Printing Nikkor 150mm F2.8 Optical Fantasy

プリンティングニッコール150mm F2.8オプチカルファンタジー

Pure Apochromat Heavy Macro Lens
Printing Nikkor 150mm F2.8 Optical Fantasy
Camellia Red Garden

カメリアレッドな風景を曳く

植物園。人影なし。山茶花元気。
という文字を不安定に並べると、もうこれで完結してしまうが、それはそれで、 きょうはベローズユニットを載せた三脚を立てたことだし、 自由に咲くピンク色の山茶花の下で小春日和という音も空にみえたことだし、 レンズの話でもしてみたい気分。

山茶花の花びらがびっしり落ちている。
ピンク色の花の照り返しが鏡胴に写るのは、 プリンティングニッコール150mm F2.8だ。
カタログの表記では、プリンティング・ニッコールとなっているが、 ここはプリンティングニッコールと書いてみる。

プリンティングニッコール

プリンティングニッコールとは耳慣れない名前かもしれないが、 きわめて少ない特殊用途ニッコールのなかの生き残りのひとつである。
プリンティングニッコールがデビューしたのは、昭和43年(1968年)だった。
75mm F2.8、95mm F2.8、105mm F2.8、150mm F2.8の4本だ。
この年は一眼レフカメラ用のニッコールでも個性的なレンズが登場している。
特殊な魚眼レンズOP-Fish Eye 10mm F5.6、シフトレンズのPC 35mm F2.8、 それに超広角レンズはUD20mm F3.5だ。

プリンティングニッコールは、 劇場映画フィルムのオプチカルプリント専用の完全アポクロマートレンズである。
おなじアポクロマートでも、 非常に大きな拡大率となる劇場映画用フィルムのプリントでは、 ごくわずかな色のにじみさえも許されない完全な色収差除去が求められる。
極限の解像度と歪曲収差・色収差の完全除去を実現した超ニュートラル・マクロレンズが、 このプリンティングニッコールシリーズだ。

ニコンのアナウンスによると、 映画フィルムのオプチカルプリント用として開発したレンズではあるが、 産業分野における微細なパターンの検査・ 計測などの高精細画像の撮像用に最適であると公表している。
現行製品で唯一アポクロマートであることと、 歪曲収差が基準倍率で完全な無収差(0%)である点を宣言しているレンズに注目したい。
EDガラスを利用して各種収差を補正する設計技術を、 プリンティングニッコールに採用していることはよく知られている。

ニコンベローズPB-4とプリンティングニッコール150mm F2.8の完璧な撮影体勢

ゴージャスな限界性能

プリンティングニッコールはこのサイトで画像を公開している第一世代と、 鏡胴デザインがシンプルとなり軽量化が図られた第二世代のレンズがある。
第一世代の詳しい仕様が掲載された資料が手元にないので、 この点が明確な第二世代のレンズから性能を探ってみよう。

Printing Nikkor 150mm F2.8A

−焦点距離: 149.8mm
−最小絞り: F11
−レンズ構成: 6群14枚
−基準倍率: 1/1X
−画角: 16度 43分
−色収差補正波長域: 400nm〜800nm
−歪曲収差: 0.0000000000% (1/1X)
−解像力: 240本/mm (中心、1/1X), 170本/mm (88mmφ、1/1X)
−画像サイズ: 88mmφ
−原稿サイズ: 88mmφ
−基準倍率における原稿から画像までの距離: 559.2mm
−重量: 1,050g
−価格: 865,700円(受注生産、1994.04.01)

さらに、ほかのラインナップについても、このさいだから掲載しておきたい。
備えあれば憂いなし、釣られてやってくる可能性も無しとはいえないわけだから。
なお、2002年12月現在、150mm F2.8Aは製造中止となっている。
ほかの2本のラインナップも現在の価格が未確認だが、 参考に最後の価格表から調べてみた。

Printing Nikkor 105mm F2.8A

−焦点距離: 103.9mm
−最小絞り: F11
−レンズ構成: 6群14枚
−基準倍率: 1/1X
−画角: 16度 25分
−色収差補正波長域: 400nm〜800nm
−歪曲収差: 0.0000000000% (1/1X)
−解像力: 240本/mm (中心、1/1X), 180本/mm (60mmφ、1/1X)
−画像サイズ: 60mmφ
−原稿サイズ: 60mmφ
−基準倍率における原稿から画像までの距離: 388mm
−重量: 375g
−価格: 550,000円(受注生産、1994.04.01)

