![]() CRTニッコール55mm F1.2 グランド・リジェンド
Oscillo-Nikkor 55mm F1.2 CRT Nikkor 55mm F1.2 Nippon Kogaku LENS MADE IN JAPAN ● 伝説の誕生
レンズにも伝説はある。 ● ロスアラモス国立研究所 CRTニッコール55mm F1.2。このレンズは不思議な出現をした。 中古カメラ市場でとつぜん姿を現した。 すでに遠い昔になってしまったが1997年から1998年にかけての話である。 ネットで情報をやりとりする手段といえばパソコン通信の時代だ。 この頃は全盛期のピークをすこし超えた時期かもしれないが、 それでもまだ主流だったパソ通で情報が飛び交った。 日本を代表する総合電機メーカー製作所勤務で、 その当時米国に駐在していたマイフレンドが、現地のカメラ店でこのレンズを入手した。 ブローカーの話ということで、レンズが出てきた背景を説明してくれた。 CRTニッコール55mm F1.2は、米国の核実験施設から放出されたという。 核実験施設というと時節柄生々しいので、核融合研究施設と考えよう。 核融合研究施設というと、科学技術にお詳しい方ならば、 すぐにロスアラモス国立研究所とかローレンスリバモア国立研究所の名前が思い浮かぶだろう。 ネットに出た情報は「米国ニューメキシコ州にある核実験施設」だ。 これは間違いなくロスアラモス国立研究所と思われる。 本ウェブサイトでの記事化にあたり、ことの真偽を確かめようと、 ダメ元でロスアラモス国立研究所に尋ねてみようと当時考えた。 しかしながら、このサイトを立ち上げた時局は、 2001年9月の 9. 11 同時多発テロからはじまる一連の事態の真っ最中だった。 米国の国家的な核関連施設へコンタクトするなど、さすがにできなかった。
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稲穂をながめるCRTニッコール55mm F1.2 この画像は2001年当時に撮影し初期の記事に掲載したものである。 古いデジタル機ゆえ画像品質がよろしくないが、当時のリアルタイムな記憶として残しておくことにした。 今見ても、収穫まじかの稲の穂をながめ、イナゴの行動を監視する姿は知性的である。 レンズも哲学をもてば田畑で毅然とし、 その昔はオシロスコープの光跡をトレースしていた仕事人の顔をもつ。 銀色の絞りリングは日本の原風景になじむ。 ● アルバカーキの乾いた風 ニューメキシコ州の街アルバカーキからはるか160キロ離れ、 標高2,000メートルを超える乾いた空気、乾いた風のなかで、 大量のCRTニッコール55mm F1.2が、 目に見えない鮮鋭な光をみていたということは想像するだけでも物語だ。 前述のブローカーの話では、CRTニッコール55mm F1.2は「解像力200本/mmを超える超高解像力レンズである」とか、 「ライカL39マウントなので、引伸機のレンズに最適である」 そして「オレゴン州立大学で写真を教えている教授が引き伸ばしに使ってバッチリだった」 などなど、レンズにまつわる話も披露してくれたという。 セールストークか否かはわからない。でも、話としては興味深い。
![]() クロームボデイに似合うCRT Nikkor 55mm F1.2 ● ブルックリン 次に、こんどは裏付けのある話。 シャッターバグ誌の広告にCRTニッコール55mm F1.2が登場した。1997年5月の話だ。 このときに入手された方は、私のまわりにも数人いるので、 気が付かれた方は購入されたのではないか。 ニューヨークの有名な中古カメラ店「ブルックリン・カメラ」である。 レンズはライカL39スクリューマウントだから、ライカL39マウントのアダプターさえ用意できれば、 どんなカメラでも装着できる。 ブルックリンの広告では、オリンパスOM1Nに付けてお花の接写写真がグレート最高、 とのユーザ激賛の話が載っている。 1997年当時では、海外から中古カメラを買う手段はシャッターバグ誌などの雑誌だった。 雑誌に掲載されているカメラ店の広告を見て、ほしいものがあれば紙に書き出しFAXで送ったものだ。 まったくリアルタイムでない、なんとものんびりした時代だった。 代金の支払いのために、紙にクレジットカードの番号を書いて、さらにサインも入れてFAXで送る。 これでセキュリティーが保たれたのだから驚いてしまう。
