MACRO Nikkor 65mm F4.5 Science Dream

MACRO Nikkor 65mm F4.5, Yellow Lined Special L39 Thread Lens

檸檬を置く気持ち

大型マクロ写真撮影装置(MULTIPHOT)のカタログは、見ているだけでも楽しい。
科学写真撮影セットというわけだ。
マルチフォトのカタログをひろげ、 専用レンズの説明の上に黄色いラインのマクロニッコール65mm F4.5を2本置く。
紀伊国屋書店で黄色い檸檬を置いた気分だ。
意味はないけれど、意味がない意味があるようだ。これが丸善だったらアナキストだが。

カタログも貴重なマルチフォト

カタログは楽しい。
マルチフォトの存在は1971年頃に入手したニコン顕微鏡カタログで知っていたが、 まさかこのレンズを実際に所有し使うようになるとは思わなかった。
その当時は、まだ自分の一眼レフカメラさえも持っていなかった。
憧れて夢にみたブラックニコンFを自分のお金で購入できたのは、 その後1973年のことだ。
そのあいだは、あの豪華なニコンカタログを全ページ暗記するくらい読みつぶした。

豪華なニコンカタログ。
日本光学は、買えるあてのない高校生にもこの豪華なカタログをくれた。
ここで脳髄までしみこんだ。
日本光学の長期戦略だったのかもしれない。
顕微鏡カタログはもっとすごい。本になっている。
本になった顕微鏡カタログを愛読した効果は、そのご、別な方向で実をむすぶ。
その話は、こんどということにしよう。

大型マクロ写真撮影装置(MULTIPHOT)の専用レンズ

簡易光学マークが入ったリアキャップと金属製のフロントキャップ

サフランレッドのコーティング

マクロニッコール65mm F4.5は、前玉が小さくかわいい。
コーティングは美しい透明感のあるサフランレッド。どこまでも機能優先の様式美。
ここまで頑丈に作らなくてもいいのではと思わせるオーバースペックなハウジング。
レンズまわりのつや消し黒塗装は、顕微鏡対物レンズのそれである。

マクロニッコール65mm F4.5。
標準使用倍率範囲は3.5倍 〜 10倍。基準倍率は 5倍。
1993年当時の価格は80,000円。

手元にあるレンズは3本とも後期型だが、製造番号が若いものは鏡胴の塗装にいくぶんツヤがある。 そのあとの製造番号のものは、ツヤを抑えた塗装になっている。
後期型なので、絞りプリセットリングのターレットが荒い。
オリジナルのニコン純正のL-F接続リングも後期型。 いくぶん手にソフトな軽合金製で、光沢を抑えた黒金属仕上げだ。

レンズのコーティングが美しいマクロニッコール65mm F4.5

レンズはかわいいもの

このレンズ、実物は思ったよりも小さくかわいい。
引き伸ばし機のレンズのようだ。
でも、その存在感はニッコールオートを見慣れた目からすると別格である。
小さくても、キリリと完結している。
日本刀ではないが、同じ素材で造った手のひらにのる小刀のようだ。
レンズを手にとると、見た目より重くかんじる。
ガラスブロックが重いというよりも、その全金属製の工作のよい鏡胴が重いことに気づく。

黄色いエナメルラインは目にあざやかであるが、 その黄色も黄色い黄色ではなく、果物のようなさわやかさがあり、 高性能レンズにふさわしい黄色なのだ。
赤いライン、みどり色のライン、金色のラインが入ったレンズはあるが、 黄色はカメラレンズでは見たことがない。
日本光学の顕微鏡部門が作ったレンズということは、この黄色いラインを見ればわかる。
ライカスクリューマウントの顕微鏡対物レンズと考えられないこともないか。

小さくかわいい高性能マクロレンズ (撮影年は2001年11月)

レモンだと小説になるが、バナナだと遠足になるのはどうしたことか。
美しい黄色のラッカー流し込みのラインの入ったレンズの鏡胴を並べてみた。

バナナとレンズのある風景

鏡胴にキリリと入った意識の高い黄色いラインが美しい

市場には出ない超レンズ

このレンズは好きだ。気がついたらいつの間にか3本になっていた。
集めたわけではないが、レンズの方から勝手に来た、ということにしておきたい。
マクロニッコールは、市場でめったに出ることがないレンズだが、 この65mm F4.5だけは出てくることがたまにある。 どういう背景でレンズだけ市場に出るのかは知らない。
初めて入手したマクロニッコールは65mm F4.5だ。

