EL Nikkor 300mm F5.6
Strong but Beautiful Dangerous Dreams EL Nikkor 300mm F5.6 Nikon Photoengraving Lens ● マーチンコレクション エル・ニッコールも写真製版用レンズとして製品化された上位機種の大型レンズは、 実用に供するには今となっては難しい話であり、 なかなか現物をお持ちの方を見かけることは少ない。 街中でこんなレンズをかついで歩いていたらかなりあぶない。 スロバキアの美しい首都ブラチスラバからマーチンさんのコレクションを紹介したい。 大型のエル・ニッコールを何本かお持ちだという。 非常にコンディションが良く、 新品元箱入りデッドストック品である。 製品が世に出た当時の様式と雰囲気を具備しているので史料としての価値が高い。
EL ニッコール 300mm F5.6 新品未使用
元箱に貼ってあるシリアル番号シールに注目
こんなかんじで収まっている
オリジナルのNikonロゴ入りビニール袋
● 紙モノ一式 すでに50年前の製品である。揃い一式と言っても紙モノが残っているケースは少ない。 特に一般のカメラ用レンズと違って、業務用レンズであるゆえに、 紙モノをだいじに保存しているケースは少ない。 これだけ揃ってすべて残っている史料は珍しい。
EL ニッコール 300mm F5.6 揃い一式
検査合格証には T. Sagawa (Takeshi Sagawa、佐川 剛氏) の直筆サイン入り
保証書まで残っている
さらに日本光学宛のハガキまである
販売店控カード
● テクニカルデータ EL Nikkor 300mm F5.6
−焦点距離: 300mm
−発売時期: 1972年 8月 口径蝕と歪曲収差のデータは、1973年発行のニコンセールスマニュアル (LENS DATA 1973.6)ページ EL-8 による。 EL ニッコール 300mm F5.6 の販売の終了は 1985年の夏から秋頃と推測している。 手持ちの資料(ニコン標準小売価格表)を見た限りでは、 1985年7月1日版には掲載されているが、 1985年12月21日版では新しいシリーズとなった EL ニッコール 300mm F5.6A と入れ替わっている。
EL ニッコール 300mm F5.6 のレンズ構成図 ● EL ニッコール 300mm F5.6 ポートレイト モデルさんのポートレイトではない。レンズのポートレイトである。 美しいレンズを美しく撮るにはレンズと会話ができないと難しいものだ。
金属削り出しの前後キャップ
美しいレンズ前玉
EL ニッコール 300mm F5.6
S型ニコン顕微鏡のような重厚な黒塗装
● EL ニッコール 300mm F5.6 がもう一本 もう一本のレンズがさらに珍しい。なんと刻印エラーがあると言う。 よく見ていただきたい。どこがエラーかおわかりだろうか。 ここでクイズ出して喜んでいる場合ではないのでお示しするが、 " EL " ニッコールではななく、" FL " ニッコールと刻印されているのである。 足し算ならばフェイクかもしれないが、引き算なので間違いなく真正品だ。 例えばニコンF。Fの刻印に横に線を一本足してニコンE。これは足し算なのでフェイク。 ではELニッコール。Eの刻印に線が一本足りないFLニッコール。 引き算なので真正品となる。
刻印エラーのある珍しい FL ニッコール 300mm F5.6
それでも美しい EL ニッコール 300mm F5.6
レンズ後玉はバックシャン(backがschön)
端正な EL ニッコール 300mm F5.6
50年前のオールドボーイ
● EL ニッコール 300mm F5.6 でツーショット もともとこのクラスの大型レンズとなると製造数も少ない。 さらには業務用途だったがために、 アマチュア写真ファンが机の引き出しにしまっておいて残っていたというケースはない。 その EL ニッコール 300mm F5.6 が2本揃って並んだ。 しかも驚くべきことに、レンズ製造シリアル番号が連番なのである。
双子の EL ニッコール 300mm F5.6
美人な双子の姉妹
人間で言えば300歳の双子の姉妹
FL とか EL とかそんなの問題ない
● EL ニッコール 300mm F5.6A このレンズもまた珍しい。 そもそも、エル・ニッコールじたいが一般的にはコレクションの対象ではない。 さらには大型レンズとなると実用に供することもほぼないだろうから、 収集する方はまずいない。
オーセンティック EL ニッコール 300mm F5.6A
このレンズはエル・ニッコールの歴史において、 後期のステージとも言える1985年に世に出たレンズである。 カタログなどでは末尾にAが記載されて前時代のレンズとは区別されていた。 レンズ本体にはAの刻印が入っていない。EL ニッコール 300mm F5.6A である。
エクセレント EL ニッコール 300mm F5.6A
ブリリアント EL ニッコール 300mm F5.6A
● テクニカルデータ EL Nikkor 300mm F5.6A
−焦点距離: 302.5mm
−発売時期: 1985年 EL ニッコール 300mm F5.6A の発売時期はニコンの社史に記述がないので推測してみる。 手持ちの資料(ニコン標準小売価格表)を見た限りでは、 旧製品となる EL ニッコール 300mm F5.6 が 1985年7月1日版には掲載されているが、 1985年12月21日版では新しいシリーズとなった EL ニッコール 300mm F5.6A と入れ替わっている。 よって発売時期は 1985年の夏から秋頃と推測している。 1989年(平成元年)4月 1日。日本で初めての消費税が施行となった。税率は 3パーセント。 消費税の導入前は、いわゆる贅沢品には物品税がかかっていた。 一眼レフカメラや交換レンズ、そして写真引き伸し用レンズの物品税の税率は 15パーセント。 EL ニッコール全 13種類の価格の推移を確認したところ、 40mm F4Nから210mm F5.6Aまで 10本は、消費税の導入により、ほぼ 10パーセント価格が下がった。 今までかかっていた物品税がなくなったためと思われる。 しかしながら、240mm F5.6A、300mm F5.6A、360mm F5.6Aの 3本は価格据え置きだった。 この 3本は写真製版用との位置付けで、産業用レンズの枠組みである。 産業用レンズは非課税だったようだ。 EL ニッコール 300mm F5.6A の販売の終了は 1996年10月と推測している。 手持ちの資料(Nikon PLICE LIST)を見た限りでは、 1996年10月1日版には掲載されているが、1か月後の 1996年11月20日版ではカタログ落ちしている。
EL ニッコール 300mm F5.6A のレンズ構成図
ゴージャス EL ニッコール 300mm F5.6A
優れた鏡玉 EL ニッコール 300mm F5.6A
現在の視点で見ると旧型となる EL ニッコール 300mm F5.6 の重量は 1,550g。 新型ともいえる後期に製品化された EL ニッコール 300mm F5.6A の重量は 1,190g。 光学系が新たに設計されたことは勿論であるが、重量が大幅に軽量化されたのがわかる。 重量の軽い金属を採用した新型の鏡胴の仕上がりは旧型と異なる。涼し気な印象だ。 サイズも少しばかり小型化が図られ、現代的な外観デザインで引き締まった感がある。
エレガント EL ニッコール 300mm F5.6A
謝辞 本記事を製作するにあたり、たくさんの貴重な画像を本記事のために撮影し提供いただいた、 スロバキア共和国のマルティン・モラオツィーク(Mr. Martin Moravcik)氏に感謝申し上げます。 まことにありがとうございました。 ● 2024年のあとがき 本記事の初稿は2020年12月にリリースしました。
Copyright Michio Akiyama, Tokyo Japan 2020, 2024 |