![]() CRT Nikkor 55mm F1.2 ● スティーブのお父さん 私もだてに長くマニヤをやっているわけではない。 真実を確認することが、世界的な資源を後世に正しく伝えることができる。 以下の情報は「Medium Format Digest」という電子掲示板に掲載されたメッセージを当時採集したものだ。 プライバシーの観点から、メールアドレスやオリジナルのソースは掲載できない。
題して「ニコンの本格派コレクターへ」と題された1通の書き込みだ。
これはすごい。すべて連番だ。しかも、9本が連番というレンズ群もある。 その数合計すると89本。 大量の89本と考えるか、全世界で89本しか存在しないと考えるかは意見の分かれるところだ。 売り出したのは、米国のスティーブ氏。これは本名だ。 メールを読む。じんときた。 このCRTニッコール55mm F1.2レンズは、スティーブのお父さんが持っていたという。 スティーブはこのメールを打ったあと、2週間ほど旅行に出るので音信が途絶えると書いてあった。 母親と家族を連れてスティーブはオレゴン州の海に行った。 海岸線の美しいオレゴンは西海岸か。 彼のお父さんが愛したお気に入りスポットがあるのだ。 それは、お父さんの遺灰を海に散らしにいく旅だった。 スティーブのお父さんは89本のCRTニッコール55mm F1.2レンズを家族に残し、8月に亡くなっていた。 ● 深まる謎 スティーブのお父さんが、なぜこれだけ大量の特殊レンズを持っていたかは不明だ。 核実験施設との関連も分からない。 オレゴン州立大学教授の話と、 オレゴンの海を愛したスティーブのお父さんは関係あるのか、ひょっとして同一人物か。 スティーブ本人に聞いてみようかとも思ったがやめておいた。 それは伝説なのだから。 すくなくとも、日本で突然出現したCRTニッコール55mm F1.2の源流はここにあるとするのが有力だ。 スティーブが売り出したレンズをブルックリンがすべて買い取り、そして広告をうって販売したのだろうか。 その裏付けとして、当時ブルックリンからレンズを購入した人が、まだ在庫が70本近くあると聞いている。 別な見方をすると、全世界で100本に満たない存在といえるかもしれない。 販売するほうも、買うほうも、何のレンズか分からない状態だった。 1990年代当時はまったく情報がなかったのである。
![]() 美しいパープル・コーティング ● 時代の終焉と高性能レンズ CRTニッコールは特殊な産業用レンズだった。 その製造数も定かではないが、55ミリで開放F1.2の大口径、 6群8枚のゴージャスなガラスブロックが、能力限界を超えたパフォーマンスを引き出す。 手指が切れるほど鋭利に工作された精度の高い、ライカL39スクリューマウントを持つ。 絞りリングが銀色、鏡胴が黒。 オートニッコールと逆の色設定は、スマートな工業製品という印象だ。 オシロスコープの画面撮影用という本来の役目は、遠い昔に終焉している。 安価なレンズに高感度ポラロイドフィルムを搭載したカメラにその主役を譲り、 さらに観測記録そのものがパソコンと連携したデジタル記録になった。 物事はデジタルになると機能が一気に進化する。 デジタルオシロスコープが登場したかと思ったら、 昨今ではアマゾンで1万円以下でハンディ型が買えてしまうのでありがたみがない。
そして、レンズだけがしずかに残った。
![]() ブラックボデイにも合うCRT Nikkor 55mm F1.2 ● ロスアラモス国立研究所 まさか現物が出土するとは思わなかった。それは2012年7月のことだった。 米国の核実験施設で使われたとの話は、 歴史的事実であることがエビデンス(写真装置の実物)の出現により判明したのである。 ズバリ、ロスアラモス国立研究所の所有物だった写真撮影装置が米国で売りに出た。 なんとCRTニッコール55mm F1.2が搭載されたスコープカメラ(表示画面写真撮影装置)の現物である。 産業用レンズファンの日本の方が購入された。 画像の掲載を承諾していただいたので現物をご覧いただきたい。
![]() 白塗りの頑丈な木の箱
