発光ダイオードをウルトラマイクロニッコール28mm F1.7eで撮影
● 究極の選択 作例写真を本サイトの読者の方から入手した。 ウェブでの公開を了承いただいたので紹介したい。 これらの作例は、珍しいウルトラマイクロニッコール28mm F1.7eを、 デジタルカメラにマウントして撮影した画像だ。 被写体は、米つぶほどのLED(発光ダイオード)である。 うすいみどり色に輝くLEDを真上から撮影した、非常に学術的にも珍しい写真に仕上がっている。 撮影者である小栗さんは、堆積学が専門の地球科学系の研究者(理学博士)であるが、 必要に迫って高性能なマクロレンズを探していたという。 国産はむろん高価な海外製まで検討したそうだが、 結局ハイエンドなマクロ撮影ができることで注目したのがウルトラマイクロニッコールレンズだ。 すでに、製造は販売を終了してから30年以上経過している。 しかし、彼の必要なものを引き寄せる力は強力で、 米国の光学分析機器代理店から交渉の上個人輸入した1本なのである。
Ultra Micro Nikkor 28mm F1.7e ウルトラマイクロニッコール28mm F1.7e
−焦点距離: 28.7mm ● 発揮された超高性能 ウルトラマイクロニッコール28mm F1.7eの性能について、 小栗さんから問い合わせを受けたのがきっかけで、 おつきあいをさせていただいている。 彼のおかげで、紹介していただいた米国の光学分析機器代理店から、 残っていた最後の2本のうちの1本を入手することができた。 「もう1本もすでに米国内向けに予約済みだけど、2つのレンズ番号のうち、 好きな番号を選んでOKだよ」とディラーに言われた。 有名な赤い澄みきったレンズである。 番号の若い方を選んだ。意味はない。 小栗さんは、海(湖)底に降り積もったものが地層になる過程をトレースする研究をされている。 湖底堆積物の断面をクローズアップ撮影する必要性から、 ご自分でデジタルカメラにウルトラマイクロニッコール28mm F1.7e をセットした撮影装置を組み上げたのだ。 テスト撮影ということで、身の回りにある電子部品を撮影したわけだ。 仕上がりは、ごらんのとおりである。 高輝度の被写体も、きりりと映像を引きしめている。 バックのボケが美しいとか、そういった次元の話ではなく、 記録したい科学事象を的確に捉えているところが完成したレンズの証明である。 LEDのダイオードチップから飛び出す電子の動きとか、 ミニマグライトのハロゲンランプのフィラメントから蒸発する原子核が、 はっきりと映し出されているではないか。
ミニマグライトの電球部分をウルトラマイクロニッコール28mm F1.7eで撮影
● 撮影テクニック ここで掲載した2枚の作例画像の撮影データは、以下のとおりだ。
カメラ: Nikon COOLPIX 5000 カメラにウルトラマイクロニッコール28mm F1.7eをマウントするためにUMNアタッチメントを使っている。 これは、ワイドコンバージョンレンズアダプター頭部にライカM-L変換リングをねじ込み、 さらに40.5mmリバースリングを付けたものである。
LED の画像 → 撮影倍率 : デジカメ表示で2.2倍、遠景モード、AE ● よみがえる科学技術写真の花 科学技術写真は芸術写真であると、よく言われる。 みえない事象がみえることが幸福と仮定するならば、 みるというオペレーションに立ち会えることはすばらしい。 地球さえもウルトラマイクロニッコールでみる研究者の出現を、 日本光学は予測もしなかっただろう。 今は世間から忘れ去られてしまった往年のスーパーレンズも、 ここへ来て、男を上げていることが私は自分のことのようにうれしい。 伊達や酔狂。そう、これがなくては、おもしろくない。 英訳すると、Samurai Pride and Dreaming だ。 意味は通じないほうがよい。意味がなければもっと美しいが。 なんとも美しい光だ。 ● 総天然色な科学写真
