EL ニッコール 80mm F5.6N 元箱にプラケースの図。 レンズにはカチリと固定できるクリップオン式のキャップは付属していない。 ワンカップ酒のキャップのようなフタが正式となる。 Nikonのロゴが入っているので、Nシリーズの後期のものと思える。 レンズの上にこのフタをポンと乗せ、 クリーム色の四角いスポンジを入れてプラケースの透明なフタを閉めて収納する。 コレクター的観点では、ここまで揃っていればかなり上等と言える。 製品名は、EL ニッコール 80mm F5.6N である。 レンズ本体には末尾の「N」は刻印されていない。 元箱には末尾に「マルN」と印刷されている。 プライスタグには末尾に「N」が印刷されているので話がややこしい。 販売カード/保証書には、型名として、 EL-NIKKOR 80 / F5.6 N と印字されているのでさらに混乱する。 せめてレンズ本体そのものには、末尾に「N」を刻印してほしかった。 今から刻印の追加をお願いしてみよう。ダメかもしれないが。
EL ニッコール 80mm F5.6N コンプリート・コンディションの揃い一式の姿である。 紙モノが全部そろっている。 コレクター様向けのご参考として、これらが揃っていれば完品となることを示す。 新品未使用品のお道具は美しい。 小さい元箱にきっちり入っているものを全部出して並べてみた。 取扱説明書がある。 黄色い販売カードの下には保証書が付いている。 店頭で販売したさいに、購入年月日を書き、販売店のゴム印を押して完成。 販売カードの部分を外し、カーボンコピーで必要事項が記載された保証書を顧客に渡すスタイルだ。 プライスタグも同梱されている。 販売店のショーケースに展示する場合は横に添える。 折りたたまれているが自立する。 Nikonシリカゲルも入っていた。 ● テクニカルデータ EL Nikkor 80mm F5.6N
−焦点距離: 80.2mm
−発売時期: 1980年 (注)以下のデータは製品カタログに掲載されていないため未記載。
−口径蝕 1989年(平成元年)4月 1日。日本で初めての消費税が施行となった。 税率は 3パーセント。 消費税の導入前は、いわゆる贅沢品には物品税がかかっていた。 一眼レフカメラや交換レンズ、そして写真引き伸し用レンズの物品税の税率は 15パーセント。 EL ニッコール全 13種類の価格の推移を確認したところ、40mm F4Nから 210mm F5.6Aまで 10本は、 消費税の導入により、ほぼ 10パーセント価格が下がった。 今までかかっていた物品税がなくなったためと思われる。
EL ニッコール 80mm F5.6Nのレンズ構成図(各部寸法入り) ● EL ニッコール 80mm F5.6N の立ち位置 N シリーズの EL ニッコールは全部で 7種類販売された。 50mm F4N のように早くに姿を消したモデルもあり、 7種類すべてがラインナップされた 1984年10月当時の製品一覧を見ていただきたい。 このクラスまではアマチュアも使った焦点距離であること、 実に20年以上長きに渡り生産され販売された事実を踏まえ、 現在の中古カメラ市場では比較的安定的にモノが流通していると言える。 未使用デッドストック新品だと話は別だが、一般の USEDランクであれば、 試しに買ってちょっと遊んでみるか派の方にも手軽に入手できる。
ニコン標準小売価格表(1984年10月 1日版)より
マウントアダプターと容易に入手できる汎用のヘリコイドで、 EL ニッコール 80mm F5.6N はさらに自由になる。 ライカ S3 あるいはライカ M11-P に装着して、アポナントカと比べてみるのもよし。 中判をかるくカバーするので、 ハッセルブラッドの 907Xカメラボディ+ CFV II 50Cデジタルバックに EL ニッコール 80mm F5.6N はフィットするだろう。 現代の撮影シーンでも最高に使えるレンズなのである。 ● 設計は森 征雄氏 ニコンのウェブサイトで大好評連載中の「ニッコール千夜一夜物語」。 この記事を書いている 2022年の夏。第八十二夜だった。 数々のニッコールレンズが取り上げられてきたが、 現時点で、唯一の写真引き伸し用レンズとして登場しているのが、 第六十四夜 EL-NIKKOR 80mm F5.6N だ。 「である調担当」の大下孝一さんの回である。 「無個性を目指した個性」とは、光学設計者でなくては思想できない極めて秀逸なコピーだ。 