白塗りの木箱には、来歴を示す「極め」とも言うべき荷札のようなタグが下がり管理シールも貼られている。 どうやら1972年から1978年までは実際に使用されたようである。 詳細が気になるマニヤの方向けに、画像上をクリックすると大きい画像が出るようにしてあるが、 無理して見なくてもよい。 どんな環境下で配備されたスコープカメラなのかはわからない。 過酷な条件下で破壊されたレンズもいたかもしれない。 それでも「Excess Property」のタグを付けられて、いわば生きて定年退職できたレンズは幸せだったのかもしれない。
![]() ロスアラモス国立研究所の所有物を示す銘板 メーカーの銘板を見ると、米国マサチューセッツはボストンの そのすじでは有名な EG & G 社(EDGERTON-GERMESHAUSEN & GRIER INC.)製である。 もうこれだけで、装置の属性やら時代背景がわかってしまう。 このあたりは 英語版Wikipediaで「EG & G」を検索して確認していただきたい。 そういうことなのである。
![]() スコープカメラ装置全体
![]() CRTニッコール55mm F1.2がマウント座金で装着されている状態 下の写真は私が所有する2本のCRTニッコール55mm F1.2である。 レンズには2本ともロスアラモス国立研究所の所有物と同じマウント座金が付いていた。 マウント座金の形状から、ロスアラモス由来のものである可能性が高い。
![]() ロスアラモスマウント座金付きのCRTニッコール55mm F1.2 後日談をすこし。 購入したレンズのうち、 1本はジャムナットを廻して自分でマウント座金を外せたが、 もう1本は固く締め付けられており、どうしても外せない。 CRCのような潤滑油を差そうか、 プライヤーで掴んで無理に廻すとジャムナットのローレット加工がつぶれそう。 困って、ニコン新宿サービスセンターに持ち込み相談。 すると、バックヤードにレンズを持って行かれると、 しばらくしてスルリとマウント座金を外していただくことができた。 専用工具でも使ったのだろうか。まったくの無傷である。 プロの技。これには感動した。 そのせつはニコン新宿サービスセンターさんにはお世話になりました。 ● テクニカルデータ
1つ前の画像は、なにやらデータシートの上に2本のレンズが置かれている絵だが、
このデータシートが気になる方もおいでだろう。
以下にデータシートをフルサイズで示すので画像上でクリックしてご参照いただきたい。
CRT ニッコール55mm F1.2
−焦点距離: 54.3mm
−発売時期: 1967年
![]() CRT ニッコール55mm F1.2 のレンズ構成図 ● CRTニッコール 58mm F1.0 さてここで「幻のレンズ」を紹介しておきたい。 CRTニッコール 58mm F1.0 である。 産業用レンズとしては珍しいFマウントのレンズなのだ。 しかもニコンFマウントのニッコールレンズの中で最も明るい F1.0 のレンズなのである。 一部の資料を通して存在は知ってたが、現物を目にし手に取る機会がなかった。 しかし、ついにあのニコン研究会に現物が登場した。 SNS(ツイッター)で画像を添えて紹介してみたが、すでに情報は瞬時に流れ去ってしまったので、 ストック型の当ウェブサイトにおいてここに再び取り上げ固定することにした。
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CRTニッコール58mm F1.0 ニコンFの最初期型(2桁機)
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CRTニッコール58mm F1.0 優美な姿 ニコンFマウントのニッコールレンズであるが、ニコンカメラ用のレンズカタログには出てこない。 一般の文献や雑誌の記事にも出てこない。 唯一、産業用・工業用ニッコールレンズカタログだけに記載がある。 1974年2月1日版のカタログには 112,000円と価格が掲載されている。 並んでCRTニッコール55mm F1.2 も115,000円と掲載されているが、 なんとCRTニッコール55mm F1.2 よりすこし安かったのである。 その4か月後。1974年6月1日版のカタログからCRTニッコール58mm F1.0 は特注品扱いになってしまった。 特注品であったことから、生産数が少なかったことが推測できる。