最初の1本を入手した時の話。
クラシックカメラ店で見かけたと情報を教えてくれたのは、 有名なニコンコレクターだ。
その方は正統派なので、同じマクロ系レンズでも、 Sマウントのマイクロニッコールなど高価なコレクションを多数お持ちだ。
「へんなレンズが出ているけど、これはあきやんが買うしかないよ」

正統派コレクターの方に後押しされたけど、仕事ですぐには行けず、 やっとカメラ店に行けたのはウイークエンド。
みごとに誰にも相手にされず、ショーウインドーに残っていた。 東京は新宿での話だ。
お店の若い店員さんが言った。
「誰も見せてくれって言わないんですよ」

その一言で、決まった。私が助け出すしかない。
この使命感が、絶滅危惧種救済活動の源泉であり、いいわけなのだ。

「趣味と実益」
これは無粋な言葉だ。趣味に益はない。労働ではないのだ。代価を求めてはいけない。

道歩きにレンズの安全を祈願する

凛々しくそして風雅に

黄色いラインのマクロニッコール65mm F4.5。
「使える高性能レンズ」としてマニヤの間では人気がある。
拡大撮影する場合の倍率だが、 ニコンが公式にアナウンスしている値は3.5倍から10倍だ。
拡大性能もお墨付きだ。
もし市中でみかけたら、 ぜひ確保してみてほしい。 このレンズによって、見えるものが見えてくる。 いままで見なかったもの見るきっかけとなり、 また別の人生を歩んでしまうというリスクはあるが、 それを承知でマクロニッコール65mm F4.5を持つのは現代では必要だ。

見なくていいものを見ないで済むという幸せもあるが、 見なくてはいけないものを見ないで済ませる不幸もある。

手にかわいい、カメラにつけて凛々しく風雅に、 自然科学写真家絶賛の超高解像度レンズが、 マクロニッコール65mm F4.5なのだ。
マクロ写真マニヤ必携といえる。

自然科学写真家絶賛の超高解像度レンズ

2016年の追記

オリジナルのコンテンツは2001年11月当時に書いたものです。
2001年当時は1枚きりだった画像ですが、画像品質が今となっては見劣りするため、 2016年の見直しにあたり、その後撮りためた画像を追加しました。

マクロニッコール65mm F4.5による実写

マクロニッコール65mm F4.5の基準倍率は5倍です。
ですからベローズ(本来はマルチフォト装置用の長い通称ロングベーローズ) を介してレンズをカメラボディに装着するのが正しい作法です。
しかしながら、ベーローズを介さず直付けして撮影しても独特のマクロ表現が可能となります。
実写画像をクリックすると少し大き目のサイズの画像が出ます。

黄色いバナナはいつの時代も元気だ

見なれたものが美しいマクロの世界

赤いイチゴのニュートラルな色彩

桜の頃のすこし遠くが見える空気感

日本画の蛤胡粉のような格調高き白色

科学写真用マクロニッコールの清楚な描写

透過する陽光の下で輝く静寂な時間

太古から続く生命が写るレンズの純情

プリンシプルがあってシンプルでプリミティブなものは美しい
マクロニッコール65mm F4.5

2017年の追記

オリジナルのコンテンツは2001年11月当時に書いたものですが、 「市場には出ない超レンズ」とあるのはすこし実情と異なる感があり、 2017年の時点で市場をながめてみると、 中古品ではありますが一定の量が流通しているようです。 ほかの産業用ニッコールレンズにくらべると、ひかくてき入手しやすいように思えます。

基準倍率が5倍のマクロニッコール65mm F4.5を使って、 倍率1/3倍程度のゆるいゆるゆるのマクロ撮影をしてみました。
本来の質実剛健で硬派な本格的科学写真とか医学標本写真、 さらには警察鑑定資料としての写真撮影技術とはまったく離れた花鳥風月。

豊かな諧調。ゆったりとしたレンズのボケ味。むかしの空気感の記録。
さらには日本の伝統色の微妙な表現にも適した色再現性。
産業用レンズの隠れた映像表現能力をご確認ください。

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