時空を超えて生き続ける数値限界を超える高性能レンズ ● レンズの女神
想像を絶するレンズ計算。最高のガラス材。史上初の使命。 という多少すべり気味ではあるが、重量感が走る賛を書いたのは2001年11月のことだった。 改めてウルトラマイクロニッコール 55mm F2を見直してみた。
レンズの女神 ● 趣味のレンズ邂逅 人間も長くやっていると、趣味の一つもほしくなる。 仕事は生活だが、趣味は人生だ。 人生という日本語では、ちょっと語感がちがうな。 しいていえばLifeだ。趣味はLifeだ。 仕事は暮らすために趣味は生きるために。人はごはんを食べるために生きている。 ウルトラマイクロニッコールは、非常に力強いレンズだ。 持つとパワーをかんじる。レンズ1本で元気になれば安いものだ。
レンズ1本で元気になりました ● コレクションのために ウルトラマイクロニッコール 55mm F2は、28mm F1.8に比べると数が少ないようだ。 一般の中古カメラ市場ではあまり目にすることはない。 とくに木製格納箱入りだったら、見かけた段階で即入手がこの世界の掟だろう。 さらに、金属削り出しのレンズリアキャップにフロントキャップが揃っていれば完璧である。 レンズは見つかるが、ハコが見つからない。 これは業務用製品の宿命だ。一般家庭で買うものでもない。 1960年代においては、いかにカメラ好きのお父さんでも、 さすがにこのレンズの入手は絶望的で不可能に近かったことだろう。 いまは普通に持っているカメラ好きのお父さんがいるらしいから時代は変わったものだ。
美しい専用の木製格納箱 ● テクニカルデータ ウルトラマイクロニッコール 55mm F2のオリジナル性能をみてみよう。 レンズの性能緒元が記載された一次資料にあたってみた。 日本光学が発行した当時のセールスマニュアルである。 日本国内向けの日本語版資料では情報が限られているので、 1968年当時にフォトキナで配られた資料も参照した。 私が所有しているのは、2本ともe線用のウルトラマイクロニッコール 55mm F2であるが、 手元にはe線用のウルトラマイクロニッコール 55mm F2、 それに、h線用のウルトラマイクロニッコール 55mm F2hの性能緒元が記載された資料が揃っている。 一般にはあまり目に触れない情報ではあるが、 すでに公知となっている情報なので、ウェブ上で公開しておけばどこかで誰かのお役に立つだろうから、 両方のレンズの性能緒元を示しておくことにする。 ニコンの工業用/産業用ニッコールレンズのレンズ構成図は、1970年代となると、 レンズ本体外観の各部の寸法のみを記載したものしか公開されていない。 レンズエレメントはブラックボックスになっているのだ。 しかしながら、1960年代は大らかなもので、精密なレンズ構成図が資料で公開されている。 同じように見えるが各部寸法が微妙に異なる。 ウェブ上ではすこし薄めの表示となっているので、 画像上をクリックし大き目のサイズで表示して確認していただきたい。 ウルトラマイクロニッコール 55mm F2
−焦点距離: 55.8mm
−発売時期: 1965年
ウルトラマイクロニッコール 55mm F2のレンズ構成図 ウルトラマイクロニッコール 55mm F2h
−焦点距離: 55.8mm
−発売時期: 1967年
ウルトラマイクロニッコール 55mm F2hのレンズ構成図 ● 抜群の写りと操作性 ニコン一眼レフカメラにL-F接続リングを介して取り付けてある。 ウルトラマイクロニッコール 55mm F2は汎用のライカL39スクリューマウントのため、 こういったアダプタさえ用意できればどんなカメラでも使用が可能だ。
フィールドでのんびり自由に活躍する時代のレンズ この写真の姿写真に示すセット方法で、写真撮影可能だ。ビシッとピントが出る。 もちろんベローズ装置に付けても長伸ばしにはビクともしない。 鋼鉄のようなレンズだ。運良くこのレンズを入手すると、まず手放す人はいない。 とりつかれてしまう、なにかをもっているのだ。ウルトラマイクロニッコール 55mm F2は。 使い勝手がよいためになにかと出動する機会が多いレンズである。 いつも散歩の友、斬歩レンズとして携行していた。 以下の画像は撮影年に示すとおり、ずいぶん昔に取ったフィールドでのブツ撮り姿ではあるが、 風情がよく写っているので見ていただこう。
高倍率ファインダーが似合うニコンとUMN 55mm F2
● 数値性能を超えるハイエンド
ウルトラマイクロニッコール 55mm F2はとりつかれてしまうなにかをもっている、と書いた。
さらには「数値性能を超えるハイエンド」ときた。
ニコンが、レンズに唯一ウルトラと冠したウルトラマイクロニッコール。 表舞台にはほとんど登場することはなかった。 時代を創った光学レンズを世に出した天才設計者というよりも努力の技術者たちに、私はすなおに感動する。
レンズの女神 ● ウルトラマイクロニッコール 55mm F2による実写 実際にカメラにレンズをマウントし、自然光線の下で撮影してみた。 ウルトラマイクロニッコール 55mm F2は、ライカL39スクリューマウントである。 特別のマウントアダプターを必要とせず、 市販のニコン純正のL-F接続リングを介してニコン一眼レフに装着した。 レンズはリバースせずに順方向にマウントしている。 実写画像をクリックすると少し大き目のサイズの画像が出ます。
お菓子のような甘い色彩を表現 ふわっとした淡いピンク色の花の持つお菓子のような甘味を写してみた。 菜の花を高性能な工業用レンズで撮影する人は少ないだろうが、 工業用レンズの持つ堅い無機質な印象とはかけ離れた華麗で立体感のある絵が出てきた。
菜の花に光線の遠くに立体感のあるボケ味 陽のあたらない世界の片すみに咲く彼岸花。 この色調は、エルンスト・ハースの世界のようだ。 背景のグリーン色と花の重たい赤色の結界に注目していただきたい。 露出を詰めれば、さらに豊饒の光世界が表れてくるだろう。 ウルトラマイクロニッコール 55mm F2はそんなレンズなのだ。
重厚華麗な総天然色映像で浮かび上がる彼岸花 10億画素を超える近未来の最新型ミラーレスカメラでも、 最高機能を盛り込んだデジタル一眼レフカメラでも、 誰でもウルトラマイクロニッコール 55mm F2を使えば、 往年のコダクローム64の格調高い重厚な色調と立体感を持った映画のような総天然色画像が得られるだろう。 ● 2021年のあとがき
このコンテンツのオリジナルは2001年11月当時に書いたものです。
2016年のサイト移動に伴う大幅な見直しで、当時1枚のみだった画像に、未公開の画像を追加しました。
ウルトラマイクロニッコール 55mm F2による実写の画像も掲載しました。
さらに2017年の改版では、テクニカルデータを整理し、レンズ構成図を追加しました。
Copyright Michio Akiyama, Tokyo Japan 2001, 2021
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