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CRTニッコール58mm F1.0 ニコンF3Tに似合う
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CRTニッコール58mm F1.0 絞り目盛りはF1.0 鏡胴には、CRT-NIKKOR Auto 1:1.0 f=58mm M=1/4 と刻印が入っている。 ちなみに、正しく「CRT-NIKKOR」と、本名である銘が刻印されている唯一のCRTニッコールレンズなのである。 焦点距離調整リングには距離ではなく、撮影倍率が刻印されている。 このレンズの設計基準は 1/5 倍である。 アタッチメントサイズ(フィルター径)は62mm である。
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CRTニッコール58mm F1.0 フィルター径は62mm オートニッコールの時代は、一部の超望遠レンズや大型ズームを除くと、フィルター径は52mmあるいは72mmで統一されていた。 62mm径のフィルターサイズを採用したレンズはなかった。 であるから、このCRTニッコール58mm F1.0だけのために、62mm専用キャップを製造するわけがない。 しかも出荷量がきわめて少ない特注品扱いのレンズである。 レンジファインダーニコンの時代の銘レンズであるニッコール5cm F1.1。 フィルター径は62mmだった。工場に在庫が残っていたのであろうか。 Nippon Kogaku Tokyo のロゴが入った富士山マーク入りのキャップは、 ニッコール5cm F1.1用のキャップそのものだ。 こういった例はほかの産業用レンズにもある。 リプロニッコール85mm F1.0にはレンジファインダーニコンの時代の48mm径キャップが、前後に装着されている。 ● ニコン Z 写真帖 ニコン Z 6 にCRTニッコール55m F1.2を装着した。 ニコンFマウント一眼レフの環境ではフランジバックが長いため無限遠が出せなかったが、 極端に短いフランジバックを有するフルサイズミラーレス機ニコン Z マシンの登場により、 接写のみならず、数メートル先の近距離撮影から数百メートルレンジの遠距離撮影も余裕で可能となった。
![]() CRT Nikkor 55mm F1.2 on Nikon Z 6 ニコン Z 6 には市販の K&F CONCEPT製の L39 - Z マウントアダプターを装着。 これでカメラボディがL39ライカスクリューマウントになった。とにかく簡単。 Nikon Z 6 + L39 to Z + CRT Nikkor 55mm F1.2 上に示す画像のとおりレンズをピッチリとねじ込むとオーバーインフとなる。 ねじをゆるめてレンズを前に引き出すようにするとキッチリと無限遠が出る。 ヘリコイドのようにスムースにはいかないが、これでじゅうぶんに使える。 フルサイズでは特に開放のF1.2だと四隅がほんのすこしケラレてしまう。 このレンズについてはすべてカメラをDXフォーマット(APS-Cサイズ)に設定して撮影した。
![]() CRT Nikkor 55mm F1.2, ASA 400 F8 1/1000 sec. +0.7 まるでレンズの作例のような何も主張のない画像である。 晴れているので絞りを F8 にして撮影した。 なにもこの明るい快晴の下でレンズを開放絞りにすることもないだろう。 でもそこは実証実験なのである。レンス開放絞りの F1.2 で撮影してみた。
![]() CRT Nikkor 55mm F1.2, ASA 100 F1.2 1/8000 sec. -0.7 なかなかいい風情と趣である。 この開放絞りでちょいゆるい画像を撮影する手法は実はかなり「古い」。 大正時代のモダンボーイはすでに「ベス単フード外し」を実践していた。 100年前の趣味の写真とか旦那芸の芸術写真なのである。 以下に僭越ながら作例を見ていただこう。まず最初に常識的な絞り F8 で撮影した画像。 次にかなり無理があるが晴天下で絞り開放 F1.2 で撮影してみた。
