Ultra Micro Nikkor 55mm F2 Goddess of the Lens

時空を超えて生き続ける数値限界を超える高性能レンズ
「そんなに急ぐことはない」
すべてがあなたにちょうどいい

レンズの女神

想像を絶するレンズ計算。最高のガラス材。史上初の使命。
ざくろ石を砕き、白金のるつぼでコーティング。
幻の10万馬力。蘇る伝説の極超高解像力鏡玉。
鋼鉄のような至上の高速エンジン。THE ULTRA MICRO NIKKOR 55mm F2。
超越した本物はすごい。 日本のハイエンドな工業用レンズ界のフォーミュラ1は、ウルトラマイクロニッコールだ。

という多少すべり気味ではあるが、重量感が走る賛を書いたのは2001年11月のことだった。 改めてウルトラマイクロニッコール55mm F2を見直してみた。

レンズの女神
超高解像力高速レンズ ウルトラマイクロニッコール55mm F2
(撮影年は2001年10月)

趣味のレンズ邂逅

人間も長くやっていると、趣味の一つもほしくなる。 仕事は生活だが、趣味は人生だ。 人生という日本語では、ちょっと語感がちがうな。 しいていえばLifeだ。趣味はLifeだ。 仕事は暮らすために趣味は生きるために。人はごはんを食べるために生きている。

ウルトラマイクロニッコールは、非常に力強いレンズだ。 持つとパワーをかんじる。レンズ1本で元気になれば安いものだ。

レンズ1本で元気になりました
運勢が向上し良いことばかりです
(注)効果には個人差があります

コレクションのために

ウルトラマイクロニッコール55mm F2は、28mm F1.8に比べると数が少ないようだ。 一般の中古カメラ市場ではあまり目にすることはない。 とくに木製格納箱入りだったら、見かけた段階で即入手がこの世界の掟だろう。 さらに、金属削り出しのレンズリアキャップにフロントキャップが揃っていれば完璧である。

レンズは見つかるが、ハコが見つからない。 これは業務用製品の宿命だ。一般家庭で買うものでもない。 1960年代においては、いかにカメラ好きのお父さんでも、 さすがにこのレンズの入手は絶望的で不可能に近かったことだろう。 いまは普通に持っているカメラ好きのお父さんがいるらしいから時代は変わったものだ。

美しい専用の木製格納箱

テクニカルデータ

ウルトラマイクロニッコール55mm F2のオリジナル性能をみてみよう。 レンズの性能緒元が記載された一次資料にあたってみた。 日本光学が発行した当時のセールスマニュアルである。 日本国内向けの日本語版資料では情報が限られているので、 1968年当時にフォトキナで配られた資料も参照した。

私が所有しているのは、2本ともe線用のウルトラマイクロニッコール55mm F2であるが、 手元にはe線用のウルトラマイクロニッコール55mm F2、 それに、h線用のウルトラマイクロニッコール55mm F2hの性能緒元が記載された資料が揃っている。 一般にはあまり目に触れない情報ではあるが、 すでに公知となっている情報なので、ウェブ上で公開しておけばどこかで誰かのお役に立つだろうから、 両方のレンズの性能緒元を示しておくことにする。

ニコンの工業用/産業用ニッコールレンズのレンズ構成図は、1970年代となると、 レンズ本体外観の各部の寸法のみを記載したものしか公開されていない。 レンズエレメントはブラックボックスになっているのだ。 しかしながら、1960年代は大らかなもので、精密なレンズ構成図が資料で公開されている。 同じように見えるが各部寸法が微妙に異なる。 ウェブ上ではすこし薄めの表示となっているので、 画像上をクリックし大き目のサイズで表示して確認していただきたい。

ウルトラマイクロニッコール55mm F2

−焦点距離: 55.8mm
−最大口径比: 1 : 2
−最小絞り: F8
−絞り目盛り: 2, 2.8, 4, 5.6, 8
−レンズ構成: 6群8枚
−基準倍率: 1/4X
−画角: 9.8°
−色収差補正: 546nm (e-line)
−口径蝕: 0% (F2にて)
−歪曲収差: 0.0% (英語版資料では 0.00% )
−解像力: 500本/mm
−原稿サイズ: 48mm⌀
−画像サイズ: 12mm⌀
−基準倍率における原稿から画像までの距離: 315mm
−フィルター径: 40.5mm P=0.5
−マウント: ライカL39スクリューマウント
−重量: 325g
−重量実測: No.550365 326.5g (イタリアより購入品)
−重量実測: No.550824 324.0g (オランダより購入品)
−付属品: 前後キャップ、木製格納箱入
−当時の価格: 140,000円(1969年1月)

ウルトラマイクロニッコール55mm F2のレンズ構成図

ウルトラマイクロニッコール55mm F2h

−焦点距離: 55.8mm
−最大口径比: 1 : 2
−最小絞り: F8
−絞り目盛り: 2, 2.8, 4, 5.6, 8
−レンズ構成: 6群8枚
−基準倍率: 1/4X
−画角: 8.2°
−色収差補正: 404.7nm (h-line)
−口径蝕: 0%
−歪曲収差: +0.01%
−解像力: 650本/mm
−原稿サイズ: 40mm⌀
−画像サイズ: 10mm⌀
−基準倍率における原稿から画像までの距離: 315mm
−フィルター径: 40.5mm P=0.5
−マウント: ライカL39スクリューマウント
−重量: 325g
−付属品: 前後キャップ、木製格納箱入
−当時の価格: 300,000円(1969年1月)

