COM-Nikkor 37mm F1.4 Pride of Serious Digital Poets

High Technology Engineering
Across the Micro Universe
Pride of Serious Digital Poets

COM ニッコール 37mm F1.4

デジタル詩人のレンズ

いきなり「プライド・オブ・シリアス・デジタルポイト」などと若気の至りで漢詩を吟じてしまったが、 デジタル詩人のレンズといえば COM ニッコール 37mm F1.4 だろう。 あるいは COM ニッコール 37mm F1.4 そのものがデジタル詩人と言ってもよい。 そもそもニッコールレンズの中で唯一の、コンピューターの名前を冠したレンズなのだから。

冒頭からいきなりやや無理のある展開ではあるが、 本サイトではよくあることなのでご理解いただきたい。

COM ニッコール 37mm F1.4 と森の音

コンピューターの名前を冠した責任感の強いレンズではあるが、 たまには何も考えずに散策だとひっそり静かな森に入ってみると、 いいかんじに景色に溶け込んでいるのがわかる。 ニコン純正の40.5mmフィルター「40.5NC」とレンズフード「HN-N102」 を装着した姿は意識高い系レンズそのものである。

液晶基板検査顕微鏡

古い話で恐縮ではあるが、2002年は夏の暮れのことである。 COMニッコール37mm F1.4の実力を思い知らされた。 知り合いのエンジニアから、液晶基板検査顕微鏡を見せてもらった。 ノートパソコンなどのLCDを検査するための工業用顕微鏡装置だ。 その装置は地方都市の研究室は涼しい部屋に静かに置かれていた。

研究室の COM ニッコール 37mm F1.4

ニコン製だとオプチフォト300Dなどが有名だ。 これに大型ステージを組み込み、高精細デジタルカメラとモニター、 画像解析システムが加わるとセットでかるく1000万円を超える代物となる。 高品質モニター画面に拡大されたLCD表面の映像は美しかった。

液晶基板検査顕微鏡
(撮影年は2002年9月)

驚愕の画像

そんな映像体験をしたあと、この世界の実践的な研究者である理学博士の小栗さんから、 ノートパソコンのLCD表面を撮影した画像が送られてきた。 彼のCOMニッコール37mm F1.4 とデジタルカメラのセットによる映像だ。 驚いた。COMニッコール37mm F1.4 の実力を思い知らされた。 彼がなにげなく撮影した画像であるが、私はこの画像を見たとき驚愕した。 まったく歪曲収差のない超拡大画像だった。 画像で見るとおり、タテ・ヨコともにまっすぐ、垂直・水平なのだ。 あの高額な装置の画像を思い出した。 比べてみても、解像力、像のしまり、そしてデストーション。どれも完璧だった。 手に収まるほどの小さな撮影セットが、あの巨大なシステムと互角の勝負なのだ。

この画像は2002年当時に当時の資源と環境下で撮影されたものである。 高画素機やらフルサイズ機とか何もない黎明期のデジタル写真環境なのである。 その点をご理解いただき見てほしい。

COMニッコール37mm F1.4によるノートパソコンのLCD表面の拡大撮影画像
Photo: Copyright (c) 2002, Dr. Kazumasa Oguri, All Rights Reserved.

基本性能がすべて

無機質なLCD表面の映像を掲載したのは、 現代のハイテクノロジーのデジタル詩人とくらべて、 遜色のないパワーを秘めていることを宣言したかったのだ。
テクニカルデータを見てみよう。

COM ニッコール 37mm F1.4

−焦点距離: 37.2mm
−最大絞り: F1.4
−最小絞り: F8
−レンズ構成: 6群8枚
−基準倍率: 1/8X
−標準使用倍率範囲: 1/7X - 1/10X
−画角: 20度45分
−色収差補正波長域: 400nm〜650nm
−口径蝕: 0% (f/2)
−歪曲収差: +0.07%
−画像サイズ: 15mm⌀
−原稿サイズ: 120mm⌀
−基準倍率における原稿から画像までの距離: 351mm
−フィルター径: 40.5mm P=0.5
−マウント: ライカL39スクリューマウント
−重量: 300g
−重量実測: 277.5g

−発売時期: 1970年代初頭
−当時の価格:
   113,000円(1974年 6月)
   113,000円(1976年 4月)
   113,000円(1977年12月)

数字で書くと、こうなる。 しかし、数字をよく見てほしい。歪曲収差は、+0.07% である。 あの伝説の名マクロレンズ、 高性能で定評のニコンSマウントのマイクロニッコール5cm F3.5ですら、 歪曲収差は0.3% なのだ。