![]() CRT Nikkor 55mm F1.2, ASA 800 F8 1/500 sec. -0 +0
![]() CRT Nikkor 55mm F1.2, ASA 100 F1.2 1/2000 sec. +0.3 それほど絵が暴れるわけではない。 レンズの標準使用倍率範囲(ようするに接写のみで最高性能が出るように限定した設計) から大幅に逸脱していることは理解している。さらに遠景はどんなかんじに写るのだろうか。
![]() CRT Nikkor 55mm F1.2, ASA 800 F8 1/3200 sec. +0.7
![]() CRT Nikkor 55mm F1.2, ASA 100 F1.2 1/8000 sec. +0.3 なるほど。これはわかりやすい。 CRT Nikkor 55mm F1.2 を絞り F8 で撮影すると「風景」が写る。 そして絞り開放の F1.2 で撮影すると「景色」が写るのであった。 このあたりの意味と理解は、日本美術か骨董についてすこし知ればわかることである。 絞り開放の F1.2 で撮影すると場によっては「状況」ではなく「情況」が写る気配がある。
![]() CRT Nikkor 55mm F1.2, ASA 800 F8 1/2000 sec. +0.7
![]() CRT Nikkor 55mm F1.2, ASA 100 F1.2 1/6400 sec. +0.3 ロスアラモス国立研究所で過酷な業務の後に放出されて21世紀でも生き延びてきたレンズである。 計測表示管の二次元平面しか見た経験がないという。 レンズであっても長生きすればよいことがある。 ニコンゼットとの出会いにより日本の緊張感のないゆるい風景と対峙することができたことがうれしい。 しかしその眼光は本当は鋭い。
![]() CRT Nikkor 55mm F1.2 on Nikon Z 6 ● CRT ニッコールの新しい使い方 「CRT ニッコール」もしくは「CRT NIKKOR」で画像検索すると、このレンズを使って実写した画像が出てくる。 いずれも開放の F1.2 で撮影し大きく絵が乱れている。 暴れると形容して基準外から外れた描写を好む愛好家の方も多い。 もともと1枚の名刺程度のごく小さいサイズを接写で、しかも二次元平面を撮影するために特化したレンズだ。 50センチ以上離れた距離の物体を撮影するには無理がある。しかも三次元の立体世界。 これでは、顕微鏡で天体観測をしているようなものだ。
![]() これならだいじょうぶ CRT ニッコール 55mm F1.2 をお持ちの方はぜひ無限遠でかつ絞り F8 とか F11 で 山岳写真とか壮大なランドスケープ、学術的な天体写真を撮影していただきたい。 そしてインターネットの情報空間に、ちゃんと普通にキリリと映像を叩き出している実例を掲載してほしい。 ほんらいの使い方にこだわる方ならば、1960年代の名機は、岩崎通信機製のオシロスコープやら、 米国テクトロニクス社製のシンクロスコープを購入して、ぜひとも表示管表面の画像を撮影してほしい。 当時あの値段(400万円程度)だったので今は1000万円以上すると思うが。 と、今の価格をみてびっくり。5万円程度で新品が買えてしまう。よい時代になったものだ。 ● イージー・マクロフォトグラファー 前に掲げた実写作例は、意図的に数メートル先の風景から無限遠近くの遠景まで取り上げたが、 CRT ニッコール 55mm F1.2 のほんらいの使い方は、 標準使用倍率範囲からみても接写とマクロ撮影である。 きわめて簡単な撮影スタイルで、被写体までの距離が40センチほどの近接撮影をしてみた。 絞りはF8にセットしてあとはゼットにまかせた。 さくさくと高品質の絵が撮れる。 ニコンらしいシャキッと新鮮でヌケのよい近接マクロ写真のアガリとなった。
![]() CRT Nikkor 55mm F1.2, ASA 1600 F8 1/640 sec. +0.3 ほんのすこしの光が淡い花の色を立体的に構成していたのでシャッターを切った。 つぼみの質感とか若い葉先に、工業用ニッコールレンズらしい優しさが出ている。