Printing Nikkor 95mm F2.8A

−焦点距離: 95.0mm
−最小絞り: F11
−レンズ構成: 6群14枚
−基準倍率: 1/2X
−画角: 16度 50分
−色収差補正波長域: 400nm〜800nm
−歪曲収差: 0.0000000000% (1/2X)
−解像力: 320本/mm (中心、1/2X), 250本/mm (32mmφ、1/2X)
−画像サイズ: 32mmφ
−原稿サイズ: 64mmφ
−基準倍率における原稿から画像までの距離: 349.9mm
−重量: 345g
−価格: 502,000円(受注生産、1994.04.01)


オリジナルの青箱と製品検査証

元箱は青いデザインの紙製ボックス。 大ぶりの箱にゆったりと格納されている。 製品検査証はM. Hirao (Matsuo Hirao、平尾 松男氏) の直筆サイン入りだ。

撮影作法

プリンティングニッコール150mm F2.8のフィルターサイズは62mmである。 また、レンズの最後尾が同様の62mmネジになっている。
このため、62mm径レンズ用のBR-5リバースリングと 52mm径レンズのリバースリングを結合することで きわめて簡単で確実なF-マウントが完成する。


ニコンBR-5リングとBR-2リング

ニコンBR-5は現行製品のアダプターである。 本来の機能はレンズをリバースしてベローズなどに取り付けるときに使う。
アタッチメントサイズが62mmのBR-5リングと、 52mmのBR-2リングを用意する。現行品では、BR-2Aリングだ。


レンズにBR-5 + BR-2 + M2リング

いずれも純正のニコン製リングを3個結合して、 ガッシリとしたFマウントレンズが完成する。
ベローズにマウントする場合には、M2リングはなくてもよい。

豊穣の驚異的マクロ映像

このレンズを装着したニコン一眼レフカメラで、 ファインダーをはじめて覗いたときの感動が忘れられない。
驚異的に鮮明で、豊穣の色再現のなかに、 なんとも艶やかなやわらかい光線を眺めることができる。 リバーサルフィルムには総天然色の優美な映像が定着した。
完全円形絞りのせいか、 それとも14枚もの特殊光学レンズを詰めたガラスブロックの存在のせいか、 なんともシャープな画像の背景に真綿のようなボケ具合はなんなのだ。
ほんとうにこれが工業用レンズなのか。

プリンティングニッコール150mm F2.8を持って、植物園の温室に入った。
世界の珍しい植物を見ることができる。 大きいものでは、バナナの木が緑色の房をつけている。 なにやら水生植物とか、熱帯植物の苗が育っている。
植物園の敷地内には、付属の果物博物館がある。 地味な理科室のような教育的展示スタイルのためか人影がないのが嬉しい。 展示室は夏でもひやりと涼しい。

古い昭和の水銀柱のある風景

「もう寝るわ」と白塗りの温度計測箱の中でゴロリ

熱帯植物の苗が育つテラス席

プリンティングニッコール150mm F2.8の美しく、そして驚異的な豊穣のマクロ映像。
レンズを選ぶことでできる写真表現もあることが実感できる。
果物博物館の標本ケースには、古いラベルのコレクションがあった。
長い年月で退色し白っぽくなった印刷は、桃の贈答用木箱に貼ったラベルのようだ。
「多摩川水蜜」と読める時代の端正なデザインのプリントラベルコレクションに、 私はプリンティングニッコール150mm F2.8を置いた。
なぜかそうしないといけないような、映画のシーンのような、 スローモーションで音のしない時間だったことは覚えている。
このレンズは映画だ。

果物博物館の古いラベルのコレクションにレンズを置いた

2016年の追記

このコンテンツは2002年12月に書いたものです。
当時のコンテンツでは画像を数枚のみ掲載していましたが、 2016年の見直しにあたり、ストーリーの内容に合わせて、 当時に撮影した画像を追加しました。
追加した分も古い時代のデジタルカメラの画像のため、 ウェブに掲載するには今となっては画像が小さく品質もあまりよくないのですが、 当時の雰囲気や気分がよく出ているのでそのまま使いました。
さらに、2016年の見直しでは、 プリンティングニッコール150mm F2.8で実際に撮影した画像を示すことにしました。

プリンティングニッコール150mm F2.8による実写

焦点距離が105mmのプリンティングニッコール105mm F2.8と同様に、 プリンティングニッコール150mm F2.8も十分に遠景(いわゆる無限遠)の撮影も可能です。 でもやはり、いろいろと試してみましたが、もともとのレンズ設計思想に準拠した、 近距離での撮影に高性能を発揮します。繊細で精密な描写が得意なレンズです。
やや大きくて重たいレンズのために、 四季を通して毎日持ち歩くことはできず、 限られた季節だけの撮影となりました。

実写画像をクリックすると少し大き目のサイズの画像が出ます。

昨日のさくら

今日のさくら

明日のさくら

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