ウルトラマイクロニッコール55mm F2hのレンズ構成図

1969年1月と記載された当時のニッコールレンズの価格表によると、 UMN 55mm F2が14万円。同じくUMN 55mm F2hが30万円となっている。 レンズの外観は見た目がまったく同じ。でも価格は2倍である。 価格が2倍になるほどの要素はよくわからない。

年次統計によると、1969年の大卒初任給は34,000円程度のようだ。 令和の時代となった現在では単純に比較するとその6倍くらいだろうか。 そうすると、なんとなく当時でも非常に高額なレンズだったことが理解できる。

高ければよいと言うものではないが、骨董品にしても、美術品にしても、 鉱物標本にしても、おもいきり高額なものが後世に残る。 世の中の現実を把握できるお年頃になった私からすると、そんなものなのである。 もちろん例外もあることは知っている。

それにしても、歪曲収差が0.00%とは素晴らしい。 さらに解像力500本/mmとは驚愕ものである。

抜群の写りと操作性

ニコン一眼レフカメラにL-F接続リングを介して取り付けてある。 ウルトラマイクロニッコール55mm F2は汎用のライカL39スクリューマウントのため、 こういったアダプタさえ用意できればどんなカメラでも使用が可能だ。

フィールドでのんびり自由に活躍する時代のレンズ

この写真の姿写真に示すセット方法で、写真撮影可能だ。ビシッとピントが出る。 もちろんベローズ装置に付けても長伸ばしにはビクともしない。 鋼鉄のようなレンズだ。運良くこのレンズを入手すると、まず手放す人はいない。 とりつかれてしまう、なにかをもっているのだ。ウルトラマイクロニッコール55mm F2は。

使い勝手がよいためになにかと出動する機会が多いレンズである。 いつも散歩の友、斬歩レンズとして携行していた。 以下の画像は撮影年に示すとおり、ずいぶん昔に取ったフィールドでのブツ撮り姿ではあるが、 風情がよく写っているので見ていただこう。

高倍率ファインダーが似合うニコンとUMN 55mm F2
(撮影年は2001年7月)

2001年に撮影した画像を見ながら、1990年代末から2000年代初頭のカメラ事情を考察してみる。 実験機は別として、職業写真家の使用に耐える本格的なデジタル一眼レフは、 1998年12月末に登場したキヤノン EOS D6000 だと思う。 なんと驚異的な高画素機で600万画素もあった。 しかしながら、その価格は360万円。 とても一般の写真趣味人が購入できるものではなかった。

2001年当時の話では、ニコン D1X が61万円で登場した。 ニコン D1 に続く低価格機の登場ということであったが、それでもまだデジタル一眼レフは高価であり、 フィルム式の一眼レフカメラの方が一般の写真趣味人には優位であった頃だ。 そんな背景でこの画像を撮影し、RED BOOK NIKKOR で最初の記事を立ち上げた。

数値性能を超えるハイエンド

ウルトラマイクロニッコール55mm F2はとりつかれてしまうなにかをもっている、と書いた。 さらには「数値性能を超えるハイエンド」ときた。
そういう意味では、やっかいなレンズかもしれない。 所有すると、なにもかにもがハイエンド志向になる。性能でものを論じてしまう。 これはまずい。性能は数値で論じるものではなく、かんじるものだ。

ニコンが、レンズに唯一ウルトラと冠したウルトラマイクロニッコール。 表舞台にはほとんど登場することはなかった。 時代を創った光学レンズを世に出した天才設計者というよりも努力の技術者たちに、私はすなおに感動する。

レンズの女神
前を見れば五穀豊穣大吟醸の世界がある
すべてがあなたにちょうどいい

ウルトラマイクロニッコール55mm F2による実写

実際にカメラにレンズをマウントし、自然光線の下で撮影してみた。 ウルトラマイクロニッコール55mm F2は、ライカL39スクリューマウントである。 特別のマウントアダプターを必要とせず、 市販のニコン純正のL-F接続リングを介してニコン一眼レフに装着した。 レンズはリバースせずに順方向にマウントしている。 実写画像をクリックすると少し大き目のサイズの画像が出ます。

お菓子のような甘い色彩を表現

ふわっとした淡いピンク色の花の持つお菓子のような甘味を写してみた。 菜の花を高性能な工業用レンズで撮影する人は少ないだろうが、 工業用レンズの持つ堅い無機質な印象とはかけ離れた華麗で立体感のある絵が出てきた。

菜の花に光線の遠くに立体感のあるボケ味

陽のあたらない世界の片すみに咲く彼岸花。 この色調は、エルンスト・ハースの世界のようだ。 背景のグリーン色と花の重たい赤色の結界に注目していただきたい。 露出を詰めれば、さらに豊饒の光世界が表れてくるだろう。 ウルトラマイクロニッコール55mm F2はそんなレンズなのだ。

重厚華麗な総天然色映像で浮かび上がる彼岸花

10億画素を超える近未来の最新型ミラーレスカメラでも、 最高機能を盛り込んだデジタル一眼レフカメラでも、 誰でもウルトラマイクロニッコール55mm F2を使えば、 往年のコダクローム64の格調高い重厚な色調と立体感を持った映画のような総天然色画像が得られるだろう。

2020年のあとがき

このコンテンツのオリジナルは2001年11月当時に書いたものです。 2016年のサイト移動に伴う大幅な見直しで、当時1枚のみだった画像に、未公開の画像を追加しました。 ウルトラマイクロニッコール55mm F2による実写の画像も掲載しました。 さらに2017年の改版では、テクニカルデータを整理し、レンズ構成図を追加しました。
2020年には新規撮り下ろし画像を追加し、2020年の視点で書き改めてみました。

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