EL Nikkor 300mm F5.6

EL Nikkor 300mm F5.6
Photo: Copyright (c) 2020, Martin Moravcik, All Rights Reserved.

The Big Lens in EL Nikkor
Strong but Beautiful
Dangerous Dreams
EL Nikkor 300mm F5.6
Nikon Photoengraving Lens

マーチンコレクション

エルニッコールも写真製版用レンズとして製品化された上位機種の大型レンズは、 実用に供するには今となっては難しい話であり、 なかなか現物をお持ちの方を見かけることは少ない。 街中でこんなレンズをかついで歩いていたらかなりあぶない。

スロバキアの美しい首都ブラチスラバからマーチンさんのコレクションを紹介したい。 大型のエルニッコールを何本かお持ちだという。 非常にコンディションが良く、 新品元箱入りデッドストック品である。 製品が世に出た当時の様式と雰囲気を具備しているので史料としての価値が高い。

EL ニッコール 300mm F5.6 新品未使用
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元箱に貼ってあるシリアル番号シールに注目
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こんなかんじで収まっている
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オリジナルのNikonロゴ入りビニール袋
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紙モノ一式

すでに50年前の製品である。 揃い一式と言っても紙モノが残っているケースは少ない。 特に一般のカメラ用レンズと違って、業務用レンズであるゆえに、 紙モノをだいじに保存しているケースは少ない。 これだけ揃ってすべて残っている史料は珍しい。

EL ニッコール 300mm F5.6 揃い一式
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検査合格証には T. Sagawa (Takeshi Sagawa、佐川 剛氏) の直筆サイン入り
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保証書まで残っている
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さらに日本光学宛のハガキまである
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販売店控カード
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テクニカルデータ

EL Nikkor 300mm F5.6

−焦点距離: 300mm
−最大口径比: 1 : 5.6
−最小絞り: F45
−レンズ構成: 4群6枚
−基準倍率: 2X
−標準使用倍率範囲: 1X 〜 4X
−画角: 52度
−色収差補正波長域: 380nm〜700nm
−口径蝕: 0%(F8にて)
−歪曲収差: -0.03%
−画像サイズ: 440mm⌀
−原版サイズ: 270×330mm(10x12in.)
−フィルター径: 95mm P=1mm
−マウント: 後側 d=100mm、p=1mm
−マウント: 前側 d=100mm、p=1mm
−座金: 外径 d=131mm
−全長: 97mm
−最大径: 117mm
−重量: 1,550g
−発売時期: 1972年8月

−当時の価格:
   140,000円(1973年 1月)
   163,000円(1974年 6月)
   163,000円(1976年 4月)
   163,000円(1977年12月)
   187,500円(1982年 8月)
   187,500円(1985年 7月)

口径蝕と歪曲収差のデータは、1973年発行のニコンセールスマニュアル (LENS DATA 1973.6)ページ EL-8 による。

EL ニッコール 300mm F5.6 の販売の終了は1985年の夏から秋頃と推測している。 手持ちの資料(ニコン標準小売価格表)を見た限りでは、 1985年7月1日版には掲載されているが、 1985年12月21日版では新しいシリーズとなった EL ニッコール 300mm F5.6A と入れ替わっている。

EL ニッコール 300mm F5.6 のレンズ構成図

EL ニッコール 300mm F5.6 ポートレイト

モデルさんのポートレイトではない。レンズのポートレイトである。 美しいレンズを美しく撮るにはレンズと会話ができないと難しいものだ。

金属削り出しの前後キャップ
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美しいレンズ前玉
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EL ニッコール 300mm F5.6
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S型ニコン顕微鏡のような重厚な黒塗装
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EL ニッコール 300mm F5.6 がもう一本

もう一本のレンズがさらに珍しい。なんと刻印エラーがあると言う。 よく見ていただきたい。 どこがエラーかおわかりだろうか。ヒマな野党の国会議員はクイズ王。 ここでクイズ出して喜んでいる場合ではないのでお示しするが、 " EL " ニッコールではななく、" FL " ニッコールと刻印されているのである。 足し算ならばフェイクかもしれないが、引き算なので間違いなく真正品だ。

例えばニコンF。Fの刻印に横に線を一本足してニコンE。これは足し算なのでフェイク。 ではELニッコール。Eの刻印に線が一本足りないFLニッコール。 引き算なので真正品となる。