![]() CRT Nikkor 55mm F1.2, ASA 1600 F8 1/2500 sec. -1.0 ふかい緑色がほしくて、露出を2/3段くらい詰めてみた。 黄色いゴーヤの花に線の細いツルがからみ、落ち着いたトーン豊かな静かではあるが力強い描写となっている。
![]() CRT Nikkor 55mm F1.2, ASA 1600 F8 1/1250 sec. -0.3 きれいな花が咲いているわけではないので、誰もサトイモの葉には興味を示さないようだが、 このダイナミックな躍動感に加えて生命感が美しい。
![]() CRT Nikkor 55mm F1.2, ASA 1600 F8 1/640 sec. -0 +0 CRT ニッコール 55mm F1.2 はほんとによく写る。 虫に食われて葉に穴が目立つ健気な夏草と目が合った。 夏草を題材にした俳句は多い。写真も俳句も同じだ。
![]() CRT Nikkor 55mm F1.2 Lens Look Good on the Nikon Z 夏草を撮った時のニコンスタイル。簡単イージーな近接撮影用のセットである。 ライカスクリューマウントの短い中間リングを1つ入れた。 レンズ前玉に横から余計な光を当てたくないので、 日よけのレンズシェイド(Nikon HN-3)を装着した。 汎用のフィルター径52ミリのレンズは手持ちのアクセサリーが活用できるのでうれしい。 ● ブリリアントな色彩表現 CRTニッコール 55mm F1.2 の真骨頂は近接撮影におけるブリリアントな色彩表現だろう。 微妙な日本の伝統色を高速に実現する。絞りをカチリと動かし F5.6に固定した。 気温に湿度、さらには気配まで写し込んでしまう精密レンズである。
![]() CRT Nikkor 55mm F1.2, ASA 1600 F5.6 1/1250 sec. +1.7
![]() CRT Nikkor 55mm F1.2, ASA 1600 F5.6 1/1250 sec. +2.0
![]() CRT Nikkor 55mm F1.2, ASA 800 F5.6 1/3200 sec. +0.3
![]() CRT Nikkor 55mm F1.2, ASA 800 F5.6 1/1250 sec. +1.0
![]() CRT Nikkor 55mm F1.2, ASA 800 F5.6 1/2000 sec. +1.0
![]() CRT Nikkor 55mm F1.2, ASA 800 F5.6 1/2500 sec. +1.0 工業用ニッコールレンズは、もともとファッショナブルな色彩表現に優れており、 華麗なアートディレクションは得意とするところだ。 そこらへんの草でも作品に仕立ててしまうポテンシャルを有する。
![]() CRT Nikkor 55mm F1.2, ASA 800 F5.6 1/2500 sec. +1.3
![]() CRT Nikkor 55mm F1.2 桜、満天星、山吹をこのニコンスタイルで撮影した。 時代の高級レンズ CRTニッコール 55mm F1.2を装着した端正な姿。 近接撮影のために、ELニッコール用純正アクセサリーであるエクステンションリングを入れている。 ホットシューカバーは1960年代の日本光学純正品。 Nikon水準器は白銀のアルミ削り出し。白色のベースにオイルが透明。 丸い指標マークが赤。素晴らしい造りこみ。 ● 2022年のあとがき このコンテンツのオリジナルは2001年11月に書いたものです。画像は1枚きりでした。 2016年のサイト移転に伴う見直しで、新たに画像を追加しました。 米国の核実験施設(核融合研究施設)で実際に使われたとの話は、 エビデンスの出現により歴史的事実であることが判明しましたので紹介しました。 2020年の改版では「ニコン Z 写真帖」として Z 6 による実写作例を組み込みました。 ニコン一眼レフの時代はフィルム機でもデジタル機でも接写しかできなかったのですが、 ミラーレス機ニコンゼットでいきなり無限遠がさくっと出せるようになり撮影の範囲が広がりました。 2021年には、桜、満天星、山吹の実写作例を追加しました。
Copyright Michio Akiyama, Tokyo Japan 2001, 2022
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