EL Nikkor 105mm F5.6

ELニッコール 105mm F5.6 マウンテン・フード

気配は創造

日本の秋は早い。速いと書いたほうが的確かもしれない。 それでも落ち葉はしずかに考え込んでいるのがよくわかる。気配は創造である。 昼が短いならば夕刻は早く、レンズを投影する光軸の先には情況が存在している。 と、のんきに思想している場合ではない。

この軽みなレンズで秋の散策から本格的山岳写真もこなす

一般撮影可能な ELニッコール

ニコン75年史資料集によると ELニッコール 105mm F5.6 の発売は昭和41年(1966年)6月。 販売の終了時期を調べてみた。1980年 2月15日版の価格表に記載があることを確認している。 後継の新型となった 105mm F5.6N は 1980年 6月15日版の価格表に登場していることから、 ELニッコール 105mm F5.6は 1966年から 1980年の長きにわたり製造販売されていたことになる。

ELニッコールは引き伸し用レンズだが、もちろん一般撮影も可能だ。 105ミリのような長焦点レンズであれば、 フルサイズのミラーレスデジタル一眼カメラはもちろん、 本格的なニコンデジタル一眼レフカメラに装着して余裕で無限遠が出る。 ここだけの話だが、ELニッコール 105mm F5.6 は驚異的にすごい高性能レンズなのだ。 発色もニュートラル。きちんと明快な精密描写はさすがである。 記事末尾にニコン・ゼットによる実写例を置いてあるので安心してご参照いただきたい。

ELニッコール 105mm F5.6 の端正な姿
(撮影年は2001年11月)

テクニカルデータ

4群6枚のオルソメタータイプのレンズ構成。歪曲収差が完全に補正されているのが特長。 1970年代前半までは測定記録の複写レンズとしても利用されていた。

EL Nikkor 105mm F5.6

−焦点距離: 105mm
−最大口径比: 1 : 5.6
−最小絞り: F45
−レンズ構成: 4群6枚
−基準倍率: 5X
−標準使用倍率範囲: 2X〜10X
−画角: 56度
−色収差補正波長域: 380nm〜700nm
−口径蝕: 0%(F8にて)
−歪曲収差: +0.009%
−原板サイズ: 65×90mm(111.0mm⌀)
−基準倍率における原板から画像までの距離: 756mm
−フィルター径: 34.5mm P=0.5mm
−マウント: ライカL39スクリューマウント
−全長: 39.5mm
−最大径: 48mm
−重量: 220g
−重量実測: 220.5g

−発売時期: 1966年 6月
−当時の価格:
   19,500円(1966年 9月)
   19,500円(1969年 1月)
   19,500円(1973年11月)
   23,500円(1974年 6月)
   23,500円(1976年 4月)
   26,500円(1976年 7月)
   26,500円(1977年12月)
   26,500円(1980年 2月)
   価格表落ち(1980年 6月)

ELニッコール 105mm F5.6 のレンズ構成図

色づく木の葉にレンズも快晴

使えるBORG製ヘリコイド

下の画像のセットは、BORG製のヘリコイド(M42ヘリコイドシステム)を使っている。 カメラ側がFマウント、レンズ側がライカL39スクリューマウントだ。 使いやすい直進ヘリコイドになっている。動きもスムース。 セットで 1万円代で入手できるのがありがたい。 なお2020年時点では現行販売品だったが、2022年現在では生産終了となったようだ。 BORG製のヘリコイドだけでは、無限遠が少し足りないので、 カメラ側にニコンの接写リング PK-12を入れている。

2001年当時に撮影した画像ではカメラ側から K2と K3リングを足して無限遠を出していた。 K2と K3リングは、ニコンの古い Kリングセットの一部だ。 Kリングは中古で安く手に入るが、とても使い勝手のよいセットになっている。

