ウルトラマイクロニッコール 28mm F1.8 後期型タイプ2 ● 目に鮮やか赤い刻印 ウルトラマイクロニッコール 28mm F1.8。赤い刻印入り。後期型に分類される。 魅力的なレンズは小さくても、どこかかわいいところがある。 たとえば、お道具拝見の場で、興味のある人にレンズをみてもらう。
現物をはじめて手にする方は同じことを言う。
赤い文字のM=1/10倍率刻印が目印 ウルトラマイクロニッコールは超高解像力レンズではなく、極超高解像力レンズだ。 極めが冠されている。ウルトラのウルトラたるプライドだ。 名レンズの誉れ高い西ドイツはローデンストック社のウルトロンとは分野こそ違うが、 どちらも誰もが認めるその分野の達人である。
一歩踏み出す勇気が得られるならばそれはレンズの人徳だろう ● ウルトラマイクロニッコール 28mm F1.8の種類 ウルトラマイクロニッコール 28mm F1.8を分類してみると、 初期型と後期型にざっくり分けられ、後期型はさらに5つのタイプに分類できる。 以下に表にまとめてみた。 なお、このコンテンツでは、後期型タイプ2について言及している。
涼しげなパープルコーティングが美しい前玉 ● 市場には比較的よく出てくるレンズ ウルトラマイクロニッコール 28mm F1.8には、たくさんの種類・ バリエーションがあるが、いちばん数が作られたのは、 この後期型の赤文字入りではないか。 赤文字とは、M=1/10と刻印され鮮明なラッカーが流し込まれているその文字を指す。 Red Pointと言って区別している。 いちばん製造されたのではないかと考えたのは、市場の出現数からの仮説だ。 上に示す分類表では、後期型タイプ2と後期型タイプ3あたりである。 2001年の秋頃。 本サイトを立ち上げた直後だったと思うが、 ヤボは承知で株式会社ニコンにウルトラマイクロニッコールの製造数を問い合わせてみたが、 不明とのことだった。 カメラやカメラ用レンズと違って陽の目をみなかったレンズだ。 しかたのないことだと思う。 ただ、情報は生き物であるから、 このサイトのように物好きがひたすらエールを送っていれば、 おのずと情報も出てくるものと信じる。 古い時代の情報と真実は、新しい時代で、 具体的に言うと世代交代の新しい環境下で新しい人によって見出されるからだ。
ウルトラマイクロニッコールの生きる躍動感 希少なレンズを持てばそうであったこともわかる ● テクニカルデータ ウルトラマイクロニッコール 28mm F1.8後期型の性能緒元をみてみよう。 特筆すべき点は画像サイズが大きく変わったことだろう。 初期型では 4mm⌀ だった画像サイズが、後期型では 8mm⌀ となった。 後期型となると、e線用とh線用がラインナップされていた。 e線用とh線用も性能緒元データはそれぞれ以下のとおりである。 なお、本記事で外観の写真を示しているのはe線用のウルトラマイクロニッコール 28mm F1.8である。 ウルトラマイクロニッコール 28mm F1.8e
−焦点距離: 28.2mm
−発売時期: 1967年 重量を実測してみるとカタログデータと大幅に異なる。 家庭用のデジタルスケール( TANITA KJ-114 )で実測してみた。 カタログデータは 330g。所有する1本は 319.0g。もう1本は 319.5g。 工業製品でここまでカタログ値と実測値が異なることは珍しい。 ウルトラマイクロニッコール 28mm F1.8h
−焦点距離: 28.0mm
−発売時期: 1967年 h線用のウルトラマイクロニッコール 28mm F1.8hだと、 解像力が900本/mmとの弩級のパワーに驚愕する。 レンズ構成図を以下に示す。 画像は縮小されているので画面で見ると少々薄いが、 画像上でクリックすると大き目のサイズで表示されるので確認していただきたい。
ウルトラマイクロニッコール 28mm F1.8hのレンズ構成図 ウルトラマイクロニッコール 28mm F1.8hのレンズ各部寸法 ● テクニカルデータの考察 発売時期は、ニコンの社史(75年史、100年史)を参照し、1967年と確認した。 レンズ構成図ということで日本語版の資料を探してみた。 しかし、後期型の時代になると肝心のレンズ構成図は掲載されなくなり、 ブラックボックスのブロックとして図示されている。 レンズを光学システムにマウントするために必要な各部の寸法だけになっている。 手持ちの資料を探ってみたら、 1968年に西ドイツのフォトキナでリリースされた英語版のウルトラマイクロニッコール資料が出てきた。 この資料にはウルトラマイクロニッコール 28mm F1.8後期型のレンズ構成図が掲載されていた。 ただし、h線用のウルトラマイクロニッコール 28mm F1.8hである。 参考ということで、 h線用のウルトラマイクロニッコール 28mm F1.8hのレンズ構成図を示した。 