Ultra Micro Nikkor 165mm the Emperor of the Lens

Ultra Micro Nikkor 165mm the Emperor of the Lens

The Emperor of the Lens
Imperial Ultra Micro Nikkor 165mm F4
Super Power Optical Engine

日本を溯る意匠

銀河は三千世界に光を放つ姿に似て、花を時空を超える風。
千里万里も海に虹を見て晴れの月。縞唐花菱紋。

正倉院は日本を代表するデーターセンター・アドバンスト・ストレージだ。
レンズはお道具だから、背景とか景色には気を使わないといけない。
鏡玉を包むには平安時代の古代布を使いたい。
オリジナルは正倉院宝物であるから、レプリカを購入した。
縞唐花菱紋(しまからはなひしもん)は、 正倉院に伝わる夾纈(きょうけち)染めの幡(ばん)に使われている文様である。 美しく染め出された数色の縞に、 菱形状の唐花、四方には小花を展開した豪華さと洗練された風情を漂わせる裂だ。
草木染めか日本を溯る意匠は東洋であり、 背景にふさわしいレンズを探し求めていると 米国はシカゴのロバート・ロットローニから大きなパッケージが届いた。
USPS航空便の大きく重たい梱包はハードではあったが、どしりとしたレンズがこちらを見た。
ウルトラマイクロニッコール165mm F4だった。2003年2月のことだ。

シカゴから届いた大きなUSPS航空便

最後の皇帝

1960年代初頭、ウルトラマイクロニッコールは市場に稲妻のように登場した極超高解像度レンズだった。 各方面で活躍し、だれも見ていないところで地味な実績を残した。
1970年代後半にはそのレンズ単体での役割を終え、ステッパーにバトンを渡した。
ひとつの時代の終焉を迎えた。
その最後期に登場したのが、最後の皇帝、ウルトラマイクロニッコール165mm F4だった。
ウルトラマイクロニッコールは、後期モデルほど数が少ないという特徴がある。
そして長焦点レンズほど数が少ない。
概数すらも判明していないが、おそらく製造本数も少なかったのだろう。
均整のとれた姿の美しいレンズだけに、このレンズを探しているマニヤは世界中にいる。
お金を出せば手に入る世界もあるが、そうでない世界もあるからおもしろい。

日本の風景になじむ極超高解像度レンズ

コレクターズノート

このレンズには、ユニークな特徴がある。
ウルトラマイクロニッコール・シリーズの中で、 唯一専用のコンバージョンレンズが用意されているのだ。 1群2枚の構成ながら、重厚なハウジングにガラスブロックが詰まっている。
その外装には、精緻な筆跡で刻印が彫刻されている。
レンズ鏡胴の塗装は落ち着いたツヤを抑えた黒色塗装だ。 コンバージョンレンズはいくぶんツヤを感じるジャパン調の漆黒塗装である。 塗装の仕様はあきらかに異なる。
入手を検討されている方は、 このコンバージョンレンズとセットで入手されることを薦める。

コンバージョンレンズはねじ込んで装着する。
オリジナルの状態だと、レンズ単体の基準倍率は1/40Xとなる。 コンバージョンレンズをねじ込むと、基準倍率は1/20Xのレンズとなる。 とても合理的にできている。
このコンバージョンレンズの工作精度はすごい。
精緻に仕上げられたねじマウント。砲金製の重たい輝きが美しい。
ねじ込むと空気を圧縮するようにすうっと音もなく廻り、 ッシュウゥ・・とごく小さくピタリと止まる。
兵器ではないのだから、ここまで金属加工技術に凝らなくてよいのに、 ねじ切り旋盤を操作した技術者の秘めた心意気なのだろう。
製造から30数年。その仕事に感動する。

精緻に仕上げられたレンズ本体とコンバージョンレンズ

レンズ本体にコンバージョンレンズがセットで一式

テクニカルデータ

ウルトラマイクロニッコール165mm F4 のほんらいの目的は、 逐次撮影法によるICフォトマスクの製作に必要な中間原版の作成、 もしくは、原図から直接フォトマスクの作成をするためのレンズである。
用途は、同種の135mm F4、あるいは155mm F4 と同じだが、 画像サイズが大きいのが特徴となっている。
ウルトラマイクロニッコール165mm F4の超弩級な性能をみてみよう。
もちろんデータは、当時の日本光学が企業や大学など研究機関向けに発行した資料による。

