Ultra Micro Nikkor Technology

ウルトラマイクロニッコールのテクノロジー

マイクロ写真から超マイクロ写真へ

グランドヒストリーでは簡単に書いたが、 日本光学が最初にリリースしたウルトラマイクロニッコール105mm F2.8は、 高周波トランジスタ用のエバポレーション・ネガマスクの作製が目的だった。
以後は微細なフォトマスク製作用、つまり超マイクロ写真用に開発が進められていった。
当時の線幅は1000nm〜3000nm(注)だ。

ウルトラマイクロニッコールのテクノロジーについて、 いくつかの観点でかんたんにまとめてみたいと思う。

(注)
当時の表記では1〜3μm(マイクロメートル)となっているが、 2016年の見直し時に現在の単位系であるnm(ナノメートル)に直した。

レンズに夏空が映るウルトラマイクロニッコール125mm F2.8

レンズの明るさと解像力のこと

カメラファンの常識、あるいは一般的な感覚として、「レンズは絞り込むとシャープになる」、 というのがある。
であるから、超高解像度レンズの開発は、 明るさを犠牲にして高解像度を追求することが考えられるが、 このハイエンドな世界ではそれが通用しない。

収差の非常に少ないレンズの場合は、絞り込むほどに解像力が低下する。
高い解像力を持つためには、レンズが明るいことが絶対条件なのだ。

以下のかんたんな式を見てほしい。
収差の極めて少ない優秀なレンズが波長λnmの光で被写体を結んでいる。
FeはレンズのFナンバーの実効値。
その画面中心部の解像力は、以下のかんたんな式で表現できる。

解像力=1/1.22λFe (本/mm)

被写体が無限遠にある場合は、FeはFと一致するが、 被写体が近距離にあって撮影倍率M倍の場合には、おおよそ以下の式になる。

Fe=F(1+M)

光の波長と解像力のかんけい

前述の式より、Fナンバーの実効値を計算してみると以下の表のようになる。
この表から、高い解像力を必要ならばFeの値が小さいこと、つまり、 レンズが明るくなくてはならないことが理解できるだろう。
また、同じFナンバーだと光の波長を短くするほど高い解像力が得られる。
*表中のe-lineからh-lineで示す値は、解像力(本/mm)を示している。

有効 F No.
e-line
λ=546.1nm
g-line
λ=435.8nm
h-line
λ=404.7nm
1.0
1.2
1.4
2
2.8
4
5.6
8
11
16
22
1,5601
1,251
1,072
750
536
375
268
188
136
94
68
1,881
1,567
1,343
940
672
470
336
235
171
118
85
2,025
1,688
1,447
1,013
723
506
362
253
184
127
92

e線とg線

短い波長ほど高い解像力が得られることがわかったが、利点ばかりではない。
銀塩乳剤を使った高解像度乾板では、短波長の光ほど粒子による錯乱が多くなり 画像にニジミを生じさせ像の鮮鋭度が低下する欠点があった。

銀塩乳剤ではダメならばということで、 フォトレジスト(感光性樹脂)を使うことが考えられた。
製品も銀塩乳剤用のレンズとしてのe線用ウルトラマイクロニッコールが、 感光性樹脂用のレンズとしてのg線用ウルトラマイクロニッコールが 当時のカタログに登場する。
このあたりが理解できていないと、なんで似たようなレンズが重複しているか、 という疑問に答えられないのだ。

ウルトラマイクロニッコール28mm F1.7eの重厚な輝き

種類

e線とg線用が明確に区別された1971年の資料から、以下のリストを掲載する。
個人的なコレクションには、銀塩乳剤用のe線タイプが好ましいが、 g線用と比べたわけではない。 一眼レフカメラにカラーフィルムを詰めて自然界と対峙するには、 e線用ウルトラマイクロニッコールがいいかもしれない(注)。

(注)
本コンテンツを書いた2001年当時は、私はデジタル一眼レフを所有しておらず、 フィルム式のニコン一眼レフカメラ(FおよびF2)で撮影を行っていたため、 カラーフィルムを使用した場合に限定した言及となっている。 しかしながら、その後デジタル一眼レフを購入し、 実際に複数のウルトラマイクロニッコールで確認した結果、 なんら問題なく非常に品質の高いカラーバランスに優れた映像が撮影できることを確認している。

e線用ウルトラマイクロニッコールの解像度

種類
基準倍率
画像サイズ
空中解像力
28mm F1.7e
1/10X
8mmφ
6mmφ
700本/mm
800本/mm
28mm F1.8e
1/10X
8mmφ
7mmφ
6mmφ
600本/mm
650本/mm
700本/mm
30mm F1.2
1/25X
2mmφ
1250本/mm
50mm F1.8e
1/5X
14mmφ
12mmφ
500本/mm
600本/mm
55mm F2
1/4X
12mmφ
500本/mm
125mm F2.8
1/25X
28mmφ
400本/mm
135mm F4
1/25X
50mmφ(F4にて)
64mmφ(F5.6にて)
330本/mm
200本/mm
155mm F4
1/10X
56mmφ(F4にて)
80mmφ(F5.6にて)
300本/mm
200本/mm
165mm F4
1/40X
56mmφ(F4にて)
80mmφ(F5.6にて)
300本/mm
200本/mm
250mm F4
1/20X
80mmφ (F4にて)
100mmφ (F5.6にて)
110mmφ (F5.6にて)
320本/mm
220本/mm
180本/mm

g線およびh線用ウルトラマイクロニッコールの解像度

種類
基準倍率
画像サイズ
空中解像力
28mm F1.7g
1/10X
8mmφ
6mmφ
800本/mm
900本/mm
28mm F1.8h
1/10X
8mmφ
7mmφ
6mmφ
750本/mm
800本/mm
900本/mm
30mm F1.2h
1/25X
3mmφ
2mmφ
1300本/mm
1600本/mm
50mm F1.8h
1/5X
14mmφ
10mmφ
650本/mm
800本/mm
225mm F1.0g
1X
50mmφ
400本/mm
300mm F1.4g
1X
60mmφ
400本/mm

理想レンズ・ウルトラマイクロニッコール

ウルトラマイクロニッコールは理想レンズに近い特性を持っている。
数値特性を知らなくてもよい。
往年のレコードもたいせつだが、生き延びたレンズには生きがいが必要だ。

働いてきたレンズだ。
その扱いは、敬意をもって接したい。
けっして失礼があってはならない。
レンズのなかにも礼儀あり。と、むかしの人は言っている。

日本刀は武器だ。言ってみれば人を斬るために存在する。
しかしいま、その役割はない。 美術品として、そしてもっと精神性のある存在に昇華している。

ウルトラマイクロニッコールも同じことが言える。
いまさら、時代の装置にセットすることもない。
日本の春夏秋冬。日本の歳時記のなかで、使うことがよい。
癒し系レンズなのかもしれない。

本物は、生きつづけるものだ。

写真は、ウルトラマイクロニッコール55mm F2。
解像度 500本/mmの驚異的性能のスーパー標準レンズだが、姿はやさしい。
新潟の米どころ、初夏は田んぼで休憩中にスナップ。
研ぎ澄まされたレンズのコーティングに鎮守の森が映っている。

初夏の田園にウルトラマイクロニッコール55mm F2

2016年の追記

大枠のコンテンツは2001年10月に書いたものです。
1960年代に製作されたウルトラマイクロニッコールのセールスマニュアル等から技術データを参照しました。 しかし、当時使われていた単位系には、現在では使われていないものがありますので、 現在一般的に使われている単位系に数値を換算し修正しました。
また、掲載している画像は鮮明なものと差し替えました。

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