レンズ構成図という点においては、e線用とh線用は同じと思える。 初期型のウルトラマイクロニッコール 28mm F1.8(e線用)のレンズ構成図とざっくり見比べてみた感想ではあるが。 ● ウルトラマイクロニッコールのある風景 静寂のなかにウルトラマイクロニッコール 28mm F1.8で景色を構成した。 さきほどまでセルリアンパープルだったコーティングが、 大気の宇宙線か素粒子に反応してマンダリンオレンジレッドに輝き出した。 部屋にいて静かで、外気で元気になるのは理由がある。 生まれてこのかた、一度も外の空気に、 生物が必要とする空気に触れることができなかった工業用(産業用)のレンズだ。 日本の風景がなつかしいのかもしれない。
小さいレンズだけど驚愕の解像力は700本/mm 現存するウルトラマイクロニッコールをいくつか鑑定してみたが、 カメラ用レンズとの決定的な違いがあった。 これはいくら古いレンズでも、外観がいたんでいるレンズにも見られた。 それは、レンズが異様にきれいな点だった。内部にホコリさえ入っていない。 焦点合わせのいわゆるピントリングがないため、外気を吸い込まないためか。 あるいは、鏡筒が特別の構造で密閉されているとか、 内部に乾燥空気や窒素ガスが充填されているのか。 一部の軍用双眼鏡になると、 特殊なガスが充填されていて鮮鋭度や可視性を高める効果を持つという。 旧ソヴィエト社会主義共和国連邦時代の国境警備専用の双眼鏡などで採用されていた。
静寂のなかに佇むウルトラマイクロニッコール 28mm F1.8 ウルトラマイクロニッコールには、 そういった希少類でレアな不活性窒素ガス以外の気体が充填されていたのかは不明である。 これも、ウルトラマイクロニッコールの謎としてここに記録しよう。 いずれ真相が解明されるものと期待している。 疑問は声に出さないとだれもこたえてくれない。 謎や伝説、そして仮説だらけで、まったくの手付かずの世界が、 人を「幻のウルトラマイクロニッコール」といわせてきたのだ。 ● レンズの世界遺産 幻のままで滅びるのも美学であるが、 世界遺産的なレンズは後世まで残さないといけない。 もう二度と作らない、作れないレンズがウルトラマイクロニッコールなのだ。 設計仕様がまず決定され、夢を実現するためならばどんなに高価な素材でも集められ、 群を抜く製造技術、検査技術で出来上がった作品なのだ。 価格はそれから決めた。 価格をまず設定し、もうけを見越した残りで材料を揃えて作り上げる 現代の正しい考え方を無視した時代のレンズだ。
夢は幻。
宇宙線を観測する気分なレンズ レンズを持って意識の高くない何も考えていない森の散歩道を歩いてみた。 深みのあるセルリアンパープルのコーティング。 黒い鏡胴に包まれたレンズブロックから涼しげな森の音が聞こえてきそうだ。 盛大な蝉しぐれからヒグラシの時間に移ろうとしている。
ヒグラシの時間に移るころ懐中に収まる銀河系 ● 意味不明なくらいでちょうどよい
むかしの話ではあるが、
幸福感をかんじる能力があるのか。
幸福感をかんじる能力があれば明日も晴れる それにしても思うのであるが、 これらの画像にあるとおり、 なにもない夏草を背景にレンズと対峙していると、 急激に光がドラマチックになり、 なにやら劇場のような背景に風が吹くのはいつもながら不思議な気分なのである。 これもこの種のレンズの持つパワーなのだろうか。
やはりウルトラマイクロニッコールの基本はこれだろう ウルトラマイクロニッコール 28mm F1.8はアタッチメントサイズが40.5mm(P=0.5)のため、 「Nikon 1」シリーズ用の40.5mmフィルターが活用できる。 ニュートラルカラーNCフィルターは無色透明のレンズプロテクションフィルターだ。 同シリーズの40.5mmねじこみ式レンズフードは 「HN-N102」か「HN-N103」から選べる。 MADE IN JAPANが嬉しい。40.5mmレンズキャップ「LC-N40.5」も用意されている。 いずれも現行品で購入できるしお手軽価格。フィールド用に気軽に持ち歩ける。
ニコン純正品の40.5mm HN-N103 フードを着けた姿 ● 2021年のあとがき このコンテンツのオリジナルは2001年12月当時に書いたものです。 その後2016年のサイト移動に伴う内容の見直しで新たに画像を追加しました。 2017年には外観上から見える違いについて分類し新たに表にまとめてみました。 製造期間の長かったウルトラマイクロニッコール 28mm F1.8は種類も多いのです。 あわせてレンズ構成図を掲載しました。 2020年にはレンズ重量の実測結果を掲載しました。
Copyright Michio Akiyama, Tokyo Japan 2001, 2021
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