COMニッコール37mm F1.4のレンズ構成図

COMニッコール37mm F1.4のレンズ構成図を示す。 ニューヨークの Nikon Inc. が発行した英語版のカタログ「Nikkor Lenses for Special Applications」 から転載させていただいた。

6群8枚の美しいレンズ構成。 寸法入りの図面からは、アタッチメントサイズ(フィルター径)が40.5mm P=0.5、 レンズマウントはポピュラーなライカL39スクリューマウントということが確認いただけるだろう。

レンズ構成図各部寸法入り

大型液晶基板検査顕微鏡の置かれていた研究室の外は、 研究なんかどうでもいいように晴れていて、カルガモの親子が遊ぶ大きな池があった。 ちょうどお昼休み時である。 レンズの歪曲収差の話もいいが、やはりカルガモの親子は見ていてなごむ。

カルガモの親子を見守るCOMニッコール37mm F1.4

涼しきロッコールグリーンのレンズ

時代は、1960年代後期から70年代初頭か。 COMニッコール37mm F1.4。 もともとCOMニッコールは、電子計算機から取り出される大量の情報を、 高速度で直接マイクロフィルムに記録するために当時開発されたレンズだ。 CRT(陰極線管)の蛍光面上に表示された情報を マイクロフィルムに縮小撮影するための大口径比、高解像力レンズである。

電子データを光学的にアナログ記録するという手法は、現代では考えられないが、 科学史、電子計算機史をさかのぼってみても、実用機の出現からたかだか50年の話であるから、 この世界の指数関数的な加速度には驚くしかない。 COM (Computer Output Microfilming) を冠したレンズは、 日本光学から以下の2種類がリリースされた。

- COM-Nikkor 37mm F1.4
- COM-Nikkor 88mm F2

35mmではなく37mm、85mmではなく88mmと、焦点距離が律儀に正確な細かい数字となっている。 55mmは35ミリ判用の明るい標準レンズで馴染みがあるが、88mmはあまり聞いたことがない。 ぞろ目焦点距離のレンズは珍しいのではないだろうか。

COMニッコール37mm F1.4のコーティングは涼しいみどり色。 冷たいみどり色なのだ。透明感のあるロッコールグリーンのコーティング。 レンズを風の通り道に置いて音を聞いてみた。 そういう気分がCOMニッコール37mm F1.4なのだ。

ロッコールグリーンのCOMニッコール37mm F1.4

送られてきたレンズ

「このレンズはユーが持っていた方がよい」と、米国から1本のレンズが送られて来た。 正確に言うと送り付けられて来たのである。 買った時の値段はこれこれなので、同じ額を送金してくれればいいからと、 親切なんだかよくわからないが、 送られて来たのはなんと製造シリアル番号が 00001 番のCOMニッコール37mm F1.4だった。

本サイトの「海外の読者様のコレクションギャラリー」にすでに掲載済みなので、 どなたのコレクションだったかはバレバレではあるが、 1番は1番なのでよいことにした。 というわけで、勝手に増えてしまった。 初期の頃のレンズには倍率表示の M=1/8 に赤いラッカーが入っていることがわかった。

右は製造シリアル番号が1番のCOMニッコール37mm F1.4

山道で元気なレンズと出会う

COMニッコール37mm F1.4は小さいレンズだが、パワーが凝縮されてぎっしり詰まっている感じがする。 黒と銀色のバランスが絶妙な頑丈な鏡胴の中に、6群8枚の高性能レンズが見える。 山道にレンズを置いてみた。なかなかの景色となっている。

ロッコールグリーンのコーティングはとてもクール

人の気配がない木漏れ日を通る風にレンズが涼しい

元気なレンズは人生を前向きにする

ニコン Z 写真帖

ニコン Z 6 にCOMニッコール37mm F1.4を装着した。 ニコンFマウント一眼レフの環境ではフランジバックが長いため無限遠が出せなかったが、 非常に短いフランジバックを有するフルサイズミラーレス機ニコン Z マシンの登場により、 接写のみならず、数メートル先の近距離撮影から数百メートルレンジの遠距離撮影も余裕で可能となった。

COM-Nikkor 37mm F1.4 and Nikon Z 6

ニコン Z 6 には市販の K&F CONCEPT製の L39 - Z マウントアダプターを装着。 カメラボディがL39ライカスクリューマウントになった。 もうこれで準備完了である。