レンズ単体の仕様

−焦点距離: 167.8mm
−最小絞り: F11
−レンズ構成: 4群7枚
−基準倍率: 1/40X
−色収差補正波長域: 546.1nm (e-line)
−歪曲収差: +0.02% (56mmφ), -0.03% (80mmφ)
−解像力: 350本/mm (F4), 200本/mm (F5.6)
−画像サイズ: 56mmφ (F4), 80mmφ (F5.6)
−原稿サイズ: 2,240mmφ (F4), 3,200mmφ (F5.6)
−基準倍率における原稿から画像までの距離: 7,002mm
−重量: 1,830g

コンバージョンレンズ付きの仕様

−焦点距離: 169.1mm
−最小絞り: F11
−レンズ構成: 5群9枚
−基準倍率: 1/20X
−色収差補正波長域: 546.1nm (e-line)
−歪曲収差: +0.04% (56mmφ), -0.01% (80mmφ)
−解像力: 350本/mm (F4), 200本/mm (F5.6)
−画像サイズ: 56mmφ (F4), 80mmφ (F5.6)
−原稿サイズ: 1,120mmφ (F4), 1,600mmφ (F5.6)
−基準倍率における原稿から画像までの距離: 3,678mm
−重量: 2,200g

清涼な山の空気を投影する神々しいハイエンドレンズ

初期型と後期型

発売当初の1970年12月版のセールスマニュアルを見ると、 この専用コンバージョンレンズが装着されていない写真が掲載されている。
また、初期のレンズの収納木箱は、 コンバージョンレンズを外した状態、 つまりレンズ単体で収納できるように設計されている。
このことから、初期型のウルトラマイクロニッコール165mm F4は、 レンズ単体で販売されていたと推測する。初期型の製造番号は、No. 1500XXである。

後期型は、コンバージョンレンズとセットになって販売された。
1973年6月版のセールスマニュアルでは、コンバージョンレンズを装着した ウルトラマイクロニッコール165mm F4が掲載されている。後期型の製造番号は、No. 1600XXである。
どちらも数十本程度しか製造されなかったと思える。

性能面で見てみよう。
初期型の基準倍率は1/40Xだ。 原図を1.6メートルないし2.2メートル角まで大きくとれる。
基準倍率が1/40X、つまり縮小率が大きいということは、原図が大きくてもよいことになる。
原図が大きいということは、原図に要求される精度がゆるめられる。
複雑、微細化したパターンが容易にかつ正確に作れるというメリットがあり、 できあがる原板の精度も高い。

しかし、従来の装置のレンズだけを交換して、 より高性能な使い方をしたいという要求が出たのだろう。 後期型は、コンバージョンレンズを装着することで基準倍率1/20Xとなり、 作動距離が135mm F4とほぼ同じになる。
レンズのみを交換し、装置は継続して使用可能としたことを、 当時はセールスポイントとしていたことがうかがえる。

製造本数は2桁台と思われる希少レンズ

ネジマウントに広がる撮影フィールド

大型レンズだけに、35ミリ一眼レフだけで使うのも役者を活かせない。
ここはスウェーデンの銘機ハッセルブラドにセットして、自然界で活躍してもらいたい。
165ミリ超マクロレンズだから、高山植物の生態系から、 森林に眠る木の葉に光線、南極は永久に冷たい氷雪の、 炎天下に赤いスイカの表面観測写真もよいと思う。
その前に、レンズ取付け用のアダプタが必要である。
82mm P=1.0のネジマウントだから、しかるべきプロにまかせればマウント加工は可能だ(注)。
どんなカメラに取り付けるか、そういう悩みは悩みのうちにはいらない。

