マウンテンニッコール10.5cm F4にデカフード ● 日本の夏を撮る マウンテンニッコール10.5cm F4だ。 レンズフードは、あの小さくかわいい専用の34.5mmサイズではなく、52mm用のフードをセットしてある。 夏の強い陽射しの下でもいい仕事をしている。
日本の夏にマウンテンニッコール ● 豪華装備もよいけれど 人気のある撮影スポットでは、長い望遠レンズをセットした三脚が並ぶ。 300mmの明るい玉。 豪華な装備の人は、年期の入ったグレー塗装がしぶいジッツオの三脚に、 500mmのこれも明るい望遠レンズを付けている。 そこで登場するのが、暗い、小さい、軽い、しかしよく写るレンズの登場だ。
軽くてシンプルなマウンテンニッコール 古い一眼レフカメラにマウンテンニッコール10.5cm F4を乗せる。 レンズフードだけ大きい顔をしよう。 52mm径の105mm中望遠レンズ用の古いフードを着けた。 すべてニコンの純正アクセサリーでこれを実現した。 ふつうはこのまま見てしまう情景だが、見る人が見ると、 はて、どうやって着けたのか、となる。 この写真でキキメは、レンズ先端にネジ込まれている34.5mmリバースリングだ。 ● 34.5mmリバースリング レンズ側が34.5mmのオスネジ、フード側がライカL39スクリューマウントのオスネジになっている。 マウンテンニッコール10.5cm F4に使えるリバースリングは、 ニコン純正でカメラカタログには掲載されずに販売されていたのだ。 34.5mm径だから、あの銘レンズ、 Sマウントのマイクロニッコール5cm F3.5をリバースしてニコン一眼レフカメラに装着可能だ。
34.5mmリバースリング で、この34.5mmリバースリングの先には、L-F接続リングを着けた。 さらにBR-3リング(これは現行製品)を着けて、52mmメスネジを確保する。 そこへ52mm径の、あまっているフードを着ければできあがり。 ただし白抜きのFマークが入っていないフードは、使用が禁止されているから注意が必要だ。 ● よく写る気分はレッド 神奈川県も郊外に分け入ると、まだあるのがレッドな標識だ。 サンクチュアリ。 鳥獣保護区域。鳥と小動物、それに植物群の楽園ということになっている。
よく写るシンプルなマウンテンニッコール
身軽な旅にもマウンテンニッコール マウンテンニッコール10.5cm F4。 3枚玉のシンプルな、そしてプリミティブなレンズだ。 それなのに、なぜここまでよく写るのか。 販売当時はそれほど人気が出なかったレンズと聞く。 すでに105mm F2.5の優れた明るい自動絞りのレンズが世に出ていた。 ひかくてき数が少ないことと、形状が珍妙で個性的なことから、 中古で多少高めでも入手される方が多い。 でも彼らが一様に言うことは、「よく写る」。これだ。 ● 復活するか俳句レンズ マウンテンニッコールで鉄道写真はないと思うが、 旅先であれば、そして撮影だけが目的ではない旅ならば、 こういう軽くてシンプルな望遠レンズも現代でも十分に通用するだろう。 鉄橋を渡る電車の音も夏気分で乾いている。
鉄道写真の夏マウンテンニッコールの夏 遠く鉄橋を渡る電車の音も夏気分で乾いている このレンズは現行製品としてぜひ復活してほしい。 サンニッパの対極にある俳句みたいなレンズなのだ。 もし現行製品で復活すると、世界唯一の、暗くて、軽くて、小さくて、 そしてよく写るレンズとなる。 フィルター径は34.5mmのサイズをキープし、あの小さくかわいい鋼鉄製のフードは別売もしてほしい。 ● マウンテンニッコールの新しい使い方 本来のマウンテンニッコール専用フードを着けている姿も掲載しておこう。 小さいレンズには小さいフードが似合う。 それにしても、マウンテンニッコール10.5cm F4のような個性的なレンズが、 製品ラインナップの中に1本ぐらいあってもいいな、と今でも思っている。
専用フードが似合うマウンテンニッコール
ダイコンとも相性がよい 2017年初夏。 新しいコンセプトでマウンテンニッコールの使い方を提案しようと、16年前と同じ場所に行ってみると、 嬉しいことにあの「鳥獣保護区」の赤い注意標識が再び設置されていた。 河川周辺の整備で長く工事が続いていた場所であるが、工事も終わり、 外してあった注意標識も元に戻ったようだ。
青空にはシンプルなマウンテンニッコールだろう たったの3枚玉のトリプレット鏡玉 ここで言う新しいコンセプトとはなにか。 マウンテンニッコールのフードを現行品でセットしようとの試みである。 アタッチメントサイズ(フィルター径)が34.5mmのマウンテンニッコール。 「Nikon 1」シリーズ用の40.5mmフィルター。 ニュートラルカラーNCフィルターは無色透明のレンズプロテクションフィルターだ。 同シリーズの40.5mmねじこみ式レンズフード。 「HN-N102」か「HN-N103」から選ぶことができる。MADE IN JAPANが嬉しい。 40.5mmレンズキャップも「LC-N40.5」が購入できるので、普段の外歩きに気軽に装着して行ける。
「Nikon 1」シリーズ用の40.5mmフードは「HN-N103」 ただし、34.5mm径を40.5mm (P=0.5) に変換するステップアップリングを使っている。 これは2005年頃に特注品で作ってもらったものであるが、いまなら製品で販売されていると思う。 と思っていたら10数年経っても事情は変わっていないようで、 どこからか34.5mm径>40.5mm径のステップアップリングを出してもらえないものだろうか。 レンジファインダーニコン用のレンズやニコン引き伸ばしレンズには アタッチメントサイズが34.5mm径のものが意外とあるので、需要はあると思っている。