レンズばかりの画像を掲載していると、読者の方から、 ここでは作例を中心に、実際にこの世界のレンズの写りを見ていただこう。 撮影にあたっては、これらのレンズを学術論文などの科学写真用に、 じっさいに研究で使われている小栗さんの協力をいただいた。 作例は、あの、スパーレコーディングレンズ COM-Nikkor 37mm F1.4 だ。 私は小栗さんから送られてきた画像を見て驚愕した。 約660KBのサイズではあるが、今までみたことのない精細な、 そしてどこまでもニュートラルな発色の画像だった。
オシロイバナをCOMニッコール37mm F1.4で撮影
上の写真は、白粉花(オシロイバナ)の姿だ。 英語で Four O'clock という。学名は Mirabilis jalapa 。 ひじょうに香りのある描写である。 どこまでも清楚で、そして科学者の目をとらえた魅力を封じ込めている点はすごい。 彼からこの画像が届いたとき、驚愕するばかりでなく、 ディスプレイにフルサイズで写した「花」をみて、私は爽やかな感動を覚えた。 COM-Nikkor 37mm F1.4 は、生まれてこのかた、 ブラウン管表示装置でパルスを描く光軌を眺め続けていた。 それが仕事とはいえ、季節のない、あまり感動もない無機質な高速物理現象だつた。 それが、持ち主が、環境が変わるとどうだ。 オグリは、日曜日にこのレンズを手に、 COM-Nikkor 37mm F1.4の可能性をさぐるフィールドリサーチを敢行したのだ。 美しい天然色で清涼な花弁が写れば、レンズは花に昇華する。 だれがこの COM-Nikkor 37mm F1.4 で、ネイチャーフォトを想像しただろうか。
COM Nikkor 37mm F1.4 COMニッコール37mm F1.4
−焦点距離: 37.2mm ● ねこじゃらしの科学 下の写真は、拡大しすぎて、何かよく分からないかもしれない。 エノコログサの表情である。 ねこじゃらしという言い方のが、一般的なのかもしれない。 狗尾草とも書く。英語だと、Foxtail、Bristle Grassというらしい。 学名だとSetaria viridisとか。でもやはり、ねこじゃらしがなじむ。 あの穂先のような部分に極超接近して、はじめて理解できた生命が写っている。 すでに解説している通り、 COM-Nikkor 37mm F1.4 はロッコールグリーンのコーテングが凛々しい、超高性能レンズである。 みどりのみずみずしい描写は、とくいとするところだ。 もちろん一眼レフ用マクロレンズ、ニコンだったらマイクロニッコールを使えば、 かなりの性能を引き出せるだろう。 しかし、かなりの性能の、さらにはスレッショルド(閾値)を超えることを望む方もいるはずだ。 超えるための手段としては、ウルトラマイクロニッコールや、 COMニッコールなどの極超高解像力レンズ群に登場願うしかないのだ。 ねこじゃらしのヒゲの1本1本の造形と、種子の光沢をみてほしい。 この描写まで踏み込めるレンズとなると、民生用レンズでは探すのが困難だ。 レンズを選ぶことは思想であるが、思想だけでは自然は写らない。 小栗さんは小さな花と会話できる能力を持ち、 レンズを向けた瞬間に花も波動したことを私は確信する。 花、すなわち生き物は、生き物しにか反応しないものだ。 博物学は伝説の収集だが、 フィールドリサーチは高速フーリェ変換を超えた、事象と現実との対峙となる。
Special Thank you to Dr. Oguri
ねこじゃらしをCOMニッコール37mm F1.4で撮影
−−−−−−−−−−−− ● 2020年のあとがき このコンテンツのオリジナルは2002年9月に公開したものです。 本記事前半のウルトラマイクロニッコール28mm F1.7eの話題と、 後半のCOMニッコール37mm F1.4の話題をそれぞれ個別の記事で分けて掲載していました。 2020年に2本の記事を統合して一本化しました。 小栗さんの研究対象は現在ではさらに深いところに行ってしまい、 そのご活躍ぶりはNHKの科学番組などでご承知のとおりです。 本記事は撮影機材などあくまで2002年当時の様子ということでご理解いただき、 内容はそのままにしてあります。
Copyright Michio Akiyama, Tokyo Japan 2002, 2020
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