Moriya-san's APO Nikkor and Deardorff 8X10

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デアドルフ8×10写真機にはアポニッコールが似合う
Photo: Copyright (C) 2002, Makoto Moriya, All Rights Reserved.

Big Professional Lens
Beautiful Landscape
View of Mountain High
APO Nikkor 760mm F11 Super Slow Lens
Come with Deardorff Precision View Camera 8X10 !!

デアドルフにはアポニッコールが似合う

神奈川県在住の写真家・守屋 真琴氏から興味深い画像が送られてきたので紹介したい。 守屋氏は大型写真機を使い、険しい山岳の光から日本の風景、 コマーシャルまでこなす重量級写真機を愛好する写真家だ。

氏が愛用する写真機は、泣く子もだまる写真機界のロールスロイス、 米国が世界に誇るデアドルフ8×10である。 レンズボードには、あの巨大なアポニッコール760mm F11がマウントされている。 "ディアドルフ"とか"デュアドルフ"と表記している書籍もある(こちらのほうが圧倒的に多いが)。 が、ここはひとつ、当時の輸入元であったハネダ貿易株式会社の発行した 1974年版豪華カタログの正式な表記で"デアドルフ"としたい。

デアドルフ症候群

世界で最も美しい写真機、 あるいは世界で最もシンプルな写真機との形容を聞くことがある。 入念に吟味されたマホガニー材と頑丈な金属パーツで組み上げられている。 木材のニス塗りはストラディバリウスのそれに似て重厚かつ華やかであり、 金属パーツの仕上がりは古い甲冑の彫金加工を思わせる。 さらに本革製のジャバラは、伸ばしてもたわみの出ない優れた機構で 舶来モノの威厳をかんじさせる。

しかしいくら木製の写真機でも、 デアドルフ8×10は本体のみで5.7Kgとかなりの重量となる。 8×10をスタジオで使う写真家はまだいるが、風景写真となると、 屋外へ持ち出しての撮影となり躊躇することだろう。 それをあえて守屋氏は、山岳写真で自由に使っている。

氏が愛用のデアドルフは、金属パーツが黄色がかったスチール製であることから、 シカゴ時代の隆盛時の作といわれている。 デアドルフを語ると、 これだけでひとつのウェブサイトが出来てしまうほどの魅力と魔力、 それに底知れぬ馬力と美術品としても鑑賞にたえる風景を持つという。 デアドルフに大型のAPOニッコールを装着する苦労も、 武勇伝になってしまうから始末がわるい。 それでも話を聞きたいのは、こわいもの見たさなのか。

ジナー大型シャッター

大型のアポニッコールは、コパル社製の一番大きい3番シャッターでも入らない。 3番より大きい、米国の古いILEXやUNIVERSALの5番でも足りない。 そこで登場するのが、ジナー社製の大型シャッター(Sinar Copal Mechanical Behind Shutter)だ。 高価である点は目をつぶるとしよう。 ジナーレンズボードを6インチボードサイズのデアドルフに搭載するには、 変換アダプタを使用している。 重量級の荘厳なレンズもこれで頑強にマウントできる。

なお、さらに大きい歴史的大口径ポートレートレンズなどを使っている人は、 苦労して超大型のソルントン・シャッターや グラフレックスの5×7フォーカルプレーン・シャッターを調達してきて、 改造して使っているのだ。
「いやあ、苦労しました (^^;」 と、嬉しそうに言われると、この世界もかなりストイックなことに気がつく。

大きなレンズフード

レンズ前玉が全面に出ているので、超シャープな絵作りをするためにも大型のレンズフードは必須だ。 特注の超大型フードを着けてもらって、APOニッコールがごきげんなのがよくわかる。

アポニッコールの大きなレンズフード
Photo: Copyright (C) 2002, Makoto Moriya, All Rights Reserved.

超精密な山岳写真

行けるところまで車で運び、そしてデアドルフを担いで、 大型の三脚も山を歩き、絶景のポイントで写真機の据付がはじまる。 目には天然の絶対光線があふれている。 天然色の光線をフィルムに焼き付けるのは、アポニッコール760mm F11の仕事だ。

朝焼けに染まる連峰、雲海と天界の境を流れる清涼なジエツト気流、 頂を超えてなおそびえる遠い四季。 守屋氏のオールド・デアドルフ写真機は、 アポニッコール760mm F11とジナー社製大型シャッターの力を得て、 このとき写真装置になる。

超精密な8×10山岳写真にはこのレンズしかない。 当時の日本光学が発行した専門家向けの文献では、写真製版のみならず、 超精密描写を必要とする一般の写真撮影にも最適と説明されている。 ただしスタジオ撮影を想定しているようで、 こういった大型装置を山に据えることは考えていなかったのかもしれない。

アポニッコール作法

このクラスのレンズを実際の撮影で使うとなると、そうとうの技術と知識、それに根性が必要だ。 暗い、重い、高い。 そんな三拍子揃ったレンズが嬉しいという方には、絶対におすすめである。 アポニッコール760mm F11の性能をみてみよう。

−焦点距離: 762mm
−最小絞り: F128
−レンズ構成: 4群4枚
−基準倍率: 1X
−画角: 42度
−フィルター径: 105mm ピッチ0.75
−色収差補正波長域: 380nm〜750nm
−画像サイズ: 1170mm⌀
−原稿サイズ: 1170mm⌀
−基準倍率における原稿から画像までの距離: 3040mm
−重量: 1280g
−当時の価格: 110,000円(1969年1月)
−当時の価格: 145,000円(1974年6月)
−当時の価格: 150,300円(1977年12月)
−当時の価格: 172,900円(1987年1月)

当時の価格の遷移が興味深い。 もともと高価なレンズであった。 オイルショックなどの当時の世界経済の混乱にあわせて、 価格が改訂(実際には値上げ)されていった。 それも鋭意努力したけれど、なんともここまでは値上げせざるを得ないとの気持ちが、 端数の300円はては900円に表れている。 スーパーの値付けのように安易に端数を980円にしていないところが真面目である。

美しいレンズ

晩秋の休息。屋久杉緑の木の葉はやさしい。 空気のきれいなところでは、単層のパープルコーティングが独特のかがやきを放つ。 アポクロマートのレンズだ。 美しいレンズは、美しい写真機で使ってあげたい。 それで美しい情景が写れば、もう言うことないではないか。

Special Thanks to Mr. Moriya
守屋さん、ありがとうございました。

パープルコーティングが美しいアポニッコール760mm F11
Photo: Copyright (C) 2002, Makoto Moriya, All Rights Reserved.

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機材および写真協力:守屋 真琴 (Makoto MORIYA)

2020年のあとがき

このコンテンツのオリジナルは2002年11月に公開したものです。 2016年の見直しにあたり、画像は無理な縮小をしないように再調整しました。 文章は2002年当時の、そのままにしてあります。 2018年の見直しでは、文章の段組みを改善し読みやすくしました。 また、当時の価格の遷移が興味深く、価格表より情報を集め考察してみました。

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