記事を読み進めると、 EL ニッコール 80mm F5.6N を設計したのは、あの森 征雄氏であることがわかった。 第九夜 NIKKOR 13mm F5.6 。 一眼レフ用超広角レンズとして、世界初にして世界最大の画角を有した Fマウント用交換レンズ、 ニッコール 13mm F5.6。 設計したのは、森 征雄さんなのである。 生産数が極めて少なく非常に貴重なレンズで、中古市場では 200万円を超える。 森 征雄さん設計と聞いただけで、 EL ニッコール 80mm F5.6N の写りはスゴいのに決まっている。 確信した。レンズの前玉を見ただけで気合が入っているのがわかる。 超絶的によく写るので、実写例は次章「ニコン Z 写真帖」で確認していただきたい。 ● 発売時期のこと EL ニッコール 80mm F5.6Nの発売時期を調べてみた。 ニコンの社史(75年史と100年史)には説明が無い。 全部で 7本の Nシリーズの EL ニッコールのうち、 EL ニッコール 75mm F4N、同 50mm F4N、同 40mm F4N だけが社史に掲載されている。 その他については言及されていないので、手持ちの史料を掘り起こし精査してみた。 1980年 6月15日付の価格表には、旧 80mm F5.6 が 19,400円で出ている。 8か月後の 1981年 2月25日付の価格表には、旧 80mm F5.6 に代わって、 80mm F5.6N が 21,000円で登場している。 どうやら、1980年 6月15日から 1981年 2月25日の間に発売されたようだ。 前述の、ニッコール千夜一夜物語 第六十四夜 EL-NIKKOR 80mm F5.6N を確認してみた。 レンズ構成図に添えられた説明には「昭和55年のEL-NIKKORカタログより転載」とある。 すでに 1980年版のカタログに登場していることがわかる。 1980年11月15日版の Nikon 引き伸し用レンズ カタログに 80mm F5.6N が掲載されていることを確認した。 よって、EL ニッコール 80mm F5.6N の発売時期は 1980年後半と断定した。 ● EL ニッコール 80mm F5.6N の使い方 このレンズはフランジフォーカルディスタンス(フランジバック)が公称 73.7ミリと非常に長いので、 ニコン一眼レフでも余裕で無限遠が出る。 さらには、フランジバックの短いフルサイズ・ミラーレス機へのマウントが容易だ。 私は以下のセットで EL ニッコール 80mm F5.6N をニコン Z 6 にマウントし、無限遠を出している。
EL ニッコール 80mm F5.6N M42 to Nikon Z マウントアダプターで、Z マウントを M42マウントに変換した。 BORG製の M42ヘリコイドを入れている。 M42ヘリコイドのレンズ側は、ライカL39スクリューマウントにしてあるので、 そのまま、EL ニッコール 80mm F5.6N が装着できる。 EL ニッコール 80mm F5.6N レンズには、 NC 40.5mmフィルターを装着し、40.5mm-52mm ステップアップリングを入れて、 深い Nikon HS-14 フードをセットしている。 ● Nシリーズのレンズ使用上の注意 Nシリーズのレンズには、引き伸し機のランプの光を取り込み、絞り値を照明する機構が備わっている。 レンズ内に採光窓があるので、そのまま撮影用に使うと漏光の原因となると言われていた。 ホントか。 私が苦節 3年間に渡り繰り返した実写による実証実験では、 真夏の炎天下ほか過酷な条件でも漏光による画像の影響は皆無だった。 いまだ一度も漏光が原因による光カブリなどの画像が撮れたためしがない。 なんら気にすることはない。 100万ショットに 1回くらいは光カブリがあるかもしれないと心配するならば、 絞り値表示窓にバンドエイドでも貼っておけばよい。黒パーマセルテープなら完璧だ。 しかし、レンズ底板のネジを外して明かり取り窓の位置をずらして取り付けるなどの無用な改造はもっての外。 これはやめないといけない。 ● 記事のご案内 すべての場面において、画像の上で左クリックすると、大きいサイズの画像を表示できます。 細部までを確認したい方はどうぞ拡大してご覧ください。 → では次のお話。 第 2 章 ニコン Z 写真帖 1 ショートカットはこちらからです。
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