刻印エラーのある珍しい FL ニッコール 300mm F5.6
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それでも美しい EL ニッコール 300mm F5.6
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レンズ後玉はバックシャン(backがschön)
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端正な EL ニッコール 300mm F5.6
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50年前のオールドボーイ
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EL ニッコール 300mm F5.6 でツーショット

もともとこのクラスの大型レンズとなると製造数も少ない。 さらには業務用途だったがために、 アマチュア写真ファンが机の引き出しにしまっておいて残っていたというケースはない。 その EL ニッコール 300mm F5.6 が2本揃って並んだ。 しかも驚くべきことに、レンズ製造シリアル番号が連番なのである。

双子の EL ニッコール 300mm F5.6
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美人な双子の姉妹
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人間で言えば300歳の双子の姉妹
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FL とか EL とかそんなの問題ない
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EL ニッコール 300mm F5.6A

このレンズもまた珍しい。 そもそも、エルニッコールじたいが一般的にはコレクションの対象ではない。 さらには大型レンズとなると実用に供することもほぼないだろうから、 収集する方はまずいない。

オーセンティック EL ニッコール 300mm F5.6A
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このレンズはエルニッコールの歴史において、後期のステージとも言える1985年に世に出たレンズである。 カタログなどでは末尾にAが記載されて前時代のレンズとは区別されていた。 レンズ本体にはAの刻印が入っていない。EL ニッコール 300mm F5.6A である。

エクセレント EL ニッコール 300mm F5.6A
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ブリリアント EL ニッコール 300mm F5.6A
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テクニカルデータ

EL Nikkor 300mm F5.6A

−焦点距離: 302.5mm
−最大口径比: 1 : 5.6
−最小絞り: F45
−レンズ構成: 4群6枚
−基準倍率: 4X
−標準使用倍率範囲: 2X 〜 8X
−画角: 57度(4Xの時)
−色収差補正波長域: 380nm〜700nm
−原稿サイズ: 410mm⌀(10x12in.判)
−フィルター径: 86mm P=1mm
−マウント: 後側 d=90mm、p=1mm
−マウント: 前側 d=90mm、p=1mm
−座金: 外径 d=121mm
−全長: 94mm
−最大径: 97mm
−重量: 1,190g
−発売時期: 1985年

−当時の価格:
   195,000円(1985年12月)
   214,500円(1993年 7月)
   214,500円(1996年10月)

EL ニッコール 300mm F5.6A の発売時期はニコンの社史に記述がないので推測してみる。 手持ちの資料(ニコン標準小売価格表)を見た限りでは、 旧製品となるEL ニッコール 300mm F5.6 が1985年7月1日版には掲載されているが、 1985年12月21日版では新しいシリーズとなった EL ニッコール 300mm F5.6A と入れ替わっている。 よって発売時期は1985年の夏から秋頃と推測している。

EL ニッコール 300mm F5.6A の販売の終了は1996年10月と推測している。 手持ちの資料(Nikon PLICE LIST)を見た限りでは、 1996年10月1日版には掲載されているが、1か月後の1996年11月20日版ではカタログ落ちしている。

EL ニッコール 300mm F5.6A のレンズ構成図

ゴージャス EL ニッコール 300mm F5.6A
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優れた鏡玉 EL ニッコール 300mm F5.6A
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現在の視点で見ると旧型となる EL ニッコール 300mm F5.6 の重量は1,550g。 新型ともいえる後期に製品化された EL ニッコール 300mm F5.6A の重量は1,190g。 光学系が新たに設計されたことは勿論であるが、重量が大幅に軽量化されたのがわかる。 重量の軽い金属を採用した新型の鏡胴の仕上がりは旧型と異なる。涼し気な印象だ。 サイズも少しばかり小型化が図られ、現代的な外観デザインで引き締まった感がある。

エレガント EL ニッコール 300mm F5.6A
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謝辞

本記事を製作するにあたり、たくさんの貴重な画像を本記事のために撮影し提供いただいた、 スロバキア共和国のマルティン・モラオツィーク(Mr. Martin Moravcik)氏に感謝申し上げます。 まことにありがとうございました。

あとがき

本記事の初稿は2020年12月にリリースしました。

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