左からニコン PK-12、ヘリコイド、ELニッコール

週末の山行はこのレンズでいこう

34.5ミリ径のレンズフード

さて、ヘリコイドを装着して一般撮影が可能となった ELニッコール 105mm F5.6 は、 三脚にのせてゆっくりと撮影をたのしみたい。 このレンズの使い方で一つ作法がある。フードだ。 フィルターサイズ 34.5ミリ径のレンズだから、 マウンテンニッコール 10.5cm F4用の専用フードがきまる。 とても小さくかわいい、しかし異常に頑丈なフードだ。 ちんまりとレンズに付けて、秋をたのしみたい。

このフード。フードひとつで思想が達成される。 レンズをたのしむということは、そういうことなのだ。 どうでもよいことのようだが・・      どうでもよいか。

ようは今となってはお手軽価格で入手できるレンズと、簡単なヘリコイドセットで、 非常に高性能なマシンを構成できることを言いたかったのだ。 お金をかければいいというものでもない。

小さいレンズにはかわいいマウンテンフードが似合う

暗く軽いのが正しい生き方

ニコンから、暗くて小さくて軽い中望遠レンズを商品化して出してほしいものだ。 105ミリでF4とか F5.6で十分だ。F8だったらさらによい。 本物は暗いとか明るいとかで判断してはならない。 これはレッドブック・ニッコール愛好家の約束だ。

いのち短し恋せよ乙女

修正ログ

ニコン・ゼットによる実写作例をお示しする前に言っておこう。 じつは、2018年の改版時に重大なチョンボをこっそり修正したのだ。 テクニカルデータの性能諸元にある ELニッコール 105mm F5.6 の重量である。 2016年の見直し時には、 一次資料であるニコンセールスマニュアルの LENS DATA を参照しそのまま 160gと転記した。 で、2018年の改版時に、念のために、 版数が異なる 3種類のセールスマニュアルの記載内容を突き合わせてみた。 するとなんと版によって重量が異なっていたのだ。

おそらく誤植だと思われる。 たまたま参照したものが 160gと記載されていたので、そのまま転記してしまったのである。 しかし他の 2種類のセールスマニュアルには 220gと記載されている。 さらに別なソースであるカタログ。 1970年代から 1980年代の 4種類のすべて 220gと記載されているのを確認した。 そもそも実物を家庭用の上皿はかりで実測したらピタリ 220gだった。 新規購入したデジタルスケールで実測したら 220.5gだ。ピタリ 220gと言えるだろう。

ほんとに資料を鵜呑みにするのは危険である。 まるで学部の学生さんの卒論みたいなことをやってしまった。 複数の資料にあたり、実測できるものは計測し直す。 これはほんとに大切なことである。 ニコンセールスマニュアルも 50年後に誤植ありと騒がれても今さらなので言及しないが、 信頼がおけるとされている一次資料であっても、念のために正しいことを確認することは重要だ。 まあ、できる範囲は限られてはいるが。

ニコン Z 写真帖

ニコン Z 6 に EL ニッコール 105mm F5.6 を装着した。 接写ではなく、日常のシーンやら旅先でよく出会うような距離感の眺めを撮影してみた。

EL Nikkor 105mm F5.6 on Nikon Z 6

ニコン Z 6 にはニコン純正の FTZマウントアダプターを装着した。 カメラボディがFマウントになったので、接写リング E2 ですこしゲタを履かせて、BORGのM42ヘリコイドを入れた。 BORGの M42ヘリコイドのカメラ側はニコンFマウントで、レンズ側がライカL39スクリューマウントにセットしてある。 そのまま EL ニッコール 105mm F5.6 を装着。 市販されているアクセサリーのみで撮影可能となる。

この説明を定数係数線形二階同次常微分方程式で書くと次のとおり。

Nikon Z 6 + FTZ + E2 + BORG M42 (F to L39) + EL 105mm F5.6

EL Nikkor 105mm F5.6 on Nikon Z 6

ブリリアント・カラー

夏の終わり秋の入口。 ニコン Z 6 にEL ニッコール 105mm F5.6 を装着して撮影した。 そもそもが引き伸し用レンズである。 しかしながら、一部のコアなマニヤ様の間で定評のとおり、 色彩はきわめてニュートラルでダイナミックかつスーパーナチュラル自然の発色である。 2450万画素のスタンダードなカメラを使用したが、 画像処理エンジンが優れているのでレンズ本来のポテンシャルを引き出せた。