Nikon Z 6 + L39 to Z + COM-Nikkor 37mm F1.4

上に示す画像のとおりレンズをピッチリとねじ込むとオーバーインフとなる。 ねじをゆるめてレンズを前に少し引き出すようにするとキッチリと無限遠が出る。 ヘリコイドのようにスムースにはいかないが、実用にはこれでじゅうぶん使える。 フルサイズでは四隅がケラレてしまう。 このレンズについてはすべてカメラをDXフォーマット(APS-Cサイズ)に設定して撮影した。

川景色

ミラー付きの一眼レフカメラで使っていた頃は接写の拡大撮影ばかりだったので、 レンズを順方向に装着して、いきなり無限遠が出た時は驚いた。 さくっと遠い川向うにレンズを向けた。 絞り開放F1.4の写りも絵が暴れてそれもそれでよいが、晴天下に開放絞りはないので、 ここは絞りF8でとおした。

旅行に優しい機材なのではないか。レンズは見ての通りコンパクト。 大きく重たいカメラに振り回されることなく、一日中歩き回れる。 撮影が気軽にたのしめるのがよい。

COM-Nikkor 37mm F1.4, ASA 200 F8 1/800 sec. +0.3

一般人たる人物が写っているとなにかと問題となる昨今であるけど、 小学生くらいの子が本格的カヌーを漕いで風を水を切っていたので、 写真記録してしまった。

COM-Nikkor 37mm F1.4, ASA 200 F8 1/1000 sec. -0 +0

すこしレンズに興味のある方ならば、ぱっと画像を見て、なんだ四隅が甘くて流れているじゃないかと思わることだろう。 しかしながら、ここは胃カメラでグランドキャニオンの壮大な風景か、天の川銀河の先を観測しているようなものなので、 そこは大人の嗜みとして大目に見ていただきたい。 なにせ撮影者は、遠くの雲にピントが合って写っただけで喜んでいるのであるから。

レンズと人情

樹木の葉や草のみどりが素直なみどり色の発色をする。 常磐緑、萌葱色、それに花緑青の成分も見て取れる。 乾いた風のかんじとか音、におい、そんなものが写っている。

COM-Nikkor 37mm F1.4 and Nikon Z 6

COM-Nikkor 37mm F1.4, ASA 800 F8 1/640 sec. -0.7

COM-Nikkor 37mm F1.4, ASA 800 F8 1/1600 sec. -0.3

COM-Nikkor 37mm F1.4, ASA 100 F8 1/125 sec. +0.3

とかくこのサイトでは、実写作例となると草木は葉っぱばかりが出てくる。 それもそこらに勝手に生えているような鑑賞の対象とならない植物ばかりだ。

私はなんとなくそんな生命体に惹かれるのである。私が葉っぱの写真を撮らなくて誰が撮る。 まあ、そこまでリキまなくてもいい話なので、 工業用ニッコールレンズでもこんな人情味のある描写をするということでご理解いただきたい。

紫陽花

製造シリアル番号が 00001 番のレンズである。 その世界ではコレクターズアイテムとして珍重されているが、フィールドでの撮影で実際に使ってみた。

COM-Nikkor 37mm F1.4 and Nikon Z 6

以下のお花のアップは3枚とも DXモードで撮影したJPEG撮って出しである。 四隅がかなり落ちている。 でもこの空間にはなじむ気がしたのでトリミングせずそのまま鑑賞することにした。 色彩の色温度感は肉眼で見た記憶そのままである。

COM-Nikkor 37mm F1.4, ASA 1600 F8 1/500 sec. -0.7

COM-Nikkor 37mm F1.4, ASA 1600 F8 1/400 sec. -0.3

紫陽花が自生しているようなまったく手入れをされていない場所でも花は咲く。 昼顔も「私を撮ってください」と控えめに顔を出した。野の花の撮影は会話が重要だ。

COM-Nikkor 37mm F1.4, ASA 1600 F8 1/500 sec. -0.3

COM-Nikkor 37mm F1.4 and Nikon Z 6

「元気なレンズは人生を前向きにする」と言われているがこれは事実だった。 COMニッコール37mm F1.4もまた出動する機会が増えた。

2021年のあとがき

このコンテンツのオリジナルは2002年9月当時に書いたものです。 2016年のサイト移転に伴う見直しで、新たに撮影した画像を加えました。 2018年の改訂ではレンズ構成図を追加し、2本目のレンズを入手した経緯を盛り込みました。 2019年には新規撮り下ろし画像3枚を冒頭部分に置き話の展開を直しました。

2020年の改版では「ニコン Z 写真帖」として Z 6 による実写作例を組み込みました。 ニコン一眼レフ(フィルム機、デジタル機ともに)では接写しかできませんでしたが、 ニコンゼットで映像表現の範囲が拡大し再び新しい試みにチャレンジしています。

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