草に寝ころびマウンテンニッコール 軽みのフードで視界は明るい 夏の季語はマウンテンニッコール ● ニコン Z 写真帖 ニコン Z 6 にマウンテンニッコール10.5cm F4を装着した。 ニコン純正のFTZマウントアダプターを介して簡単に装着。 「よく写るレンズ」と何回も言及してきたが本当なのか。 フィルムの時代からよく使って実感していたが、 ミラーレス機ニコン Z 6 での実写例をご覧いただきたい。 じつにスコーンとしたヌケのよい映像が叩き出された。 レンズの技術的解説はニコンのサイトより、 ニッコール千夜一夜物語「第二十一夜 Nikkor-T 10.5cm F4」をぜひ参照していただきたい。 「安価なレンズにこそニッコール魂が宿る」と題してニッコールレンズ設計者の佐藤治夫氏が語ることばが激熱い。
Mountain Nikkor 10.5cm F4 on Nikon Z 6
Mountain Nikkor 10.5cm F4, ASA 800 F8 1/8000 sec. -0 +0 いつもの無限遠テスト(現実的には遠距離テスト)の撮影スポットである。 京王線多摩川橋梁。約600メートル先の被写体にピントを合わせた。 なんとレンズにヘリコイドがある。もうこれだけでありがたい。さくさくと撮影が楽しめた。 画像はクリックするとオリジナルサイズで表示するので等倍にして確認いただきたい。
Mountain Nikkor 10.5cm F4, ASA 800 F8 1/8000 sec. -0 +0
Mountain Nikkor 10.5cm F4, ASA 400 F8 1/5000 sec. -0 +0 ● ニコン Z 秋晴天の日本 中距離の描写である。きわめて良く解像し発色も優れている。 これでレンズはたったの3枚。貼り合わせなしのレンズが3枚入っているのみ。 しかもスカスカ。鏡胴の中はほとんど空気。軽い。 現代のガラスがびっしり詰まったレンズとはまったく別物。 しかしレンズの性能は驚愕の高解像力。 すっきりした山紫水明な描写を見ていただきたい。
Mountain Nikkor 10.5cm F4, ASA 400 F8 1/1600 sec. -0 +0
Mountain Nikkor 10.5cm F4, ASA 400 F8 1/2500 sec. -0 +0
Mountain Nikkor 10.5cm F4, ASA 400 F8 1/1250 sec. -0 +0
日本トラディショナルな屋根の質感が良く出ている。緑の松も舞台のようだ。
Mountain Nikkor 10.5cm F4, ASA 400 F8 1/640 sec. -0 +0
Mountain Nikkor 10.5cm F4, ASA 400 F8 1/1600 sec. -0 +0 この写真がマウンテンニッコールの実力を示す描写である。鬼解像している。 あふれ出る草木の生命力が精密に描写されているのに驚く。 まるで高高度写真偵察機はブラックバードの特殊大型写真機で撮影したような高精細映像が、 あの細くて小さく軽い3枚玉のトリプレットレンズから出てきたとは信じ難い。 パーキンエルマーの重量級極超解像力レンズ 36インチ F4.0(917.5mm F4.0)かと思った。 ● ニコン Z 平安時代の柿の色 最短撮影距離に近い近接撮影の描写はどうか。柿色は平安時代から使われている。 平安時代ふうのシンプルな漆塗りの器に柿を一つ置いた。 時は令和元年十一月十日。天皇陛下の「即位の礼」。祝賀御列の儀(パレード)。 テレビ中継を見ながらの撮影となった。 宮城からパレードが始まるとなにやら柿に届く光線の色彩に変化が出てきた。 場の共鳴とは思えないが現代に平安時代の柿色が再現できた。質感再現も完璧である。
Mountain Nikkor 10.5cm F4, ASA 1600 F11 1/125 sec. -0.7 マウンテンニッコールと言えば本来の使い方は山岳写真か旅の友だろう。 しかしオールラウンドに設計されたレンズなので近接撮影にも最適である。 とにかく気立てが良いので、カラーでこの通りの色再現だ。 ニコン Z 6 でRAWではなく、なにも考えずにJPEGの撮って出しである。 そもそもコダクローム64などのカラーリバーサルフィルムの時代は撮って出しではないか。 不自然に彩度を上げて色加工したり合成などは写真ではなく、別な枠組みのデジタルアートとして分けていただきたい。
Mountain Nikkor 10.5cm F4 on Nikon Z 6 無限遠(遠距離)、中距離、近接と撮影を進めてみたが、どれも満足の写りだった。 価格的には当時のニッコールレンズで最も安価な中望遠レンズだったがその写りは素晴らしい。 現代でもミラーレス機の時代になっても主役を張れる名レンズだ。 さすが伝説の光学レンズ設計技師・脇本善司氏が光学設計したレンズである。 ウルトラマイクロニッコールを設計した脇本善司氏の作品は現代でも、 いや現代だからこそ本当の実力が分かるようになったのである。 ● 2022年のあとがき このコンテンツのオリジナルは2001年11月に書いたものです。 当時はネット通信環境が貧弱で、記事の容量を小さくすることが最重要な課題でした。 そんなことから、画像は「鳥獣保護区」の赤い注意標識を背景にした1枚きりでした。 2016年のサイト移転に伴う見直しでは新たに撮影した夏空の下の画像を追加しました。 2017年には赤い注意標識と緑陰を背景とした画像を後半に追加しました。 2020年には「ニコン Z 写真帖」としてニコン Z 6 による実写例を末尾に組み込みました。
Copyright Michio Akiyama, Tokyo Japan 2001, 2022
|