(注)
その後この記事を書いた2年後の2006年に、専用のニコンFマウントアダプター(82mmφ、P=1)を特注し、 ニコン一眼レフによる撮影を実現した。

レンズの皇帝

皇帝のレンズなのか、レンズの皇帝なのか。
大型ウルトラマイクロニッコールは、その存在感で、あたりを圧倒する。
重量級レンズにありがちな、ただ大きいだけというのでもない。
レンズのコーティングを見ればわかるが、華がある。
ほとんど手作りに近い砲金の鏡胴。エレガントな漆黒塗装。精緻な彫刻文字。
オーバースペックなコンバージョンレンズとのバランス。
そして、優雅な姿。最後の皇帝だとしたら、それはそれで説明がつく。

岡倉天心とフェノロサが夢殿に足を踏み入れた時、 封印された千四百年の時空を超えて現れたのは救世観音だつた。
そのとき正倉院には、ウルトラマイクロニッコール165mm F4 が収められていたことを知る者はいない。 それがじじつかどうかは、 デービッド・ドイチュの量子コンピュータを超並列結合しなくても考えられる話であって、 宇宙の時間概念からすれば、それはまばたきのような誤差の範囲なのだから。 ムーアの法則が終焉を迎えたとしても、レンズの皇帝、 ウルトラマイクロニッコール165mm F4 を凌駕するレンズは現れないだろう。

レンズの皇帝ウルトラマイクロニッコール165mm F4

秋空天空に直立する無骨弩級の存在ウルトラマイクロニッコール165mm F4

2016年の追記

ここまでのコンテンツは2004年1月当時のものです。
レンズを入手した経緯など書いていますが、 当時の感動を再確認するために、そのままにしておきました。
2016年の見直しにあたり、その後に撮りためた画像を少し追加しました。
さらに2006年以降には、専用のニコンFマウントアダプターを特注して、 ニコン一眼レフによる実写も試みてみました。 以下にその様子をレポートします。

ウルトラマイクロニッコール165mm F4専用のアダプターの開発

2006年に専用のニコンFマウントアダプターが完成した。
82ミリ(ピッチ1ミリ)のネジマウントという、 使用できるレンズの範囲が極めて限定された、 ほんとに限定版のニコンFマウントアダプターとなった。
アダプターは航空エアロパーツ用最高級ジュラルミンをブロックから削り出し。 高度なスパイラル旋盤加工で軽量化と強度増加を狙った。

専用の特注ニコンFマウントアダプター(82mmφ、P=1) 2006年

カメラとのマウント接続部分

頑強なFマウントで正確に装着

重量級レンズでも安定したニコンベローズPB-4はさすが

ウルトラマイクロニッコール165mm F4による実写

UMN135mm F4やUMN155mm F4と同様に、無限遠での撮影も、数百メートルレンジの遠距離にも強い。 特にこのレンズUMN165mm F4は、 遠距離も無限遠に近似といえる成層圏を飛行する飛翔体の撮影にも適する。実際に撮影して確認した。 ロケットのトラッキングシステムに搭載するレンズにも似合うと思うが、これは試していない。
露出をすこし詰めると、コダクローム64のような重厚な色合いが期待できる。

実写画像をクリックすると少し大き目のサイズの画像が出ます。

無限遠固定にしたウルトラマイクロニッコール165mm F4

白い月

成層圏を飛行する飛翔体

UMN165mmで遠距離を狙う

冬一月午後の遠景

ヨーロッパの冬の夕暮れ色を狙う

ウルトラマイクロニッコールで鉄写真

UMN 165mm正統派

ニコンベローズPB-4で近距離を狙う

濃い緑の中に赤い花

落葉が集まる場所

レンズの皇帝の近況

2016年の見直しにあたり、レンズの最近の姿を紹介したい。
ウルトラマイクロニッコール165mm F4だけ持って2016年の夏のようすを撮影した。
ベローズを介さずカメラに直付けしたレンズは軽快で、小学3年生の夏休みの気分だった。
多摩川の鉄橋を渡る京王線の乾いた線路の音が遠くに聞こえた。

季節の精霊が降りてきたようなコーティングの魅力

夏草のなかでもレンズの存在感は重たく涼しい

ドヤ顔しているように見えるレンズではあるが大目にみていただきたい

レンズの先に鉄橋が見えて風と多摩川が映る

スコーンとした17歳のような夏風景に似合うレンズである

日本の夏にはウルトラマイクロニッコールがある

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