Tokyo Meeting Program
Nikon Kenkyukai Tokyo Meeting Grand Vintage NIKKO Super Deep Saturday ● ゲルマニウム・ニッコール
ホワイトボードに5月21日のプログラムが書かれている。
こんかいのミーティングのコンセプトは、スーパー・ディープ。
とにかくマニヤな話をしようということらしい。
赤外線カメラ専用のニッコール・レンズなんです
ゲルマニウム・ニッコールと聞いて、「ああ、あれね」とか、「それ持ってる」
という方は、スーパー・ディープの末期症状かもしれません。
そしたら、まさかの連絡が2011年の4月の終りにありました。
東京は葛飾区の長澤鷹行様から
「ゲルマニウム・ニッコールレンズ持っている」との連絡が入り、
話の勢いで寄贈していただけることとなり、5月例会の直前に届いたのが、
ニッコール27mm F1.2。
各種焦点距離のレンズを揃えていたとはエライ
ただものではない妖気を放つのはゲルマニウム温泉効果なのだろうか ● 龍さんのプレスコーナー 小秋元龍プロのプレゼンは、 まずは古い映画に見る地震の表現映像の検証から始まりました。 スクリーンに投影されたのは、米国映画に登場する地震のシーン。 東北大震災からわずかな時間しか経過していませんが、 タイムリーなニュースソースを中心に興味深い解説が続々と出てきます。
東北大震災におけるプレスの活動から映画に見る地震の映像表現
英国ウィリアム王子の結婚式を取材するプレスの作法を検証する小秋元プロ
取り出されたのはプレスカメラの定番だったスピグラ(クラウン・グラフィック4×5)
昭和のプレスはスピグラなのだ(左のイケメンは小秋元プロ)
”縦位置”のこの構え方閃光電球のグリップは右手で保持(1957年) 上の写真を見てください。写真機は横位置ではないかと思う方もいるでしょう。 この点を小秋元プロに解説していただきました。
「昭和32年秋、
小生がスピグラ(正確にはスピードグラフィックから
フォーカルプレーン・シャッターを省いた
クラウン・グラフィック4×5インチ)
を構えている写真は「横位置」ではなく「縦位置」の構えです。
上になっている右手の親指で
フラッシュガン背面に付いているレリーズボタンを押すのです。
歩いてくる被写体の人物を
縦位置全身で撮影するプレスカメラマン独特の構え方です。
距離を目測で8フィートに固定して、
枠型ファインダーで人物がいっぱいに収まるところで
シャッターを切ればピントは合っています。」
プレスの男たちを見よ(昭和29年12月10日第一次鳩山一郎内閣成立)
日航スチュワーデスとソニートランジスタラジオTR-63(1957年)
航空マニヤの方だったら、尾翼に鶴丸マークがまだない時代を語るでしょう。 そう、この歴史的写真を当時撮影したのが小秋元プロなのです。 機材はスピグラ。場所は羽田空港。 平和な大空の象徴である尾翼を背景に、光る閃光電球。 一発勝負の写真のキレは、いまでも新鮮に時代の空気を再現しています。 ● ニコン工作機械関連の話
ニコンF研究家の鈴木昭彦氏が紹介するのは、
ニコンの工作機械関連製品の話題です。
ユニークな機器類を説明する鈴木昭彦氏
手前の石定盤に組み込んであるのは1/1000mmを測定できるニコンシックネスゲージ
1/1000シックネスゲージの表示部分、現在測定中のシム寸法9/100mmを表示
ニコンF用スクリーン調整用シムセット(1/100mm違いで用意してある)
フライス用芯だし顕微鏡(希少なストレートシャンク32mm仕様) ● 藤井レンズ製造所のモノビクトル 藤井レンズ製造所のモノビクトルほか、珍しい小型ヴィンテージものを見てみましょう。 猫洞さんのディープな解説が聞き物です。
希少な藤井レンズ製造所のモノビクトルを説明する猫洞さん
コレクションとしても楽しく美しい小型ヴィンテージもの
左のオリオン型と比べるとさらに小さい藤井のモノビクトル
日光オリオン型モノキュラー Orion 6X24
美しい藤井レンズ製造所時代のモノビクトル "VICTOR" No.6 X6
● 長崎チョーコー醤油の研究
さて、プログラムはさらなるスーパー・ディープの世界に突入します。
九州には独自の醤油文化があります。
あの甘い醤油は、九州の海の魚や豚に大変よく合います。
その中で長崎県のチョーコー醤油は、長崎っ子なら知らない人がいない有名ブランドです。
ニコン研究会の寺田が、1年ほど前にこの双眼望遠鏡の姿を
「なぜ?この双眼鏡がここに?」という記事で発見し、
チョーコー醤油様にレストアと研究のための借用を依頼したところ、
二つ返事で快諾され、東京支社まで届けて下さいました。 その後半年を掛けて分解が完了、現在ほぼ塗装が仕上がりました。 この組み立て前のまたとない機会に ニコン研究会一同で研究しようというのが今回の趣向です。 そんな経緯でここにチョーコー醤油様所蔵の双眼望遠鏡があるのです。
さてどこから説明しましようかと頭に手をやる寺田茂樹氏
徹底的に分解された各部
Nikko製架台(再塗装済み) 後ろに水平方位目盛環 従来の塗装を剥離して調べたところ、双眼鏡の銘板が出てきました。 榎本光学精機製作所製 15倍4度 10糎70度 高角双眼望遠鏡 製造番号2011です。 多分昭和17年(1942年)製です。 ですが、架台の方は何と、日本光学工業株式会社製 No.3925です。 多分昭和14年(1939年)製です。 もとの基本設計が日本光学の手になるもので、かつ、それなりに互換性が確保されていたため、 こういう入れ替えや融通は当時よくあったようです。