EL Nikkor 105mm F5.6,   ASA 400   F8   1/320 sec.   -0 +0

ここに掲載したニコン Z 6 による作例画像は、 すべて JPEG撮って出しオリジナル画像をそのままファイル名だけ変更してアップしている。 画像をクリックするとオリジナル原板を表示する。 撮影データもそのまま残してある。 ただしニコン Z にとっては想定外のレンズなので、レンズ名と絞り値はファイルに記録されていない。

EL Nikkor 105mm F5.6,   ASA 800   F8   1/640 sec.   -0.7

EL Nikkor 105mm F5.6,   ASA 800   F8   1/500 sec.   -0.7

EL Nikkor 105mm F5.6,   ASA 800   F8   1/320 sec.   -0.7

ご覧いただいているとおり精密で正確無比な描写である。 写真測量とか写真偵察の用途には最適だろう。 これらのレンズの派生形が現代のラインセンサー用レンズとして開花している。 特殊用途レンズは朽ちずいつまでも生きている。

ハイパー・リアル・リゾリューション

京王線多摩川橋梁。 ニコン Z 6 にEL ニッコール 105mm F5.6 を装着して撮影した。 接写とか近距離ではなく、いわゆる無限遠での撮影である。 テスト撮影でよく利用するいつもの定点ポイントに機材を持ち込んだ。 実際には距離にして約 600メートル先の景色なので、有限であり遠景での撮影となる。

EL Nikkor 105mm F5.6,   ASA 400   F8   1/5000 sec.   -0 +0

EL Nikkor 105mm F5.6,   ASA 400   F8   1/4000 sec.   -0 +0

前述のとおりここに掲載したニコン Z 6 による作例画像は、 すべてJPEG撮って出しオリジナル画像をそのままファイル名だけ変更してアップしている。 画像をクリックするとオリジナル原板を表示する。撮影データもそのまま残してある。 露出はカメラにまかせた。絞り優先のダイヤル A のポジションだ。 自然光オートで派手さはないが正確な色彩表現と精密描写を狙った。 等倍で画像を見るとよく解像しているのがわかる。

EL Nikkor 105mm F5.6,   ASA 400   F8   1/4000 sec.   -0 +0

EL Nikkor 105mm F5.6,   ASA 400   F8   1/4000 sec.   -0 +0

日本の伝統的な色彩の青(#0095d9、R:0 G:149 B:217)。 その青色の青空である。青すぎないふつうの青空。 このあたりの微妙で淡い色温度も EL ニッコールは精緻に分解して表現できる。 ひとすじの飛行機雲。

まだ試していないが、EL ニッコールで動画を撮るのはいいかもしれない。 やはり動きのある風景はムービーで撮りたいものだ。 きっといい結果が出るに違いない。

EL ニッコール 105mm F5.6 は現在の中古市場でも数多く出回っていて、値段も手ごろだ。 EL ニッコールによる写真撮影の入門用としておすすめできる。 特にフルサイズミラーレス機とは相性がよく、レンズ本来の威力を発揮する。 基本性能が優れた実力のあるレンズであることを実感できるだろう。

2024年のあとがき

このコンテンツのオリジナルは 2001年11月に書いたものです。 画像は 1枚のみで短文を添えたシンプルな記事でした。 2016年のサイト移動に伴う見直しにあたり、テクニカルデータを掲載し、 新たに撮影した雰囲気がよくわかる画像を組み込みました。

2018年の改版時にレンズ構成図を追加しました。 2020年の改版では「ニコン Z 写真帖」として Z 6 による実写作例を組み込みました。

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