポーツ、航空写真にもありかもしれない。 もちろん動かない遠くを望む山岳写真だったら最適だ。 しかしながら、どんな局面でもアポニッコール240mm F9は焦点を合わせることができる。 決して明るくはない、むしろ考えらないくらいに暗い、 F9からF128の絞りによって非常にシャープな世界を見ることができるだろう。
この状態のベローズ長で無限遠の空を見る ● シンプルで軽い装備に漂う知性 当初は付属のマウント座金を利用してマウントアダプターを自作しようとした。 しかし、もろもろの面倒な金属加工作業が必要となり、私にはハードルが高い。 2004年の夏のことであるが、 リプロニッコール85mm F1.0用に開発・特注したFマウントアダプターが完成した。 Fマウントに変換するが側のレンズマウントねじ径は53mm P=0.75mmの仕様である。 このあたりの話は ここに書いてある。 アポニッコール240mm F9も同じねじ径は53mm P=0.75mmのマウントである。 さっそくこのマウントアダプターを介して、 ベローズPB-4付きのニコン一眼レフにアポニッコール240mm F9を装着してみた。 レンズを開放にしても最大絞りがF9という暗さではあるが、 シンプルで軽い装備が構築できて、さらには高性能という話となれば、 それは欠点にならない。 軽快な装備で野を行くランドスケープ・フォトグラファーや、 とにかく高性能を求めるボタニカル・フォトグラファー(高級植物写真家)にはおすすめのレンズである。
空高く日没前レンズが一本
ここはアポニッコール240mm F9の出番だ
夕暮れて秋の気配
さて月日がなにか許すこともあるのだろう。
上の画像には日没近く川辺であそぶ若いカップルが写り込んでいる。
右下にアクセントがほしくて意図的に画像の中に登場していただいた。
撮影年は2004年の秋である。
はたして十余年の時が過ぎ、この若いお二人はどうしているのだろうか。
きっとたのしく暮らしていることだろう。そうに違いない。
それぞれの事情とそれぞれのさだめを想う。 ● ボタニカル・フォトグラファーの隠し玉 とおく地平線の彼方のランドスケープ・フォトだけが舞台ではない。 もともと基準倍率が1倍のレンズである。 近距離の被写体にたいして絶大なる超絶性能をたたき出すのはあたり前と言えるだろう。 アポニッコール240mm F9ほか世界のハイエンドレンズで、 素晴らしいボタニカル・フォト(Botanical photograph)を撮影されている方を紹介したい。 写真共有サイトflickrでいくつかのグループを運営し活躍されている HIRO. Morisonさんだ。
被写体は蘭科をはじめとする高級植物である。
画像の掲載につきご本人からご承諾をいただいたのでご覧いただきたい。
アポニッコールの持つ、どこまでも原音に忠実な記録性と再現性、
臨場感あるダイナミックな空気感描写に音場表現、
さらには大英博物館所蔵の17〜18世紀の植物図鑑に勝るとも劣らない色彩感情の粒子感が素晴らしい。 被写体である植物の解説と撮影機材の説明は、 HIRO. Morisonさん のflickrをご覧いただきたい。 希少種の入手から栽培の苦労まで、とても本の一冊や二冊では語りつくせそうにない。 お花と会話ができる特殊能力がないと、こういったボタニカル・フォトはまず無理だろう。
シンビジウム・インシグネ 'ベトナム・ビューティー'
シンビジウム[ティグリヌムx(ティグリス・デライトxアレクサンデリー)] 'ホワイト'
シンビジウム ルビー・アイズ 'レッド・スター'
撮影レンズはアポニッコール240mm F9である。カメラはニコンD800E。 レンズとカメラの間にはトヨビュー45Gの大型蛇腹がベローズ装置として入っている。 大判カメラお得意のあおり機構がフル活用できるシステムとなっている。 4×5インチ判用の大型蛇腹は35ミリ用ベローズのそれと比べると、 内寸がはるかに大きく、蛇腹による画面のケラレがない。 よって自由度が高くきめ細かい作画が可能なデジタル写真装置なのである。
シンビジウム・インシグネ 'ベトナム・ビューティー'
クリビア・ミニアタ変種シトリナ 'スミザーズ・イエロー'
ランドスケープ・フォトグラファーからボタニカル・フォトグラファーまで。 アポニッコール240mm F9の活躍範囲とダイナミックレンジはどこまでも広域で余裕がある。
アポニッコール。
● ニコン Z 写真帖 ニコン Z 6 にAPO ニッコール240mm F9を装着した。 定石に従ってベローズを介してのマウントである。 15年前と同じ撮影ポイントだ。 京王線多摩川橋梁を望む遠く距離感のある眺めのランドスケープを撮影してみた。 接写とか近接撮影ではないもう一つのレンズパワーを見ていただきたい。
空高く日没前レンズが一本 このポイントからちょうど奥に見える建物と鉄橋の境界から電車が出てくる姿を撮影。 晩秋の早い日没間近。 光線の具合を見はからってシャッターを切った。
ここはアポニッコール240mm F9の出番だ
APO Nikkor 240mm F9, ASA 800 F9 1/2500 sec. -0 +0 レンズは絞り開放である。開放F値は F9。十分に暗くてよい。 映像は画像をクリックして等倍で見ていただくとわかるが、きわめて解像していてヌケもよい。
APO Nikkor 240mm F9, ASA 800 F9 1/4000 sec. -0 +0
APO Nikkor 240mm F9, ASA 800 F9 1/3200 sec. -0 +0
APO Nikkor 240mm F9, ASA 800 F9 1/2500 sec. -0 +0 アポニッコールで鉄道写真。アポ鉄(c)である。 にわか鉄で本物の方々には恐縮ではあるが、遠景の撮影被写体の一つとして大目にみていただきたい。 しかし鉄橋を渡る電車の音には風情がある。 はるか昔の幼い頃に聞こえた音とかわらない。
最小絞り値 F128 の重機 アポニッコールはニッコールレンズ群のなかでも最強の暗さを誇る。 最小絞り値は F128である。F16とか F22などは暗いうちに入らない。 F128で撮影してみたいものだ。240ミリの望遠レンズなのにパンフォーカスか。 こんど試してみよう。 ● 2022年のあとがき このコンテンツのオリジナルは2001年11月に書いたものです。 画像は1枚のみのシンプルな記事でした。 実際にはまだ撮影ができていない状況でした。 その後に専用のマウントアダプターを開発・特注し、 アポニッコール240mm F9をニコン一眼レフカメラに装着して撮影できるようになりました。
2016年のサイト移動に伴う見直しにあたり、拡大したストーリーの内容に合わせて、
画像を追加しました。
2018年3月にはボタニカル・フォトグラファー HIRO. Morison さんの全面的協力を得て、
240mm F9による美しい実写画像を盛り込みました。
Copyright Michio Akiyama, Tokyo Japan 2001, 2022
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