オリジナル状態の銘板(榎本光学精機製作所製)
銘板は榎本光学だが架台は日本光学製
対物レンズまわりの主要パーツ
写真左から対物鏡押さえねじリング、エキセンリング、 対物鏡とエキセン付対物鏡セル、引出し式フード、対物鏡部外筒です。
精巧な設計による目幅調整機構まわり
本体、目幅調整機構カバー、70度Roofプリズムケース、目幅調整軸受けリング、
Rhomboidプリズムケース、接眼鏡ケース、接眼鏡セルです。
接眼部まわりの重要パーツ 続いて接眼鏡目側レンズ、視度調整環、目当てゴムホルダです。 接眼鏡は日本光学 砂山角野氏特許の60度広角接眼鏡です。
美しい70度RoofプリズムとRhomboidプリズム よく見ると、Roofプリズムには2011左と2011右との鉛筆書きが見えます。
フルレストアの進行状況を説明する寺田茂樹氏 部品点数は約100点
塗装とそれについて類推できることについてひと言。
この国防色は錆びて引き出せなくなっていた対物フードの下、
外筒の上にきれいに残っていました。
今回はそのような経過に敬意を表し、
それにできるだけ丁寧に色合わせ、つや合わせをして塗装しました。
ずらり並んだ精密パーツの全貌 ● 英国で蘇ったNIKKO対空高角望遠鏡
古式大型双眼望遠鏡の世界で、
スーパー・ディープの先頭にいる林由己和氏。 ニコン研究会は、この世界で有名な林由己和氏においでいただき、 英国でフルレストアを敢行された NIKKO対空高角望遠鏡の現物などを見せていただきながらお話を伺いました。 以下に続くコレクションの説明については、林由己和氏の解説でまとめたいと思います。
林由己和氏を取り囲むニコン研究会メンバー
最初はベリー・オールド・ヴィンテージ小型双眼鏡の紹介です
Carl Zeiss Jena D.R.P. Feldstecher Vergr.=12 明治三十年(1897年)製 プリズム双眼鏡が製造(1893-4)されてから数年目の製品で、 カーブ型の美しいプリズムカバーに花文字が刻まれているのが特徴。
Carl Zeiss Jena 6x24 TELEX 大正十一年(1922年)製 現在のポロ型双眼鏡の原形となった機種の一つではないかと思います。
Carl Zeiss Jena 8x24 DELTURIS FOV:8.75°昭和元年(1925年)製 ZeissのDr. Heinrich Erfleが開発したエルフレ接眼部が採用され広角視野が得られている。
有名な日本海海戦における東城鉦太郎作画の「三笠艦橋の図」を示す林氏 「三笠艦橋の図」はネットで検索して原図を見ていただくとして、 中央に長官の東郷平八郎大将(後に元帥海軍大将)、 その後ろに測距儀(レンジファインダー)を覗く 測的係長谷川清少尉候補生(後に海軍大将)が描かれています。 その長谷川清少尉候補生が覗いていた測距儀 (ほぼ同じ時代のモデル)が次の写真です。
英国バーアンドストラウド社の測距儀 大正七年(1918年)製 英国バーアンドストラウド(Barr & Stroud)社の測距儀は 日本海海戦(1905年)で バルチック艦隊に勝利した戦艦三笠の艦橋に搭載されていました。 文献によるとその後日本光学で修理をしていたとのことで、 バーアンドストラウド社(現在のタレス社)の光学技術分野では、 100年を越えた今でも日本と緊密な関係にあります。 写真は10数年後の製品ですが、 WWIで英国海軍の艦船にも搭載されていたものです。 Nikko対空双眼鏡 15x 4度 105mm 俯視角60度
第二次世界大戦の大日本帝国海軍艦船対空監視用として使用されていた製品。 (注)2010年10月例会の資料は、ニコン研究会の 2010年10月レポート から参照可能です。
圧倒的な存在感を示すNikko対空双眼鏡 威風堂々として存在感があります。 レーダーなどの探知装置が普及するまでは双眼鏡の性能が勝敗に大きく影響したと考えますので、 性能を上げる技術に全力を注いでいたのでしょうね。
Nikko対空双眼鏡について解説する林由己和氏 対物レンズの美しさに注目
トニー・ケイ氏は英国を代表する
オールド・ヴィンテージ双眼鏡の修復家ですが、
ヨーロッパ圏ではもう彼しか残っていない状況です。
英国で私が撮影したトニー・ケイ氏の写真をみていただきましょう。
The two volumes are called 'Turbojet' by Antony L. Kay, published by
Crowood Publications, being the early world-wide history of the turbojet.
Volume 2 has a section on the Japanese history.
世界的なオールド・ヴィンテージ双眼鏡の修復家トニー・ケイ氏
オールドNikko対空双眼鏡を鑑定する寺田茂樹氏
英国のプロ修復家トニー・ケイ氏の手によるオールド・ニッコーの風格
この世界のスーパー・ディープな専門家が四名揃い踏み ● スーパー・ディープ・ミーティングを終えて
ゲルマニウム・ニッコールから始まり、
ニコン工作機械関連の話、
小秋元龍プロによるスピグラの時代の考察、
藤井レンズ製造所のモノビクトルから
長崎チョーコー醤油の研究のレポート、
そして、
英国で蘇ったNIKKO対空高角望遠鏡の貴重な報告で終わる
スーパー・ディープなミーティングでした。
スピグラをセットアップする小秋元プロ
参加者全員での記念写真
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